『海に眠るダイヤモンド』神様からのご褒美のような瞬間に涙 “希望の種”は現代へと続く

『海に眠る』神様からのご褒美のような瞬間

 「皆の幸せな顔、この風景が見たかった」と綴られた鉄平(神木隆之介)の日記。それは、このドラマを観ている私たち視聴者の気持ちと共鳴するようだった。

 人生には辛い時期を耐えた先に、「今が一番幸せ」と思える瞬間がやってくることがある。まるで、神様からのご褒美のような瞬間が。きっと、そんな報われる瞬間があるはずだと思えるからこそ、人は生きていけるのかもしれない。誰もが願い、追い求めていくそれを私たちは「希望」と呼ぶのだろう。

 1963年の端島は、実りの季節を迎えていた。誰にも言えない2人だけの秘密を共有した鉄平の兄・進平(斎藤工)とリナ(池田エライザ)の間には、新たな生命が宿る。いつまたリナのもとに追っ手がやってくるかはわからない。愛した人が死んでしまうという「呪い」にかかっていると言い合った2人。けれど「今度こそ幸せになりたい」という希望を捨てずに生きていくことにしたのだ。

 リナの「今がいっちゃん幸せ。愛されてるっていうか……」という言葉に、思わず黄色い声を上げたくなったのは、百合子(土屋太鳳)と朝子(杉咲花)だけではなかったはずだ。彼らの辛い過去を知る私たちもまた、進平とリナの幸せを喜ばずにはいられない。鉄平の日記によると、リナが産んだ子の名前は「誠」。荒木家にとっては初孫となる。鉄平の父・一平(國村隼)と母・ハル(中嶋朋子)が、あの戦争で子どもたちを失い、癒えることのない辛い思いとともに生きてきたことを考えると、こちらも言葉にならない思いで胸がいっぱいになる。

 命はつながっていく。当たり前のように生きているけれど、改めて私たちは「生かされている」のだと、新たな生命が誕生する場に立ち会うたびに痛感させられる。そして、多くの人の手によって育てられていく。孤高の炭鉱長・辰雄(沢村一樹)が、一平にだけそっと本音を打ち明けたシーンが心を打った。息子の賢将(清水尋也)について「賢将はあなたやこの島に育てられた。じゃなきゃ、あんな……いい子には育っていません。私じゃない。お恥ずかしい限りです。私は、ふうけもんです」と言葉を詰まらせる。

 辰雄もまた慣れない端島の生活で妻が出ていくという苦労をしてきた。一平が「あいつの子どもは戦争で1人も死ななかった」と話していたのを思い出すと、こっちのほうが辛かったなどと言いたくなる気持ちもあったはずだ。しかし、辰雄の妻が出ていったことを「難儀だったな」と受け止め、「でもよ、あんたの息子は生きてる」と元気づける姿に器の大きさを感じた。そんな一平の人としての器も、きっと端島によって生かされ、そして育てられ続けているものなのだろう。

 そして「緑のない島で育った子に心は生まれるのか」というな刺々しい記事を跳ね飛ばすように、端島の若者たちも「端島をもっと良くしたい。みんなで幸せになろう」と郷土愛と人間愛に満ちた大人に育っていった。「緑が育たない」と言われた端島に完成した屋上庭園は、むしろ端島だからこそ育まれた「心」の象徴にも見えた。当時は、女性は結婚する以外の選択肢がなかなか選べなかった時代。にも関わらず、女性の朝子がメインとなって屋上庭園事業を牽引していったこと。それを助ける鉄平や賢将の存在。そして大きな課題の突破口を見出したのが、島民との距離ができていた辰雄だったことも、彼が人として大きく育っていることが伝わってきて嬉しかった。

 そうして、たくましく育った若者たちも新たな家族を作ろうとさらに前進していく。賢将は苦悩の日々を支えてくれた百合子に、鉄平はいつだって健気な朝子に、それぞれプロポーズをする。その様子は、数十年前の恋模様とはわかっていながらも、まるで恋愛リアリティショーを観ているかのような気持ちになった。必死に思いの丈を打ち明ける鉄平に「頑張れ! いけ!」とエールを送りたくなったし、被爆体験や宗教的な理由から結婚に対して慎重になっていたであろう百合子が、涙をいっぱい浮かべている姿には思わずもらい泣きをしてしまいそうになった。

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