クライアントへのプレゼンや、営業シーンでの会話など、ビジネスにおけるコミュニケーションの場面は数多くあります。そうした中で、「自分の言っていることが伝わっていない」「会話が続かない…」など、悩みを抱えているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、日本マイクロソフトでプレゼンテーションを年間100回以上こなし、ビル・ゲイツが卓越した社員にのみ授与する「Chairman’s Award」を受賞した経歴も持つ澤円氏の著書から、「人も結果も引き寄せる会話の技術」をご紹介します。
目次
Point1 「この場・この時間は二度とない」と意識する
澤さんは、「今、この瞬間に目の前にいる人と話をすることは奇跡である」と考えて、プレゼンテーションを行っているのだそうです。こう考えるのは日常の会話でもビジネスにおいても同様。「今、話をしている『この場』『この時間』というのは、もう二度とないんだ」と意識するだけで、確実にその時間空間における会話の質が高まると、澤さんは言います。すべての会話は「一期一会」だと。
世界有数の著名人がプレゼンを行うTEDで、識者ベンジャミン・ザンダーが講演した話にこんな話をしたそうです。
「アウシュビッツで生き残ったある女性が、列車でアルシュビッツに連れていかれるときに片方の靴をなくした弟に言ってしまった言葉。『なんてバカなの、自分のこともできないなんて!』。それが、彼女から弟の最後の言葉になってしまった。以来、彼女は『それが最後の言葉になったとしたら耐えられないことを、もう言わない』と誓ったのです」
何かあったときに、最も後悔してしまうのが「言葉」。日々の会話に手を抜かず、「会話は貴重なものだ」と意識することで、言葉や会話の質は必ず向上するのです。まずは、自分が口にする言葉を意識することからはじめてみましょう。
Point2 切り返しや反対意見のシミュレーションをする
次に考えるのは、その貴重な機会である会話に重要な「準備」です。澤さんいわく、「自分はどのようなモノの考え方をする人間なのか」の棚卸しが必要なのだとか。自身の考え方や思考のくせを理解しておけば、相手との「違い」が認識できるので対応も冷静になれるのです。
澤さんが会話の相手から反対意見を受けたときに、決めていることは「とにかく一回、質問する」ことだそうです。相手の意見に賛同や意義を唱えることなく、「どうして、そう思うのですか?」「いつも、そう考えていらっしゃるのですか?」と質問し、会話のバトンを渡して、相手から説明をしてもらう。これがクールダウンにもなり、相手の意見に対してどう対応するかを考える余裕が生まれます。
ただし、最善の対処法はとっさには出てこないもの。「こういう場合には、どう対処し、何を言うか?」は事前にイメージして準備しておきましょう。
Point3 黙る、聴く、話すで信頼される
プレゼンテーションは話す場を与えられ、自分が主導権を持って話をしますが、会話は自分も相手も話します。つまり、「聴く技術」も必要になります。プレゼンは「表現力」が求められますが、会話は「対応力」が重要。その対応力を高め、信頼を得る会話力を向上させる方法を、3ステップで紹介します。
ステップ1 信頼を得るための「黙り方」
意外なことに会話向上には「黙り方」が重要なのだとか。営業は話しまくるべきと考える方も多いと思いますが、相手に気持ちよく話してもらうには、以下のアクションも必要なことだそうです。相手が話しやすいペースを作ってあげることが、よい黙り方であり、相手の信頼を勝ち得る方法です。
- 相手の話に、絶対割り込まない
- 「でも」「しかし」を最初に絶対使わない
ステップ2 信頼を得るための「聴き方」
相手に安心して話してもらうための「聴く姿勢」を示します。この人は興味を持って聴いてくれている、と感じさせる効果的な動作は、以下の3つ。
- 相づちを打つ
- 発言したそうな人に視線を向ける
- 相手が大事そうな話をするときに、身を乗り出す
ステップ3 信頼を不動にするための「話し方」
相手の話をまとめて単純化して、「つまり、こういうことですね…」と返してあげれば、「きちんと理解してくれてる」と信頼してくれます。また、相手が話しすぎているなと思ったときは、「あ、なるほど。こういうことですね!」を相手の話を受けつつ、自分の話に切り替える調整をしてみましょう。このとき、相手に「差し手」の動作を入れると、視覚的に注意を引けるので効果的なのだとか。
「話し方」で難しいとされる「笑いをとる」はがんばりすぎず、クスッと笑われるくらいのネタがよいそうです。失敗談や自虐ネタは相手を引かせることも多く、その印象しか残らないことが多いため、逆効果だそうなので、ご注意を!
- 相手の話を単純化し、理解度を高める
- 差し手と相づちで、相手の発言時間を調整する
- 会話の流れを生かした中で、笑いをとる
Point4 質問は「つい話したくなる」情報を2つは盛り込む
会話は「質問と反応のセット」で動かすことで、弾んでいきます。その質問がまとはずれにならないために、質問をする目的を考えてみましょう。
- 疑問を解消する
- 関係を構築する
- 力量を見極める
- 圧力を加える
「疑問を解消する」ときは、「わからないので教えてください」よりは、「自分はこう理解しているけど、正しいですか?」と尋ねるほうが望ましい。なぜなら、理解できない理由が「前提知識の問題」なのか、「相手の説明方法の問題」なのかが明確になるからです。
「関係を構築する」質問は、出身地や珍しい苗字などから、相手の情報を引き出し、褒めることで印象を押し上げます。ただし、見え透いたお世辞は禁物です。
「力量を見極める」のは相手の知識や能力を推し量るためのもの。もちろんこうした質問をする大前提として、自分がきちんと答えをもっていないと会話は成り立ちませんし、恥をかくはめになります。
「圧力を加える」はいわゆる圧迫面接のようなもの。メンタル面を問う採用面接や、マネジメントなどで使われる手法です。アップル社のCEOティム・クックは、スティーブ・ジョブズの世界最高レベルの圧迫面接を経て、現職に就いたと言われています。
このように目的を定めた上で、ぶつける質問はなるべく具体的な内容を織り込みましょう。
× 「今日のセミナーはいかがでしたか?」→「よかったです」
○ 「今日のセミナーで、あなたの仕事に一番近かった部分はどこでしたか?」→「後半の○○がアイデア満載で、私の仕事にも活かせそうです!」
上の質問は会話があっという間に終わってしまいますが、下の方は会話がどんどん広がりそうですね。質問は文字多めに、時には自分の情報を含めながら質問すると、相手もぐっと答えやすくなるはずです。
Point5 「決めゼリフ」を用意する
「あのー」「それで」「えーっと」「まあ」などの口癖や、「一応」「基本的に」「要するに」「ちなみに」などの言い回し。これらは絶対言ってはいけないものではありませんが、聴きにくいと感じる相手もいるでしょう。また、こういう口癖が出るときは「自分がその場面で集中できていない」ときが多いのだとか。澤さんはこれを「今、私は集中していない」と自分で気づくためのバロメータにしているそうです。
逆に、自分が使っていきたい「決めゼリフ」を用意しておくのもいいとのこと。例えば、ソフトバンクの孫正義さんの「やりましょう」のフレーズは、有名ですね。
Point6 否定語を使わないと決めて質問で返す
「正しいこと」や「事実」であっても、相手の気分を害することだったとしたら、致命傷になりかねません。澤さんは、相手を否定せずに、質問で返すくせをつけることを勧めています。澤さんが学生時代にアルバイトをしていたディズニーランドでの接客マニュアルには、「否定語を使わず、お客様に説明しなさい」とだけ書かれていたそうです。具体的な例文はなく、自分の頭で必死に考えたのだとか。
例:「できません」→「こちらをご希望のお客様には、今こちらをおすすめしているのですが、いかがでしょうか?お持ちしましょうか?」
これをビジネスの場に置き換えて、商談の日程をもらったのに、すでに先約があり、断らざるを得ないときに、どう答えるか考えてみましょう。
例:「先約が入っているので無理です」→「その日は、私は先約が入っているのですが、代わりの人を手配することはできると思います。そのプレゼンには、どういう人が必要でしょうか?」
いかがですか?依頼を断っているにもかかわらず、相手のために動いているような印象を与え、さらに代替案を提示してくれることにつながっています。
プレゼンの神と称えられる澤さんの卓越したコミュニケーション力は、こうした日々の努力と気遣いから、培われたもの。コミュニケーション力をもっと身に付けたいと悩んでいるビジネスパーソンの方は、ぜひ、澤さんが実践している会話術を参考にしてみてくださいね。
参考書籍:外資系エリートのシンプルな伝え方/澤円氏/KADOKAWA
▲澤 円(さわ まどか)氏
日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター センター長
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」<!–CodeIQ MAGAZINEで「澤円のプレゼン塾」連載中!–>
文・馬場美由紀 撮影・栗原克己・佐藤聡
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