19時間待つことを厭わないラーメンマニアの集まりだから、ラーメン談議が弾んで「キャンプみたいで楽しい」(遠山さん)そうだ。それにしても、お客さんとここまでの信頼関係を築く飲食店があるだろうか。
髙田さんは、2024年12月23日、25日にも限定ラーメンを出した。遠山さんは22日のランチにとんこつラーメンを食べた後、今回もそのまま15時から19時間並んだ。その日、一緒に夜を明かしたぶたのほしファンは、ほかに4人いた。
「人生は絶対にお金じゃありません」
ぶたのほしは、2018年1月20日のオープンから1日もお客さんの行列が消えたことがない。売り上げは毎年、前年比を上回る。しかし、髙田さんは現在56歳。ぶたのほしのスープは鉄の棒で常にかき混ぜ続ける重労働のため、「60歳が限界かもしれない」と考えている。それでも現場に立つのか、人を雇って育てるのか、悶々と悩み続けている。
まだ答えは出ないが、理想の終い方は頭のなかにある。「つけ麺の神様」と呼ばれる大勝軒の創業者、故・山岸一雄さんの今際の際の言葉は「いらっしゃいませ」。その事実を知って、「さぶいぼが立った」という髙田さんは、最後の最後まで職人を貫き、厨房でバタッと倒れて死ぬことに憧れる。
「お客さんの笑顔を思い出しながら、ニヤニヤしながら死んだろと思ってるんです。そこで最後に一言、『いらっしゃいませ』。めっちゃかっこよくないですか」
若かりし頃、「お金持ちになる」という野望に燃えていた髙田さんは「人生は絶対にお金じゃありません」と笑った。
「一風堂の河原成美さんが書いた本にね、どんな辛い状況でも、どんな悲しい状況でも、どんな苦しい状況でも、仕事をしている時に心の底からありがとうという言葉しか出ない時期がある、もしそう思えたら、それがあなたの天職ですよって書いてあったんです。僕も地獄の修業時代にそう感じた瞬間がありました。生まれ変わってもラーメン屋さんしますよ」