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【スタートアップ資本政策連載・第5回】 エンジェル投資家登場!

アバター画像 山口 宏和


*本記事は「【連載】ストーリーを通じて学ぶスタートアップのための資本政策と資金調達手法」の第5回目の記事です。

 今回は、エンジェル投資家について解説します。まずは以下の事例を御覧ください。

【事例】
EmoTechのプロダクト開発は順調だったが、事業計画やマーケティング戦略といった観点の知見が不足しており、アドバイザーを探していた。
そのような状況の中、大山は知人からAという人物を紹介された。AはAIスタートアップの起業経験があり、現在はエンジェル投資家としても活動しているとのことだった。大山はAから今後の事業計画についての助言を受けていると、Aから出資の提案があった。具体的にはEmoTech の株式20%と引き換えに、1000万円出資する内容だった。
大山はとしては有り難い話と思いつつ、そのような出資を受け入れて良いか判断がつかなかったので、先輩起業家の藤本に相談することにした。
――――――――――――――――――――
藤本「株を発行したり、譲渡するということは会社の一部を売ることだからね。資本政策の失敗は後からは取り返しがつかないから、今後の持株比率を見据えて慎重に検討したほうが良いよ。1000万円出資する引き換えに、EmoTech の株式20%を割り当てるという内容は、Aさんの保有割合がかなり多くなるね。この内容は、これから皆が頑張って稼いだ分の2割はAさんのものになるのと同じなんだけど、それが果たして今後のEmoTech の成長を見据えてもなお1,000万円に見合っているだろうかということを考えたほういいね。」
大山「そうですよね。そう聞くと少し株式を渡し過ぎな気がしてきました。今回はお断りしようと思います」
――――――――――――――――――――
その後大山は、別の知人からエンジェル投資家のBを紹介された。Bはヘルステックのスタートアップの起業経験があり、事業計画やマーケティング戦略に関する経験も豊富だった。BからはEmoTech の株式1%と引き換えに、300万円出資することを提案があり、大山らは、Bの出資を受けることとした。

1 エンジェル投資家とは

 エンジェル投資家とは、主にシード期といわれる創業期のスタートアップに対して投資する個人ことです。創業直後はまだ何の実績もなく資金調達が難しい時期であるため、そのような困難な時期に手を差し伸べてくれる、天使のような存在だとされたことが、「エンジェル投資家」の由来といわれています。

 エンジェル投資家とベンチャーキャピタル(VC)との大きな違いは、VCの場合には基本的には外部の投資家から資金を調達し運用していますが、エンジェル投資家は自らの資金で投資を行うという点です。
エンジェル投資家は、VCよりも早い段階で、株式や新株予約権などを取得し、エグジットされる際に売買差益(キャピタルゲイン)を得ることを目的にスタートアップに投資します。

 一方で、スタートアップ側が期待するエンジェル投資家の役割としては、「資金を提供してくれる」というだけでなく、エンジェル投資家の多くは起業・経営の経験がある個人が多いため、事業や経営に対する助言やアドバイスが重要です。昨今ではVCからの資金調達もしやすくなっている状況にあることから、エンジェル投資家に期待される役割としては、「事業や経営に対する助言やアドバイス」という側面が強くなっているとも言えます。
中には、著名なエンジェル投資家から投資されていることにより、サービス知名度が向上したり、その後の資金調達が容易になったりという効果がある場合もあります。

 このように、「いくらを何株で」投資を受けるかという株式資本的な観点だけでなく、「誰から」その投資を受けるかという観点も重要となります。

2 エンジェル投資でよく問題になる点

 以下ではエンジェル投資家でよく問題になる点についてご紹介します。

(1)出資してくれたエンジェル投資家が反社会的勢力だった

 出資の提案を持ちかけてくるエンジェル投資家が反社会的勢力であることもあり得ます。もし、反社会的勢力のエンジェル投資家に株式を割り当てしまうと、他の株主、投資家及び社会からの信頼を著しく損なったり、追加の資金調達に支障が出たり、将来的に上場が出来なくなる可能性があります。
 そのため、反社会的勢力のエンジェル投資家からは絶対に出資を受けてはいけません。
 ですので、エンジェル投資家から投資を受ける際には必ず、そのエンジェルが反社会的勢力ではないかを確認することが必要です。
 確認方法としては、信頼できる起業家や投資家、又は反社会的勢力の情報に詳しい調査会社・人などからヒアリングをすることが有効な手段です。

(2)エンジェル投資家の持株比率が高すぎる

 シード期に、エンジェル投資家に過剰に株式を渡してしまうことで、議決権の3分の1以上を失ったり(株主総会で特別決議が必要とされる株式発行や定款変更のためには3分の2以上の議決権が必要ですので、実質的にエンジェル投資家に拒否権を渡してしまうことにもなります)、資金調達がほとんどできないような状況になってしまうケースです。
 そもそもシード期のスタートアップは、将来の売上が本当に立つのか、今後企業価値が本当に上がるのかはわからないことも多く(研究開発の初期段階にあり、最終的はプロダクトが確定していないこともあり得ます)、この段階でのスタートアップの企業価値を正確に決定することは困難といえます。そのような中で、仮に上場まで十億円単位資金が必要なのに、数百万円程度の出資で持株比率をエンジェル投資家に数十%も取られてしまうと、その後の資金調達が困難となる可能性もあります。
「資金調達が困難となる可能性」というのは、例えば以下のような例です。

経営陣が資本金300万円(1株3000円✕1000株)で会社設立後、エンジェル投資家から1000万円(1株1万円✕1000株)の投資を受けた。
 経営陣とエンジェル投資家がそれぞれ1000株なので、エンジェル投資家は50%の株式を保有することとなった。

 この場合、ごくおおざっぱに言えば、経営陣が頑張って稼いだ分の5割はエンジェルのものになります。
 そうすると、次のラウンドでの資金調達の際に、VCが「一番頑張る経営者等の取り分が少なくて、何もしない投資家がたくさんの比率を持っているので、経営者や今後採用される役職員のインセンティブが相対的に弱くなり、このスタートアップはさほど成長しないだろう」と評価し、VCが資金調達を躊躇する可能性があります。
 シード期における企業価値はその性質上あってないようなものなので、エンジェル投資家から投資を受ける際には、創業価格からの倍率は基本的には考えずに、主に持株比率を重視すべきです。
 将来上場を目指すスタートアップのシード期の投資としては(事業の性質によってケースバイケースではありますが)、数百万円の資金調達であれば数%程度が望ましいと考えます。

3 エンジェル投資家の選び方

 以上を踏まえると、スタートアップがエンジェル投資家か選ぶときには、次のポイントを押さえておきましょう。

①不利益な契約(過剰な持株比率)を押し付けてこない
②事業や経営に対する実務的な助言やアドバイスが期待できる
③反社会的勢力ではない

上記の要件を満たしつつ、経営陣との相性がよい、新たな投資家や技術的な提携先等を紹介してくれるような人脈が豊富、既に著名な投資家である等の事情があれば、なお良いと考えます。

4 最後に

 本稿ではエンジェル投資について概説しました。
 エンジェル投資家からの投資を検討されるスタートアップの皆様のご参考になりましたら幸いです。