こんにちは。お酒が大好きな杉村啓(むむ)です。『白熱日本酒教室』(星海社)という本も執筆しています。
先日、ソレドコ編集部とこんなやりとりがありました。
日本酒初心者が日本酒を選ぶのって難しいと思うんですよね。日本酒が気になってるから何か買ってみたいと思っても、種類が多いし専門用語だらけだし、何を買っていいか分からない人って多そうだなと……。
初心者がもっと気軽に日本酒を買えるようになる方法を記事で提案できたらなあ……と思うんですが、そんな都合のいい方法ないですよね……。
そういう方は「ラベル買い(ジャケ買い)」をするといいですよ!
えっ? 「ラベル買い」って、CDやレコードの「ジャケット買い」みたいに、ラベルのデザインや文字を見て良さそうだなーと思う日本酒を買うってことですか?
そうですそうです。初心者こそ、ラベル買いを推奨したいですね。
ええええ〜!!!! 日本酒って専門用語や味わいの特徴とかをちゃんと勉強しないと……というイメージが強くて、見た目で買うなんて日本酒の沼人からみたら「邪道」なんだと思っていました……! もっと詳しく教えてください!!
というわけで、今回は「初心者こそ、ラベルを見てピンときたお酒を買おう!」というお話をしていきます。
なぜラベル買いがおすすめなのか、ラベルからどういった情報が読み取れるかなどを解説しつつ、全国の銘柄の中から素敵なラベルの日本酒8本(プラスα)をセレクトしてみました。
すぐにでも「ラベル買い」の感覚を味わってほしくて、紹介する日本酒を並べてみました。名付けて「バーチャル酒屋」。ラベルをクリックすると商品ページに飛びますよ!
初心者の方はもちろん、日本酒に詳しい方にとっても発見のある情報だと思うので、ぜひ読んでみてください。
🍶もくじ🍶
日本酒のラベルを読み込めば味は想像できる。けど、それが難しい
そもそも日本酒はラベルに記載されている情報がかなり多いです。ビールやワインなどにも記載されている、
- 商品名
- アルコール度数
- 原材料名
だけでなく、
- どのような製法で造られているのか
ということもラベルから分かるようになっています。
例えば「純米大吟醸」と書かれていたら「お米を50%以下になるように磨いて(米は磨けば(削れば)磨くほど雑味がなくなるといわれています)、低温で長時間かけてじっくりと発酵させた、お米だけを使ったお酒」ということが分かります。
▶日本酒の種類や用語についてソレドコ編集部がまとめた記事はコチラ
日本酒に詳しい人はこのようなラベルの情報から、そのお酒の味わいをなんとなく想像できます。
でも、専門用語や知識を前提とした情報ばかりですし、はっきり言って難しいですよね。日本酒マニアの私から見ても、初心者にはハードルが高いというのは理解できます。
初心者は「フレッシュでフルーティーな日本酒」を選ぼう
もう一つ、現在の日本酒の味わいは多種多様で複雑です。なので、このパートではその複雑さも解説しつつ、「日本酒初心者におすすめの味わい」について紹介します!
🍶ポイント🍶
- 日本酒の味わいは多種多様、「甘口」「辛口」の表現もすごく複雑
- 初心者には「フレッシュでフルーティーなタイプ」がおすすめ
日本酒初心者は「甘口」「辛口」を頼りにしない方がいい
ラベルや商品ページにはよく、味わいの説明として「甘口」や「辛口」と書かれており「初心者なら甘口がいいのかな……?」と思われがちですが、この表現や分類もすごく複雑なんです(詳しくは下記の記事で解説しています)。
▶甘口の日本酒ならこれを買えば失敗しない! マニアが教える選び方とオススメ銘柄10選
▶辛口の日本酒が好きな人へ。マニアが認めるこの銘柄10選を飲んでほしい
そのため日本酒初心者は「甘口」「辛口」だけでは選ぶのがまだ難しいかも知れません。そこでおすすめなのが、「フレッシュでフルーティーなタイプの日本酒」を探すことです。
ではラベルからどうやってその情報を見極めるのか……といった点は後述するので、いったん「なぜ初心者にはフレッシュでフルーティーなタイプの日本酒がおすすめなのか」について解説します。
日本酒初心者に「フレッシュでフルーティーな味わい」をすすめる理由
居酒屋のメニューや通販サイトなどでもよく多用されている「フレッシュでフルーティーな日本酒」という表現ですが、その特徴は、爽やかな甘味や酸味があり、いわゆる「お酒臭さ」がない(少ない)こと。飲み口がとても良く、料理などと合わせずそのまま単体で飲んでもおいしいと感じる人が多いお酒です。
一方で「落ち着いてうま味が深いタイプの日本酒」は、日本酒の経験をある程度積んでいくことでよりおいしさが分かるお酒です。料理と合わせることで真価を発揮したり、温度を変えるとうま味が膨らんだりといった特徴があります。
私はこれまでに何人もの「日本酒初心者」と日本酒を飲んできましたが、人気が高かったのは圧倒的に「フレッシュでフルーティーなタイプの日本酒」。冷やすことで、より爽快感がUPして飲みやすくなるので、ジャンルも「冷酒」が好評でした。
というわけで、初心者はまずは「フレッシュでフルーティーなタイプのお酒」を飲んでみましょう!
ラベルから「フレッシュでフルーティーなお酒」を見分ける方法
というわけでここからが本題。「ラベルのデザイン」から味わいの傾向をつかみ「フレッシュでフルーティーなタイプのお酒」を見分ける方法を紹介します。
日本全国さまざまな蔵の日本酒を飲んできた私が考える、「フレッシュでフルーティーなお酒」の“あるあるラベルデザイン”は以下の通り。
- 名前に横文字やひらがなを使用
- 渋い筆文字ではなく、丸みのあるフォントやオリジナルのフォントを採用
- かわいいイラストやモチーフをあしらっている
逆に落ち着いてうま味が深いタイプは、昔からあるクラシックスタイルのお酒であることが多いため、デザインも「縦書きで筆文字で漢字」という“THE日本酒”なデザインであることがほとんどです。中には有名な書家が書いたものも。
長年飲み続けてもらえるよう、何十年たっても印象が変わりづらいシンプルなデザインであることが特徴です*1。
ラベルの全体的なデザインはデザイナーに頼むところも多いのですが、お酒の名前やラベルのコンセプトなど基本的な要素は「蔵の人」が決めています(中には自分でデザインまでする人も)。
中のお酒の味わいとラベルから得られるイメージとが著しく異なっている場合、消費者をがっかりさせてしまうことにもつながりかねません。なので、名前やラベルのデザインから「お酒の味わい」の傾向がつかみやすいものが多いのです。
というわけで、フレッシュでフルーティーなお酒を買いたい場合は、シンプルな筆文字タイプではなく、デザインや名前にユニークさを感じるラベルを選びましょう。
もちろん、「獺祭(だっさい)」など、縦書きで筆文字で漢字だけどフレッシュでフルーティーなタイプのお酒もありますし、その逆もありますが、かなりの高確率で目的が達成できるはず!
外見が好みだったら中身も好みの可能性が高いのが嗜好品の傾向なので、初心者こそ、まずは一目でピンとくる、自分好みのラベルの日本酒を選んでみてくださいね。
こんなに凝ったデザインの日本酒あります! 全国のおすすめラベル8選
というわけで今回は、ラベルが特徴的で「フレッシュでフルーティー」な味わいが楽しめる日本酒をいくつか選んでみました!
今回はスペックや製法などの難しい理屈は一切なし。どれも楽天で購入できるので、ラベルを見て気になるものがあればぜひクリックしてみてくださいね!
🍶おすすめラベル一覧🍶
- 【1】「三芳菊 WILD-SIDE 等外米 無濾過生原酒 袋吊り雫酒」は女の子のイラストがインパクト大!
- 【2】「りんごぽむぽむ」はリンゴ風味をこれでもかとアピール!
- 【3】「Hope! 希望」は明るい未来への願いを込めたネーミング
- 【4】「鳳凰美田 WINE CELL」はワイン酵母を使用した、デザイン&名前もワインな日本酒
- 【5】「荷札酒 純米大吟醸生原酒 紅桔梗」はラベルの形が完全に荷札、ひもまで付いている
- 【6】「出羽桜 咲」は世界的な工業デザイナーがラベルをデザイン
- 【7】「発泡純米酒 ねね」はより飲みやすいスパークリング日本酒の代表格
- 【8】「たかちよ 豊醇無盡 スカイブルー」は爽やかな水色のラベルで“ラムネ風味”を表現
【1】女の子のイラストがインパクト大! 「三芳菊 WILD-SIDE 等外米 無濾過生原酒 袋吊り雫酒」(三芳菊酒造/徳島県)
ちょっと名前が長いですが、それは気にせず、ラベルを見てください! ギターをかかえたかわいい女の子のイラストが描かれています。
お酒の名前はルー・リード*2が1972年に発表した曲「Walk on the Wild Side(ワイルド・サイドを歩け)」からきています。自分の歩きたい道があるなら、危険を犯してでも、歩き続けることは楽しいという意味の曲。杜氏さんの座右の銘だそうです。
味わいは南国を彷彿とさせるような、パイン系の香りと強い甘酸っぱさで、人によってはパインジュースみたいと思うこともあるほど。まさに、従来の日本酒のイメージとは異なる、独自の道を歩き続けるお酒です。
冷やすととってもおいしいお酒ですが、冷え過ぎていると香りがあまり出ないので、その場合は器を手で少し温めるとふわっと香りが広がりますよ(このお酒に限らず使える小技です)。
【2】リンゴ風味をこれでもかとアピール! 「りんごぽむぽむ」(八戸酒類株式会社/青森県)
ぱっと見た印象では、日本酒というよりスパークリングワインやジュースのようなこのお酒。名前も「りんごぽむぽむ」でとってもかわいらしいですが、ちゃんと日本酒です。
リンゴが瓶の中でふわふわと浮いているようなデザインが印象的です。
そして味はもちろんリンゴを思わせるような香りとリンゴのような甘酸っぱさを持つ、大人のリンゴジュース、といった味わいです。
アルコール度数が7%と一般的な日本酒(だいたい15%くらい)に比べて低めなので、すいすい飲めてしまいます。ただ、飲みやすいからといって一気に飲むと酔いは回ってしまいますので要注意!
【3】シンプルな「Hope!」の文字に願いを込めて「Hope! 希望」(せんきん/栃木県)
マジックで書いたような「Hope!」の文字が目立つ「Hope!希望」。正面から見ると本当に日本酒なの……? と疑いたくなるようなデザインですが、こちらももちろん、日本酒です。
ある意味、筆文字&漢字の対極ともいえる英語のラベル。爽やかで心地よい酸味を持った、非常に飲みやすいお酒です。
この酒蔵では、コロナ禍で製造工程の調整を余儀なくされたときに、たまたま使用する酒米が異なる3種類の日本酒の完成時期が重なってしまいました。この偶然を「奇跡」ととらえ、それらをアッサンブラージュ(フランス語でブレンドの意味。ワイン業界ではワインの原酒をブレンドすることをこう言う)したのが「Hope! 希望」です。
お酒に関わる人たちをつなぎ、明るい未来がやってきますように、という願いが込められています。
2022年販売分は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて「世界中の人が手を取り合い、戦争も差別もない世の中に!」 という希望が込められているそうで、売上金の一部は「公益財団法人 日本ユニセフ協会」へ寄付されるとのことです。
【4】ワイン酵母を使用した、デザイン&名前もワインな日本酒「鳳凰美田 WINE CELL」(小林酒造/栃木県)
「鳳凰美田 WINE CELL」のラベルデザインは、その名前の通り、ワインをイメージしています。
ラベルに書かれた英語をよく見てみると「Yamadanishiki」、つまり「山田錦」という酒米を使っていますよ、ということが分かります。
なぜここまでワインっぽくしているのかというと、ワイン酵母という微生物を使って発酵させているからです。日本酒では通常、「清酒用酵母」を用いますが、あえてワイン酵母で日本酒を造ったらどうなるのか、と挑んでみたお酒なんです。
そしてこれが、おいしい! フルーティーで華やかな香りと甘味を持ち、同時に爽やかな酸味のある、日本酒とワインのいいとこどりをしたようなお酒です。
【5】ラベルの形が完全に荷札、ひもまで付いている「荷札酒 純米大吟醸生原酒 紅桔梗」(加茂錦酒造/新潟県)
日本酒のラベルというと長方形のものを瓶を包むように貼って……という場合が一般的ですが、最近ではラベルの形状そのものに工夫を凝らしたお酒がたくさんあります。
というわけで、紹介するのは「荷札酒 純米大吟醸生原酒 紅桔梗」です。見てください。名前の通り、もう完全にラベルが「荷札」ですよね。
ひもは、瓶の肩に貼られているシールで固定されています。
この「荷札酒」シリーズは、時期やロットによって使うお米や製造方法を変えていて、それを荷札に表記して販売するというお酒です。そのため、ラベルには「種別」「精米歩合」「備考」について記載する欄があります。今回は備考に「しぼりたて」と書かれていますね。
が、初心者のうちはそのあたりは何も気にせずで大丈夫。「荷札酒」シリーズはどれも、清涼感のあるフレッシュな飲み口で、それでいてフルーティーさとすっきりとした酸味を持つ、飲みやすいお酒だからです。
うま味もきっちりあって、ちょっとしたおつまみと一緒に飲むのもいいですよ。
【6】初心者向けのスパークリング日本酒はラベルで選ぶとさらにハズレなし! 「出羽桜 咲」(出羽桜酒造/山形県)
「出羽桜 咲(さく)」は、会社名でもある「出羽桜」の桜を思わせるピンクを基調としたラベル。白地に金で輝く「咲」の字もかわいいフォントを使っています。
デザインしたのは山形県出身の奥山清行氏。フェラーリやポルシェ、北陸新幹線(E7系・W7系)などもデザインした、世界的な工業デザイナーです。
飲むと、少し控えめで綺麗な泡に心地よい刺激と爽快感、ほのかな甘みもあります。日本酒らしいコクも楽しめるお酒なので、単体で飲んでも、料理と合わせても良いですね。
250mlと小さめのサイズなので、食前酒、乾杯のお酒などに特におすすめです。
日本酒は炭酸が加わると、爽やかさが増して飲みやすくなります。
ですので、スパークリングを選べばだいたい「フレッシュでフルーティー」からハズレることはありません。ラベルに凝ったものだと、その確率はアップしますよ。
【7】スパークリング+ひらがなは、より飲みやすい「発泡純米酒 ねね」(酒井酒造/山口県)
日本酒初心者でも飲みやすいスパークリング日本酒の中でも、さらにおすすめなのが名前にアルファベットやひらがなが用いられた日本酒。
そのタイプの代表が「発泡純米酒 ねね」です。
ひらがなの「ね」が重なったデザイン、かわいいですよね。
味わいも外見を裏切らず、強過ぎない上品な甘味とフルーティーな酸味のある、口当たりの良いお酒です。炭酸の爽快感で、あっという間に飲み干してしまうでしょう。
こちらも、300mlと小瓶なので、食前酒や乾杯のお酒として用いるのがおすすめです。
【8】爽やかな水色のラベルで“ラムネ風味”を表現「たかちよ 豊醇無盡(ほうじゅんむじん) スカイブルー」(髙千代酒造/新潟県)
涼しげな水色の瓶とラベルがとってもきれいですね。なんでこんな色合いのデザインなのかというと……ラムネのような爽やかな香りと甘味を持っているお酒だからなんです。
名前はひらがなで「たかちよ」。実は、この蔵には漢字の「髙千代」という日本酒もあり、そちらはクラシックな味わいです(ラベルも筆文字)。
ひらがなの名前には「従来と違うタイプのお酒を造りましたよ」という蔵からのメッセージが込められているんです。
「たかちよ」は、ほかにもいくつかシリーズがあります。どれもフルーツなどをイメージした風味で、黄緑はメロン、オレンジはみかん……というようにラベルや瓶の色味で味わいを表現しています。
他の色の「たかちよ」もぜひ試してみてくださいね。
気になるラベルはありましたか? 最後にもう一度「バーチャル酒屋」をご紹介。
ラベルをクリックすると楽天市場のページに飛ぶので、気になるものがあればぜひクリックしてみてくださいね!
ラベルにピンときたら買ってみて!気軽に日本酒を始めよう
繰り返しになりますが、落ち着いたうま味の深いタイプのお酒を否定しているわけではないですし、そういうお酒の中にも日本酒初心者に人気のあるお酒もあります。
ただ、フレッシュでフルーティーな味わいは誰にとっても飲みやすい風味ですし、ラベル買いもしやすいので、日本酒選びに難しさを感じがちな初心者にとっては最適な選び方だと思っています。
また、好きなデザインのラベルということは、そのお酒を造った蔵人さんと感性が近いということでもあります。実際、好みのお酒であることも多いです。
まずは、ピンときたラベルのものを買って、もっと気軽に日本酒を楽しんでもらえるとうれしいです!
お酒の選び方を「沼人」に聞く
著者:杉村啓
醤油やお酒といった発酵や調味料をこよなく愛するライター。愛称(?)は「むむ先生」。おいしいお酒やおもしろいお酒の情報を聞きつけると現れたりします。最近では京都の街をふらふらと「いけず石」を求めてさまよっていたりもします。良い「いけず石」を見かけたらぜひご一報を。近著に『白熱日本酒教室』(星海社/漫画版全3巻/新書)、『グルメ漫画50年史』(星海社)、『醬油手帖』(河出書房新社)など。Twitter:@mu_mu_
ブログ:醤油手帖
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今回紹介した商品
「三芳菊 WILD-SIDE」を詳しく見る
「りんごぽむぽむ」を詳しく見る
「Hope! 希望」を詳しく見る
「鳳凰美田 WINE CELL」を詳しく見る
「荷札酒」を詳しく見る
「出羽桜 咲」を詳しく見る
「発泡純米酒 ねね」を詳しく見る
「たかちよ」を詳しく見る
*1:このあたりの話は、『とめはねっ! 鈴里高校書道部』(小学館)というマンガの12巻(第百四十八話P.115〜128)に詳しく記載されているので興味のある方はぜひ読んでみてください。
*2:アメリカニューヨーク州ブルックリン出身のミュージシャン