本稿は、和田秀樹『死ぬのはこわくない』(興陽館)の一部を再編集したものです。

うつ病は「死に至る病」
一般的に、高齢になるほど、心と体の結びつきは強くなります。要するに高齢になるほど、心が弱ると体も弱りますし、逆に体が弱ると心も弱ってしまうのです。そのため、喪失体験をきっかけにうつ病を発症して体まで弱ってしまうということは、めずらしいことではありません。
そうでなくとも、高齢者のうつ病は増加傾向にあり、さまざまな地域で行われた住民調査をみると、実に20人に一人が罹患しているという割合です。うつ病は、注意しなくてはいけない病気の一つだといえます。
「うつ病は心の風邪」という言いまわしがありますが、うつ病は決して風邪などではありません。この言葉は、「うつ病は、風邪をひくくらい、なりやすく、誰もが発症する病気」という意味で使われますが、それ以外の点では、うつ病と風邪には大きな違いがあるのです。一番大きな違いは、うつ病が「自殺」という死に至る病であることです。私はむしろ「うつ病は心のガン」といったほうが正しいと思っています。
筆者が考える「人生最大級の悲劇」とは
欧米では、自殺者が出ると、周辺の人々から生前の様子を聞く「心理学的剖検」が広く行われています。その検証作業によると、自殺者の50~80%が「うつ病」だったと診断されているのです。それほど、注意すべき病気だということを理解してください。
「年をとっても、認知症にだけはなりたくない」と思っている人は、多いことでしょう。しかし、私のような精神科医の目から見ると、うつを患うことのほうが、認知症以上に不幸なことです。晩年、うつ病になって「何もしない暗い老人」として一生を終えるのが、人生最大級の悲劇だと思います。私自身、老人性うつにだけはなりたくないと思っています。
ひとりになったこれからの日々を楽しく、穏やかに過ごせるかどうかは、うつを防げるかどうかにかかっているといっても、過言ではありません。
体のケアはむろん大事ですが、これからは、心のケアも忘れないようにしてください。心の不調を感じたときは、ためらうことなく医者に行くことをおすすめします。