のっちはゲームがしたい! 第17回(後編) [バックナンバー]
「学園アイドルマスター」のアイドルはどうしてこんなに魅力的なの?小美野Pに制作秘話を聞きました
生身の人間を感じるライブシーンができた理由、新たに実装されるアイドルの話も
2024年11月14日 12:30 170
「学園アイドルマスター」に実装予定のキャラクターイラスト監修会という、関係者でなければ絶対に見ることができない貴重な会議を見学した前編に続き、後編ではのっちさんがゲームのプロデューサーを務める小美野日出文さんにインタビュー。ただゲームが好きというだけでなく、自身もステージに立ってパフォーマンスをしているのっちさんならではの切り口で、アイドル育成シミュレーションについてのいろいろなお話を聞くことができました。
取材
<前編はこちら>
今回は少年マンガ的なストーリーにしたかった
のっち さっきの監修会、たくさん貴重なものを見せていただいてありがとうございました。1年後のイベントとか、とにかく先の話をしていてびっくりしました。あとはチェックのスピード感。やっぱりこれだけアイドルが多いとチェックするところも多いだろうし、どのイラストを採用するのかとか、みんなで話し合って決めていたらたぶん間に合わないんでしょうね。
小美野日出文 おっしゃる通りです。
のっち さらにこれを上の誰かに承認してもらう、なんてことになると……。
小美野 全然進まないですね。
のっち いつも今日くらいの人数で会議されてるんですか?
小美野 だいたい今日くらいで、あとは宣伝チームに一緒に入ってもらってプロモーションの話をすることもあります。
のっち 少数精鋭なことにも驚きました。もっと人が多いのかと思った。
小美野 今日見ていただいたものは本当に一部で。ゲーム内のイラストだけでなく、グッズなどの監修も全部僕らでやっているので、本当にスピード感を持ってやらないと止まっちゃうんです。素早く判断することはかなり意識してます。
のっち この連載では今までいろんな職場を見学させてもらったんですけど、本当に仕事をしているところを見せてもらったのって初めてなんですよ。「何月何日に誰々のイベント開催」みたいなことが書いてあるスケジュール表も新鮮でしたし、「この日にしちゃったら、こっちのイベントと続いちゃうし……」とか考えながら予定を組み替えていくの、ほとんどパズルでしたね。ちなみに監修会では、3人でどのアイドルのイラストをチェックするのか担当を分けてると言ってましたが、小美野さんは誰を担当しているんですか?
小美野 真ん中の3人だと、藤田ことねが僕で、花海咲季が山本(亮)、月村手毬が佐藤(大地)です。
のっち ことねさん、かわいいです!
小美野 ありがとうございます(笑)。それぞれが自分のアイドルを責任を持って担当しています。本当にアイドルのマネージャーのように仕事を取ってくることもあります。例えば僕は、シナリオライターの人と一緒に自分の担当アイドルの小説を作ろうなんてことを画策したり……。
のっち シナリオライターの方も何人かいらっしゃるんですか?
小美野 3名いまして、咲季、ことね、手毬の3人は伏見つかさ先生が担当しています。そして(葛城)リーリヤと(紫雲)清夏は別の先生、3年生組の2人(有村麻央と姫崎莉波)もまた別の先生、というように、1人ひとりにライターさんがいるのではなく、組み合わせごとに1人の先生に書いてもらっています。
のっち 補習組(篠澤広、倉本千奈、花海佑芽)は?
小美野 補習組も伏見先生に書いてもらってますね。
のっち ああ、組み合わせごとに1人のライターさんが書いているから、アイドル同士の複雑な関係性が描けるんですね。
小美野 関係性が深いアイドルはやはり1人で完結したほうが早いですからね。今回は少年マンガ的なストーリーにしたかったので、ライバルでもあり仲間でもあるという関係を咲季、ことね、手毬の3人で描いていきたいと思って。ほかの「アイドルマスター」シリーズもだいたい、真ん中の3人がただの仲良しということはないのかなと思いますし、例えば「アイドルマスター ミリオンライブ!」だとそれぞれにとっての目標やアイドル像ってが全然違うじゃないですか。でも今回の3人の場合、目標は全員同じなんだけど、性格がバラバラなのでぶつかることもあるし、だからこそ相性がいい、という関係にしたかったんですよ。これまでのシリーズの流れを汲みつつ、新しいものを描いていく、まさにこの作品そのものを体現する3人になってくれたと思ってます。
50人分くらいのアイデアを考えたけど、ほぼ全部ボツ
のっち 「学園アイドルマスター」って、まっすぐ「アイドルになりたい!」と思ってる子があんまり出てこないじゃないですか。
小美野 さすがですね! よくお気付きで。
のっち シャニマス(「アイドルマスター シャイニーカラーズ」)もそうでしたけど、どこかこじれていたり、一筋縄でいかないアイドルが多いのが面白くて。プロデューサーに「莉波お姉ちゃん」って呼ばせる姫崎莉波さんとか、みんなちょっと変わってて(笑)。
小美野 変わっていますよね(笑)。
のっち でも悪い子はいないんです! そこが好きです。
小美野 ありがとうございます。そこは気を遣ってる部分です。できるだけネガティブな印象を与えないようにって。口が悪い子もいますけど、それは本心じゃないよというのがわかるようにしたり。
のっち うんうん。
小美野 ただシンプルに全員がアイドルを目指すというだけではなく、「アイドルという夢を目指した結果、人間として成長していく」という物語を作りたかったので、アイドルになるためのスキルではない部分で、それぞれが何か問題を抱えているようにしているんです。
のっち 「アイドルマスター」シリーズって歴史も長いし、これまで出てきたアイドルの数がすごいじゃないですか。最初の頃のキャラクターはもっとシンプルだったんですか?
小美野 僕はシリーズの最初から関わっているわけではないんですけど、基本的にみんな「トップアイドルになること」が目標になっていて、そこにたどり着くまでにどういう努力をするのかという“過程”が今も描かれていると思います。ただ、「トップアイドル」ってファジーな言葉なので、それぞれにとってのトップアイドルが何なのか、ゴールとしては実は明確に明示されていないのが面白いですよね。もちろんゲームとしてのゴールはあると思いますが。
のっち へー! そうなんだ。これだけアイドルの数が多いと、今までにいなかったアイドル、なかったエピソードを作り出すのはすごく難しいんじゃないかって思ったんですけど。
小美野 難しいですね。例えばRPGを作るときは「今回は復讐の物語だ!」みたいなテーマを考えたら、復讐の対象であるボスがいて、復讐の理由になる犠牲者、例えば両親とか妹とかがいて……と、お話の中でのキャラクターの立ち位置が自然と決まってくるんですよ。
のっち ああ、ポジションが決まってるから、どんなキャラクターにすればいいか考えやすいんですね。
小美野 でも「アイドルマスター」は全員が主役なので、それぞれに物語が必要で。シナリオからキャラクターを組み立てていくことができないので、完全にゼロからアイドルを考えないとないといけないのがすごく難しかったです。かつ、過去シリーズに出てきたアイドルたちや、ほかの作品に出てるアイドルたちと被らないように考えないといけない。今回は最初に50人分くらいのベースとなるアイデアを考えたんですけど、ほぼ全部ボツでしたね。
のっち ひえええ! 50人分! 小美野さんがアイデアを出したんですか?
小美野 当時のメンバーはもう僕しか残ってないですが……僕を含む2、3人でシートを作って、全員で思いついたアイドルをバーッと書いていって。それを伏見先生に渡して確認してもらったんですけど、全然ピンと来なかったみたいで「これだとイメージが湧かないです」って言われて。
のっち 大変だ。
小美野 それで考え方を変えたんです。「どういうお客さんに向けて作るのか?」「どんな気持ちを満たすアイドルにするのか?」って。ゲームを作るときは、どういうニーズを持ったお客さんがいるのかをまず考えるんです。例えば「空を飛びたい」というお客さんのニーズがあれば、そこに「戦闘機で」「英雄体験をしたい」という別のニーズを加えて、それに応えるアイデアをアウトプットした結果、「エースコンバット」ができあがる、みたいなことで。同じように今回も、「ツンケンした子を自分に振り向かせたい」とか、「人から頼られたい」とか、お客さんが求めているものから逆算してキャラクターの設計図をかなり細かくロジックで作っていったんです。そしたらシナリオライターの先生的にはそのほうが書きやすかったそうで。
プレイヤーに体験をしてもらうため、1択でも自分で選んで押してもらうのが必須
のっち 学園が舞台というのは最初に決まってたんですか?
小美野 そうですね。伏見さんをアサインすることと、学校が舞台だという2点だけは僕が参加する前から決まってました。僕が参加したときに「こんなものを作りたい」というのがざっくり書いてあるA4用紙1枚を、「好きにしていいよ」と渡されて。
のっち 丸投げですね(笑)。
小美野 僕が「アイドルマスター」に関わるのは初めてだったので、どうしようかなという気持ちだったんですけど、よく考えたら「自分の手で育てた子がステージ上で輝いている姿を観る」というのがこのシリーズの幹となる部分なので、青春時代に人が一番成長する、さまざまな感情が育っていく学校という場所は、新しい「アイドルマスター」の舞台としてかなり正解に近いんじゃないかなと思ったんです。変えてもいいよと言われていたものの、「自分が作りたいものはこれだ」と感じました。さすが坂上さん(坂上陽三氏。2023年3月まで「アイドルマスター」シリーズ総合プロデューサーを務めていた)です。
のっち 「学園アイドルマスター」のゲーム性はこれまでのシリーズとそんなに変わってないんですか?
小美野 けっこう変えてると思います。
のっち シャニマスにあった「パーフェクトコミュニケーション」「(よし、楽しく話せたな)」がないんだなと思って。自分のセリフの選択肢を間違えたらアイドルのテンションが下がる、みたいな。
小美野 それについての議論はあったんですよ。最初は入れようかと考えたんですけど、3択の中に答えが1つしかないとすると、何度も繰り返しプレイする中で同じ答えをずっと選び続けることになるので、あまり意味が作れないなと思って。代わりに、レッスンのときに「これを選ぶと能力がこれだけ上がるけど、体力がこれだけ消費します」という選択肢のパターンをいろいろ用意することにしたんです。
のっち じゃあ会話のときの選択肢は、そんなにゲームに影響はない?
小美野 そうですね。でも代わりに「自分だったらこう言うな」という発言をプレイヤーが選べるように作りたかったので、選択肢は残しています。あと、1択しかない選択肢を作りたかったんですよね。
のっち ああ! アイドルからの「私をプロデュースしてください」に対する「お断りします」とかですね(笑)。
小美野 まさにそれです(笑)。あとは逆の「プロデュースさせてください」もですね。プレイヤーにその子に「プロデュースを申し込んだ」という体験をしてもらうために、自分で選んで押してもらうのが必須だと思ったんです。
のっち あの選択肢、口に出しながら押しちゃうんですよね(笑)。
小美野 選択肢をどこに入れるかも、けっこういろいろ考えました。最初は多すぎて、毎回1択を押させる形でけっこうしつこくなっちゃったので削ったりしながら。
のっち ここぞ!ってときに出てくるからいいんですよねー。
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