※本稿は、山野内勘二『カナダ 資源・ハイテク・移民が拓く未来の「準超大国」』(中公新書)の一部を再編集したものです。
マクドナルドからフライドポテトが消えかけた日
やや旧聞に属するが、豊かで平和な日常に起こったちょっとしたエピソードを紹介したい。ウクライナ危機の直前、2021年12月23日、日本のマクドナルド店舗に長い行列ができた。憶えている読者もいると思うが、この日から22年2月にかけて、マクドナルド店舗からフライドポテトが消えかけた。英国BBCなど、国際メディアでも話題になった。
主な理由は、新型コロナ感染爆発による世界的なサプライ・チェーンの混乱の余波に加え、カナダで発生した洪水の影響だ。西海岸バンクーバー港発の船便が大幅に遅延したのだ。
この事態に対し、日本マクドナルドは、急遽、LサイズとMサイズの販売を停止。Sサイズのみの販売で、供給を途絶えさせぬ措置を取った。「お客様に、マクドナルドのフライドポテトを味わい続けてもらうための積極的措置です」と説明した。同時に、Sサイズの販売を確実に維持するためにフライドポテトを空輸して対応した。空輸は海上輸送に比べ、コストが相当高くなるのにもかかわらずだ。
フライドポテト生産で世界最大の会社はカナダにある
あって当たり前の商品、フライドポテトに注目が集まることは稀だ。失って初めてありがたみが分かるという人間の性分を示したとも言える。
あまり知られていないが、実は、フライドポテト生産で世界最大の会社は、カナダの「マッケイン・フーズ」という食品企業だ。世界の4分の1のシェアを誇る。カナダの実力の一端が、日本の日常の中に垣間見えた例だ。とにかく、フライドポテト騒動は、お客様第一を貫く関係者の努力で、2月中旬には収束した。
その直後、22年2月24日、ロシアがウクライナ侵略を開始する。主権と領土の一体性を侵害し、明白に国際法に違反する行為だ。第二次世界大戦後の国際社会が営々として築いてきた「法の支配」に対する重大な挑戦だ。国際情勢は激変した。世界の食料・エネルギー・鉱物情勢への影響も甚大だ。