更新日:2023年04月18日 11:20
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アマゾン大火災の“放火犯”は「ブラジルのトランプ」ボルソナロ大統領なのか?

「ブラジルのトランプ」に向けて、世界中から大ブーイングの嵐が吹き荒れている……。  8月初旬からアマゾン川流域の広大な熱帯雨林で同時多発的に発生している大規模な森林火災は、今なお収束する気配はない。ブラジル国立宇宙研究所によると、毎分、サッカーコート1.5倍の面積が焼失するペースで燃え広がっており、火災発生当初から消火活動に消極的だったボルソナロ大統領への批判の声が、日に日に高まっているのだ。
アマゾン火災

ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によると、1分ごとにサッカーコートの1.5倍の面積が失われるペースで延焼が広がっているという

ボルソナロ大統領は「火災は南米の問題」

 アマゾンの熱帯雨林は日本の国土の約18倍になる670万㎢の大きさを誇り、その80%がブラジルに広がっている。水資源も豊富で、地球上の陸上生物の10~15%が生息。世界の酸素の20%がこの森林から排出されているとされ、今回の火災が地球温暖化に与える影響も危ぶまれている。  ボルソナロ大統領は今回の火災を受け、9月6日にアマゾン地域の関係国で対策を協議する会合を開くことを発表した。今も貧困に喘ぐブラジル北部の平均月収は、サンパウロの6割に当たる1810レアル(約4万6000円)と低いため、ボルソナロ政権は何としても森林開発を推し進めたいが……。世界はブラジルに厳しい目を向けている。  今年8月までにアマゾンで発生した火災は7万件超と、前年同期より8割強も増えているというが、なぜこれほどまでに燃え広がってしまったのか。森林ジャーナリストの田中淳夫氏が話す。 「アマゾンでは先住民が約100万人暮らしており、伝統的な焼き畑は今も行われている。自然発火による火災や洪水による森林焼失も恒常的に起きているが、焼き払われるたびに再生を繰り返しています。火災件数が’18年より80%多くなっているという数字も独り歩きしているが、過去10年の平均で見たら増えているのはわずか7%程度。つまり、平年並みに起きていることが、今年は殊更大きく報じられているような状況なのです。  森林生態学の見地からは、アマゾンが焼失しようと、地球温暖化が加速することも、地球上の酸素が減ることもあり得ません。森林の大部分を占める植物は光合成が行われ酸素を生むが、同時に二酸化炭素も排出しており、プラスマイナスはゼロになる……。つまり、マクロン大統領の言う『アマゾンは地球の肺』という主張は非科学的で、単なるレトリックにすぎないのです」

マクロンvsボルソナロの「場外乱闘戦」も!?

“我われの家が燃えている。地球上の酸素の2割を生み出す『肺』であるアマゾンが燃えている。これは国際的危機だ――” 「環境保護派」として名高いフランスのマクロン大統領が発したこのツイートは、世界的なセレブリティや著名アスリートが賛同したこともあって、瞬く間に拡散した。  一方、今年1月にブラジル大統領に就任したボルソナロ氏は「地球温暖化」を懐疑的に見ていることでも知られる人物……。経済成長を最優先し、森林伐採を推し進めるなど、アマゾン開発に乗り出す姿勢を鮮明にしており、G7サミットが申し出た計2000万ドル(約21億円)の緊急支援も突っぱねるなど、強気の姿勢を崩していない。  マクロン氏の批判に対しても「植民地主義を思い起こさせる発言」「アマゾンはブラジル国民のものだ」と一蹴。SNS上でも、マクロン大統領夫人を「中傷」するようなジョークを書き込み、これにマクロン氏が不快感を露わにするなど“場外乱闘”の要素も加わり、事態の打開は一向に見えない状況なのだ。ジェトロ職員としてブラジルに駐在経験もある拓殖大学准教授の竹下幸治郎氏が話す。 「ボルソナロ大統領は『ブラジルのトランプ』との異名があるように、欧州からは極右政権と見做されています。ただ、経済政策は保護貿易のトランプ大統領とは真逆で、自由貿易を標榜している。農業大国のブラジルは、輸出しなければ稼げない。EUと交わしたFTA(自由貿易協定)もその一環です。ただ、親米を公言し、トランプ大統領と同様にツイートを繰り返す……軍人出身でエキセントリックな面も少なくなく、そうした面を切り取られて報道されがちなのです。  欧州から『環境破壊主義者』と非難されている彼は、森林開発を進め、農地を増やして熱帯農協業を盛んにすることを政策に掲げています。ただし、環境保護に十分注意を払いつつ、未開発な土地に手を着けるとも言っていた。つまり、誤解されがちですが、アマゾンの森林を根こそぎ伐採して、農地を増やそうとしているわけではないのです。  ボルソナロ大統領はこうしたことを丁寧に説明すればよかったが、欧州からの非難に感情的に反応し、現在の対立を招いてしまった」
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火災をきっかけとした農業国同士の覇権争い
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