22歳をピークとして「妊娠のしやすさ」が急激に低下する改竄グラフをつくったのが吉村泰典内閣官房参与 (慶應義塾大学名誉教授、日本産科婦人科学会元理事長、日本生殖医学会元理事長、吉村やすのり生命の環境研究所 所長) であることがはっきりしたところで、これまでに確認されている改竄グラフ5枚の情報をまとめておきたい。
以下、日付順に並べる。いずれもグラフの曲線の形状は同一であり、横軸の21歳の位置に「22歳」の目盛りがあること、その位置に縦点線を引いてピークを強調してあること、縦軸のラベルは「妊孕力」であること、出典表示が第1著者名+年号だけであることなどの特徴がある。
最古のグラフは2013年6月25日。吉村やすのり生命の環境研究所サイトのブログ記事。Fecundability を「妊孕性」=「妊娠する生物学的能力」と呼んでいるところに、いかにも「わかってない」感が漂っている。30歳時の値はグラフ上は0.64くらいなのだが、説明文では「30歳では0.6を切り」となっており、改竄グラフ以上に値の減少が強調されている。
加齢とともに妊娠できる能力は低下する。この妊娠する生物学的能力を妊孕(にんよう)性とか妊孕力と呼ぶ。妊孕力のある状態はFecund、妊孕性はFecundability(F)と表記される。
……
女性の年齢と妊孕力との関係を図2に示す。22歳時の妊孕力を1.0とすると、30歳では0.6を切り、40歳では0.3前後となる。これらの結果は、自然妊娠にもとづくデータであるが、この妊孕力は、体外受精・胚移植などの生殖補助医療を受けることを考慮に入れても、有意な上昇はみられないとされている。つまり、35歳以降の妊孕性低下にともなう出生数の減少は、生殖補助医療を用いてもカバーすることができないと考えられている。吉村やすのり「卵子の老化―続報― 女性の年齢と妊孕力との関係」
http://htn.to/iwLzgH
http://yoshimurayasunori.jp/blogs/卵子の老化―続報―-女性の年齢と妊孕力との関係/ 2013年6月25日
つぎは、おなじブログの2014年8月11日の記事。「生命と女性の手帳」(いわゆる「女性手帳」) についての言い訳のあと、「女性の理想的な妊娠時期は25歳から35歳」であることを示す根拠として登場する。「22歳を1とすると35歳に0.4」とあるのだが、グラフの35歳時点の値はそれより高い (というか37歳の時に0.4くらいである)。
女性が妊娠できる能力、つまり妊孕力は、22歳を1とすると35歳に0.4、40歳前後には0.2まで減少する吉村やすのり「女性の生殖年齢の適齢期とは」
http://htn.to/6F5YjR
http://yoshimurayasunori.jp/blogs/女性の生殖年齢の適齢期とは/ 2014年8月11日
3つ目は、おなじブログの2014年11月15日の記事。グラフの値についての説明はない。出典表示が手書きであるところが特徴。
※妊孕力(にんようりょく)とは、女性あるいは夫婦が子どもを産む能力のこと
妊娠するヒトは人間である前に哺乳動物であり、生殖年齢には適齢期があることをご存知でしょうか。
妊娠適齢期は、「25歳~35歳」であるといわれています。いくら晩婚化が進んだとしても女性の身体がそれと比例していくつになっても妊娠・出産が可能な身体であるわけではないのです。月経があるうちは妊娠できると思い込んでいる女性が多いようですが、残念ながらそうではありません。妊娠適齢期はずっと昔から変わっていないのです。初潮年齢は低年齢化していますが、閉経年齢については明治時代初期とほぼ変わりがないことからも明らかです。吉村やすのり「妊娠年齢の適齢期」
http://htn.to/CGJ3GCJo
http://yoshimurayasunori.jp/blogs/妊娠年齢の適齢期/ 2014年11月15日
4つ目は、9団体 (日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本生殖医学会、日本母性衛生学会、日本周産期・新生児医学会、日本婦人科腫瘍学会、日本女性医学学会、日本思春期学会、日本家族計画協会) が共同で内閣府に提出した要望書の資料にふくまれていたというグラフ。「吉村泰典内閣官房参与から有村治子内閣府特命担当大臣に「学校における健康教育の改善に関する要望書」が手渡された」という。他の4つのグラフにくらべて横幅が狭い。またキャプションに「妊娠しやすさ」という文字列が入っている。
近年の顕著な晩婚化・晩産化により、第1子出産時の母の平均年齢はこの30年でおよそ4歳上昇。年齢が高齢化すれば、女性の妊娠する能力は低下する(図1)。さらに不妊・不育症となる確率や妊産婦死亡率、出生児に染色体異常が起こる確率などは上昇する。要望書では、「結婚や妊娠・出産は、個人の選択によるもの」とした上で、「子どもを生み育てたいという希望がかなうためには、正しい知識に基づき判断できることが必要」と、現在の社会状況に合った学校教育の改善を求めている。日本家族計画協会『家族と健康』732号 2015年3月
http://web.archive.org/web/20150826040308/http://www.jfpa.or.jp/paper/main/000430.html#1
5つ目は、2015年3月4日の講演資料。慶應義塾大学のマーク入りである。グラフについての説明はなし。
吉村泰典「女性のからだと卵子の老化」2015年3月4日 講演資料
http://www.kenko-kenbi.or.jp/uploads/20150304_yoshimura.pdf
最後に、文部科学省作成の教材『健康な生活を送るために (高校生用)』改訂版 (2015年版) に載ったグラフを参考までに見ておこう。縦軸ラベルが「妊娠のしやすさ」になっている。また、「22歳」の目盛りも正しい位置にある。有村内閣府特命担当大臣 (当時) は 2015年9月4日の記者会見 で「国家公務員が内容について手を加えたということは一切ございません」と明言していたので、これを信用するとすると、吉村氏が間違いに気が付いて修正したのであろう。
http://web.archive.org/web/20150822025627/http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/08/17/1360938_09.pdf
文部科学省『健康な生活を送るために (高校生用)』 2015年8月
厚生労働省 動画「妊娠と不妊について」(2014年)[2016-04-21 追記]
このグラフを使って説明する吉村泰典の動画を厚生労働省 YouTube サイト MHLWchannel で見つけたので、追加。
厚生労働省「妊娠と不妊について」
https://www.youtube.com/watch?v=mgW51MUELqI
2014/03/05 に公開
この動画は、妊娠のしくみや不妊の原因等について、約12分でわかりやすく解説したものです。この機会に、年齢と妊娠・出産のリスクの関係等について知ってください。
グラフが登場するのは、6'36あたりからの「妊娠の適齢期」セクション。「22歳を1とすると35歳前後で40%前後、40歳になると20%前後まで低下」(正確な書き起こしではない) という感じの説明なので、ほぼ2014年8月11日のブログ記事「女性の生殖年齢の適齢期とは」 と同じ。
[2016-08-16 追記]
・この動画は閲覧不可になってしまったようなので、http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160528/mhlw に書き起こしを載せました (当該部分のみ)。
[2017-09-23 追記]
・動画のうち、改竄グラフが出てくる部分のみのコピーを https://twitter.com/twremcat/status/800561970877317120 におきました
・動画全体を http://tsigeto.info/misconduct/yoshimura-2014-mhlw.mp4 におきました
・厚生労働省 MHLWchannel では、グラフを修正したものが 2016-10-19 付で https://www.youtube.com/watch?v=Xhkw0UtV3y8 にアップロードされています
・リンク切れしていたところを修正しました。