以下の文章は、電子フロンティア財団の「What Home Videotaping Can Tell Us About Generative AI」という記事を翻訳したものである。
1975年。アース・ウィンド&ファイアがパワープレイされ、映画『ジョーズ』が映画館のスクリーンを覆い尽くし、『オール・イン・ザ・ファミリー』が必見の番組とされ、ビル・ゲイツとポール・アレンがAltair 8800という初のパーソナルコンピュータを売り出していた。
だが、著作権弁護士にとって、そして我々市民にとって、もっと重要な変化が訪れていた。ソニーが初のビデオテープレコーダー(VTR)を販売したのである。そのお陰で、仕事で昼ドラが見れなかったとしても、録画しておけば帰宅後にゆっくりと見れるようになった。好きな番組と気になる試合中継が重なっても、なんの問題もなくなった。ソニーがユニバーサル・スタジオに送った広告にもあるように「これで刑事コロンボを見るために刑事コジャックを諦める必要はなくなった(その逆も)」のである。
これが生成AIとどう関係するのか。まず、当時のVTRへの反応は、今日のAIに向けられた懸念と非常に酷似している。著作権団体は議会に駆け込み、「(VTRは)アメリカの映画製作者と一般視聴者にとって、ボストン絞殺魔と一人暮らしの女性のような関係にある」と訴えた。こうした主張は、近年の議会でのAIに関連した発言と大差はない。当時、権利者たちは裁判所に提訴し、ソニーが大規模な著作権侵害を助長していると主張した。その主張の中心にあったのは、機器メーカーがその機器の使用のされ方によって著作権法上の責任を負う(したがって破滅的な法定損害賠償を支払わなければならない)という斬新な法理論であった。
事件は最高裁まで争われた。1984年、最高裁は著作権業界のレトリックを退け、ソニーの勝訴判決を下した。40年後の現在、この判決には、注目に値する2つのポイントがある。
まず裁判所は、著作権法がイノベーションに追いついていないのだとしたら、裁判所自らが著作権の保護を拡大すべきではないと指摘した。判決文には次のように書かれている。
「議会は、このような新規のテクノロジーによって必然的に生じる、競合する利害の多様な組み合わせに十分に対応する憲法上の権限および制度的な権能を有している。このような場合、議会が明確な筋道を示していないため、このような利害の対立を全く想定していない立法措置によって創設された権利の範囲を解釈するには、慎重でなければならない」
次に、裁判所は特許法の「実質的な非侵害的使用」の概念を援用した。ソニーの消費者によるVTRの使用方法に基づいて、権利者がソニーの責任を追求するには、VTRが侵害のためだけのツールであることを証明しなければならなかった。つまり、VTRが「実質的な非侵害的使用に適していた」場合、ソニーは責任を負わないということになる。裁判所は、VTRが私的かつ営利を目的としないタイムシフトのために使用されていたことから、このタイムシフトは適法なフェアユースだと判断した。さらに裁判所は、子供番組の録画が多くの家庭にとって非常に有益な役割を果たしているというフレッド・ロジャースの証言を引用した。
この判決によって、その後数十年に渡るイノベーションへの道が開かれた。ソニーが敗訴していれば、ハリウッドは非侵害的な使い方ができるツールであろうと、侵害的に使える余地があるかぎり、あらゆるツールを法的に殺すことができていただろう。議会の協力を得て、それに類する制限をかけることにも成功はしているが(たとえばDMCA1201条など)、それでもなおソニー判決は新たなクリエイティビティを守る上で、重要な法的保護であり続けている。
生成AIは、この保護が今後も有効であるかの試金石となるかもしれない。権利者たちは、生成AIツールメーカーによる著作物の訓練データとしての使用は直接的な侵害であると主張している。こうした使用は適法であると判断される可能性が高いだろう。より興味深い問題は、ユーザがツールを用いて侵害的な作品を生成した場合にツールメーカーは責任を負うのか、である。確かにユーザ自身が責任を追う可能性は十分にあるが、権利者が費用倒れ覚悟でユーザ個人を訴えるという可能性は低いだろう。だが、ソニー判決が示すように、ツールメーカーの責任を問うためのカギとなるのは、そのツールが「実質的な非侵害的使用に適しているか」否かである。その答えは間違いなく「イエス」であり、著作権クレームの大半は排除されることになるだろう。
ただリスクもある。いずれかのケースが最高裁まで争われれば、最高裁がソニー判決を覆す恐れもある。実際ハリウッドは、MGM対Grokster事件で最高裁がピアツーピアファイル共有の適法性を検討した際に、ソニー判決を覆すことを目論んでいた。当時、EFFを始め多数の人々が必死に反対し、結局裁判所はソニー判決の検討を回避し、「誘因(inducement)」という新たな二次的責任の形体を創設した。
現在起こされている一連の訴訟は、和解というかたちで終結するかもしれないし、議会が介入するかもしれない。だが、そうならなければ、再び最高裁(と多くの弁護士たち)が1975年のようなパーティが開くことになるのだろう。著作権マキシマリストたちが我々のテクノロジーの未来を支配することのないよう、判事たちが再び正しい選択をすることを期待したい。
What Home Videotaping Can Tell Us About Generative AI | Electronic Frontier Foundation
Author: Corynne McSherry / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: January 24, 2024
Translation: heatwave_p2p