2022/07/11 16:00
雨宮未來(Vo.)と梶原パセリちゃん(Vo., Manipulator)からなる男女2人組ユニットNaNoMoRaL。彼らの毎年恒例となるメンバー雨宮未來の生誕祭イベントが、7月9日(土)、代官山 UNITで開催された。これまで一貫してマニピュレーターの梶原が準備されたオケを操りながらライヴを行ってきた彼らだが、この日はキャリア初となるバンドセットでのライヴが行われた。
NaNoMoRaLにとってもファンにとっても特別な夜となったこのイベントを、OTOTOYでは、事前インタヴューと当日ライヴレポートの2部構成でお伝えする。
写真 : ヤギタツノリ
──梶原さんはずっとバンドセットやらないって言ってましたよね?
梶原パセリちゃん(以下、梶原) : 言ってました(笑)
──やらない理由は、なんだったんですか?
梶原 : しっかり作ったオケでやるライヴをバンドセットが上回ることはないと思っていたのが一番の理由です。これまで2人でやってきた時間が長いわけだし、ずっとバンドをやっているひとたちには勝てないだろうし。
──長い目でみて、いつかバンドセットでやろう、その準備をしておこう、という気持ちもなかった?
梶原 : なかったです。
──雨宮さんはバンドセットがやりたかった?
雨宮未來(以下、雨宮) : やりたかったです。でも、ただやればいいということじゃなくて、やるなら尊敬している人とか、カッコいいと思っている人とやりたいと思っていました。実は今回のメンバーは、この人とならやりたいとずっと言っていた人たちなんです。パセリさんは無理だと思ってたみたいですけど。
──今回のバンドセットが実現した経緯は?
梶原 : 去年から未來さんがバンドでやりたいとずっと言っていて。2月に今回のバンドメンバーのヒダカさん(THE STARBEMS)とイベントで共演したとき、ヒダカさんから「バンドやらないの?」って言われたんです。前から未來さんと、ヒダカさんが弾いてくれたら良いよねと話していたので、タイミングは今だ! と思って「ヒダカさんが弾いてくれるならいいですけど……」って言ったんです。そうしたら「やろうよ!」って言ってくれて。それならバンドセットやろうと思いました。共演していて人柄が良くて、こういう人と一緒にバンドをやったら良いものができる、自分たちも成長できると思っていた人からそう言われて、やろうと思いました。
梶原 : RONZIさん(BRAHMAN, OAU)は、“お友達” の好き好きロンちゃんと共演したときに、すごく良くしてくれて、すごく褒めてくださって。ドラムはRONZIさんに叩いてほしいよね、という話も未來さんとずっとしていました。なので、じゃあRONZIさんに声をかけてみようと。
雨宮 : ずっと、ドラムはRONZIさんで、ギターはヒダカさんと思ってました。でも無理だろうと。
梶原 : あのお二方に「一緒にバンドやりましょう」なんて言えるわけないじゃないですか。でも、ヒダカさんがやってくれるということで勇気をだしてRONZIさんにお願いしたら、すごく快く受けてくださって。
──ベースは梶原さんが以前にやられていたバンド(パローネとポッピー、現在は活動休止中)のメンバー、ヨシダさん
梶原 : もしバンドをやるならベースは絶対にヨシダにやってもらうと思っていたので。
──ヨシダさんとの今の関係は?
梶原 : 彼も作曲活動をしているのでお互いの作品を送りあったりと、バンドの活動休止後もずっと繋がっています。NaNoMoRaLのアルバムができたら彼に送って、彼から長文の、僕しか読まないレヴューが返ってくるとか。NaNoMoRaLのワンマンも、ずっと観にきてくれてますし。
雨宮 : 素敵な関係。
──そしてマーヤさん(KING BROTHERS、リンダ&マーヤ)です
梶原 : ヒダカさん、RONZIさん、マーヤさん。このお三方が、共演してすごく素敵だと思った人たち。さっき未來さんも言っていた、この人とならやりたいと言っていた人たちなんです。マーヤさんは西宮在住なのでリハが難しいという事情もあったのですが、お願いしたところ、「そこまで言うなら行くわ」「1曲ぶちかまして帰りますわ」って言ってくださって。カッコよかったです。
雨宮 : 私もそういう人になりたい!
──リハーサルがあったそうですが、どうでしたか?
雨宮 : 楽しかったです!
梶原 : 僕は嬉しかったです。お忙しい方たちなのに最初から完璧で。感動しました。いままでバンドセットやらないとか言っててごめんなさいと思いながらリハしてました。それと同時に、これは重大なことをしているな、とも。
──どんなライヴにしたいですか?
梶原 : その日、東京で一番良いイベントが代官山であった、いろんなイベントがあるなかで今日ここを選んでマジ良かったわ、と来てくれた方が思う日にしたいと思います。
雨宮 : 共演者もバンドメンバーも輝いているので私が負けないようにしたいです。ちゃんと歌を歌いたい。皆んなを背負って立ちたいと思います。
日程 : 2022年7月9日(土)
会場 : 代官山 UNIT
出演 : NaNoMoRaL BAND [雨宮未來 (NaNoMoRaL), 梶原パセリちゃん (NaNoMoRaL), ヒダカトオル (THE STARBEMS), 春尾ヨシダ, RONZI (BRAHMAN, OAU), マーヤ (KING BROTHERS、リンダ&マーヤ)] / ONIGAWARA / むぎ(猫) / トリプルファイヤー / 吉田豪
開演前、雨宮未來と吉田豪がステージに上がり前説をはじめる。出演者に名前を連ねる吉田豪だが、実は雨宮がどうしても吉田豪に今日のライヴを観て欲しく、「スケジュールを押さえるために」オファーを出したとのこと(実際に上の事前インタヴューの時点では何をするか決まっていなかった)。ゆるゆるとしたトークが進むが、途中で吉田豪が発した「こういうデリケートな時期に、NaNoMoRaLに明るさをみようと来ている人、平和な感じを求めている人もいると思う」という言葉には、うなずく観客も多くみられた。
出演は順に、ONIGAWARA、むぎ(猫)、トリプルファイヤー。雨宮がパフォーマンスをみるたびにその盛り上げる力をみて口惜しく思う、負けたくないと紹介したONIGAWARA。2人組ユニットで「アイドルでもバンドでもないけど」、「ポップミュージックは止まらない」と歌う彼らにはNaNoMoRaLとの共鳴を感じざるを得ない。続いて雨宮がずっとファンだったと語る、沖縄からやってきた猫のミュージシャン、むぎ(猫)。そのステージングや “猫” 柄がもたらす楽しさ・温かさに「雨宮未來らしさ」を感じた人も多いだろう。3組目はトリプルファイヤー。バンドから生まれるグルーヴの愉悦、その上を自由に歩くヴォーカルが素晴らしい。それぞれに個性があり、それぞれのなかにNaNoMoRaL自身の良さや目指しているものとの共通項が見いだせる。そんな共演者たちが並ぶ、見事なイベント構成だった。
そしてNaNoMoRaL BANDの出番がやってくる。転換中、セッティングの音出しでこれだけドキドキするライヴも久しぶりだ。
・・・
SEが流れるなかメンバーがステージに上がる。雨宮の「NaNoMoRaL BANDです!」という一声のもと、バンド・サウンドが掻き鳴らされる。1曲目は “サーチライト”。なにより驚かされたのは、雨宮の堂々とした佇まいだ。つい先ほどまで吉田豪とふわふわしたトークをしていた人と同一人物とはまるで思えない、バンドマンの面構えを、フロントマンとしての自信に満ちた表情をしている。いっぽうの梶原は本当に “嬉しそう” だ。あのときステージ上もフロアも含めたあの会場で一番嬉しそうな顔をしていたのは、たぶん梶原だろう。サビでは観客の手が一斉に挙がる。いつものNaNoMoRaLのライヴと同じ光景のようでいて、挙げられる拳の勢いや込められた気持ちは明らかに違う。そんなフロアの様子からも、バンドセットのライヴが始まったことを実感する。
2曲目は “シンダフリズム”。一段と速まるテンポに観客は手拍子で応える。2018年リリースの1stアルバム『nisan ka tanso』に収録されているこの曲。音源では打ち込みで制作されていたフレーズが、ヨシダのベースで、ヒダカのギターで奏でられる心地よさ。2曲目にして全開で突っ込んでいく雨宮のヴォーカルと、大サビの梶原の渾身のヴォーカルに、フロアはこの夜が特別であることを改めて感じただろう。
“シンダフリズム” をバンドによるかき回しで終えた後、雨宮がずっとやりたかったというメンバー紹介が行われた。RONZIのキックが鳴らされ、観客が手拍子をあわせ、雨宮が順にメンバーを紹介していく。先ほどまでの堂々とした振る舞いから一転、メンバー紹介にもかかわらず、RONZIを「呼び捨てにして怒られないか」と心配する雨宮は、いつもの雨宮未來だった。
3曲目は昨年末リリースの最新アルバム『ne temo same temo』に収録の “087478”。1曲目からずっと耳に残るのが、ヒダカトオル、RONZIという錚々たるメンバーに加わる「謎の男」春尾ヨシダの、極めて印象的なベース・ラインだ。うねりながら上へ下へと駆け巡るフレーズが心をかき乱しつつも、とても気持ちよい。梶原はヨシダを、20代の頃に一緒に活動していた「一番好きなベーシスト」であり「バンドでやるならベースは絶対ヨシダがいいと思っていた」と紹介している。そもそも梶原が作るNaNoMoRaLのトラックのベース・フレーズにはいわゆる「変態さ」があるのだが、ファンの多くがこの日、その原点を見つけたと思っただろう。
4曲目は “唖然呆然”。曲が始まりヒダカのギターが入ってきたタイミングで梶原がみせた表情が忘れられない。自らが作ったフレーズをヒダカが弾いているのが嬉しくて仕方ないのだろうか。人はあんなにも嬉しい顔ができるんだな、という表情だった。NaNoMoRaL屈指のキラー・チューンであるこの曲。雨宮と梶原の2人がマイクを握ってヴォーカリストとしてフロントに並ぶその様子には、NaNoMoRaLがデビュー以来4年をかけて、変化し、築き上げてきた2人組ユニットとしてのありかたが集約されていた。この曲ならではのグルーヴを後押しするRONZIのドラムと、ヒダカの歌うようなギターが素晴らしい。
5曲目のNaNoMoRaL最速チューンである “アンサーソング” を経て、6曲目が “ペオプレ”。今年3月にグランプリを獲得したオーディション・イベントのファイナルでも歌われたこの曲。最新のNaNoMoRaLの象徴ともいえる楽曲であり、1年間かけて聴衆を惹きつける表現を研ぎ澄ましてきた楽曲だ。これがどのようにバンド・サウンドで演じられるのだろうか? 果たして最初の間奏部分で雨宮が「最高のNaNoMoRaL BANDメンバーだ!」と叫んだように、バンド・アンサンブルと2人の熱いヴォーカルが見事に絡みあう。大サビで雨宮と梶原が互い視線を交わしながら「1年後も 10年後も 100年後も 1000年後も」と2人で歌う後ろで鳴らされるRONZIのシンバル、昇って降りるフレーズが心を掴むヨシダのベースが、最高の瞬間をもたらす。
“ペオプレ” を演奏し終えて最後のMCの時間となる。ヒダカから誕生日をむかえるにあたっての抱負をきかれた雨宮が「選ばれる人間になりたい」と答える。フェスのオーディションを受けても受けても落とされてしまうからだと。ヒダカがRONZIにフェスに選ばれる秘訣は? ときくと、RONZIは「待っていれば選ばれるから大丈夫」と答える。ヒダカが「こんなにたくさんの人が観にきてくれてるんだから大丈夫」と会場を見渡す。そんなやりとりをしていると、雨宮が「私たち(バンド・メンバー)もう会えないんですよ」と泣きだしてしまう。「練習がすごく楽しかったのに。でももう会えない」と言う雨宮に、ヒダカ「ライヴもなにも決まってなくてもリハだけ入っていいよ」、RONZI「合宿しよう」、ヒダカ「じゃあ抱負は、このメンバーで1曲作ろう。レコーディングもして、年末発売!」と声をかけると、雨宮が「言いましたね!」と笑顔で返す。
そして最後の1曲のためだけに駆けつけたマーヤをステージに呼び込む。「西宮から来たよ」とマーヤ。雨宮が「マーヤさん来年は全曲一緒にやりましょう」と言うと(この時点でもう来年やることになっている笑)、マーヤ「あのさあ、俺のとこだけセットリスト貼ってへん」、ヒダカ「1曲だから」、雨宮「なに演るか分かってますか?」のやりとりで会場は笑いにつつまれる。ヒダカが「来年はマーヤも入れてツアーですよ。西宮で生誕祭」と言う。先ほどからのステージ上のやりとりを聞いていたファンたちは皆、「聞いたからね!」と心のなかで思っていたに違いない。
いよいよ最後の曲は “エンドエンドロール”。雨宮のタイトル・コールから、バンド・メンバーも加わったカウントを経て、曲がはじまる。マーヤの情熱的なプレイがステージに華を添えるが、何よりギターが加わり厚みを増したサウンドがとんでもなく魅力的だ。まるでこの日、このメンバーで演奏するために生まれてきたかのようなこの曲は、今年の3月にリリースされたものだ。このバンドセットでのライヴは、去年でも来年でもなく、この日に実現することが決まっていたのかもしれない。この曲は最後に「ああ 人間よ 楽しいことはあるかい 振り返らなくてもいい きっと未来は素敵だ」と歌われる。こんなにもこの場にふさわしい言葉があるだろうか。
いつものNaNoMoRaLのライヴと同様にアンコールはない。生誕祭らしく雨宮にケーキと花束が贈られ、NaNoMoRaL BANDで、そして出演者全員での写真撮影を終えると、会場を満たす大きな手拍子・拍手に送られ、メンバー、そして、梶原と雨宮がステージを後にした。
・・・
NaNoMoRaL初のバンドセット・ライヴを観て最も印象に残ったのは、雨宮のバンドマン然とした顔つき、フロントマンとしての存在感、バンドを引っ張るヴォーカリストとしての説得力だった。NaNoMoRaLとして活動してきた時間の積み重ねと本人の意識がもたらした成果なのだろう。いっぽうで “嬉しそうだった” としか例えようのない梶原。この形態のステージになるとヴォーカリストとしてのありようが問われるが、昨年の夏頃からのこの1年間は、まさに梶原がNaNoMoRaLのヴォーカリストとして自らを解き放っていった時期だった。その意味でも、このタイミングでのバンドセットの実現は必然だったのかもしれない。ヒダカトオル、RONZI、春尾ヨシダ、マーヤから構成されたバンドも、2人の「この人とならやりたい」という想いに間違いがなかったことを証明していた。
NaNoMoRaLとして4年、雨宮と梶原のそれ以前のキャリアも考えると、これまでの歩みは決して駆け足ではなかっただろう。だが彼らが一歩ずつ歩んできたその道は、輝きに包まれている。“エンドエンドロール” ではこう歌われている。「誰かが作ったこの場所に 将来を映しているけど 答えを決めるのはいつだって そう 僕とか君だとか」。そう、雨宮と梶原が、NaNoMoRaLとそのファンたちが、いままさに答えを出そうとしている。NaNoMoRaLの未来はきっと素敵なものになるだろう。
2. シンダフリズム
- MC (メンバー紹介) -
3. 087478
4. 唖然呆然
5. アンサーソング
6. ペオプレ
- MC (マーヤ、呼び込み) -
7. エンドエンドロール
名盤を50年かけてでも作りたい──NaNoMoRaLがたどり着いた、未来へ繋げる自信作 (2022年1月13日公開)