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Access Accepted第818回:アメリカの関税強化でゲームソフトのパッケージ販売が終焉を迎える?
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印刷2025/03/10 07:00

業界動向

Access Accepted第818回:アメリカの関税強化でゲームソフトのパッケージ販売が終焉を迎える?

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 ドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスに復帰してから100日が過ぎたが,アメリカの内政から外交まで,毎日話題に事欠かない。そんなトランプ大統領の経済政策は,友好国であるカナダにさえ関税強化を実行するなど,世界規模でさまざまな影響を与えている。ゲーム業界も無関係ではないだろう。


トランプ政権による関税強化


 アメリカ時間の2025年3月3日,ドナルド・トランプ米大統領は,カナダとメキシコからアメリカに輸入される製品に対して25%の関税を課すと発表した。今年初めから予告されていた関税強化だが,回避のための合意に達する余地がなくなったとしている。また,中国に対しては10%の関税を上乗せして20%としている。
 カナダからアメリカへの輸入品目は,主に原油や石油製品,メキシコからは輸送トラックや農作物などだ。中国からは,携帯電話やコンピュータ機器,バッテリーなどを含む電子機器を中心に,ボイラーや機械,家具,プラスチック製品など生産や生活に関わるさまざまな品目が輸入されており,同国からの全輸入品目のうち15%は,「玩具,ゲーム,スポーツ用品」のカテゴリーに含まれる。この3国は三大輸入相手国であり,2024年度も総計で40%を超えていた。

アメリカ議会にてスピーチするドナルド・トランプ大統領(ホワイトハウス公式Xより)
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 よく言われることであるが,関税による課税価格は,対象となる国家に対してではなく,その国へ持ち込む輸入業者が負うことになる。つまり,関税の影響を直接的に受けるのはアメリカ国内に基盤を持つAppleやAmazon,ウォルマート,中小の輸入業者といった国内企業だ。
 しかしトランプ政権の理想としては,この関税強化のビジョンは,カナダやメキシコから運び込まれる不法移民や麻薬の自主強化を促しつつ,アメリカ国内での供給力と雇用機会を増加させるものとしている。

 物流業界の分析を行うCircanaのCEOであるマット・ピスカテラ(Mat Piscatella)氏が,自身のSNSを使って配信したところによると,この関税強化の影響により,アメリカの大手パブリッシャが物理的なゲームソフトのパッケージ販売を諦め,デジタル販売へと完全移行するきっかけになると見ているという。
 これは,Nico Partnersのシニアアナリストとしてしられる「諸葛EX」(ZhugeEX)ことダニエル・アフマド(Daniel Armad)氏の配信に対してメッセージを書き残したもの。アフマド氏は,ゲームハードウェア,スマートフォン,GPU,そしてノートPCなどを中国からの輸入に頼っており,同様に多くのゲームディスクはメキシコで生産されていることから,アメリカの消費者の負担と国内需要への影響について述べている。

市場アナリストであるピスカテラ氏が同業者のアフマド氏にメッセージしたBlueskyアカウントをキャプチャしたもの
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 第1次トランプ政権末期の2019年に,対中追加関税率を25%にした際,ゲームなどの品目は除外されることになった。今回も,メキシコやカナダに対する関税強化で,一部の農業品目や自動車機械については適応外にする意向も示しており,ゲームやコンピュータ機器も以前と同様に追加関税から免れる可能性はあるが,果たしてどうなるのだろうか。


ゲームハードウェアやソフトの価格にも影響


 以前はE3(Electronic Entertainment Expo)を主催していたESA(Electronic Software Association)は,プラットフォームホルダーに加え,Epic Games,Amazon,Tencent Games,カプコン,スクウェア・エニックス,コナミなども参加する北米のゲーム業界団体だ。同団体は,今年2月3日付けで,関税について以下のような声明を発表している。

 「ビデオゲームは,あらゆる年齢層のアメリカ人にとって最も人気があり,愛されている娯楽の1つです。ビデオゲーム機器および関連製品に対する関税は,数億人のアメリカ人に悪影響を及ぼし,ゲーム業界のアメリカ経済への多大な貢献に悪影響を与える可能性があります。私たちは政権と議会と協力して,私たちのセクターが支える経済成長を維持する方法を見つけることを楽しみにしています。」

 前項で記したように,2019年の関税強化が検討された際にゲーム関連の輸入品目が対象外とされたのは,マイクロソフト,Nintendo of America,そしてソニー・インタラクティブエンタテインメントのプラットフォームホルダーが,3社合同となる書簡を送ったからだ(外部リンク)。
 その中で,もしゲーム用ハードウェアに関税強化が実施された場合には,アメリカ国内向けに販売されるハードウェアは25%の価格上昇になると試算されている。

2019年6月に発行された,プラットフォームホルダー3社によるアメリカ政府に向けた合同声明文より
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 すでに,北米のパブリッシャはソフトウェアの市場価格引き上げを検討している動向があるということを,当連載「第816回:ゲーム1本,100ドル時代は来るのか?」で解説しているが,ゲーム機に関税がかかることになれば,その流れはさらに増していくだろう。

 そうなるとパブリッシャ各社は,ソフトウェアについてはやはり物理的なパッケージの海外生産を諦め,デジタルへと完全移行していくことが予想される。アメリカにおいては,もはやリテールチェーンの大手であるGameStopでは,新作のパッケージゲームよりも,中古タイトルやグッズの陳列スペースのほうが遥かに大きい。ウォルマートやターゲットのような大型量販店でも,盗難を恐れて中身を抜いた状態でパッケージだけ置かれていることが多く,店員を探して棚を開けてもらったり,保管されている中身を入れてもらったりしなければならない。
 クリスマスや誕生日などのプレゼントとしての需要はまだまだ高いだろうが,すでにコロナ禍を経てゲーム販売のデジタル化は急速に進んでおり,今回の関税強化によって,パッケージ版はeコマースサイトや公式サイトでの販売以外はほぼ淘汰されてしまうことになっても不思議ではない。

すでにアメリカでは,店頭に一世代前の中古ソフトばかりが並び,パッケージ版として販売されるのは年次リリースされるような定番ゲームぐらいになっている
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 The Wall Street Journalオンライン版では,関税による自由市場の変化によって,「新しい大恐慌へのリスク」があるのではないかと懸念する記事が掲載されている。
 トランプ政権の強引な経済政策は,日本のゲーム業界や市場にも少なからず影響を及ぼすはずだ。もしかすると,大手パブリッシャがゲームの市場価格を押し上げ,「パッケージ版の販売はいたしません」というようなアナウンスをし,我々消費者はその変化を体験し始めることになるのかもしれない。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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