家族の介護から考える「相談の難しさと社会福祉士の役割」
デイサービス生活相談員をしている社会福祉士の田中こころです。
介護の現場では、さまざまな立場の専門職が利用者や家族を支えています。
たとえば、地域包括支援センターは高齢者の総合相談窓口として機能し、ケアマネジャーは介護保険サービスの計画を立て、医療ソーシャルワーカーは医療機関で退院支援や転院調整を行います。
しかし、こうした専門職と利用者・家族との間に立ちはだかるのが「情報の非対称性」や「制度の複雑さ」という壁です。
利用者や家族が抱える不安や希望が十分に反映されないまま、限られた選択肢の中で介護が進むケースも少なくありません。
この記事では、叔母の介護を通じて感じた「介護における相談の難しさ」についてお話しします。
叔母の状況と家族の悩み
叔母は末期がんで要介護3の認定を受けています。
主な介護者は私の従姉妹で、入院前の数ヶ月間、介護保険で訪問介護などのサービスを利用していました。
しかし、容態が悪化して入院。
2ヶ月が経過し、医療ソーシャルワーカーから療養病院への転院を勧められている状況です。
入院をお知らせして以降ケアマネジャーからの連絡はなく、従姉妹は「誰に何を相談すればよいのかわからない」と感じています。
「ただ医療ソーシャルワーカーからの連絡を受けるだけ」という状況が続き、彼女は不安を募らせていました。
誰に、何を、どのように相談すればいいのか
従姉妹の悩みは典型的なものです。
「お母さんに穏やかな余生を過ごしてほしい」という願いがありながらも、医療保険や介護保険でどんなサービスが使えるのか、叔母が対象になるサービスが何なのか、具体的なサポート内容がわからないのです。
「自宅退院」「有料老人ホーム」「療養病院」「緩和病棟」など、インターネットや周囲から得た情報はあっても、どの選択肢が最適かを判断できない。
さらに、「医療ソーシャルワーカーは何をしてくれるのか」「ケアマネジャーはどのように関わるのか」も明確でないため、相談に踏み切れずにいました。
情報不足が選択肢を狭める現実
従姉妹が「転院したら、お母さんは病院の天井を眺めて残りの時間を過ごすことになるんだよね」と嘆いたとき、私は彼女にサポートを申し出ました。
介護や医療に詳しくない方が相談すると、どうしても医療ソーシャルワーカーが提案する特定の病院やサービスに選択肢が限られてしまいます。
従姉妹は単に「家で看取るのは負担が大きい」と伝えていただけでした。
そのため、在宅医療や有料老人ホームといった選択肢は一切提示されず、療養病院への転院が半ば決まった状態で提案されたのです。
こうした家族とソーシャルワーカーの視点の違いは、選択肢を狭め、結果として最適な形を見逃してしまうこともあると痛感しました。
制度の通訳者としての社会福祉士の役割
私は社会福祉士であり、ケアマネジャーの資格も持っています。
もし叔母が自宅に退院した場合、訪問看護や訪問診療、訪問介護が必要になることなど、ある程度の見通しを立てることができます。
そして、それらを利用することでどのくらい介護者の生活が楽になるかも想像できます。
しかし、こうした知識を持たない方にとって、利用可能なサービスを理解したり、その後の生活を具体的にイメージしたりすることは、非常に難しいものです。
患者や家族の生活に変化があるとき、希望や状況を正確に把握し、それを適切な相談先に伝え、返ってきた選択肢を分かりやすく説明できる第三者。
まさに「意向と制度の通訳者」が必要だと強く感じました。
まとめ
「相談することの難しさ」を目の当たりにした今回の経験を通じて、社会福祉士が果たすべき役割の重要性を改めて実感しました。
患者(利用者)や家族が、自分たちの希望に寄り添った支援を受けられるよう、ともに最適な選択肢を考えていく。
そのためには、制度の枠にとらわれず、ワンストップで相談を受け、患者(利用者)と支援者の橋渡しをする存在が必要です。
もし独立したら、そんな役割を担う道もあるかもしれない。
そう思いながら、社会福祉士会の入会申し込み書に手を伸ばしています。