氷河期世代が20年後に直面する年金問題とは何か。男女ともに非正規雇用者が多いこの世代について、エコノミストの崔真淑さんは「厚生年金の加入期間が短かったり、国民年金のみの加入であったりする人が多い。現在、国民年金の満額受給額は生活保護の最低生活費を大きく下回るため、生活費を賄うことが難しくなる可能性がある」という――。

日本が「一億総非正規雇用社会」になる日

前回は、年金制度改正法で懸念される、非正規雇用の増加について述べました。高所得者の厚生年金保険料の引き上げやパート社員の厚生年金拡大によって、将来的に日本は「一億総非正規雇用社会」になってしまうのではないか、という懸念です。

総務省の「労働力調査」によると、2023年の非正規雇用者数は2124万人で、全雇用者に占める割合は37.0%にのぼります。このうち、男性の非正規雇用者数は680万人前後、女性の非正規雇用者数は1440万人前後と推定されます。(*1)

非正規雇用者とは、企業の直接雇用である契約社員、パートタイマー、アルバイトと、間接雇用である派遣社員です。他方で、企業が業務の一部を外部の個人(フリーランス)に委託する業務委託契約がありますが、雇用契約ではないので、企業に社会保険料の負担は生じません。ちなみに2021年時点で、日本のフリーランス人口は約1577万人で、全労働者の約22.8%を占めています(*2)。こうした労働形態の多様化は、「同一労働同一賃金」の理念からは残念ながら程遠く、いわゆる「氷河期世代」はこの流れの最大の被害者でもあります。

厚生労働省の調査によれば、2019年時点で35~44歳の約1637万人の氷河期世代において、正規雇用者は約5割強しか見受けられませんでした(*3)

*1 第1節 就業をめぐる状況 内閣府男女共同参画局
*2 フリーランス人口の割合は? 増加理由や今後の展望・日本の状況を解説
*3 図表1-3-27 就職氷河期世代の中心層となる35~44歳(1,637万人)の雇用形態等の内訳(2019年)|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省

氷河期世代の年金2040年問題

氷河期世代とは、1990年代半ばから2000年代前半の就職氷河期に社会人になった人たちです。主に1970年から1985年頃に生まれた男女が該当し、不況の影響で正社員としての就職が難しく、非正規雇用や不安定な職に就かざるを得なかった人が多くいます。正社員に比べて給与が低く、昇給や退職金も十分ではありません。

しかも現役時代ばかりでなく、年金生活においても“被害”は続きます。氷河期世代の多くは非正規雇用で働いているため、厚生年金の加入期間が短いか、国民年金のみの加入となっています。要するに、老後を国民年金のみに頼る生活になるということです。

現在、国民年金の満額受給額は約6万5000円(掛金の上限は月額6万8000円)ですが、これは生活保護の最低生活費(約13万円/ただし地域や世帯人員などによって異なる)を大きく下回ります。そのため、生活費を賄うことがかなり難しくなる可能性があります。たとえ厚生年金に加入していても、現役時代の平均給与が高くないため、結果的に年金額が少なくなり、生活が厳しくなる可能性は否めません。