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本一冊

すべての積読は一冊の本から始まる

「河童・或阿呆の一生」芥川龍之介

かっぱの箸置き


順を追って芥川作品を網羅して読みたいと思っていた独りプロジェクトもいよいよ大詰め。

 

亡くなる昭和2年に発表された「河童」は命日である7月24日が「河童忌」と呼ばれる由来になった作品。

 

本のタイトル 河童・或阿呆の一生
著者名 芥川龍之介
出版社 新潮文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

 

空想上の動物かもだけど河童カワイイ

 

一目ぼれした箸置きの河童も愛嬌たっぷりだが、それを題材にするところに、芥川のユーモアを感じる。「河童」「或阿呆の一生」は自虐な面もわかりつつ、少し屁理屈?っぽく自分に響くのは、自分が能天気なせいもあるかもしれない。

 

単純にもっと気楽に人生を過ごしたい思いが強いだけ。と言いつつ、性格的にも時代背景も「ただぼんやり」と追い詰められてしまったのだなと。何度読んでみたところで… やっぱり、自分には読みづらい。

 

ラインアップは次のとおり。気に入った作品もありますが

 

 

そんな参っている芥川氏を感じてしまった箇所を紹介してみる。

 

蜃気楼

 

蜃気楼を見に行く過程の話で、作品としては比較的興味深く読めた。トーンは暗いですが。

 

(略)路の左は砂原だった。そこに牛車の轍が二すじ、黒ぐろと斜めに通っていた。僕はこの深い轍に何か圧迫に近いものを感じた。逞しい天才の仕事の痕、――そんな気も迫って来ないのではなかった。
「まだ僕は健全じゃないね。ああ云う車の痕を見てさえ、妙に参ってしまうんだから」

 

歯車

 

こちらの作品は… もはや、追い詰められた感がぬぐえず、その切迫した感じが印象に残ったかな。

 

wikipedia を見ると「同時代の作家の複数名が芥川の最高傑作と評している。」らしいが、個人的にはここで志賀直哉の「暗夜行路」を言及しているところが、なかなかのインパクトを受けた。

 

  • 一 レエン・コオト
  • 二 復讐
  • 三 夜

 

やっと彼の帰った後、僕はベッドの上に転がったまま、「暗夜行路」を読みはじめた。主人公の精神的闘争は一々僕には痛切だった。僕はこの主人公に比べると、どのくらい僕の阿呆だったかを感じ、いつか涙を流していた。同時に又涙は僕の気もちにいつか平和を与えていた。が、それも長いことではなかった。僕の右の目はもう一度半透明の歯車を感じ出した。歯車はやはりまわりながら、次第に数を殖やして行った。(略)

 

  • 四 まだ?
  • 五 赤光
  • 六 飛行機

 

それは僕の一生の中でも最も恐ろしい経験だった。――僕はもうこの先を書きつづける力を持っていない。こう云う気もちの中に生きているのは何とも言われない苦痛である。誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?

 

締めの文章が… 追い詰められてますね。この作品は今後も再読すると思う。

 

この一冊でした