次のような記事がありました。
日英両国のコロナ対応には今や明確な差がついた。イングランドの人口は5300万人と日本のおよそ半数だ。海外の医療サービス提供体制を比較研究しているキヤノングローバル戦略研究所の松山幸弘研究主幹は「イングランドのNHS(国民保健サービス)傘下病院の病床数は約10万1千。日本の国公立病院を合わせた34万1千床の3分の1程度だが、コロナ医療と通常医療の提供体制を機敏に調整し、入院患者のピーク時も医療崩壊を起こさなかった」と総括している。コロナとの共生実現はその帰結であろう。
イギリスでは新型コロナウイルスと共生が実現できていて、医療崩壊もまったく起こしていないので、日本も見習うようにという日経新聞の編集委員が書いた記事です。
この記事の内容を頭に入れて、8/12付けのFTの記事を読んでみましょう。
The NHS is being squeezed in a vice
Since then, however, the picture is much less clear. Between July and December 2021, England recorded 24,000 more deaths than in a typical year, but only two-thirds of these could be attributed to Covid. And this year, less than half of the 10,000 excess deaths accrued since May were Covid-related. In total, there have been just over 12,000 additional non-Covid deaths across the two periods.
ちょっとグラフは分かりにくく、FT定期購読していないと記事の中身は読めないかもなので補足すると、
イングランドで、2021年の7月から12月で超過死亡が2.4万人発生したうちの、2/3である1.6万人が新型コロナ由来と考えられ、直近、2022年5月以降の超過死亡1万人については同じく半分以下が新型コロナ由来だから、0.8+0.4で1.2万人ぐらいは、新型コロナ由来ではない謎の理由で亡くなっているが、
この謎の1.2万人は、A&E(救急外来)の待ち時間が伸びたことによるものではないかという、イギリスのNHS(国民健康保険制度)が医療崩壊していることを分析した記事となります。
この記事を書いた人はTwitterでも分かりやすく発信してくれているので、そちらを見てもいいし、
NEW: the collapse of emergency healthcare in England may be costing 500 lives every week, a close match for non-Covid excess deaths
— John Burn-Murdoch (@jburnmurdoch) 2022年8月23日
Let’s look at how we reach that conclusion, by taking a deep-dive into non-Covid excess mortality and its possible causeshttps://t.co/VTsPbc2ajH pic.twitter.com/UoZfYbZgd1
イギリス在住の日本人免疫学者の小野さんが引用Tweetで日本語で補足してくれていたりします。
英国の慢性的救急崩壊は深刻です
— Masahiro Ono 小野 昌弘 (@masahirono) 2022年8月23日
心筋梗塞・脳卒中の救急要請から救急車到着まで平均1時間かかり、1割の人は2時間以上の待ち時間
後期陣痛・糖尿病での場合は、平均3時間以上、1割の人は8時間以上の待ち時間https://t.co/E590TvXgA6
現在、英国で病気・怪我・出産で迅速な対応は期待できません
FT=Financial Timesはイギリスの経済紙だけあって、これに限らず、イギリスの医療体制が崩壊していることはずっと報道し続けています。
National Health Service | Financial Times
なお、FTは日経新聞が2015年に1600億円で買収しています。
日経がフィナンシャル・タイムズ買収、親会社から1600億円で | ロイター
はい、ここで、最初の記事に戻りましょう。
日英両国のコロナ対応には今や明確な差がついた。イングランドの人口は5300万人と日本のおよそ半数だ。海外の医療サービス提供体制を比較研究しているキヤノングローバル戦略研究所の松山幸弘研究主幹は「イングランドのNHS(国民保健サービス)傘下病院の病床数は約10万1千。日本の国公立病院を合わせた34万1千床の3分の1程度だが、コロナ医療と通常医療の提供体制を機敏に調整し、入院患者のピーク時も医療崩壊を起こさなかった」と総括している。コロナとの共生実現はその帰結であろう。
別にキヤノングローバル戦略研究所の分析を鵜吞みにするなとは言いませんけどね。ただ、自社の関係会社で、ずっとイギリスの医療崩壊は報道し続けているのだから、少しはそちらも参考にして記事を書いた方がいいんじゃないかと思ったのは私だけでしょうか。(小町話法)
ちなみに、イギリス(正確にはイングランドとウェールズ)での最近一週間の超過死亡は1000人ぐらいになっているようです。
タイラー・コーエン「イギリスにおけるポスト・コロナウイルスの超過死者数」(2022年8月21日) – 経済学101
上のFTの記事とはデータの基準がちょっと違うかもですが、日本と人口がざっくり半分ぐらいと考えると、日本基準なら一週間で超過死亡が2000人ぐらいです。
日本でも直近それなりの数の超過死亡が観測されているようなので、
イギリスの超過死亡は多いという点のみで、日本のほうが医療体制がマシなんてことは言いません。
ただ、少なくともイギリスの医療体制が、保守党による医療費削減で、ここ最近はずっとひっ迫(というか崩壊)状態なのはFTを読んでいれば周知の事実なので、簡単に、「イギリスは勝ち組!」みたいなことを、
ロンドンはほとんどの人がノーマスクです。イギリスが新型コロナを風邪と扱うようになってから半年近くが経ち、コロナ禍は過去のもになっています
— 佐竹実(日本経済新聞/Nikkei) (@SatakeMinoru) 2022年8月5日
一方でいつまでもマスクが外せない日本
日英の違いの一つは、子どもの成長や暮らしを優先しているかどうかだと思います
↓ https://t.co/TNiG2ppGa4
本当の状況は少し違いますので説明します
— Masahiro Ono 小野 昌弘 (@masahirono) 2022年8月6日
英国は病院の状況を鑑みて「生活規制必要なし」と判断していますが、英国の公的医療NHSは日常的に深刻に崩壊しているので日本の参考にはなりません。
英国のNHSでは基本は一般医(GP)に診てもらうのみです。専門医は紹介になりますが、異常な待ち時間です。 https://t.co/gjFPreOEcK
日経新聞の記者が感覚論で記事を書いているのを見かけると、「日経新聞はFTから、Factベースで記事を書くことを学んだほうがいいのでは?」と言いたくなるのは私だけでしょうか。(小町話法二回目)
今日はこんなところです。ではでは!