研究とは「パンク伝統芸能」である
そのこころは、「過去からの蓄積や文脈を踏まえつつ」、「誰もやっていない新しいことをしなくてはならない」。
どんなことにおいてもある程度はいえることではありますが、仕事としての研究にはこの2点が特に強力に求められます。
矛盾?
まあ最初はそう感じます。どんなにたくさん勉強しても知識を得ても、その知識以外のことをやれ、でないと意味がない、と言われるのですから。
大量の教科書や論文を読み、「そこに書かれていなくて、かつ重要なコト」を自然や現象の中から見つけ出すのが研究です*1。
徒労を感じます。
処世の効率を考えれば、すでにある知識を編集してそれっぽくした方がよっぽど早いでしょう。
しかし、現実の出来事をそうした「使える知識」として産みなおすには、研究のこういう泥臭い格闘がどうしても必要なのです。その意味では、研究の仕事というのは「知識の一次産業」なのでしょうね。
どうすればこんなしんどい仕事を続けられるか、といえば、まずそのフィールドに対する「問題意識」が必要になります。
こちらの記事で言うところの「背骨」とは、それを指すのではないかと私は解釈しています。
問題意識とは、なにを明らかにしたいのか、またはなにを解決したいのか、ということ。
これを高次のレベルで持っている人は、研究の困難にあっても踏ん張りがききます。
たとえばある分子の機能を明らかにしたい、というレベルの問題意識ですと、その分子の仕事がうまくいかなかったら頓挫します。
しかし、たとえばipsの山中さんのように、幹細胞治療を実現したい、というレベルの意識なら、一つや二つ失敗してもとるべき道はいくつもあることになります。
さらにレベルを上げて、サイエンスを通じて人類に貢献したい、というところまで到達していれば、その人は何をしようとも「サイエンティスト」でいることができるでしょう。サイエンス名人伝。
卒業研究、大学院でどこまでやるべきか、というのは難しい。
仕事としての研究では、こういう自分の「背骨」に加えて、「分野の背骨」が存在します。
そのフィールドの研究をするに当たって、研究者たちが共有している問題意識のことです。時に「パラダイム」と呼ばれることもあります。
これを無視すると、少なくとも職業研究者としてやっていくのは難しい。たとえパラダイムをひっくり返す研究をするにしても、いったんは現代の問題意識について知らなければなりません。
もうちょっというと、分野の背骨にもやはり階層があります。
たとえば特定の細胞現象の背骨。分子生物学の背骨。生物学全体の背骨。そしてサイエンスの背骨。人類世界の背骨。
まとめると、研究を教える、ということは
1.自分の背骨を見出させる
2.(少なくとも)分野の背骨を体感させる
3.自分の背骨を分野の背骨の中で位置付けることを学ばせる
4.その具体的形式的方法について教える
ということになります。
大学院ならともかく、卒研の1年では1〜3を身につけるのは難しいかもしれませんね。4ならば形として教えやすいですが、表面的であるのは免れえないでしょう。まあこれは制度の問題でなかなか一教員がどうにかできるものではありませんが。
逆に大学院ではこれら4つは必ず学ぶべきこと。とくに博士ならばサイエンスの背骨くらいまで及んでしかるべきじゃないかと個人的には思います。
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芸術表現というところまで広げると、少し話は別かもしれません。表現者になりたい、と思っているうちは決して表現者になれません。
世間的に成功しているいないに関わらず、表現し続けることが出来ている人の多くはそうせずにいられないからしているのです。
とにかくやってみて、やり続けることができるかどうかが分水嶺です。
続かなければとりあえずやめればよいと思います。まだ準備が出来ていないか、その方法が向いていないのです。
まずは爆発することです。太郎ちゃんがそう言ってました。
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*1:理論系は少し違うかもしれませんが