以前に、男性から男性への「男らしく」という呪いがあるんじゃないかという記事を書きました。
「女性より男性の方が性別を理由とした制約や推奨を受けている」「男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしく育てるべきと考えている母親は4割、父親は6割」 - 斗比主閲子の姑日記
記事の中でも紹介したように「男は男らしく」という考えは、そこここで見かけます。
※グラフはI-特-5図 「男の子は男の子らしく,女の子は女の子らしく育てるべき」と考える人の割合 | 内閣府男女共同参画局から
ここからは「男らしく」の呪いの話
最近だと、例の神戸市の小学校への教師から教師への犯罪行為について、
梅沢富美男、教師いじめ問題で被害教師へ「あいつも男なんだろ。さっさとやり返せばいいじゃねぇかよ」 : スポーツ報知
一方で被害教師について「でもさ、いじめられた、いじめられたって言ってるけど、あいつも男なんだろ。さっさとやり返せばいいじゃねぇかよ。何で黙ってなきゃいけないんだよ」とコメントした。
こういう風に「男ならやり返せ」というコメントがありました。この人のキャラが言わせていることなのだろうけど、昔からこの感じでテレビでも使われているのだから、一定の需要があるのでしょう。
あとは、今アニメ化もして大人気の少年ジャンプの漫画『鬼滅の刃』。
「男なら」「男ではない」「長男だから」という言葉が結構出てきてた。序盤に錆兎が主人公の炭治郎に連発するのと、炭治郎が自身を鼓舞するためのものなんだけど、重要な場面で「男云々」が出てくるから「今どき珍しい」と思って眺めていました。他の少年ジャンプ漫画でもそんな明示的じゃないから。『呪術廻戦』なんて完全に男女平等パンチ路線。
同じく少年ジャンプの漫画『ゆらぎ荘の幽奈さん』が子どもに好ましくないと一部の親から散々言われていたのに、『鬼滅の刃』の「男云々」への指摘は私が見る限りほぼ見かけないから、多くの人は気にならないんでしょうけどね。炭治郎の「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」は思わず笑ってしまった。長男教か! 冗談でやっているのかもしれない。
俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかったとは (オレハチョウナンダカラガマンデキタケドジナンダッタラガマンデキナカッタとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
個人的な経験だと、今年海のイベントに行ったときに、サポートスタッフのお兄さんが私の友達の息子に「男なんだから頑張れ!」と声をかけて応援していたのとか。さすがに正面切ってそのお兄さんに「それおかしいでしょ!」と声はかけませんけど、「うーむ」と思って眺めていて、後でその子には「男の子だってできないことあるよねー」とフォローしておいた。
目くじらを立てるレベルかどうかは場面と使われ方で色々あるけれど、日々生活をしていて男女の区別をつけたり、男に頑張らせようとする発言を見かけることはしばしばあります。
一つ一つは小さいことであっても、その集積で「男らしさ」って作られていくことがあるよなと思っていて、そんなときに『逃げるは恥だが役に立つ』の続編となる最新10巻を読んだら、凄く面白かった。
ここからは『逃げ恥』10巻が面白いという話
漫画もドラマも単行本9巻のところで綺麗に終わったのだけれど、その続編が『Kiss』の2019年3月号から再開されました。私が凄く楽しみにしていた妊娠編で、しかもがっつり共働き家庭です。
以前の『逃げ恥』は、主人公のみくりが持論を力説するところが少々鼻持ちならないところがありましたが、
恋愛初期のキュンキュンする感じを味わいたい⇛『逃げるは恥だが役に立つ』 - 斗比主閲子の姑日記
心理学の院卒の理屈っぽい女と京大卒の童貞をこじらせた男という組み合わせなので、理屈っぽくなりがちで、しかも、主人公のみくりがグローバル化や派遣切りや女性の出産年齢について色々持論を力説するところがあったりと、鼻持ちならない部分があるので、読み手を選ぶところはあると思います(あと、ゲイに対する描写も酷い)。
※私の4年前の記事から。
今作は取材をしたことがうかがえる作りで、主張よりも具体的なエピソードてんこもりな内容になっています。つわりエピソードとかはあるある。
作品のテーマとして、合理的で夫婦で会話をして作り上げていく結婚生活というのは継続しています。今回新しいテーストが入っているなと思ったのは、男性への「男らしく」という呪いを取り上げているところがあること。
例えば、妊娠が判明後、平匡のお父さんがこんなことを言ってくる。
※『逃げるは恥だが役に立つ』10巻、p.146から
それに対して、平匡は真っ向から反論し、みくりもさりげなくアシストする。
あとは育児休業の、女性は取りやすくなっている一方で、男性は長く取るのはまだまだ会社から抵抗されることとか。
そう思って10巻のあとがきを読んでいたら、海野つなみさんがこう書かれていました。
なんで続きを描かねばと思ったかというと、女性の呪いについて描いたけど、男性の呪いについては描いていなかったな、というのが、モヤモヤと残っていたからです。
まあでも男性のことはよくわからないし、誰かが描いてくれたらいいなーとのん気に思っていたのですが、結局「自分で描くしかないか…」ということになりました。
海野つなみさんが「自分で描くしかないか…」と思うに至った背景はこれ以上特に説明はありません。
何にせよ、まだまだ日本社会で「男は男らしく」「男なら耐えろ」という呪いが残っていて、その呪いが弱者や女性だけではなく男性自身も生きづらくさせていると私は考えているので、『逃げ恥』の続編がこの点を描いていることは非常に素晴らしいなと思って読んでいました。漫画としても面白いですしね。呪いをかけるほうが完全に悪役ではないというのも良い。
ということで、『逃げ恥』10巻の宣伝でした。面白いよ!
※このポーズは謎。