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『資源と経済の世界地図』  by 鈴木一人

資源と経済の世界地図
鈴木一人(すずきかずひと)
PHP研究所
2024年7月16日 第1版 第1刷発行

 

日経新聞2024年9月21日の短評で紹介されていた本。記事には、
”・・・・・経済安全保障といえば何でもありの風潮に「単に競争力の弱い産業を守るだけの政策になってはいけない」と釘を刺す。”とあった。

なるほど、と思ったので、図書館で借りて読んでみた。

 

著者の鈴木さんは、 1970年生まれ。 東京大学公共政策大学院教授。地経学研究所所長。 立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。 英国 サセックス 大学院 ヨーロッパ研究所 博士課程終了。 筑波大学大学院人文社会科学研究所 専任講師・准教授、 北海道大学公共政策大学院 准教授・ 教授などを経て 2020年10月から東京大学公共政策大学院教授。 国連安保理イラン制裁専門家 パネル(2013-15)。 2022年7月 国際文化会館地経学研究所設立に伴い所長就任。

なんと、「地経学」のドストライクの人の本だった。この間、地経学にアンテナを張ってみようと思ったばかりなのに。実は、すでに周辺にあった。

megureca.hatenablog.com

 

表紙にも裏表紙にも、真っ赤な背景に、白抜き文字と銀色の地図とおぼしき模様が飛ぶ。

そして、
” なぜ、資源を知るために 貿易や世界秩序への理解が必要なのか
経済が戦争になり、 戦争が経済になる。
今や日々の生活と安全保障は 地続きであることを 本書は 示す。
「今世界で起きていること」「 これから日本で起きること」がわかる。
地政学×経済学の決定版
複雑化するエネルギー問題を国際情勢や 地政学的要素を経済から捉え直す”
といった文字が飛ぶ。

それにしても、この表紙、なんかデジャブ。あまりにも印象が ダニエル・ヤーギン『 新しい世界の資源地図』( 東洋経済新報社)と似てないか?!?!

megureca.hatenablog.com

まるで、パクリ本みたい、、、。でもって、中身も資源についてなので、、、知っていてそうしたのか?しらないけれど、、、。

本書は、日本人が日本人の視点で書いているので、『 新しい世界の資源地図』に比べるとず~っと読みやすい。厚さも半分くらいだし。

 

目次
序章  なぜ今、「地経学」なのか
第1章 資源をめぐる現状と「相互依存の罠」
第2章 中東情勢とエネルギー問題
第3章 半導体という戦略物資でみる経済安全保障
第4章 国際秩序と自由貿易
終章  資源、戦争、貿易‥‥ 世界の見取り図をどう手に入れるか
   対談 細谷雄一、鈴木一人

 

感想。
なるほど、これが地経学か。たしかに、こういった論点はむかしからある。でも、これを地経学として学問にしたのが日本では最近ということなんだろう。地経学研究所ができたのは、2022年ということ。

 

キーワードは、
・エコノミック・ステートクラフト
・ 武器を使わない戦争

 

石油・天然ガスといったエネルギー資源、半導体を構成する技術を含む資源、そういったものが国と国との駆け引き材料になっているのは、日常茶飯事。コロナのときは、マスクですら、戦略物資となった。なるほど、地経学かぁ、、、と、興味が深まる。

 

第二章では、中東とくにイランをめぐるアメリカ、サウジアラビアイスラエルといった国々の攻防が、詳細に述べられている。私の中では、イランとイラクですらコンタミすることがあるので、勉強になった。 2023年10月7日イスラエルを攻撃したハマスと、それを資金的に支援しているイランの関係は、宗教的なつながりではなく、単に「イスラエルを敵視」ということ。

 

サウジアラビアアメリカの緊張のきっかけは、イランのドローンがサウジアラビア原油施設を攻撃した時、アメリカがイランに対して攻撃をしなかったことによって、 ムハンマド皇太子がアメリカを信用しなくなった、ということ。

そして、これらの動きのもっとまえには、トランプ政権の「イラン核合意離脱」があった。トランプ政権は、イランを敵国とし、独自に経済制裁を加えると宣言した。さて、次回のトランプ政権はどうなるのかな?

 

第3章の半導体を軸にした話は、『 生成AI 真の勝者』をよんだときには、ぼんやりだったのが、少し頭を整理することができた。

megureca.hatenablog.com

 

そもそも、 一言で半導体と言ってもその種類や工程によって、各国に得意・不得意があるということ。そして、いまでは、グローバル全体のサプライチェーンに依っているので、本当に一か所が独り勝ち、という状況ではないということ。中国が半導体で独り勝ちになることを恐れていたけれど、 今のところはアメリカ、オランダ、日本が強みを持つ 半導体製造装置や シリコンウエハーなどがある状況であり、 中国は輸入に頼っているため一人勝ちという状況にはならない。

半導体の性能を決定付けるのは、シリコンウエハー に回路を焼き付ける「エッチング」 と呼ばれる作業を行う 露光装置であり、 世界中で高性能半導体を作るために必要なEUV露光装置を作れるのはオランダの ASM しかない、とのこと。 オランダがアメリカの対中輸出規制に参加し、 中国にEUV露光装置を輸出しないことで、中国が先端半導体を作ることは極めて難しい状況となっている。

なるほどー!そうだったのか!!

 

半導体の種類、工程については、表でまとめられている。
半導体の種類】
ロジック半導体:演算を行う。PC、cpu (台湾・アメリカ)
モリー半導体:データを記録。PC(韓国)
パワー半導体:光電圧や大電流を扱う。エアコンや車 (日本)
アナログ半導体: 信号増幅 や アナログ・デジタル変換。 デジタルカメラ (米国・欧州)

【製造工程】
・マスク製造:回路パターン、形成。 (英米
・ウエーハ製造:エッジング、研磨など (日本・韓国)
・前工程:電子回路形成。 (台湾)
・後工程:チップ検査。 (多くの国)

 

そして、日本についていえば、1980年だまでは、メモリ半導体を中心に世界的半導体王国であったが、それは、 当時のコンピューターにおいては記憶装置が重要な役割を果たしていたから。 1990年代にインターネットに接続したコンピューターは、 個々のマシンで記憶するのではなく、 ネットワーク上でより高いパフォーマンスを出すことが求められるようになった。 インターネットを経由した画像や動画の配信が一般的になると、 ロジック 半導体が重視されるようになる。 そのロジック 半導体を製造するにあたり 製造に特化したファウンドリー という ビジネスモデルが登場。 台湾のTSMCが いち早くそのビジネスモデルに対応することで、これまで設計から製造検査までを一貫して行っていた企業は次第に 国際分業に適応していった。

なるほどー!

ファブレス企業、 自社の工場は持っておらず 自社での製造は行わない。 ファウンドリ 企業は、ファブレス企業の「仮想自社工場」として製造を請け負う。

半導体の主なファブレス企業
クアルコムアメリカ)
ブロードコムアメリカ)
・エヌピディア(アメリカ)
AMDアメリカ)
・アップル(アメリカ)
・ハイシリコン(中国)
・ソシオネクスト(日本)
メガチップス(日本)
ザインエレクトロニクス(日本)

半導体の主なファウンドリ 企業
TSMC(台湾)
・UMC(台湾)
グローバルファウンドリーズアメリカ)
サムスン電子(韓国)
・SMIC(中国)

半導体と一口にいっても、色々あるということが、、わかった。とにかく、「今」は、中国は最先端半導体を作ることができない。ちょっとだけ半導体についてわかったような気がする。登場人物が多いわけだ。

 

半導体以外でもアメリカが強いのは、なによりドルが「基軸通貨」であること。アメリカを介さない貿易であっても、取引を米ドルでやると、国際決済の過程のほとんどがコルレス取引を通じてアメリカ国内経由するので、アメリカは他国の通貨の流れをチェックできるし、遮断することもできる。

コルレス取引:金融機関が海外の金融機関と為替業務の代行に関する契約を締結し、その取引先銀行をコルレス先やコルレス銀行と呼ぶ取引。

 

トランプ政権が関税障壁をあげるなどして、グローバルサプライチェーンから遠ざかれば遠ざかる程、実は、エコノミック・ステートクラフトの有効性はさがっていくことになる。

やっぱり、トランプがやろうとしているのは、近視眼的としか思えない。。。2025年以降、アメリカは影響力をじわじわと落としていくのだろうか・・。 さて、どうなるのかな。

地経学、地政学がわかってくると、新聞の政治経済、国際記事がもっと楽しく読めるようになる気がする。

 

本書は、半導体について一般的なことを知りたい人にもおすすめかも。

 

読書は楽しい。