11月歌舞伎座夜の部の最後は『顔見世季花姿絵』
踊り3種で、これでもかこれでもかってくらい見どころ満点の気迫あふれる3種に、
昼の部に負けておらんぞという心意気を感じました。
(すみません、特にそんな気負いは皆さんないと思います。ただ昼から通しで観るとこちらも結構疲れて最後はもう観るのもヘトヘトかなと思いきや、力強い踊り3種を観ることができて、大変力強く、気迫があり、「負けておられんぞという心意気を感じた」というのはこちらの勝手な妄想です)
春調娘七種
真っ暗な中幕が開くとぱあっと明るく晴れやかな舞台。美しい静御前(左近)とたおやかな曽我十郎(染五郎)、そして荒々しくも毅然とした曽我五郎(種之助)の姿に観客からほおっとため息がもれます。
「左近クンってこんなにかわいかったっけ?」と後ろのマダムのひそひそ声も聞こえました。
曽我物は、顔見世や正月などのめでたい時期には欠かせない演目。様々なバリエーションがありますが、曽我兄弟と静御前がコラボで出てくるなんて珍しいし、おもしろいですね。意外なことに「曽我物」の舞踊の中で最古の作品だそうです。(初演は明和4年1767年、江戸中村座)
キャラクター的には変わることなく、勇み足の五郎に押しとどめる十郎。そして二人が勇んで駆けだすときには静御前が押しとどめます。春の七種(ななくさ)を叩いて見せるところは長唄でも七草を織り込んでいます。
長袴をしゅっと出してトルネードのように巻き込み、手を突き出し、ガッと前に進む五郎。一歩進むだけでも大変な体力ですね。勇ましい隈取の顔、足先から指先まで一直線の美しさ、ドシドシと荒々しく、床を踏み抜きそうなほどの迫力です。
一方五郎はたおやかで、静は可憐。こけし人形のように細く可憐な二人と五郎との対比がとてもよかったです。
三社祭
これまた人気の舞踊。何度見ても面白い。浅草に近い宮戸川で漁をしていた二人の猟師に悪玉と善玉が取りつくという趣向です。
今回は悪玉が巳之助、善玉が右近。
キレよく、軽やか、息も合い。
激しく、飛び跳ね、愛嬌も。
いつまでも観ていたいけれど、踊るほうはいつまでもやっていたら死んじゃいますね。
楽しくリズミカルに気持ちよく舞い納め。
教草吉原雀
『春調娘七種』の美と『三社祭』の躍動で十分お腹いっぱいと思っていたら、最後の『教草吉原雀』がまたよかった。
江戸吉原で、内情に通じている人を「吉原雀」といったそうです。鳥売りの男女が「放生会」の起源や吉原の様子を踊って見せます。鳥刺しも現れて3人で踊りますが、実は鳥売りの二人は、吉原雀どころか、本当の雀の精でした。びっくりのぶっかえりで雀の衣裳に早替わり。かわいい…。
雀の精が又五郎と孝太郎で、その前の二つの踊り『春調娘七種』と『三社祭』が、若者たちの美であったり勢いであったりしたのですが、こちらはベテランの味。余裕しゃくしゃくの踊りっぷりに、ため息がでます。孝太郎の色気、又五郎のふんわりほっとした間のよい踊りに目が釘付けです。そして最後に鳥刺しの歌昇が、夜の部唯一の仮花道を使って登場しました。(仮花道は、昼の部のマハーバーラタで使ったのですが、せっかく設置したのを夜の部でも使わないともったいないですもんね)
歌昇は、今月この役のみですから、登場が20:55。
出ずっぱりの人も大変ですが、このような出演も毎日モチベーションを保つのも大変でしょうねえ。
こうして11月の夜の部は華やかに打ち出しとなりました。昼の部の「マハーバーラタ戦記」ばかりでなく、夜の部も大変充実しており、連日多くの観客が歌舞伎座を訪れていました。
歌舞伎座の前の人だかりやいっぱいの客席を見て、しみじみうれしく思った月でした。