神戸新聞のサイトに「アナ雪ロングランの陰で…市民向け上映会が中止」なんて記事が載ってます。「アナと雪の女王」の市民向け上映会が配給元からの求めで中止に追い込まれているらしいです(上映を行なってしまった自治体もあり混乱が続いているそうです)。
しかし、そもそも、日本の著作権法の規定では、非営利・入場無料・無報酬という条件であれば、自由に上映できます(上演・演奏の場合と同様です)。
第38条1項 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。
地方自治体等が市民のために行なう入場無料の上映会は、通常はこの条件に合致するでしょう。もちろん、テレビ放送の録画を上映すれば複製権の侵害になりますし、ネットで配信すれば公衆送信権の侵害になりますが、条文をストレートに解釈すれば合法的に入手したDVDを上映するのは問題ないように読めます。
「アナ雪」の場合には、DVDが発売された現在もロングランで劇場公開が続いており無料上映会をやられてしまうと影響が大きいので、配給元やディズニーは困るのでしょうが、それは配給元やディズニーの都合であって著作権法の解釈とは関係ありません。
DVDによる非営利・入場無料・無報酬の上映会について、一般社団法人日本映像ソフト協会のFAQでは次のように書かれています。
著作権法には(1)営利を目的とせず、(2)観衆から料金を受けず、(3)実演家等に報酬を支払わない、場合には公に上映することができるとする規定があります。そのため、市販のDVDビデオを使って上映会を行うことは許されるとする見解があります。
(中略)
レンタル店用のDVDビデオは、家庭内視聴を目的とする個人のお客様への貸与の許諾があるに留まりますので、レンタル店がその許諾の範囲を越えて上映会のために貸与すると頒布権を侵害してしまうことになります。
同様に、市販のDVDビデオも、著作権者が家庭内で視聴する個人のお客様に販売することを許諾していることを考えると、公の上映を目的とするお客様に市販のDVDビデオを販売することは、頒布権という著作権法上の権利(著作権法第26条、第2条第1項第19号)を侵害することになるのではないかという問題があります。
さすがに断定はできず「頒布権の侵害になるのではないかという問題があります」といった奥歯にかなり大きなものが挟まった言い方になっていますが、いずれにせよ、この文脈で頒布権を侵害し得るのはレンタル店あるいは販売店であって、利用者(この場合は自治体)ではないですね。結果的に著作権侵害行為を生み出す可能性があるので上映はやめていただきたいという「お願いスタンス」ということでしょうか?利用者とレンタル店の間における契約違反という話はあるかもしれません(著作権侵害の話ではないですが)。
日本映像ソフト協会のFAQは、最後は「権利制限の一般規定(フェアユース・フェアディーリング)を持つアメリカやイギリスでも権利制限の対象とはなりがたい利用だと言えます」等と、他国の状況を持ち出した論点ずらし、で締めています。
あとは、一般消費者向けDVDをプレイすると最初に「このDVDは個人的使用向けに販売されたものであり、一切の上映行為を禁じます」といったような文面が流れますが、あれが契約として有効かという論点もあるかと思います。
ということで、現時点の日本では非営利・入場無料・無報酬のDVD上映会を権利者が禁止できる確固たる根拠はないように思えます。もちろん、「お願いレベル」で依頼して、それに応じることは当事者の勝手ではありますが。
追記: 社団法人日本映像ソフト協会の方からコメントが付きました。ポイントは、1)DVDを使って上映をすると非営利・入場無料・無報酬の上映であっても、販売店は頒布権を侵害することになる、および、2)頒布権が準物権的な権利であることから、「頒布権者は、誰に対してでも、頒布権侵害を惹き起こすことになるようなご利用を差し控えていただくよう申し上げることはできる」というということだと思います。
1)については田村先生の「著作権法概説」が引用されていますが、そこでは「ただし、厳密にいえば、非営利かつ無料で公の上映を行う者に対して、それと知りつつ複製物を提供した場合、上映者は38条1項で上映権の侵害にはならないが、公衆に提示されることに変わりはないので、譲渡者は頒布権を侵害することになる」(P160)と書かれており、反対解釈として、販売店が公に上映することを知らなければ頒布権の侵害にはならないとも言えると思います(頒布権許諾契約違反なので頒布権侵害になるという議論はあるかもしれません)(すみませんこの部分は2条1項19号の解釈の話だったのであんまり関係なかったです)(ついでに書いておくとコメで引用されている当該部分の「頒布者に対して頒布権侵害を問いうると解すべきである 」は「著作権者の許諾を得ていない複製物を用いて上映がなされた場合」の記載です、加えて「非営利かつ無料の上映は差止めに服さないことにして法的安定性を図る」との記載もあります(権利者との販売店の間の頒布権許諾契約違反なので頒布権侵害になるという議論はあるでしょう)、また、2)については元から記事に書いてあるように「お願いスタンス」で依頼する根拠にはなると思います。
いずれにせよ、グレーゾーンでありますので、ブログ記事に最初から書いてあるように「『お願いレベル』で依頼して、それに応じることは当事者の勝手」というのが私の立場です。
引用いただきましたQ&Aにつきましては、一般の方にわかりやすくまたなるべく簡略化した文章によってお伝えしたいという編集方針に基づいて編集されており、ご指摘いただきました頒布権の点につきましては、弊協会の考えをかなり省略した形で掲載しております。
この点に関しては、北海道大学の田村善之先生のご著書「著作権法概説[第2版]」(2001年 有斐閣)159頁でも「頒布者に対して頒布権侵害を問いうると解すべきである」述べられているところです。また、頒布権の消尽に関しましてはQ20で述べているように、ゲームソフト中古訴訟判決の射程は公衆提示目的の譲渡には及ばず(最高裁判所判例解説 民事篇 平成十四年度(上)(一月〜六月分)」(平成17年 法曹会)429頁)、公衆提示目的の譲渡に関する権利は消尽しないとする判旨との田村先生のご見解(「知的財産権法第5版」(2010年 有斐閣)463頁)と同様に考えております。
栗原先生ご指摘の点につきましては、頒布権が準物権的な権利であることから、頒布権者は、誰に対してでも、頒布権侵害を惹き起こすことになるようなご利用を差し控えていただくよう申し上げることはできると考えております。
特に、頒布を受けた方が公務員であるような場合には、頒布者に頒布権侵害をさせることは公務の廉潔性に照らしても問題があると考えております。
弊協会は、頒布権侵害に問われるのは頒布者だから、頒布権侵害させて公の上映を行っても構わないという考えは採っておりません。
また、諸外国の立法例を引いているのは論点ずらしではなく、半田正夫先生の「著作権法案内」(2014年 勁草書房)204頁や本山雅弘先生の「著作権法コンメンタール2」(2009年 勁草書房)310頁の記述等、学説上38条1項を条約との関係で限定解釈すべきとする見解があることから、38条1項の解釈には比較法的な検討が必要と考えてのことです。
弊協会の38条1項に関する見解は、上記学説と概ね同旨です。
ご指摘ありがとうございました。