共感格差
- 21世紀の格差は、他者からの共感の格差をめぐるものになるだろう。
この記事で言いたいこと
- (社会的)共感は政治的・社会的リソースである。
- 物理的資産がリソースであるのと同様だ。
- 共感はアイデンティティごとに分配される(女性黒人LGBT,労働者階級,白人子供etc)。
- 共感は物理的資産と同じく分配に差がある。
- 共感の分配は主にマスメディアによってなされる。
- トランプ大統領が当選する以前、労働者階級に関するメディアのツイートは60件、同性愛 LGBTに関するツイートは、9664件であった。
- 共感の格差を放置すれば、そこはポピュリストにつけこまれる。
- もしあなたがポピュリストになりたければ、次のターゲットを狙うと良い。
- ある程度人口ボリュームがある
- 実際に困難の中にいる。
- マスメディアが彼らの困難や存在を無視する(他のマイノリティグループの困難は盛んに取り上げているのに)。
- これらの人をターゲットにすれば、少ない労力で多くの支持を得られる。
もう少し長い概要
共感は、政治的社会的リソースである。共感を与えられないものにはなかなか寄付も、政治的な支援も得られない。例えば、絶滅しそうな動物種(レッドリスト)でも共感を得られる哺乳類と、共感を得られない虫や爬虫類の間で寄付額に差がある1。 人間でも共感の分配に差がある。紛争地域でも、少女からのtweetには関心や共感が集まる2。 トランプが大統領になれたのは白人労働者を味方につけたからだ3とよく言われる。 アメリカの主要メディアのtweetを調べた所、労働者階級やブルーカラーに関するtweetが他のマイノリティグループに比べて極端に少なかった。白人に関しては白人に寄り添うよりは、白人特権を糾弾するツイートのほうが多かった。つまり、メディア(社会)は白人労働者に共感を寄せなかった。 トランプは、その共感を寄せられないと感じている人々の絶望を利用することで大統領になったのではないか? ポピュリストの振る舞いを見ると、多くの政治家が票田とみなしていない「忘れられた人々」をターゲットにしているように見える。忘れられた人々を放置すればポピュリストの伸張を許すことになるだろう。
共感とは社会的政治的な資産である
思い浮かべてほしい。戦争により油にまみれた水鳥の写真をみたり4、突然病院に敵兵が現れ、保育器に入った新生児を取り出し放置して殺したと少女が涙ながらに訴えれ5ば、あなたは、許せないと感じその敵を倒すべきだと思うだろう。水鳥が犠牲になる。少女が涙ながらに訴える。多くの人が共感し感情を動かされるだろう。しかし、これが虫やおっさんだったらどうか?ディビッドは「140字の戦争」の中で、戦争被害を報告する少女のツイートには人気が集まるが、それがもしあご髭を生やした浅黒い肌の40男だったらこんなに人気が出なかっただろうと述べている(p58)。 つまり、属性により共感を寄せられる寄せられないが決まる。そしてそれは、その共感は政治的リソースになる6。つまり、共感が集まらない属性の人たちへの政治リソースは与えられず、共感が集まる属性の人たちばかりに政治リソースは投入される。
共感はメディアにより不平等に分配される
あなたが、報道を見て、「許せない」や「なんとかしなければ」と感じる。その時、報道対象に共感を寄せている。特に映像は効果的だ。子供や少女が戦火に見舞われる映像が流れる。どうにかしようと考える。つまり、メディアは共感を通して、政治的な意思決定を後押しする(例えば参戦など)。それではある人の苦境が全く報道されなかったら?人々はそれらの人々には共感を寄せないので、誰も政治的リソースを割り振ろうとは言い出さない(結果的に無視される)。つまり、メディアの言及頻度により、政治的なリソース分配は影響を受けるのではないか?それを実証的に調査できないか?と考えた。
アメリカ大手メディアのツイートを分析する
私は、メディア各社のtweetを収集して手軽に件数や使われているワードなどの分析が出来るwebサービスを作った。詳しくはマスコミツイート横断比較を作った。マスコミは情報公開を進めよう。 - データをいろいろ見てみるを参照。収集しているメディアは以下だ。 大体が、1千万以上のフォロワーを持ち、最低でも500万近くのフォロワーが居る。
メディア名 | twitter_id | 開始日 | 件数(概数) | 件数(取得数) | フォロワー数 |
---|---|---|---|---|---|
ワシントン・ポスト | washingtonpost | 2007年3月 | 38万 | 368,314 | 1738万 |
ニューヨークタイムス | nytimes | 2007年3月 | 42万 | 376,360 | 4905万 |
フォックス・ニュース | FoxNews | 2007年3月 | 42万 | 393,429 | 2012万 |
ハフポスト | HuffPost | 2008年8月 | 57万 | 531,351 | 1146万 |
WSJ | WSJ | 2007年4月 | 35万 | 324,385 | 1904万 |
USA Today | USATODAY | 2008年8月 | 35万 | 297,375 | 444.2万 |
ABC news | ABC | 2009年4月 | 36万 | 339,955 | 1684万 |
CBS news | CBSNews | 2008年6月 | 31.1万 | 287,830 | 823万 |
NBC news | NBCNews | 2008年3月 | 32万 | 295,666 | 872万 |
CNN | CNN | 2007年2月 | 35万 | 327,345 | 5536万 |
2010年-2015年、彼らがどのマイノリティグループにどの程度言及したかを調べた。
無視される労働者階級
上記メディアが、どの属性にどのくらい言及したかを調査した。
属性 | 言及ツイート数 | 労働者の何倍 |
---|---|---|
労働者階級・ブルーカラー | 60 | 1倍 |
白人 | 77 | 1.28倍 |
同性愛・LGBT | 9664 | 161倍 |
黒人 | 3436 | 57倍 |
移民 | 1792 | 29倍 |
上記の属性と比較したのは、ジョーン・C・ウィリアムズアメリカを動かす「ホワイトワーキングクラス」という人々 の中で、「リベラルが労働者階級を、人種差別的で性差別的で同性愛嫌いでおまけに太っている」(p121) という記述から、黒人と同性愛、移民と比較した。本来違う問題の言及数を比べるのはおかしいという主張もあるかも知れない。しかし、本来違う問題に対して紙面という形で序列(優先度)を与えているのはメディアである。
ちなみに、労働者階級への言及ツイートでどの話題に触れているか、内訳は次のようになる。
概要 | 件数 |
---|---|
労働者階級 | 23 |
ブルーカラー | 25 |
ラストベルト | 12 |
2010年-2015年、トランプが勝ったラストベルトへの言及数は12件だった(結果的にトランプの勝利を後押ししたのでは)。
上に書くように、共感や関心はそれ自体が、社会的・政治的なリソースだ。 例えば、移民報道では、ワシントンポストのようなツイートがある。移民の権利を制限する法律よりも、移民の権利を拡大する法律の方が多く制定されているという研究結果 多くの報道機関がツイートや報道を通して共感を寄せることで、権利を拡大する法律が出来、移民を勇気づける。
そのようなマスメディアの移民報道をよそに、ブルーカラーや労働者階級は無視され続ける。
労働者階級がメディアから無視される間、彼らは困難に直面していた。
上で見たように、(非黒人の)労働者階級は報道機関から無視されていた。たとえ無視されていても、彼ら自身が問題を抱えていなければ大丈夫だ。しかし彼らは問題を抱えていた。非大卒(多くの労働者階級が属す)の中年白人の自殺率や死亡率が上昇していた。最も増加率の高い死因は、自殺、薬物の過剰摂取、アルコール性肝疾患だった。アン・ケース アンガス・ディートン は彼らの死を、「絶望死」と名付けた。
上記グラフは、絶望死のアメリカ P69より。1990年よりどんどん死亡率が挙がっていることが分かる。
非大卒の白人(労働者階級)はどんどん死んでいっていた。しかし、上で見たように、報道機関は、同性愛、黒人、移民に夢中だった。中年の白人の労働者がどんなに死のうと報道価値は無かった。
ちなみに、絶望死でよく取り上げられる薬物がある。オピオイドがそれだ。鎮痛剤だが中毒性があり麻薬として使われる。それでは、そのオピオイドの問題は、どのくらい社会問題として報じられたか?
下記のグラフは、上記報道機関が、オピオイドに言及したツイートを年ごとに集計している。
トランプが大統領選で台風の目になる前、2015年まで報道機関はオピオイドに関してほとんど何も報じなかった。トランプが大統領になり、白人の非大卒労働者に注目が集まって初めて、オピオイドに興味を持ち報道を始めた。この時点で初めて、オピオイドは、社会問題になった。つまり、共感が社会的リソースとして使われた。それまで報道機関は、白人労働者がどれだけ薬物中毒で死のうと興味を持たず、共感も関心も寄せなかった。
悪魔化される白人
2010年-2015年のツイートを見て、白人は労働者階級とはまた、別の言及をされていた。白人への言及は、1201件と労働者階級(60件)よりは多い。しかしその大半(93%)は、白人特権、白人至上主義、白人に対する差別に関することであった。
白人についての言及したtweet 148件の内(白人特権に言及したもの、白人至上主義について言及したもの、白人に対する差別について言及したもの、白人に寄り添う記事、文意が取れず判別できない記事に分類した。次のようになった。
種別 | 件数(148件中の割合) |
---|---|
白人特権 | 69(46%) |
白人至上主義 | 33(22%) |
白人に対する差別 | 15(10%) |
白人に寄り添う記事 | 8(5%) |
文意不明 | 23(15%) |
すべての白人は恵まれていたか?
2010-2015年のツイート見れば、メディアの関心は白人の苦境ではなく、白人特権や、白人至上主義に対するものであったことがわかる。
トランプが大統領になった頃、注目された本がある。ヒリビリーエレジーだ。
ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち | J.D.ヴァンス, 関根 光宏, 山田 文 |本 | 通販 | Amazon
上記の本によれば、別に白人だからといって特権を享受できたわけでも無い人がいたことがわかる。にも関わらずそれらの人はメディの目には止まらなかった。
黒い犬は、他の犬が救われるのをただ眺めている。
アメリカでは、ビッグブラックドック(大きく黒い犬)問題があるようだ。7 。永井 陽右 「共感という病」をもとに要約する。
ビッグブラックドック(大きく黒い犬)問題は、捨て犬などの保護シェルターで、黒い大型犬は嫌われ貰われにくいという問題だ。つまり、黒い大型犬は共感を得られず、(生死に直結する)社会的リソースを得られない。こうした大きな犬は、比較的小さく表情が豊かで元気そうな犬が、続々と引き取り手が決まり、保護シェルターから救い出されていく一方、黒い犬は保護シェルターに居続け最後は殺処分されてしまう。
以上が要約だ。私はこれを黒い犬の視点で考えてみたい。上に書いたように、保護シェルターでは、他の犬が次々と貰い手が決まり、救い出されていく。しかし、私(黒い犬)には貰い手が現れない。他の保護犬が貰われていくのを見送り続ける。彼は思う。同じ犬じゃないのか?これはどういうことだ。
大きく黒い犬から見た4つのシナリオ
大きく黒い犬の立場で考えてみよう。大きく黒い犬には4つのシナリオがある。どれが彼を傷つけないだろうか?
1, すべての犬が救われる。
良いシナリオだ。大きく黒い犬も他の犬も貰い手が見つかる。全員平等だし、全員幸せだ。
2, すべての犬が救われない。
よくないシナリオだ。どの犬にも貰い手が見つからない。ひどいシナリオだ。しかし大きく黒い犬にとってはそうでは無い。なぜなら全員平等だ。私も貰い手が見つからないが、他の保護犬も見つからない。残念だが諦めもつく。
3, ランダムに救われる。
これも辛いシナリオだ。どの犬が貰われていくか、ランダムに決まる。茶色の場合もあるし、大きく黒い犬の場合もある。ある意味チャンスは平等だ。大きく黒い犬は僅かな望みをかけて、サイコロを見つめる。大きく黒い犬にもわずかばかりの望みがある。
4, 他の犬ばかりが貰われ、大きく黒い犬はそれを見送り続ける。
他の犬にとってはありがたいシナリオだ。大きく黒い犬が除外されることで貰われる確率が上がる。しかし、大きく黒い犬に取っては最悪なシナリオだ。彼は自分自身が救い出されないのに、他の犬が救われる姿をずっと見せられ続ける。そしてこれは不平等だ。
全員救われないより、自分だけ救われないほうが辛い。
この例え話のポイントは、全員救われないより、自分だけ救われないほうが辛いというものだ。
これは人間に対しても言えるのではないか?人間ではないが、猿でも不公平な扱いすると怒る実験がある。この動画は、二匹の猿を不公平に扱う実験だ。二匹の猿にそれぞれ石を渡して返してもらう。返してもらう際に、一匹はきゅうりを、もう一匹にはぶどうを与える。きゅうりを与えられた猿は、最初は喜んで実験に参加していたが、もう一匹がぶどうを与えられるのを見ると、烈火の如く怒り始める。最後は報酬のきゅうりを食べるどころか実験者に投げ返してしまう。この動画で説明されているが、問題は報酬がきゅうりであることそのものより、他の猿と報酬が不平等であることになる。
動物も不公平を感じると怒ります | 脳トリック - YouTube
つまり、全員救われないはある意味平等だが、私がだけが救われないは不平等であるし、猿が怒りを表明したように、人の怒りのトリガーになる。
大きく黒い犬の話は単なる例え話だ。実際の保護シェルターの話ではない。しかし、大きく黒い犬の立場になってみれば、他の属性に共感が与えられ、(私達も苦しんでいるはずなのに)自分たちには、世間(メディア)の共感が向かないことが、如何に残酷で心を蝕むわかるのではないか?それは、猿の実験と同様であろう。
2010年-2015年に、大手メディアは、同性愛・LGBTには、9664ツイートしている、対照的に労働者階級・ブルーカラーは60件だ。労働者階級の人たちの心情を想像してみよう。そりゃ、同性愛者は差別されて大変だろう。そこはわかる。しかし、ブルーカラーの俺らだって大変だ。絶望してドラックとアルコールでやられている。メディアは俺らの痛みを無視する。俺たちは忘れ去られている。
マイノリティの美人投票
ここで説明するのは、マスメディアのある特性だ。本来マスコミは、様々な興味関心を持ち、別々の話題を取り上げることが期待される。それはマイノリティに対しても同様で、社会の中の様々なマイノリティに光を当てることが役割の一つだ。しかし、実際は、特定のマイノリティに話題が集中する。
メディア学者の稲増 一憲は、「マスメディアの共振性」と呼ばれる現象を説明する。要約すると次のようになる。
ニュース制作に関わる人々は同じ属性(例えば高学歴)を持ち、訓練も似ており取材手法も共通性が高い。加えてメディアにはオピニオンリーダーがおり、自社だけ孤立することを怒れるため、他社に追従する傾向が強い(著者要約)。 稲増 一憲 (著) 『マスメディアとは何か-「影響力」の正体 』(kindle版のためページ数わからず 71%)
私はこれを読んで、株式市場の美人投票ではないかと思った。
有名な経済学者のケインズは、玄人筋の行う投資は、投票者が100枚の写真の中から最も容貌の美しい6枚を選び、その選択が投票者全体の平均的な好みに最も近かった者に賞品が与えられるという新聞投票に見立てることができるとした。 各投票者は、自身が最も美しいと思う写真を選ぶのではなく、他の投票者の好みに最もよく合うと思う写真を選択しなければならないことを意味する。 株式投資に関しても、市場参加者(=投票者)の多くが、値上がりするであろう(=容貌が美しいであろう)と判断する銘柄(=写真)を選ぶことが有効な投資方法であるということ。 美人投票|証券用語解説集|野村證券
ポイントは、私が興味がある(私が欲しい)ではなく、他社が興味がある(多くの人が欲しい)と考えるニュースを記事にする(株を買う)。
本来マスメディアは、様々な興味関心を持ち様々な観点のニュースを提供することが望まれ、様々なマイノリティを探し出すのが使命のはずだ。しかし実際は美人投票の様に、他社が取り合う扱うから自分たちも取り扱うと言った具合に、ニュースに取り上げられるマイノリティが偏る。それは、共感が偏ることを意味する。何回も繰り返すが、LGBT9664ツイート,労働者階級60ツイート、白人77ツイートだ。上に書くように、メディアでの共感の差は、政治的・社会的リソースの分配に影響を与える。2015年当時、(主に白人の)労働者階級は、窮地にあった。メディアが取り上げず、共感もなく、そのため、社会的・政治的リソースも与えられない。彼らは絶望していた。
しかし、そこに、どう見ても普通とは思えない訳のわからないおっさんが登場する。
赤い野球帽を被ったけったいな男、ドナルド・トランプ大統領候補だ。普通に考えればこんな男が大統領になるはずもなく、最初は泡沫候補扱いだった8。 しかし、無視された人々は、彼らに関心や共感を寄せてくれる人に高い忠誠心を示す。その高い忠誠心が彼を大統領にしたのではないか?
ブルーカラーというブルー・オーシャンを見つけた赤い帽子の男
上に書いたように、2010年-2015年の間、労働者階級はメディアから注目されなかった。
このツイート数を見て、LGBTや黒人移民へ共感を示したほうが良いだろうと多くの政治家が考えるだろう9。メディアも取り上げてくれるし。何よりも、社会問題に向き合っていると感じられるから。上記のツイート数を見て、労働者階級が苦境に立たされているという嗅覚を働かせるの並の人には無理だ。しかしここに労働者階級の苦痛を感じ取り、彼らに賭けようと言う男が現れた。ドナルド・トランプだ。
赤い帽子の男のブルー・オーシャン戦略
マーケティング用語にブルー・オーシャン戦略がある。ブルーオーシャン戦略は、競争者の居ない市場を開拓する戦略だ。定義を引用しよう。
マーケティング用語集 ブルー・オーシャン戦略 - J-marketing.net produced by JMR生活総合研究所 ブルー・オーシャン戦略とは、競争者のいない新しい価値の市場を創造し、ユーザーに高付加価値を低コストで提供することで、利潤の最大化を実現する戦略です。未開拓で無限に広がる可能性を秘めた未知の市場空間を「ブルー・オーシャン」、反対に多数の競争者で激しい「血みどろ」の競争を繰り広げる既存の市場を「レッド・オーシャン」と呼びます。
上記の参考にするなら、今までマスメディアが共感を示さず、ニュースにもしなかった労働者階級は、政治的なブルーオーシャンになっていた(既存の労働組合は支持を失っていた)。トランプはそれが、ブルーオーシャンであることを理解し、彼らの支持を取り付けた。ちなみに、トランプが赤い野球帽をかぶっているのは、それが、労働者階級の心をつかむからだ。もしあなたが置き去りにされたと感じており、そこにあなたの目線の高さで、あなたの文化を尊重しあなたの分かる言葉で話しかけてくれる大統領候補が居たらどう思うか?ポイントは置き去りにされた・忘れられたと感じている点だ。10。
マイケル・ムーアは、トランプの野球帽に関して面白い発言をしている。
トランプ批判のマイケル・ムーアはリベラルか? | The Eyes of a Cloud
俺は35歳以上の怒った白人男性で、高卒だ。つまり、典型的な「トランプ支持の人口動態」に属する。そこで育ち、そこに暮らし、今もそこで生きている。大統領選の数週間前のこの番組で、トランプ陣営の最大の支出項目が野球帽だというを取り上げていた。そこでコメンテーターたちは「野球帽?ハッ(笑)」と馬鹿にしたんだ。俺は思った。「ああ、こいつらは(浮世から隔絶された)バブルの中で生きているんだ。(労働者階級にとっての野球帽の意味を)理解できないんだ」と思った。自分もいつも野球帽をかぶってきたし今もかぶってる。このとおり。これが俺たちの生き方だ。それを彼らは嘲笑したんだ。
マイケル・ムーアが指摘するように、野球帽は労働者階級にとって、アイデンティティの一種であった。ムーアはその意味を理解していた(もちろんトランプも)。 トランプは、優れた大統領ではなかったかも知れない、しかし、彼は間違いなく一流のマーケターだった。多くの政治家やメディアが無視し、競争相手がいなくなった票田を、ブルーオーシャンに変えた。
ブルーオーシャンの利点
ブルーオーシャン戦略には利点がある。
コストが安い
一点はコストが安い点。競争相手が居ないので、コストは安く済む。ヒラリーとトランプ、どちらが選挙資金が多かったか?不動産王のトランプか?実際はこの記事トランプ氏、近年の大統領選で最も選挙資金の少ない候補者に | ロイター にあるように、トランプは、最も選挙資金が少なかった。クリントン候補は、トランプの四倍選挙資金があったそうだ。 クリントン氏の選挙資金、トランプ氏の4倍に - WSJ トランプは少ないコストで高い成果(支持)をあげている。それは、既存のメディアが見逃してたブルーオーシャンを狙ったため競合がいなかったからではなかろうか?
高い忠誠心が期待できる
もう一点は、ブルーオーシャンは無視された人々のため、高いロイヤルティ(忠誠心)が期待できるという点だ。もしあなたが置き去りにされたと感じておりそこにあなたの目線の高さで、あなたの文化を尊重しあなたの分かる言葉で話しかけてくれる大統領候補が居たらどう思うだろう?今まで市場だとみなされなかった場所は、誰も競争相手が居ない。そこには、自分たちが「置き去りにされた」「忘れ去られた」と感じている人たちがいる。
マイケルムーアは、2016年7月にこう書いている(トランプが大統領になる前だ)。
ドナルド・トランプが大統領になる5つの理由を教えよう | ハフポスト NEWS
そこに11月の大統領選の問題があるんだ。つまり、投票する気のある、投票するように鼓舞された有権者たちを、どうやって投票所に連れていくか?ってことだ。 みんな、この質問に対する答えがわかっているだろう。いちばん過激な支持者がいる候補者は誰なのか? どの熱狂的なファンが午前5時に起きて、朝から晩まで全力を尽くし、はるばる投票所まで行って、それだけじゃなくてトムとかディックとかハリーとか(そしてボブ、ジョー、ビリー・ボブ、ビリー・ジョー、ビリー・ボブ・ジョーとか)全員を投票に行かせるだろうか? その通り。これが俺たちが今最大級の危機に陥っている状況なんだ。そして自分をごまかさないでほしい。どんなに説得力のあるヒラリーのテレビ広告が流れても、討論会でヒラリーがトランプに事実を質しても、共和党主流派の自由主義者たちがトランプから票を吸い上げても、奴の呪術を止めることは出来ないだろう。
ムーアはトランプがロイヤルティ(忠誠心)を獲得していると見ている(朝早く起き、友人を誘い、投票所に連れていくほどの忠誠心だ)。そして、その忠誠心は、ブルーオーシャンであること、自分たちが市場(票田)と認識されず、忘れ去られていたことと関係があるのではないか?誰だって、忘れ去られた自分たちに、声をかけてくれる存在は嬉しいものだ。フレディみかこ「労働者階級の反乱」でも、大政党に見捨てられてきた地区には、UKIPやBNP(共に右翼政党)しか活動していなかったとの記述がある(p55)。11
共感から除外される人々
ここで少し、筆を進めて、従来の強者、弱者とは違う視点の話をしよう。それは、弱者と言われる人のうちに、共感を寄せられる弱者と寄せられない弱者がいるという視点だ。
政治的影響力を行使できる人と、政治家に顧みられる人
(ジャスティン・ゲスト)「新たなマイノリティの誕生」 に面白いアンケートが載っている。ゲストは、アッパークラスや労働者階級に対して、次の2つのアンケートを取った。「私のような人が政治的影響力を持っている」(p46)という質問と、「政治家は私のような人を顧みているか」(p50)という質問だ。最初の質問は、強者弱者に対比できるだろう。自分自身が政治的影響力を行使できるなら、強者と言えるだろう。しかし、2番めの質問が面白い。政治家に顧みられる存在は別に強者でなくても構わない。政治家が彼らの苦境を聞きに来る。たしかに彼らは弱者であるが、少なくとも共感は寄せられる。先程述べたように、共感は社会的・政治的リソースだ。政治的な影響力を持たず、政治家から顧みられない人よりも恵まれている。
ちなみに、このアンケートでは、労働者階級は、アッパークラスと比較して、政治的影響力も弱く、政治家からも顧みられていないと感じている。
社会的影響力を行使できる人と、社会から共感を得られる人
この、政治的影響力を行使できると政治家に顧みられるという話は、社会的な影響力が行使できるか?と社会的に顧みられているか?と拡張が可能だ。そうすると以下の図を考えることができる。
通常、強者と弱者(マジョリティマイノリティと読み替えても良い)と2種類に分類されるが、実際には弱者の中で、共感を多く与えられる者、共感を与えられないものに分けられるのではないか?その共感は、マスメディアの報道回数で近似できるのではなかろうか?例えば、3436回ツイートされている黒人は、60回ツイートされた労働者階級よりも多くの共感を得られていると言えるのではないか?そしてそこに格差があると言えるのではないか?
もしあなたがポピュリストになりたければ。
ポピュリストを目指すには
この節は、ポピュリストになりたいあなたのために用意した。上記に見たように、ポピュリストにとって、真っ先に目指す場所は、ブルーオーシャンだ。 その条件は以下の通りになるだろう。
- 人口ボリュームがある程度ある。
- 実際にペイン(痛み)や困難を抱えている。
- マスメディアがそのペインを報道しない(別のマイノリティは盛んに報道する)。
このターゲットセグメントを狙えば良いことになる。マスコミが報道する(つまり社会が共感を寄せる)弱者は、ペインは持っていても、他の政治家もターゲットにするため、ブルーオーシャンではなく、レッドオーシャンになってしまう。そこで競争相手を作らないためにも、まずはブルーオーシャンにあたる人たちをほりおこすのが良い。
「置き去りにされた」「忘れられた」人々を探す
ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書) | 水島 治郎 |本 | 通販 | Amazon 第六章イギリスのEU離脱では、「置き去りにされた」人々を探すというワードが頻出する。彼らは自分たちに政治的発言権が無いと感じている(kindle 75%) 。
また、トランプは大統領就任演説で次のようにいった。
「わが国の忘れられた人々は、もう忘れられることはない」
置き去りにされた人や忘れられた人は、ペインを感じ、そしてメディア(社会)からは忘れられていた。彼らをターゲットにすることが、ポピュリストになる第一歩になる。
ちなみに、日本だと誰をターゲットセグメントにすればよいだろうか?
上記で紹介した、水島治郎は朝日新聞のインタビューで次のように語っている。 ポピュリズム、それは危険な存在か、民主主義の促進剤か:朝日新聞GLOBE+
「日本でも、そのような変化(著者注、福祉排外主義)が少しずつ見え始めています。最近、注目すべき本が2冊出ました。一つは橋本健二著「新・日本の階級社会」(講談社現代新書)、もう一つは吉川徹著「日本の分断 切り離される非大卒若者たち」(光文社新書)です。これらの本から見えてくるのは、非正規雇用、若者、中低学歴といった層が現代の日本で一つの社会層として姿を現し、安定的な雇用と生活にありついている人々との間に分断が生じていること、そして前者の人々が福祉排外主義に流れる危険性が出てきていることです。
橋本健二は、アンダークラスという層があること、吉川は非大卒若年男性(レッグス)が、社会から分離されていると説いている。つまり、このセグメントをターゲットにすれば良いことになる。確かに、非大卒若年男性が、マスメディアで盛んに報道されているようには見えない。彼らは共感を与えられていない。
これは偽悪的な文章だ。
当然これは偽悪的な文章だ。本当にポピュリストが出現してほしいわけではない。しかし、アンダークラスや吉川のいうレッグスのペインに寄り添わず、マスメディアが自分たちが弱者だと認める弱者だけを取り上げ続けるなら、ポピュリストはこの層を狙うだろう。
メディアがトランプを大統領に押し上げた
よくメディアがトランプを作ったと言われる。その意味するところは、トランプの奇行を面白おかしく取り上げることで彼の認知を広げたという内容がほとんどだ。私は別の意味で、メディアがトランプを作ったと考える。それはこの文章で何度も取り上げるように、共感の不平等な分配 だ。LGBTは9664回ツイートするのに、労働者は60回だ。黒人は3436回ツイートするのに、労働者階級は60回だ。労働者は思うだろう。何故?ラストベルトは12回しかツイートしていない。何故?我々は絶望死しているのに、オピオイドについて報じない。共感を寄せる人の隣で、無視する人を作れば、その人達は、ポピュリストの草刈り場になってしまう。
トランプが大統領に当選後、マスメディアは彼が如何に駄目で無能か書き散らした。しかしなんのことはない、トランプを大統領に押し上げたのはマスメディア自体では無かろうか?。メディアがもっと労働者階級や白人に目をくばっていれば、寄り添っていれば、トランプは大統領にならなかったのでは無かろうか?
まとめ
この文章は、メディアのツイート回数集計と共感の話を軸に以下のことについて論じた。また、どう見ても泡沫おもしろ候補のトランプが何故、大統領になったのかを論じた。
- (社会的)共感は政治的・社会的リソースである。
- 物理的資産がリソースであるのと同様だ。
- 共感はアイデンティティごとに分配される(女性黒人LGBT,労働者階級,白人子供etc)。
- 共感は物理的資産と同じく分配に差がある。
- 共感の分配は主にマスメディアによってなされる。
- トランプ大統領が当選する以前、労働者階級に関するメディアのツイートは60件、同性愛 LGBTに関するツイートは、9664件であった。
- 共感の格差を放置すれば、そこはポピュリストにつけこまれる。
- もしあなたがポピュリストになりたければ、次のターゲットを狙うと良い。
- ある程度人口ボリュームがある
- 実際に困難の中にいる。
- マスメディアが彼らの困難や存在を無視する(他のマイノリティグループの困難は盛んに取り上げているのに)。
- これらの人をターゲットにすれば、少ない労力で多くの支持を得られる。
社会が共感をよせない忘れ去られた層をターゲットにすることで、既存の政治家と競合すること無く政治的なリソースを獲得できるという仮説を提示した。 そして、社会が共感をよせてないかを測るツールとして、マスメディアのツイート数は一つの指標になるのではないかという可能性を示した。
最後に、マイケル・ムーアの感動的なスピーチを紹介して終わりとする。
この文章を最後まで読んだあなたなら、ムーアが何故これを言っているか理解できるだろう。
今後の課題
この文章では、大手マスメディアのツイート数をもとに、LGBT,黒人などのマイノリティと比較して労働者階級などのマイノリティへ共感が少ないのではないか?それが、ポピュリストの伸張を招いたのではないか?という仮説を検討している。しかし実際はさらなる調査が必要だろう。どなたか知っている人がいたら教えて欲しい。
- 今回使ったのはツイートだ(無料で使えるので)。実際に新聞でも、LGBT,黒人への言及数が多く、労働者階級・白人への言及数が少ないのか?
- アメリカの新聞は地方紙が中心のようだ12。ラストベルトの地方紙でもLGBT黒人の言及が多かったか?
- ツイート以外、例えば、テレビのニュースではどうか?黒人や移民の貧困問題は盛んに取り上げられるが、白人労働者の貧困は取り上げられないといった差があるか?
- 白人労働者が社会から顧みられていないと感じる割合は、他のマイノリティグループ、黒人移民LGBTと較べて高いのか低いのか?
- 安価で手軽に使えるメディアの言及数データベースがあれば知りたい。
Q&A
予め来そうな質問にはQ&A方式で答えておく
上記メディアのツイート件数の集計方法
上記の集計件数の内、LGBT,黒人、移民、白人は、ツイート件数が多かったため、ランダムに取り出し、GAY LGBTが実際に同性愛、LGBTを意味しているか?blackとしてマッチした内容が、実際に黒人なのか?をチェックした。集計方法は、
- マスコミツイート横断比較を用いて、まず関係がありそうなワードでツイートを検索する。例えば、同性愛・LGBTであれば、GAY,LGBT 黒人であれば、African Americans,black), 白人(white)
- その後マッチしたツイートからランダムにツイートをピックアップして、実際にGAY,LGBT,黒人、白人を指しものかを調査する。つまり、blockとしてマッチするが、black holeやblack bearを除外する。whiteとしてマッチするが、white house などを除外する。
下記表の説明をする。
- 検索ワードは、マスコミツイート横断比較 で検索したワード。下記リンクボタンから確認できる。
- 件数はその検索でマッチした件数
- 調査のためのサンプルサイズは マッチしたツイートが実際に該当の事象を指すのかを調査するためにランダムに抽出したツイートの数
- 該当数、調査して確かに該当のモノを指した数
- 該当割合は該当数をサンプルサイズで割ったもの
- 推定数は検索ワードのマッチン数と上記で求めた該当割合を掛けたもの
- リンクは検索ワードで実際にマッチするかを他者が検証できるように設けた
検索ワード | 件数 | 調査のためのサンプルサイズ | 該当数 | 該当割合 | 推定数 | リンク |
---|---|---|---|---|---|---|
rust belt | 15 | 15 | 12 | 80.00% | 12 | ■ |
blue-collar | 25 | 25 | 25 | 100.00% | 25 | ■ |
working-class | 25 | 25 | 23 | 92.00% | 23 | ■ |
GAY LBGT | 9726 | 472 | 469 | 99.36% | 9,664 | ■ |
Black American | 5 | 5 | 5 | 100.00% | 5 | ■ |
African Americans | 127 | 127 | 127 | 100.00% | 127 | ■ |
black | 6245 | 960 | 430 | 45.00% | 2,810 | ■ |
Immigrants Immigrant | 1792 | 251 | 249 | 99.20% | 1,778 | ■ |
worker | 1557 | 234 | 18 | 7.69% | 120 | ■ |
white | 13892 | 1446 | 8 | 0.55% | 77 | ■ |
racism | 494 | 494 | 494 | 100.00% | 494 | ■ |
blue-collarやworking classではなくてworkerとして言及されたのでは?
blue-colorやworking classではなくworkerとして言及された可能性は?workerも他のものと同様にwokerを含むtweetを抽出し、ランダムサンプリングしたものを調査した。wokerを米国肉体労働者として使っているツイートは、推定120件であった。
文中、絶望死のグラフで、黒人大卒未満の絶望死も増えている。上記理論では、黒人へはメディアの共感があるので、絶望死は増えないのではないか?
確かにそれはそのとおりだ。そこは私もわからない。
おすすめの本
この記事が面白いと思った方は、下記に紹介する書籍がおすすめだ。
第一章の『「かわいそうランキング」が世界を支配する』は特にお薦めです。
この記事を読んで、お金を払いたいという方向け。
twitterで無償で読めるのが申し訳ないという声(社交辞令)を受けて、課金できるようにしました(特に追加の文章はありません)。もし気にいっていただけるなら、noteで課金していただけるとありがたいです。
-
http://www.thinktheearth.net/jp/sp/thinkdaily/news/biodiversity/979cute-spiecies.html↩
-
(デイビッド)「140字の戦争」 p53↩
-
トランプ政権の誕生に白人労働者階級が大きな役割を果たしたという論調の分析は多い。例えば、(会田弘継)「破綻するアメリカ」でも次のように書かれている。「2016年大統領選でトランプ勝利を導くのに重要な役割を果たしたのは白人労働者階級であった。」p47↩
-
「油まみれの水鳥」。アメリカ軍は「イラク軍が故意に破壊した石油施設から流れ出た重油によって身動きが取れなくなった」と説明し、イラクの野蛮な行為の象徴として世界に映像と写真が流されましたが、戦争後重油はアメリカ軍の攻撃で流出したものと判明 https://twitter.com/kdystopia/status/1499606279836233728↩
-
ナイラ証言 イラクによるクウェート侵攻の後、「ナイラ」を名乗る少女が行った証言。後に「ナイラ」なる女性は存在せず、クウェート・アメリカ政府の意を受けた反イラク扇動キャンペーンの一環であったことが判明。↩
-
永井 陽右 「共感という病」(https://kanki-pub.co.jp/pub/book/details/9784761275600) p22↩
-
最初彼が大統領候補だと聞いたとき何かの冗談かと思った。言っていることもやっていることもわけが分からないと思った。↩
-
トランプと大統領選を戦ったヒラリー・クリントンはその筆頭だろう。↩