[B! 表現] うらべさん on Twitter: "「プリキュアは女の子のための作品ですよ」と言われて「つらい」「なんでそんなこと言うの」「涙が止まらない」とか言い出すおっさん嫌でしょ。"
↑この議論に参加する気はないのですが、
(そもそも、プリキュアはポリコレの道具じゃなくて子供向けアニメですよ。)
ここのブックマークコメントやツイッターのツリーで散見される「プリキュアは大人(成人男子)もターゲットにしている」というのは未だに良く聞きます。
numewo プリキュアは企画の段階から明確に「大人もターゲット」とされているので、比較したり並べる対象としてはちょっと不向きでは。
kazyee プリキュアは成人男性もターゲットだと明言してた気が。
「意見」であれば「いろんな意見あるよね。尊重するよ」で良いのですけど、
「プリキュアは成人男子もターゲットにしている」は事実と異なるので少し言及しておこうと思います。
「プリキュアは大人もターゲットにしているか?」1点に絞って言及していますので、それ以外の事は書いていません。
で、
結論から言うと、
「東映アニメーション」も「バンダイ」もプリキュアというアニメが「成人もターゲットにしている」と言及した事は(自分の知る限り)ありません。ただし一緒に見ている保護者は意識している、とは言っています。
(この「保護者を意識している」と「成人をターゲットにしている」というのがごっちゃになっている様な気がしています。)
まず、この「プリキュアは成人男子がターゲット」の話題になると必ず貼られる画像↓
プリキュアの「メインターゲットに男19~30歳」が入っているじゃないか!というのが「プリキュア成人男子ターゲット説」の根拠となっている様なのですが、この画像は自分もかなり調べたのですが出どころ不明で、明確なソースは無く、自分の調べた限り、これは「DVDの販促用資料」から抜粋したものではないか?と思われます。
かつて調査しました。詳しくは、ここに。
プリキュアという「アニメ自体」が成人男性をターゲットにしているわけではなく、プリキュアの「DVD」のターゲットに成人男子が含まれますよ、という資料なのではないかと推測されます。
つまりはプリキュアという「アニメーション自体」が成人男子をターゲットにしているわけではないのです。
しかもこの写真の出どころは不明です。再度言いますが少なくとも、東映アニメーションが「成人男子をターゲットにしている」と明言した事は(自分の知る限り)一度もありません。
(「出所不明の写真」を信じるか、東映アニメーションの言葉を信じるかは、本人次第ですけどね。少なくとも自分は出どころ不明の写真からは何も学べません)
逆に2008年の東映アニメーション年株主総会では、プリキュアの「東映アニメーションとしてのターゲットは女児」と言及されています。
(個人ブログなのですけど、一応ソースを貼ります)
プリキュア5の対象顧客は女児と言っていたが、バンダイナムコやマーベラスエンタテイメントの総会では、中高生や20代以上の男性がメイン層なので、フィギュアを売ったり、着ぐるみでなく声優イベントをやりたいと言っていた。
→映像制作のメインターゲットは視聴率の利用方法でも説明させていただいたが、女児でありこの層の50%以上の視聴率をとっている。
ライセンシー各社のターゲット層とはまた違った傾向になる。
メイン層の視聴率をあげれば、テレビ局の広告収入が増え、映像が増え、ライセンシーの商品売上も増えることがわかっており、東映アニメーションとしてのターゲットは女児。
ライセンシーが声優イベントをやりたいというのであれば、協力する。
(この時の発言では、東映アニメーションとしてのターゲットは女児だけど、ライセンシーが大きなお友達向けに何かやりたいのであれば協力するよ、というスタンスですね)
これだけではなく「制作現場」の文献資料としても、「プリキュアは子供向けである」ことは常に言及されています。いくつかソースを。
また「大人が好きそうなことはやめよう」と決めた。
例えばターゲットの女児がとにかく楽しく見られるのであれば、あえて水着を出さなくてもすんでしまう。
夏休みっぽい雰囲気であればいいじゃないか、と考えたのだ。さらにミニスカートのコスチュームで戦えば、下着が見えてしまうのが普通だ。
だが、そうならないようにレギンスを着用させ、絶対に見えないように配慮していたという。このような取り組みが奏功し、俗に美少女オタクといわれる人種に溺愛されることはなかったそうだ。これは美少女戦士セーラームーンとの大きな相違点である。
ーー番組を作っていくうえでもっとも気を使われたことは?
鷲尾 やはり”主人公が女の子“という点と、あくまでも番組の対象は子供たちなんだというスタンスです。たとえば、夏休みのエピソードとしてなぎさとほのかが海へ泳ぎに行くというのは楽しいし、絵的にも季節感が出せるでしょう。でも、そのシチュエーションを、ほほえましく観てもらえるのならばいいのですが、そうではない視点、視線を向けられるのは避けたかったんです。
ABCさんともお話しまして、夏場の定番話として楽しいエピソードになるのは予想できるんですが、あえてやらないことにしたという経緯があるんですよ。
講談社ビジュアルファンブック「ふたりはプリキュアビジュアルファンブック Vol2」(2004年)p87 (太字は著者による)
大塚 スタッフが一生懸命考えて作っていく作品であって欲しいと思います。中途半端なブランドになったり、ファンに媚びるような作りになったら、作品自体が終わるべきだと思います。
……ファンに媚びるというのは、主に大人のファンにですか?
大塚 僕は大人のファンに向けてプリキュアを作っているつもりは一切ないんです。それに、媚びだした瞬間、大人のファンにも見向きされなくなると思います。小さい子に向けて一生懸命に作っているから、見てくれていると思うんですよ。
[Webマガジン幻冬舎:お前の目玉は節穴か 第6回 「プリキュア」シリーズの大塚隆史監督インタビュー 後編, 2011](現在リンク切れ)(太字は著者による)
鷲尾Pの言う様に「ふたりはプリキュア」は番組開始当初からメインターゲットを「子ども」と設定していました。
そのために、子供以外から「そうではない視線」で見られるのを避けるために(「そうではない視線」とは柔らかい表現ですが、要は一部の大人からの性的な目で見られるのを避けるため)「海水浴で水着になる」というシチュエーションを番組制作サイドの協議の末に排除していた様です。
少なくとも開始当初のプリキュアは「一部の大人」の興味を引く表現を避けていた様です(その子供向けアニメとしてのストイックさが逆に別の一部の大人を引き付けていたのですが、それはまた別のお話です)
ただ「大人の視点」を全く考慮していないかというとそういうわけではなく、プリキュアは「子供だけ」ではなく「保護者の視線は考慮している」と各々のインタビューで書かれています。
「現在のトレンドというと、断定はできないのですが、やはり傾向としてはより本物志向ということです」。
これは鷲尾氏が作品づくりの際に感情のリアリティを重視すると言っていたことと通底している。
理由は、購買意思決定をする人は主に母親で、彼女はシビアに判定するからだという。
とりわけ昨今、お母さん基準というのが大きな影響力を持っているという。お母さんのパッと見の印象、「可愛いか、可愛くないか」で決まるというのだ。もしもお母さんが「これ、可愛くないじゃん」と言ったら、幼児はそれに素直に影響を受け、「お母さんが可愛くないって言ってるから、可愛くないんだ」と思ってしまう。それゆえ、お母さんの視点、好みはきちんと意識して、モノづくりをしなければならない
「プリキュア」に学ぶ子どもマーケット攻略法 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
([雑誌 プレジデント 「プリキュア」に学ぶ子どもマーケット攻略法, 2010]2010年8月30日号 プレジデント社))
加藤 大人の男として聞くんですが、プリキュアシリーズって女の子向けじゃないですか、ターゲットには大人の男性女性って言うのは入れてないんですかね。
鷲尾 うーん、主に意識するのは女児が観て喜んでくれるように、ということですね。ただ、お母さんも含めて大人が見た時に楽しめるストーリーにはなるようにしています。いわゆる子どもだましの作品は作らない。ただ、そこ(大人)に媚びるようなことはしていないですね。
加藤 あくまでもメインは子どもなんですね。僕もそういうところが好きで見ているんですよ、変に媚びてほしくないというか。
鷲尾 子ども向けだからこの程度でいいよねって言う手の抜き方は絶対にしていません。
WEB記事 プリキュアシリーズの生みの親、鷲尾プロデューサーにインタビュー編(現在リンク切れ)(太字は著者による)
梅澤 テーマが「親子」なので、親子愛やつながりをしっかり描ければと思っています。あと、子どもがはじめて見る父親の涙、という裏コンセプトもあるんです。
映画館はどうしても親といっしょじゃないと来られないですよね。「連れってって~!」と言われて付き合って、映画を見終わった子どもがパッと横を観るとパパが泣いていた。映画を観たあとにお父さんと娘が手をつないで出てきて欲しいです。
娘が見た父親の涙は〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー1 梅澤淳稔プロデューサー前編〉 | ニコニコニュース
(太字は著者による)
「『プリキュア』シリーズのメインターゲット層は、3〜6歳の女の子です。
このくらいの子たちは、お母さんといっしょにテレビを観ている。お母さんの年齢は、だいたい30歳代が多い。
小さいころ、魔女っ子などのアニメのヒロインにあこがれていた世代でもありますね。そのあこがれを『プリキュア』に投影して観ていたりして、ここ数年はお母さんもファンになっていただいているなと感じています」
お母さんもプリキュアに変身!本格的コスメ「スマイルパクト シャイニーフェイスパウダー」開発の秘密 - エキサイトニュース
(太字は著者による)
この様に「保護者を意識している」事はたびたび言及されています。
また「プリキュアは子供の2倍近い大人が視聴している」という視聴率データもあります。(↓書きました)
子どもの2倍、大人が見ている!? アニメ「プリキュア」人気のワケ(kasumi) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)
プリキュアというコンテンツは大人(保護者)を意識して作られている事も間違いないかと思われます。
プリキュアは「子どもをターゲットにしている」ではなく
プリキュアは「子どもとその保護者をターゲットにしている」の方が認識が正確になるものと思われます。
プリキュアの映画を観に行く人はわかると思いますが、プリキュア映画も95%は家族連れで、「大きなお友達」は5%未満です。(これは自分が15年プリキュア映画に通い続けて実測した数値です。ほとんどこの比は変わりません。)
これも15年続けてきて結果として出てきた、プリキュアのメインターゲットが「子どもとその保護者」である事の証左であるかと思われます。
しかしプリキュアも開始から15年も経って、当時とはやや様子が変わってきている様でもあります。
プリキュア10周年を契機としてオールスターズ戦略をとる様になり
~この世代のお子さんはお母さんと一緒に映画を見に行かれる方がほとんどで、親子2世代で楽しんで頂けるキャラクターは太く長く続きます。
プリキュアをようやくそこに立ったのかな、と思います。(戸口氏)
東京玩具人形協同組合「月刊トイジャーナル]2011年2月(p9)
2011年には「親子2代戦略」として、全国3店舗(今は4店舗)の「プリティストア」では子供向けグッズだけではなく、様々な大人向けグッズも多岐に渡り販売しています。
その主なターゲットとなっているのは「若い女性」です。
2019年9月にNHKBSプレミアムで放送された「NHK全プリキュア大投票」では、その投票率が
男女比=27.4:72.6と圧倒的に女性の投票率が多く、また年代別に見ても10~19歳が38.1%、20~29歳が28.7%と「若い世代」がプリキュアを支持している事が伺えます。
「全プリキュア大投票」の結果を数字面から徹底分析! シリーズ16年の歴史と愛され続ける理由|Real Sound|リアルサウンド 映画部
プリキュアは(子供以外では)「おじさんが支持しているコンテンツ」ではなく「若い女性が支持しているコンテンツ」である事が数字で明確に出てきました。
(事実としてまったく成人男子なんぞの数字は小さいのです。)
ただ、この先かつてプリキュアを見ていた子供たちに向けてのグッズ展開はしていくものと思われます(事実、2018年にもたくさん商品展開されました)
この先、プリキュアは「アニメーションは子供と保護者向けに」しつつ、グッズ展開は大人向けにしていくと思われます。
プリキュアは「アニメ」と「グッズ展開」は分けて考えた方が良く、
1:アニメーション(+周辺の玩具)は子供と保護者に向けたもの(=内容は子供と保護者向けにつくられており、オタクに媚びない)
2:プリティストアなどのグッズ展開は親子2代戦略に従い大人もターゲットにしていく。
そこをごっちゃにして「プリキュアは大人向けにも作られている」としたら認識を間違える可能性があります。
(まとめ)
プリキュアが、
1:「成人男子もターゲットにしている」という明確なソースは無い
2:「子供とその保護者をターゲットにしている」というソースは(たくさん)ある
3:アニメーションは子どもと保護者向けに。グッズは大人向けにも。そこをごっちゃにしない。
という事が伺えるかと思われます。
再度言います様に
「プリキュアが大人向けに作られていなくて悲しい」
「プリキュアは成人男子を否定している」
「いや、そうじゃない」
「プリキュアは子供向けだ」
といった論はどうでもよくて、
公式とメインターゲットに迷惑をかけないのは、当たり前の「大前提」として
スター☆トゥインクルプリキュア第18話「つかめ新連載☆お母さんのまんが道!」で、
星名ひかるのお母さん、星名輝美さんが言った様に
「好きなものが人と違ったっていいじゃない。
ひかるが好きなものは、ひかるだけの宝物なのよ。
だから大事にしてね」
僕は、僕の宝物を大事にしていきたいと思います。
(おわり)