Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

AD

農業の課題をテックで共に解決する。NIPPON EXPRESSホールディングスとAGRISTの〝恋愛関係〟

NIPPON EXPRESSホールディングス(NX)が、スタートアップとの共創を加速している。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを通して、2024年10月にはテクノロジーで農業課題の解決に挑むAGRIST(宮崎県新富町)に出資した。農作物を自動で収穫するロボットや収量を予測するAI(人工知能)などを開発し、農業生産法人に提供している。NXでスタートアップとの共創を推進するグローバル事業本部の青浩司コーポレートベンチャリング部長とAGRISTの斎藤潤一代表取締役に出資の経緯や共創の現状、今後の展望を聞いた。

-お二人の出会いは2023年12月に北海道で開かれたイベント「Farmnote Summit2023」の場だったそうですね。
 青氏 主催者で旧知の仲だったD2Garage代表取締役の佐々木智也さんから斎藤さんを紹介されました。その際に、AGRISTの農業ロボットが稼働している農場を見に来ないかと斎藤さんに誘われました。当社は北海道や九州などで農業物流を担ってきており、(CVCとしては)農業を支援するアグリテックも投資対象と考えていましたから、その領域の探索を目的に現地に伺いました。

-斎藤さんはなぜ青さんを見学に誘われたのですか。
 斎藤氏 「Farmnote Summit2023」は非常によいイベントで、その場でお会いできたことと、お世辞でもなく青さんの人柄に惹かれたからですね。我々には農作物を生産するだけでなく、消費者に届けて食べてもらうまでのシステムを整える構想があります。その中で、NXグループの事業領域である食べてもらう人に届けるための物流システムの構築は困り事と考えていました。

-そうしてお誘いした青さんが実際、2週間後に現地に来られます。
 斎藤氏 嬉しかったですね。大企業は対応に時間がかかるケースが多い中で、すぐに来てくれましたから。

-青さんはなぜ迅速に動かれたのですか。
 青氏 仕事は即断即決、スピードが命です。若い頃に起業家と仕事をする機会があり、彼らの決断の速さを見てきました。そうした原体験があるため、数週間検討した後に同じ結論を出しそうな案件であれば、その場ですぐ決めるのが私のスタイルになっています。

-現地でご覧になったロボットはいかがでしたか。
 青氏 自動収穫ロボットがきゅうりを採るときに、誤って主枝を傷めないように切り取っている様子を見て、人間のように収穫するのだな、とその精度に感心しました。

-その後、出資に至った理由は。
 青氏 (共創の観点では)大きく2つあります。1つは農業が物流の課題を抱えていること。(農作物は収穫のタイミングを予測することが難しいといった理由から)現在は農場に車両が到着しないとその日の集荷量がわかりません。あまりにも農業と物流がシームレスになっていません。そうした課題をテクノロジーで解決しようとするAGRISTの取り組みに可能性を感じました。もう一つは、NXグループの重点産業である半導体や電子機器の集合体であるロボット(などのスマート農業システム)をたくさん作って、海外を含めた多様な地域に供給するAGRISTによるこれからの計画です。それらを届けた先では必ず保守・メンテナンスの仕事が出てきますから、そこで我々のグローバルロジスティクスの知識や経験が活かせます。

ただ、投資の判断は、会社のメンバーとお会いして対話していく中で、この方々なら一緒に働きたいなと思えるかどうかが大きなウェートを占めます。その意味で、斎藤さんや(AGRIST共同代表取締役の)秦裕貴さんとお会いしてそう思ったことが一番大きいです。

NIPPON EXPRESSホールディングスグローバル事業本部コーポレートベンチャリング部長の青浩司氏

斎藤氏 私は一緒に働きたいと思える外部企業の方々と連携して、一緒に話し合いながら解決する試みこそがイノベーションの源泉だと思っています。どんな業界にも課題はありますが、多くの企業は自分たちのやり方に固執してしまい、他の会社と知り合ったとしても(共創して課題を解決する)〝恋愛関係〟に発展するケースが少ないと思います。

-NXとAGRISTは〝恋愛関係〟にあると。
 青氏 もちろんです。

 斎藤氏 契約書も交わしていますからね(笑)

-AGRISTがNXに〝恋をした〟ポイントはどこですか。
 斎藤氏 やはりすごいスピード感で現場を見に来てもらえたことが非常に大きいです。それによって共に課題解決に取り組みたいと思いました。

-スマート農業システムを手がける企業は他にもいらっしゃいます。その中でAGRISTの特徴を教えて下さい。
 斎藤氏 我々の差別化要素としては、自社で農場を持っており、そこでロボットやAIの効果を実証していることと、産官学金の連携体制を整えていることが挙げられます。(農地を借りるためには役場の農業委員会を通す必要があるなど)農業は行政と密接に関わっており、連携は不可欠です。地方大学の多くは農学部を持ち、農業の課題解決に取り組んでいるため、組まない手はありません。また、Microsoft社と一緒に農作物の収量予測AI「AGRIST Ai」を開発していることもポイントで、他にはない取り組みだと考えています。

AGRISTの斎藤潤一代表取締役

-NX傘下のNXアグリグロウは山梨県で農場を営んでおり、AGRISTの「AGRIST Ai」を活用して葉物野菜に特化した収量予測モデルの構築を実証すると聞きました。
 青氏 実は投資前、NXアグリグロウはAGRISTと親和性がなさそうという議論がありました。従前はAGRISTに対して(ピーマンやキュウリを採る)自動収穫ロボットを手がけているイメージを強く持っており、一方でNXアグリグロウは葉物野菜を栽培しており、その収穫はロボットではやりきれないからです。ただ、NXアグリグロウは(複数のセンサーを活用して)生育状態を可視化しており、そのデータはAGRISTが開発するAIにとって宝の山になると後に気づきました。収量の予測や病害虫の発見をするAIの構築に生かせます。NXアグリグロウの農場には日照や気温、湿度などの環境を取得するセンサーが元々揃っていましたが、(実証では)葉物野菜に特化した収量予測のAIモデル構築に必要なセンサーとカメラを新たに取り付け、データの取得を始めています。

斎藤氏 農家はもう数十年、数百年も前から手法が変わっていません。生育状態は農家の方が目で見て確認しています。実証を通して「AGRIST Ai」が収量を高い精度で予測できれば、日本中の葉物農家にそのシステムを販売できます。もっと言えば、精度の高い収量予測を基に確実な出荷量を事前に示すことで最適な車両台数での集荷の実現につながり、日本全体の物流コストや二酸化炭素排出量の削減が期待できます。

-そのほかの共創の取り組みはいかがですか。
 青氏 北海道や宮崎県などの地方自治体から、スマート農業実現に関する共同実証のご相談を頂いています。DXを活用した収量予測に基づく物流効率化や最適な出荷先の選定、持続的な農業を考えたロジスティクスサポートサービスの提供方法を検証できればと考えています。当社の経営計画では、重点産業として5つの分野を設定しており、そのうちの2つがテクノロジー産業(産業用機械など)と半導体産業です。先に述べたようにAGRISTの自動収穫ロボットには半導体が利用されています。さらに、AGRIST AiはGAFAMの1社であるMicrosoft社のAIを活用している点も注目しています。AGRISTの自動収穫ロボットをグローバルに展開していくタイミングでは、生産部品・メンテナンス部品、そして半導体の輸配送が必要となります。これらの物流ニーズに対しても、NXグループのネットワークとサービスを活用した共創を検討し、AGRISTと共に世界の農業課題の解決にNXの事業領域であるロジスティクスを通じて取り組んでいきたいと考えています。

-AGRISTがロボットの輸出先としてイメージしている具体的な国や地域はありますか。
 斎藤氏 激しい気候変動により、農業は厳しい労働環境になっていますし、勘と経験で対処するには限界が来ています。その意味で、(農業にテクノロジーを組み合わせる)アグリテックは世界中で必要になってくると考えています。その中で、(経済産業省とジェトロの主催で、起業家などを海外に派遣して世界のトッププレイヤーと繋がって学ぶ機会を提供する)「J-StarX」のインド視察プログラムに先般採択されました。そのため、インドは進出先の候補と考えています。

-最後にNXとの取り組みの展望をお聞かせ下さい。
 斎藤氏 現場で対話をしながらコツコツと取り組むことが重要だと思っています。そのためにはまず、(「AGRIST Ai」やそれに基づく物流システムの構築を通して)NXアグリグロウの収益改善に取り組みます。その結果を基にテックやデータの活用を日本中の農家に展開していきたい。100年先も続く持続可能な農業を実現するという大きなビジョンを掲げながら、目の前の課題に1つずつ向き合っていくことで、結果として日本や世界の農業の課題解決に近づけると思っています。

「NXグローバルイノベーションファンド」専用ウェブサイト
 URL:https://www.nipponexpress-holdings.com/ja/cvc/

ニュースイッチオリジナル

特集・連載情報

NIPPON EXPRESSホールディングス、挑戦する航路を開く~スタートアップ企業との共創~
NIPPON EXPRESSホールディングス、挑戦する航路を開く~スタートアップ企業との共創~
スタートアップとの共創を加速するNIPPON EXPRESSホールディングス(NX)。50億円規模のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを立ち上げ、DXや環境・サステナブル領域のサービスを手がけるスタートアップを中心に出資しています。出資先スタートアップとの対談を通して、NXの狙いに迫ります。

編集部のおすすめ