はてなーはお願いだから自閉症についての理解を深めてくれ
この記事を読んだ。
とにかくブコメがひどい。
例の記事を読んで、ぼくとしては「あー」という感じだった。
人間エミュレーションじゃん、と。
ぼくの人間関係には自閉傾向の人が多い。
ASDの診断を受けた人もいるし、自閉グレーだと言われた人、PDD(広汎性発達障害)と言われた人もいる。
そういう人間関係の中でよく使われる概念が「人間エミュレーション」だ。
ぼくは人を「自閉傾向のある人」と「それ以外」に分けていて、脳内やツイッターではそれらを「我々」「人間」と呼んでいる(これも、読む人によっては中二病だろう)。
そして、「我々」はそのままでは多数派の「人間」とうまくやっていけないので、エミュレータを動かしてそれで「人間」のふりをしている… というのが、「我々」の多く*2の世界観だ。
さて、元記事の人にかける言葉としては、「ASDについて調べてくれ。お前はASDとしては普通だ。」ということになるだろう(もちろん、素人のぼくがネット越しに勝手に診断するわけにはいかないので、診断を受けるきっかけになってくれたらと思う)。
それよりも、本題はブコメだ。
なぜこんなにも「中二病だろ」という声があふれるのか?
ひとつは、「はてなにはそういう傾向がありつつ『自分は普通だ』という自己認識でやっていっている人間が多い」ということがあるんじゃないだろうか。
人は(「我々」も「人間」も)「他者はだいたい自分と同じようなものだ」という認識を持ちやすい。
それが大きな間違いだ。
自閉症スペクトラム指数(AQ)のテストというものがある*3。
まあ、はてなにいるような人間はどうせ高い点数が出るだろうが、ぜひ周りの人にもやってみてもらってほしい。
↓みたいな体験ができるかもしれない。
自閉症スペクトラム指数(AQ)のチェックテスト(若林ら2003)、「こんなの誰がやっても高得点になるでしょ」と思って先輩二人(理学部と農学部)にやってもらったところ、それぞれ十点弱と十数点になって真顔になったのもいい思い出です。
— nooyosh (@nooyosh) May 12, 2015
ぼくは妻にやってもらったことがある。
そうすると、本当に「ありえない」選択肢を迷いなく選んでいく。
ぼくは自閉症に関する本をいろいろ読んでいたので、その裏返しとしての「健常者」という存在についてもだいたいは知っていたつもりだったが、そうして目の前で実演されたときの衝撃はやはり大きかった。
百聞は一見にしかずというやつだ。
ところで、ぼくは元記事の人のように「お前は中二病なだけだ」という心ない言葉をかけられたことはあまりない。
ひとつには、ぼくが見るからに異常だったというのもあるだろうが、もうひとつは「ぼくが知能が高かったから」だと思う(参考に、過去バズった記事にぼくはこうやって(8年前)Googleに入った - アスペ日記がある)。
ぼくのように知能が高いと、ASDだということも比較的受け入れてもらいやすい。
「一部に突出した能力を持つ自閉症者」というイメージが世間にあるから、それにぴったりハマるんだろう。
実際のところ、(何度も何度も言われていることだが)ASDだからといって高い能力を持っているとは限らない。
ぼくの自閉仲間にしても、知能が高い人もいればそうでない人もいる。
だが、ぼくから見ると、高い知能を持った「人間」よりも一般的な知能の「我々」のほうが圧倒的に付き合いやすい。
エミュレータをオフにして、「人間」から見ると非常識とされるような感性を共有して話ができるからだ。
知能が突出して高そうな兆候はないが、時代のおかげで無事に診断を受けて、療育も受けることができている。
例の記事の人は、ぼくのように突出した能力で免罪されてきたわけでもなく、うちの子のように比較的恵まれた時代に生まれてくることもできなかったのかもしれないが、それでも何とか自分の特性と折り合いをつけるところにたどり着いてほしいところだ。
最後に。
「我々」には「人間」に比べていろいろな欠点もあるが、ひとつの長所として「その場の雰囲気を読んで自然にそれに従う」という特性を持っていないということがある(それは社会適応にあたっては欠点になるのだが)。
元記事の人が寄ってたかって叩かれているもうひとつの理由(ひとつ目は上に書いた)は、「人間」が「こいつは叩いてもいい」という雰囲気を読んだということもあるだろう。
ぼくは、自分がそういう特性を持っていなくて本当によかったと思う。
元記事の人がASDじゃなかった場合の想定もしておく。
それで、元記事の人が「遅く来た中二病」だったとして、なぜ中二病が遅く来たのか? それがASDじゃない「他の何かの遅れ」だったとして、それは叩いていいものなのか?
人間はどうも「LGBT」とか「ASD」とかのラベルがないと他者の個別性を尊重できないようだ。
こういうタイトル(「自閉症についての理解を深めてくれ」)にはしたが、それは半分は釣りのようなものだ。
頼むから、かっこいいラベルなしでも、人間は一人一人それぞれ違うということぐらいわかっておいてくれ。
*1:厳密には一色ではないが、大勢として。
*2:ぼくから見て「我々」に属する人でもこういう世界観を持たない人もいる。そういう人は、「物事をざっくり捉える」という、ある意味人間的な能力がぼくよりさらに少ないようだ。逆説的だが、そういう人間的ないい加減さが、「我々」と「人間」という大雑把な認識を助けているように見える。
*3:「何かをするときには、一人でするよりも他の人といっしょにするほうが好きだ」から始まるやつ。
*4:子供の個人情報を書くのはどうなのかという意見もあるかもしれないが、うちの子に将来浅く関わる人間がこの記事を読む確率はほぼゼロだろうし、深く関わる人間にはどうせ知ってもらうことになる情報だ。