文・朽木誠一郎/ノオト
写真撮影・それどこ編集部
「アンタまたこんなモノ買って! ムダ遣いでしょ!」―― 肝っ玉母ちゃんがいたら、そう怒られてしまいそうな人たちが、世の中にはいる。
立ち上げから15年目を迎えるインターネットのおもしろサイト『デイリーポータルZ(以下、デイリー)』のウェブマスター、林雄司さんもその1人だ。
林さんは顔が大きくなる箱を被ったり、
ハトのマスクを被ったりする仕事をしている。
そんな林さんなら、さぞムダ遣いをしているに違いない。本人を直撃し、一緒にその「買い物遍歴」を辿った。
左が林さん、右が筆者の朽木誠一郎(以下、朽木)。
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朽木 さっそく、「変なもの」を見せてください。
林 「これはいい!」っていうものがありますよ。
朽木 何でしょう。
林 これ。モンベルのはんてん(半纏)。
朽木 モンベルの、はんてん。
林 はい。毎日着ています。昨日もそれ着たまま寝てました。
朽木 モンベルって、はんてんも作っているんですね。そういえば、巫女さんの作務衣がモンベル製だったことも、お正月に話題になりましたが……。
林 暖かくてすごくいいですよ。着てみます?
朽木 ホントだ! 暖かい!
林 似合いますね。売り場の人みたい。
朽木 ちゃんとダウンを使っているんですね、軽い。ちなみにおいくらでしたか?
林 意外と高くて、10,000円くらい。でも、あまりによくて、買った翌日くらいに、すかさず妻にも買いました。
朽木 ネットで買ったんですか?
林 今日はすべて楽天で買ったものを持ってきました。そうしろって言われたから。
朽木 そういう主旨の企画でしたね。
林 これは楽天のアウトドア専門店みたいなところで買ったんですが、後で丁寧なメールが届いたんですよ。
朽木 あ、よくあるフォローのメールだ。「この度はお買上げありがとうございました」みたいな。
林 そうそう。で、そこに「私たちもアウトドアが大好きで、自然を愛するあなたたちの仲間です!」みたいなメッセージが書いてあって……。はんてんなんだけどな、って思いました。
朽木 外で着ないですね。これはどうして買ったんですか?
林 いや、普通にダウンを買おうとしてたんです。アウトドア専門店なので、南極探検するようなダウンがずらっと並ぶ中に、はんてんがあって。最初は笑ってたんですけど、だんだん欲しくなって、買いました。
朽木 それはちょっと、わかります(笑)。
林 だんだん欲しくなりますよね。変なモノって。
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朽木 それは何ですか?
林 カレンダーです。
朽木 えっ。これ、どうやって使うんですか?
林 これを折ってApple Watchに付けます。柔らかい金属でできているので。
朽木 無粋なことをお聞きしますが、Apple Watchのカレンダー機能じゃダメなんですか?
林 手間がかかるじゃないですか、起動するまで(笑)。これならこう(手首を返す)すればいつでも日付を確認できますから。
朽木 ある意味で、テクノロジーの敗北を見た気がします。
林 20年くらい前は、保険の営業の人とかが配ってくれてたんですけどね。
朽木 あ、じゃあこれ、知ってる人は知ってるものなんですね。
林 うん、おれの世代以上は知っている人も多いんじゃないかな。
朽木 これ、買うといくらなんですか?
林 300~400円くらいでした。
朽木 お手頃!
林 でもこれ、すごく人気なんですよ。すぐ売り切れちゃう。
朽木 ファンが多いんですね。
林 そうそう。でもね、こうなると、時計も欲しくなって。やっぱりすぐに文字盤を見たいから。
朽木 Apple Watchに付ける時計……?
林 まあでも、これはおすすめですよ。みんなに自慢して。要ります? 3セットありますけど。
朽木 これは正直、あんまり要らないかな……。
林 ホントですか? 便利なんだけどなあ。
朽木 お聞きしてみたかったのが、年間どれくらい変なものにお金を使いますか?
林 仕事で買う方が多いですけど、個人だとどれくらいだろう。20〜30万くらいですかね。
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朽木 ずっとテーブルの上にあるんで、次、これ行きましょうか。
林 はい、台湾ビール。
朽木・林 お疲れ様でーす!
林 これ、おいしいですよ。
朽木 ホントだ、ちゃんとマンゴーだ。ビールの苦味もしっかり残っていて、違和感もないですね。完成度高い。
林 アルコール度数も2.2%なので、どんどん飲めます。これはたまたま台湾のコンビニで見つけて。で、日本で探して、また見つけて。
朽木 もっと流行ってもよさそうですけどね。
林 ホントですね。あんまり知られてない。
朽木 ここまで、変なものというよりは、林さんの本気のおすすめですよね。
林 普通にいいものですね(笑)。だからかえって、デイリー(ポータルZ)で記事に取り上げにくいんですよ。
朽木 本当に役に立ってしまうから(笑)。
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林 そうそう、おつまみもあるんですよ。ほら。
朽木 ランチパック! 僕、好きなんですよ。仕事の合間に食べてます。忙しいときとかかなり便利ですよね。林さんもよく食べられるんですか?
林 いや、そんな食べないんですけど。
朽木 あれ?! なんか、恥ずかしい……。
林 すみません(笑)。でも、一気に500個買えたりするので、それがおもしろいなって。でもね、消費期限が2日とかなんですよ!
朽木 食べきれないじゃないですか(笑)。
林 (期限が)長いのもあるけど、短いのも混じっていて。
朽木 食べ物はこれくらいですか?
林 いや、あといくつか。これなんかどうですか。食用金箔。
林 これ意外と安いんですよ、1,000円くらい。あ、でも送料入れるともっとするかな。
朽木 七味唐辛子みたいになってるんですね。試しに振ってみてもいいですか?
林 いいですよ、じゃあここに。
朽木 うん、高級感が出ました。
林 これはたしか、『ブルジョアナイト』っていう、何がブルジョアかを話し合うイベントのために買ったんですけど。そのときは焼きそばにかけたかな。
朽木 林さん。
林 はい。
朽木 口元にめっちゃ金箔が付いてます。
林 ブルジョアですね。
カメラマンの手も笑う。
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林 食べ物、もう1つありますよ。
朽木 これは……、何ですか?
林 かりんとうです。
朽木 人生で一度しかしない会話を今、してしまったような気がします。
林 まあ、そうでしょうね。
朽木 かりんとうをいっぱい食べたかったんですか?
林 いえ。これは何年か前に、「東芝の本社ビルの近くで不審物が発見された」ってニュースがあって。爆発物処理班がたしかめてみたら、中身がおせんべいだった、という。これが、そのおせんべいです。
朽木 それで、買っちゃったんですか?
林 買っちゃいましたね。自分でいろいろ調べていたら、どうやらこのかりんとうらしい、という情報に行き着いて。
朽木 あ、でもたしかにおせんべいっぽい、平べったい形。いただきます。
林 これ、賞味期限過ぎてるので、食べない方がいいですよ。
「今言わないで!」とむせ返る。
林 で、届いて。みんなに見せびらかして。それで満足して。
朽木 記事にはならなかったんですね(笑)。
林 満足しちゃいましたね。
朽木 記事にしなくても、おもしろいものを見つけると、本当に買っちゃうんですね。
林 買っちゃいますね。
朽木 記事にするのって、どれくらいなんですか?
林 半分以下だと思いますよ。
朽木 ごちそうさまでした。
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林 では、食後の運動に、これを。
朽木 絶対に明るい気持ちになるヤツですね。
林 これはプロ用というか、チアリーディングの専門店で買いました。実は中に棒があるんですよ。
朽木 へえ、ここを掴むんですね。
林 そうそう。こんなふうにね。
林 以前、プロの指導を受けたことがあって。胸を張るのがコツらしいです。
林 やってみますか?
朽木 じゃあ、はい。
林 ああ、いい、いい。
朽木 ありがとうございます。あと、それは何ですか?
林 レイバンのサングラス。ネットでよく見かけていたら、欲しくなっちゃって。
朽木 ネットでよく見かけてたって……、それ、スパムですよね?
林 うん、スパム。でも、これは本物ですよ。
朽木 わかってます(笑)。
林 公式サイトだと、レイバンのカスタマイズができるんです。スパムは踏まずに公式サイトを見ていたんだけど、やっぱりちょっと高くて。結局、楽天で買いました(笑)。
これはアジア人向けのオーバーサイズ仕様なので、顔のでかい日本人が着けてもそんなにカッコ悪くならないんですよ。ほら。
林 どうですか?
朽木 なんか、テレビのP(プロデューサー)って感じですね。
林 うさんくさいってこと?
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他にも、最初から使い込んだようにボコボコになっているスーツケースや、
イタリア製とのこと。
『人間大砲』企画で、ニフティ三竹社長を飛ばしたときのつなぎなど……、
人間大砲企画には、社長の影武者が3人いたそうだ(詳細はリンク先の記事で)。
さまざまな変なモノを紹介してもらった。
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朽木 こういう変なモノを持ち歩いていて、恥ずかしいと感じることは……?
林 いやいやいや、ないですよ! いいモノ買ったと思ってますよ!
朽木 林さんが「これ、いいでしょ」と自慢したら、リアクションに困られたり……?
林 ちゃんと2人くらいに「いいね!」って言われますよ。
朽木 なるほど、なるほど。最後になりますが、林さんは、変なモノを買うのはお好きですか?
林 好きですよ。変なモノを買うのも、作るのも好きです。おもしろいことって、思いつくんですけど、実際に行動に移さないことが多いじゃないですか。思いつきをどこかに書いて満足しちゃったり。
でも、それだけじゃカッコ悪いような気もして。だから、実際にやってみます。買ったり、作ったり。そうやって記事にします。それがデイリーの原点と言えば、原点ですね。
朽木 本日はありがとうございました。
林 いえいえ。でもこれ、こうやってずらっと並べれば、1本記事になりますね。デイリーでやればよかったな。
(おわり)
著者:朽木誠一郎 (id:seiichirokuchiki)
ライター・編集者。地方の国立大学医学部を卒業後、新卒でメディア運営企業に入社。その後、編集プロダクション・有限会社ノオトで基礎からライティング・編集を学び直す。現在はMac Fan「医療とApple」連載中。紙媒体はプレジデント/WIRED/書籍の編集協力 、ウェブ媒体はForbes/現代ビジネスなどで執筆。ブログ「あまのじゃく日記」では書きたいことを自由に書きます。
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