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業界動向
Access Accepted第412回:新世代コンシューマ機が描く未来
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2014年2月22日,ついに日本でもPlayStation 4が発売され,新たなコンシューマ機の時代に突入した。すでに高画質なゲームグラフィックスをじっくり堪能したり,プレイの感触を味わっている人も多いはずだ。とはいえ,ダウンロード版タイトルの価格設定に疑問を感じている人もいるのではないだろうか。「Steam」のPCゲームのように,「予約なら10%引き」くらいのサービスをやってくれてもいいと思うのだが……。
ゲームソフトの適正価格とは
「ゲームソフトの価格は,いくらが適正なのか?」という議論は,ゲームプラットフォームの世代が替わるごとに繰り返し論じられてきた。PlayStation 1の時代,欧米でいわゆる「AAAタイトル」を制作するのにかかるコストは6〜7億円とされていたが,PlayStation 2になると,その額が30〜40億円となり,PlayStation 3時代には,各パブリッシャの看板になるような大作なら優に100億円を超えるほどに膨れ上がっている。
こうしたことを反映してか,PlayStation 2では49.99ドルが「フルプライス」だったのに対して,PlayStation 3の場合,それは10ドルほど上乗せされた59.99ドルとなっていた。
昨年(2013年)の今頃,PlayStation 4とXbox Oneの情報が明らかになってきたことを受けて,欧米の業界アナリストやジャーナリストの間では「ゲームソフトの価格が,69.99ドルになるのではないか」という観測が出ていた。新しい開発キットを揃え,新しいコントローラやインタフェースに対応し,さらにネットワークサポートを前提とするなど,開発費がさらに高騰すると予想されていたのだ。しかし,こうした予想はSony Computer EntertainmentとMicrosoftが出した「価格据え置き宣言」によってあっさりと覆った。
通常,パブリッシャが外部のデベロッパにゲームソフトを開発させた場合,小売店の取り分(25%)やパッケージ制作費(4%)などを引いていくと,最終的にパブリッシャの取り分として残るのは,販売価格の45%程度と言われている。つまり,59.99ドルで販売された場合27ドルで,ここから,デベロッパに支払った開発費の回収はもちろん,人件費や宣伝費,ゲームエンジンのライセンス料などを捻出しなければならない。
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ただし,これまで言われていた「ソフトの価格」は,パッケージ販売を前提にしたものだ。Valveが2003年にサービスを開始した「Steam」で一気に広まったデジタルディストリビューションは,このPlayStation 4やXbox Oneの時代,主流と読んでもいいほどの販売方法に育っており,「Battlefield 4」や「Call of Duty: Ghosts」といったゲームソフトが,PlayStation StoreやXbox Liveで直接販売されている。
我々消費者としては,小売店の取り分やパッケージの製作費などの多くが削減できるのだから,ゲームソフトをより安くダウンロード購入できてもおかしくないという気分になる。もちろん,そうなっているタイトルも少なくないものの,59.99ドルに据え置かれているか,せいぜい5ドル引きというタイトルも多いのはご存じのとおりだ。
デジタルディストリビューションが生み出す
ロングテール効果
PlayStation 4では,すべてのゲームソフトをダウンロード販売するとしており,Sony Computer Entertainmentは「デジタル・フューチャー」(デジタル化による未来)という言葉を使ってこうした次世代サービスへの取り組みを開始している。
PlayStation 3版からPlayStation 4のデジタル版へ10ドルでアップグレードできるプログラムや,PlayStation Plus会員向けのフリープレイ,そして2014年夏に北米でスタートするというクラウドゲームサービス「PlayStation Now」なども,こうしたデジタル・フューチャーの流れに沿ったものだ。
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ダウンロード版の販売は,費用の削減だけでなく,プラットフォームホルダーにとって中古マーケットの拡大を防ぐためにも有効な手段であり,さらにロングテール効果も期待できる。
これまで小売店でのパッケージ販売は「発売後6週間」が最重要だとされてきた。実際はさらに短いという話も聞くが,ともあれ,この期間にヒットにならないと判断されたゲームはすぐに棚の片隅に押しやられたり,中古品に混じってバスケットに放り込まれたり,あるいは返品されたりするという運命にあった。
この流れを大きく変えたのが上記のSteamだ。小売店の「棚」はもはや存在せず,諸般の事情でローンチダッシュに乗り遅れたタイトルでも,折々のディスカウントセールで旧作が大きな売り上げを生み出すロングテール効果を見せてくれたのである。
正直なところ,こうしたデジタル版のメリットを考えると,筆者としては価格をもう少し安くしてくれてもいいのではないかと思ってしまう。もちろん,Steamでもリリース当初のPCタイトルはフルプライスで売られており,さらに,デジタルディストリビューションに伴うサーバーの管理維持費など諸経費を考えれば,それほど大儲けしているわけではないのだろうとは思うが。
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そんな折,2014年2月18日から24日までという短い期間ながら,Crytekが開発したアクションゲーム「Ryse: Son of Rome」が,通常より20ドルも安い39.99ドルという価格に引き下げられた(本連載掲載時点でも継続中)。Microsoftは,これを「最初の実験」と呼んでおり,結果が良好であれば別のタイトルで同様のディスカウントを行うことに含みを持たせている。
北米最大の小売りチェーン,GameStopでは5〜10ドルの値引きで中古販売されているようなので,うっかり買いそびれたゲーマーにとっては非常に魅力的な価格帯だ。
前の世代を考えれば,PlayStation 4/Xbox Oneは少なくともこれから10年にわたってサービスが続けられていくことになる。新世代のコンシューマ機はスタートしたばかりであり,今後,消費者にとってより快適なサービスに変わっていく時間は十分にあるはず。デジタル販売は従来の売り切り型のスタイルを変えていき,それに伴ってゲーム開発にもより長期的なスパンで考えるデザインや販売戦略が求められることになりそうだ。気が早いかもしれないが,ゲーム産業の「次の10年」に期待したい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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