看護師はそのように言いながら、私にカルテを手渡す。
とうとう来てしまった。
私は心に小さな強張りを感じながら、そのカルテを受け取った。
胃カメラ検査は今回の人間ドックの山場だと考えていた。
胃の検査に関してはバリウムを飲んでX線写真で検査する方法と、胃カメラで検査する方法の二つがある。
私はバリウムを飲むのに抵抗があり、できるだけ胃カメラで検査するようにしていた。それに胃カメラで検査したほうが検査の精度が上がるという思いもその中にはあったのだと思う。
胃の検査に関して、私の中で一つの出来事があった。
前職の企業Aで同じように胃の検査を受けた際に、ピロリ菌感染の診断を受けたのだ。
ただその当時は、色々と調べる中でその除菌治療はそれほど緊急性を要するものではなさそうだったので、除菌治療をするということはなく先延ばしにしていた。
ただ、その後に企業Aで受けた検査でも毎年「慢性胃炎」は指摘されていたし、転職後の企業Bで同じように胃の検査を受けると「慢性胃炎」を指摘されるようになった。
それまでで一番最近に受けた胃カメラ検査は22年2月だったが、その際も同じように「慢性胃炎」の診断結果を受け取った。
私は、「これはさすがにまずい」と考えた。
ピロリ菌感染は胃がんリスクを上げるという記事をネットで見つけて、私は居ても立っても居られないような焦燥感に襲われた。
6、7年前にピロリ菌感染は分かっていたのに、除菌治療をしてこなかった。実際、それ以後受けた胃の検査でも毎回「慢性胃炎」を指摘されている。
除菌治療を先延ばしにするという判断によって、胃がんになってしまっているとしたら……。
そうなってしまっていたら、それは致命的な判断ミス以外の何物でもなかった。
私はこれ以上先延ばしにすることはできないと思い、23年1月に近所の消化器内科に駆け込み、ピロリ菌除菌治療を受けた。
その時は「除菌成功」という結果を貰って、ホッと胸を撫で下ろしたのだが、今回の人間ドックはその除菌治療から2年経って、除菌治療後初めての胃カメラ検査だった。
前回の胃カメラ検査からは3年が経っていた。
自分の現在の胃の状態を確認したいというのも、今回人間ドックを受けた理由の一つだった。