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NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

2015-01-01から1年間の記事一覧

2015年の年間ベスト記事(自薦)

「見えない道場本舗」のgryphonさんが「ブログ書いてる人は、年末に自分の記事の「年間ベスト」を紹介してよ」と、ご提案されていた*1。光栄なことにidコール付きでご指名もいただいたので、2015年に書いた記事のうち、3つほど再紹介してみよう。 ■「過剰診…

卵巣がん検診における過剰診断はどれくらい?

症状のない人に対してがん検診を行うと、一定の割合で過剰診断が起こる*1。つまり、治療しなくても症状を起こしたり、死亡の原因になったりしない人をがんだと診断してしまう。がんと診断された人が過剰診断かどうか、診断した時点で正確に判定する手段はな…

卵巣がん検診は卵巣がんによる死亡を減らさない

がん検診の害は過小評価されている一方で、利益は過大評価されている。早期発見によって予後が改善するのは当たり前だと誤解している人もいるが、がん検診が有効である条件はけっこうシビアである。たとえば、がんの進行する速度が速すぎてはいけない。膵臓…

韓国における甲状腺がんの手術が減少した

■韓国における甲状腺がんの過剰診断では、1993年と比較して2011年には韓国の甲状腺がんの罹患率が15倍になったという論文を紹介した。同じ著者が、2014年の4月〜6月の四半期から手術の件数が減ったことを報告している*1。図を引用するのが手っ取り早い。棒グ…

乳がん検診の利益とリスクを図で説明してみる

がん検診には利益と不利益がある。利益は早期発見・早期治療によって、がんによる死亡や進行が減ることである。不利益は偽陽性や過剰診断などである*1。偽陽性は、実際にはがんではないのに「がんの疑いがある」と診断されることで、過剰診断は、将来死亡や…

スクリーニング効果の定義

ややこしい話になるので、まずは結論から書く。「スクリーニング効果」の定義には混乱があり、過剰診断を含む意味で使う論者もいれば、過剰診断を含まない意味で使う論者もいる。最近では、過剰診断を含まない意味で使われることが多くなった。今後は、スク…

甲状腺がん検診でPECOを学ぼう

成人、小児に限らず、甲状腺がん検診が、がん死や有害なアウトカムを減少させるという臨床的証拠は存在しない。むしろ、観察研究によれば成人に対する甲状腺がん検診はがん死を減少させないという証拠すらある(■韓国における甲状腺がんの過剰診断)。甲状腺…

新生児へのビタミンK投与をデメリットとみなす「日本おまたぢから協会」代表・立花杏衣加氏

2009年に、山口県で、ビタミンKを投与されなかった新生児が硬膜下血腫により死亡した事件がありました。ビタミンKは血液を固める作用のある因子の合成に必要で、ビタミンKが不足すると出血しやすくなります。新生児はとくにビタミンKが不足しやすく、ビタミ…

時系列研究でも甲状腺がん検診ががん死を減らしたとは言えない

cyborg0012さんによる「韓国ではスクリーニングブームが始まった2000年前後から年齢調整死亡率が低下している」という主張が正しくないことを指摘するために、前回のエントリー(■韓国において、1997年から2011年にかけて、甲状腺がんによる死亡率は低下した…

韓国において、1997年から2011年にかけて、甲状腺がんによる死亡率は低下したとは言えない

私の知る限りにおいて、一般集団に対しての一律の甲状腺がん検診を推奨する専門家はいない。それどころか、過剰診断をはじめとしたデメリットが大きいことに警鐘が鳴らされている(参考:■韓国における甲状腺がんの過剰診断)。しかしながら、必ずしもその理…

「打つと他の国から入国拒否されるワクチン」について

■子供の予防接種拒否について思うこと:Unwise decisions尊重の限界 - Noblesse Oblige 2nd by iGCNのブックマークにおけるyou21979 さんのコメント。 ■はてなブックマーク - speculative and investment market hacking - 2015年8月29日 ワクチンはインフル…

過剰診断に関する疑問に答える

彫木・環(アベ政治を許さない)(CordwainersCat)さんという方が、「NATROMは救命やQOL向上といった側面は全部無視して、超音波検査の普及によって増えた分を全部過剰診断扱いしているのではないか」という趣旨のツイートをしました。実際のところは、これ…

韓国における甲状腺がんの過剰診断

■「過剰診断」とは何かを読んでくださった方は、いまや早期発見・早期治療が常に良いとは限らないことをご存知であろう。検診による早期発見・早期治療によって癌による死亡を抑制できる(かもしれない)が、一方で癌を早期発見しようとすると、多かれ少なか…

アメリカ国立癌研究所所長は抗がん剤の効果を高く評価した

ネットでは真偽不明の医学情報がたくさん流れています。その中の一つに「1985年に、アメリカ国立癌研究所のデヴィタ所長が、抗がん剤は無力だと議会で証言した」というものがあります。議会で証言したのが事実であるなら議事録がありそうですが、きちんとソ…

WHOは抗がん剤治療を含めた三大療法を勧めている

ネットでは間違った医学情報がたくさん流れています。その中の一つに「WHOが抗がん剤の使用をやめるようにいいだした」というものがあります。実際には、WHOはそんなことは言い出していません。WHOのウェブサイトにアクセスすれば一目瞭然です。 がん治療に…

「過剰診断」とは何か

早期発見・早期治療が常に良いとは限らない 癌は早期発見・早期治療が大事だと言われているが、いつでもそうだとは限らない。他のあらゆる医療行為と同じく早期発見・早期治療にはメリットと同時にデメリットがあり、そのバランスを考える必要がある。早期発…

それで、「MCSの本物の性質が認識されている公式な報告書」って、どれ?

代替医療を提唱・実践する組織が、○○医学協会、○○学会、○○研究所、○○医学センターなどを名乗ることがある。慣れない人が公的な組織であると誤解することもあるだろうが、名乗るのは自由である。また、代替医療の組織が医学雑誌を発行することも自由である。…

「EPAらが臨床環境医を否定できなくなった」という主張には根拠がない

sivad氏によると、1994年ごろには「EPA(Environmental Protection Agency:米国環境保護庁)らがMCSや臨床環境医を否定できなくなった」のだそうで、その根拠として提出されているのが、1994年報告書に挙げられているMillerの報告■White paper: Chemical sen…

1994年報告書は多種化学物質過敏症の概念を支持していない

化学物質過敏症を巡る議論において、sivad氏によって、私(NATROM)が「英語レベルでの誤読」をしているとの指摘があった。しかしながら、誤読をしているのは私ではなくsivad氏のほうである。この話には複数のテキストが出てくるので、まず確認しておこう。 …

なぜEM(EM菌)はインチキでニセ科学と言われるのか

琉球大学農学部教授であった比嘉照夫氏が開発したEM(EM菌)は代表的なニセ科学だとみなされている*1。一方、「数百の論文」があるがゆえに、EMはインチキでもニセ科学でもないとの主張がある。 ■2014年10月20日の記事 | EM(微生物)の力で環境を守る イン…