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印刷2022/10/22 12:00

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弟切草やドラクエの裏話も飛び出した「弟切草とかまいたちの夜の生みの親でありトルネコ&ドラクエ開発者が裏話を語る飲み会」の模様をお届け

 「弟切草」というゲームをご存じだろうか? 1992年3月7日にスーパーファミコンで発売されたソフトで,背景グラフィックスと臨場感あふれるサウンドや効果音にあわせて,画面全体にテキストが表示されることからサウンドノベルという名で呼ばれたアドベンチャーゲームだ。のちに流行したビジュアルノベルとあわせてノベルゲームの草分け的な存在でもある。

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 その「弟切草」や,「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」「かまいたちの夜」「街〜運命の交差点〜」といった人気作品の開発に携わり,現在はスマホアプリ「テクテクライフ」を開発している麻野一哉氏と,「かまいたちの夜2」のプロデューサーを担当し,「テクテクライフ」のプロデューサーである田村寛人氏を囲んで,当時のヤバい話を暴露して楽しもうという飲み会「弟切草とかまいたちの夜の生みの親でありトルネコ&ドラクエ開発者が裏話を語る飲み会」が,高円寺のトークライブハウス「高円寺パンディット」で10月18日に開催された。

 会場ではアルコールを飲んでいないと出てこないようなヤバい話から,これゲーム史に残してもいいのではという話まで,さまざまなエピソードが連発。本稿では,麻野氏のエピソードを中心に,タイトル別でまとめて紹介しよう。

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麻野一哉氏。当日の主役。「ドラクエ」シリーズや「トルネコの大冒険」シリーズ,「弟切草」などのサウンドノベルシリーズに携わる。現在フリーでありつつ,テクテクライフ取締役として開発に勤しんでいる。個人的に遊んでいるのは「ネオアトラス1469」で,リスペクトしているのは「シヴィライゼーション」
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田村寛人氏。「テクテクライフ」代表取締役プロデューサー。過去にチュンソフトで「かまいたちの夜2」のプロデューサーも務めた。ゲームよりも映画寄りの人物で,リスペクトしているのは「ブレードランナー」
司会進行役を務めたクドウヒロカズ氏。ガジェット通信,ロケットニュース24,Pouchの初代編集長。レジェンドなクリエイターとしての麻野氏をもっと知ってほしいと今回の飲み会を企画
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上京してなんとか入社したチュンソフトは恐ろしい職場だった!?


 最初に麻野氏がチュンソフトに入ったエピソードから紹介しよう。

 ゲーム業界に入りたくて上京した麻野氏だが,最初はコンピュータ系の会社に就職。研修期間の終わりごろ,友人から渡されたログイン(LOGiN。アスキーから刊行されたパソコン雑誌)に載っていたチュンソフトの募集広告を見て,履歴書と企画書を出したのがチュンソフト入社のキッカケだったという。面接の最初の5分ぐらいは真面目に応答していたが,中村光一氏(ゲームクリエーターでチュンソフトの創業者)にタバコを勧められたのをキッカケに,それからの2時間は「パックマン」が面白かっただとか,あのゲームが面白かったとかを延々としゃべり続けていたのだとか。

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 無事面接を終えた麻野氏だがチュンソフトから一向に連絡が来ず,電話したところ「合格です」との返事が。この時期はドラクエ3の追い込み時期で忙しく,連絡する暇がなかったらしい。しかし,忙しいのでまだ来なくていいと言われた麻野氏は,このままうやむやになるのを恐れ,交渉の末,なんとか出社することに成功する。
 出社した麻野氏は「ドラクエ3」のデバッグを担当することになるのだが,隣の部屋からは「遅いんだよ,おまえ! 早くしろ!」などという怒鳴り声と,何かを叩くような音が響き「なんて恐ろしい会社に来てしまったんだ……」と思ったそうだ。何が起こっているのかとドアを開けてみると,1人の男性がパソコンに向かって「おめぇ(処理が)遅いんだよ!」などと怒鳴りつけていたらしい。そこへやってきた中村氏が麻野氏を紹介したら,「あ,よろしくお願いします」と普通に挨拶が返ってきて,それはそれで驚いたという。なお,この叫んでいた男性は,ドラクエシリーズのプログラマーを務めていた山名 学氏だそうだ。


若気の至りで駆け抜けた「ドラクエ」制作時代


 麻野氏は「ドラゴンクエスト」シリーズのなかでは,「3」「4」そして「5」の開発に関わっている。

「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」
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 チュンソフト入社直後には「ドラクエ3」のデバッグおよびモンスターの行動パターンのデータ入力を担当。モンスターのデータ入力は「間違えないでくださいね。これ間違えると大変なことになるから,間違えないで!」と中村氏に何度も念を押されたのを覚えているという。デバッグについては,自分がバグを見つけると開発の人の仕事が増えるので,恨まれやすい嫌な仕事だなぁと思ったそうだ。

 「ドラクエ4」では,鳥山 明氏のモンスターイラストを独断で描き変えたこともあると明かす。当時の仕様書はすごく雑で,堀井雄二氏(ゲームクリエイター,作家,シナリオライター。「ドラゴンクエスト」シリーズの生みの親)のファックスには「モンスターが分裂する」「分裂」「分身」「合体」と書いてあって,どうしたらいいのかを考えた末に「合体」はキングスライムで再現。「分裂」は爬虫類のようなモンスターで再現したが,問題は「分身」だ。
 攻撃失敗時にアッカンベーされたらムカつくだろうとベロリンマンをベースに,本体に当たったらダメージ,分身に当たったら本体がベロを出させようと考えたという。そのためにはベロが出ていないベロリンマンのグラフィックスが必要だとグラフィックデザイナーの安野隆志氏(ドラクエのCGデザイナー)に相談に行ったら「そんなことできるわけない。鳥山さんの絵を変えるなんてできない」と猛反対。
 当時の麻野氏は,そっちの方がゲーム性として面白いのは間違いないんだと憤慨し,データ上でベロを消そうとコードを弄くり始めたのだとか。それを見ていた安野氏が根負けして,ベロの出てないベロリンマンを描いてくれたのだという。ゲームが面白ければ絵なんてどうでもいいと思っていた当時の麻野氏は「勝った!」と思ったそうだが,今にして思えば「最悪の人間だな」とふり返る。

 また,ドラクエ4の開発時期には,すぎやまこういち氏が頻繁に会社を訪れて,サウンド担当者が「このビブラートでいいですか」と聞くと,「ここはこうだよ」とその場で対応したというエピソードを披露した。もしかしたら記憶違いかもしれないとしつつも,すぎやま氏は現場でいろいろなものを書いていたのを覚えているという。

「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」
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 ドラクエ5では,中村氏から「堀井さんのところに修行に行ってほしい」と言われ,堀井氏のアーマープロジェクトに出向して,モンスターの原画を描いたり,街のマップを作ったりしたそうだ。だが,実はケンカするつもりでアーマープロジェクトへ向かったのだと麻野氏は語る。
 というのも,アーマープロジェクトから来る仕様書には無茶ばかり書かれており,行くのなら文句を言ってくれと送り出されたそうだ。しかし,いざ殴り込んでみたものの,麻野氏はアーマープロジェクトと仲良くなっており,これがキッカケでチュンソフトとアーマープロジェクトの関係が改善されたのだという。


パブリッシャ第1弾タイトルは「ドラシポ」から「弟切草」へ。開発は難航しつつも30万本のヒット作に


 「弟切草」は,サウンドノベルの第1弾であると同時に,チュンソフトのパブリッシャとして最初の作品であることから,さまざまな企画が寄せられた。その結果,「ドラクエよりもすごいもの」を目指して,「シムシティ」や「ポピュラス」といった当時流行していたゲームを盛り込んだタイトル,通称「ドラシポ」が企画された。しかし,みんな夢を語るばかりで具体的な形にはならなかったらしい。後日「アクトレイザー」を見て,「俺たちが作りたかったのはこれだ」と思ったとか思わなかったとか。

 難航どころか進まない企画。見かねた中村氏から飲みに誘われた麻野氏は「テキストアドベンチャーに興味はあるか」と聞かれたそうだ。「スーパーファミコンはグラフィックスもすごいけど,音もすごく良くなっているんだ。これに注目したゲーム作りをしたい」と中村氏から聞いた瞬間,高校時代に読んだ雑誌に連載されていた,筒井康隆氏の小説を思い出したという。
 この小説の欄外には「このシーンは○○という曲を聴きながら読んでほしい」というコメントが付いており,「小説の世界と連動して音楽や効果音が聞けたらすごく楽しいだろう,俺がやりたかったことができるのでは?」と思いついた麻野氏は企画を練り始めたという。

 最初の弟切草は絵がなく,わら半紙みたいな質感の画像を背景に文字と音楽,効果音だけで構成されていた。ここで飲み会に参加していた中西一彦氏(チュンソフトの創業メンバーの1人)が,発売前年の4月に新宿のセンチュリーハイアットで発表会を行ったが,前述のわら半紙背景のゲーム画面を公開したところ「こんなもん売れねぇ」と言われ大変なことになったと当時の様子を語る。
 これを受けて背景にグラフィックスが追加されることになり,当初は登場キャラクターの奈美とナオミにちなんで7月7日に売ろうと言っていたこともあったが,発売は翌年の3月まで延びてしまう。この時期,すでにシナリオは完成していたものの,スクリプトを弄っていたという麻野氏は,中村氏もグラフィックスの表示タイミングや効果音のタイミングの調整のため徹夜でスクリプトを打っていたと明かした。

「弟切草」
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 タイミングの調整としては,とくに文字の表示の仕方――「カラオケのように表示された文字に色をのせる」「1文だけ表示」「1ページ分一気に表示」「読点で区切る」といった画面構成について,かなり試行錯誤したと話す麻野氏。その結果,一文字ずつ表示して区点で止め,ボタンを押すと次の一文が始まるという形に納まった。

 のちに中村氏から「ゲームの顔」をものすごく意識して作っていたと聞かされたという。例えばドラクエならウインドウによる重層的なデータ表現,弟切草ならば文字の表示の仕方,トルネコなら半透明の全体マップ表示など,ほかのゲームにはない「顔」にこだわっていたという。麻野氏は弟切草を「こんなもんだ」と思っていたそうだが,中村氏はあえて絵の上に文字を出すということがサウンドノベルというゲームのユニークさにつながると意識していたのではないかと述べた。

 ちなみにシナリオについても微笑ましい(?)話が披露されたので紹介しておきたい。

 ドラクエ4の開発時期に,ある女性アルバイトがすぐに辞めてしまったが麻野氏は彼女に片想いしていたのだという。その後,弟切草のシナリオに着手した麻野氏は,会社では回りがうるさくて仕事にならないと自宅で作業していたそうだ。その合間にその女性に何度となく連絡をとり,昼間ながらも女性を家に招くことに成功し,2人でスーパーファミコンのシムシティを遊んでいたという。
 そこに鳴り響く玄関のノック音。せっかくいい雰囲気なのに……と玄関を開けると中村氏と中西氏が「いきなり家庭訪問だよー」と現れ,中に女性がいることに気付いた二人はニヤニヤしながら「あ,お邪魔しちゃったかな?」と漫画みたいな展開になったのだと話す。これには会場も大爆笑。中西氏も「仕事をしているはずなのに,(麻野氏が)しどろもどろになって言い訳していた」のを覚えていたと話しつつ,そのあと4人がどうなったのか麻野氏も中西氏も記憶にないという。
 このエピソードがそのままゲームになったわけではないが,この女性が弟切草のヒロインである奈美のモデルとして,そして弟切草の主人公は麻野氏がモチーフとしてシナリオが執筆されたとのことで,ある意味では弟切草は麻野氏自身のラブストーリーと言えるのかもしれない。

 紆余曲折の末に産み出された弟切草は「とにかくパブリッシャとしてリリースすることが第一(中西氏)」とかなりのプレッシャーがあったようだが,11万8000本の注文を受け,初回13万本を生産。その後,5000本単位で増産を重ね,最終的には30万本を売り上げる大ヒットになった。


「ローグ」を布教して開発にこぎ着けた「トルネコの大冒険」


 「トルネコの大冒険」シリーズや「風来のシレン」シリーズは,パソコン黎明期に登場したテキストベースのダンジョンRPG「ローグ」をベースにしたゲームだ。開発のキッカケは,非常に取っ付きの悪い「ローグ」をチュンソフトで洗練させて,スーパーファミコンのプレイヤーに問いたいと中村氏に企画書を持っていったことだが,ローグの見た目が地味だったためか当初は難色を示されたそうだ。その後,ローグの面白さを分かっているスタッフが1週間ほど中村氏にレクチャーしたところ「なるほど! これは面白い!」と開発がスタートしたのだという。

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 タイトルに「不思議のダンジョン」というジャンル名が付いているのは,麻野氏が単に「トルネコの大冒険」だけだと,プレイヤーはドラクエみたいなRPGを想像するのではと思ったからで,ジャンルが全然違うことをアピールするために,「ジャンル名を作ったほうがいい」と中村氏にしつこく言った結果なのだという。
 また,麻野氏は「不思議な」ではなく「不思議の」にしたかった理由として,しりあがり寿氏の初期の漫画「エレキな春」の名詞に「な」を付けるのが新しい,格好いいと思い,その逆をやってやろうと「不思議の」を推したそうだ。


「かまいたちの夜」のロケ地で無茶ぶりした麻野氏。続編では田村氏が中村氏の無茶ぶりに悩むことに


 サウンドノベルシリーズの第2弾「かまいたちの夜」は,「スーパーファミコンやPlayStation版を含めて125万本も売れ,弟切草をはるかに超えるほど爆売れした」と中西氏は話す。

画像はスマートフォン版「かまいたちの夜」
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 麻野氏は作中のペンション「シュプール」のモデルになったペンションクヌルプでのロケに二日酔いで大遅刻し,夕方にペンションに着くと中村氏や中西氏ら先に来ていたメンバーが不愉快な顔をして「麻野さん,遅すぎるよ」と言われたことを覚えているという。結局,その日だけでは撮影しきれなかったため,後日,グラフィックデザイナーたちと向かったところ,三鷹から長野までの電車内で金縛りにあったのだとか。
 そのほかにもペンションクヌルプで「ペンションの入り口のガラス扉から腕が出るシーンのためにガラスを割ろう」とお金を払うからガラスを割っていいかと交渉したところ,なかなか手に入らないガラスなので勘弁してと断られたそうだ。そのほかに,地下室の中で必至に犯人を捜すシーンは,真夏のトラックの中で汗だくになって撮影したという裏話を明かした。

 シナリオについては,我孫子武丸氏(推理作家)がたくさんの文章をノリノリで書いていて「ここまで書いたからあとはまかせるよ」と残りの部分や分岐については麻野氏が好きなように書いたという。麻野氏は当時の模様を「文化祭のようだった」とふり返った。

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 来場していたファンがPlayStation版のかまいたちの夜に追加されていたフローチャート機能が素晴らしく,感動しながら遊んでいたと話すと,チュンソフト内では売れたわりに評価されなかったと,2021年11月に亡くなったプログラマーの大森田不可止氏(ナムコやチュンソフトで活躍したプログラマー。弟切草の飛んでいる魂や,かまいたちの夜で雪を降らせる行列演算をプログラムした)がこぼしていたという裏話を披露し,結構投げ出すこともあったけど魅力的な人だったと,大森田氏を知る来場者たちと偲んでいた。

 さて,一方で「かまいたちの夜2」については,ファンもアンチも結構いるとのこと。プロデューサーを務めた田村氏は「かまいたちの夜1は作品として美しすぎて,それを望まれていたのではないか」と分析しつつ,「かまいたちの夜2は今(PlayStation 2)の映像に耐えられるようにしてくれ。マトリックスのようにトリッキーな映像にしてくれ」と中村氏に言われ,めちゃくちゃ悩んだという。

「かまいたちの夜2」
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 その結果,外部の映像作家や音楽家などに声をかけ,シナリオも我孫子氏のほかに2人の作家を招くなど豪華な布陣で制作を進めたが,お客さんからは「かまいたちの夜1みたいになってない」「気持ち悪い」「グロい」「映像がひどい」との声が相次ぎ,それに傷ついた田村氏はチュンソフトから離れてしまう。あれから何十年経ち,「かまいたちの夜2からゲーム好きになりました」という人も出てきて,救われた気分になったと話した。


制作自体は精神的にキツかったものの。ゲームでこそ表現できる我が儘を貫いた「街」


 サウンドノベルシリーズ第3弾「街」は1998年1月22日にセガサターンで発売されたタイトルで,複数の主人公の視点をザッピングで切り替えてシナリオを読み進めていくシステムが話題となった。

「サウンドノベル 街 -machi-」
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 しかし,弟切草やかまいたちの夜のシナリオは恋愛がベースにあったが,街は8人の主人公が織りなす群像劇とまるで趣が違う。この大きな変更には,弟切草のシナリオを手がけた長坂秀佳氏が関わっていると麻野氏は明かす。
 「新しい次のゲームが作りたい」と話す長坂氏に応えた麻野氏だが,長坂氏が次々とライターを雇うものの全然(シナリオを)書かなかったという。このままでは先に進まないと考えた麻野氏は,長坂氏を一旦スタッフから引き離して弟子のライターをチュンソフトに抱えようと画策するが,そんな中で3日間,東南アジアに旅行に行って帰ってきたら,長坂氏が「全員の弟子を破門する!」と宣言していてすべてが終わっていたそうだ。
 麻野氏は「街」の制作については,クリエイターとして制作するよりも,人間関係,政治関係をまとめていくのが初めてで本当にキツかったと当時の様子を語った。

 街については続編の話も期待されていたが,実現には至らなかった。ただ,ファミ通で「続編を期待しているゲーム」に街が入り続けていて,それは本当に嬉しかったという。
 一方で,儲からないから絶対にチュンソフトは作らないだろうなとも思っていたそうだ。結果的に,街の続編的なゲーム「428」をイシイジロウ氏(ゲームデザイナー)が作ってくれて,ファンが喜んでくれて良かったと思ったと語る。

 街で麻野氏がもっともこだわった点は,「絶対に物語を収束させないこと」だと話す。1人1人がバラバラの人生を送っていて,すれ違ったとしても結果的にまったくドラマチックにならないことを体現したかったという。別々の人生を歩んでいる人たちがたまたま会ったときに,何のドラマもなく散文的に死んだり,あるいは何かを投げかけていたりというのが「街」のテーマだったのだとか。
 麻野氏にとっては実験作だったそうで,ゲームというメディアだからこそできる,物語が分裂したまま,ただただ虚無の中に終わるというのをやりたかったと力説した。


サービス終了から復活を遂げた「テクテクライフ」。来年に向けた大きなアップデートの準備中?


 さて,最後に現在サービス中のスマホアプリ「テクテクライフ」iOS / Android)の話題についてまとめていきたい。

 7年前にレベルファイブを退社し,自分で会社を立ち上げたいと思っていた田村氏。そんな折に,スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏から「Ingress(イングレス)」のファンイベントを見に行こうと言われ,そこでIngressのAPIを開放するので位置ゲームを作ってくださいと言ってもらったのがキッカケで,麻野氏に声をかけたそうだ。
 そのときに麻野氏が「実はIngressをやりながら,これをやっているんだよ」と,塗りつぶした紙の地図帳を見せられ,「Ingressはチェックインのキッカケにするだけで,地図を塗るのが本当の楽しみ」だと言われたそうだが,もう少しメジャーなことをやろうと答えたところ,麻野氏は「うーん,ドラクエだな」と返事をしたという。

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 いまで言うところの「ドラゴンクエストウォーク」のように,IngressとRPGを合体させたものを作ろうとスタートした「テクテクテクテク」。ドワンゴの川上量生氏(現KADOKAWA 取締役)から「お金は全部出すからウチでやろう」と誘われ,ドワンゴグループの「テクテック」を設立。
 しかし,テクテクテクテクは,塗りとRPGの2つの要素があったが,リリース時にRPG部分でマネタイズは考えていても,塗り部分でマネタイズしておらず,それが響いたと話す田村氏。後のアンケートで分かったこととして,RPGが面白いと答えたのは1割程度だったのに対し,塗りの面白さは9割もあったのだという。
 結局,うまくいかず「テクテクテクテク」のサービスは終わってしまうが,また復活させようと麻野氏と話し,見事「テクテクライフ」として復活を遂げた。
 田村氏は,麻野氏のあの地図帳を見て一緒に会社をしようと言ったのに,それ(地図の塗り)を入れなかった,メインに据えずにRPGを推したということが一番の反省点だったとふり返る。

「テクテクライフ」
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 会場でテクテクライフの質問や要望を求めたところ,「東京都を100%塗りにさせてください!」との要望が挙がった。実は沖ノ鳥島や硫黄島など通常では行けない場所も東京都として設定されており,そのせいで100%塗りができないのだという。
 この件についてずっと考えていたという麻野氏は「僕はテクテクライフでどこかの県を100%塗れとは言っていない」と答え,会場は大笑い。もっとも,さすがにそれはひどい話なので,現在絶対に行けないところを無くす手だてを取っているとのことだ。
 それらを解消する手段として「行けないところは消す」「日本全国を90%とか95%を塗れば,隣塗りで100%にできる」の2種類を考えており,これらを併用するかどうかを検討していると説明した。もちろん,到達困難地域に対するロマンもあることは承知しており,それはそれで大事にしたいとのことだ。

 また,別の来場者からは「テクテクライフの全世界版はいつ出るんですか」という質問には,麻野氏から「儲かったらすぐに出します。まず出すなら,台湾,韓国,アメリカで,アメリカは都市部からかな」と返答。田村氏は「そういう話はいただいています」とコメントしつつ,「売れたらね」と付け加えた。
 地図自体はオープンストリートマップが全世界にあるのでローカライズやカルチャライズを任せられるところがあれば,あとはお金次第で十分可能なので,韓国,台湾,ハワイはやりたいと展望を述べた。

 そして,今後のテクテクライフのアップデートとして田村氏から,来年“メチャクチャ”アップデートする予定があることが明かされた。その内容を関係者(テクテクライフを遊んでいなかった)に説明したところ「それだったら俺始めるわ」というほどの機能が盛り込まれるという。まだ完成には至っておらず公開できるものではないが,Ver2.0に匹敵するような内容になるだろうとのことだった。

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 3時間にも及ぶ飲み会だったこともあり,まだまだ笑える話や興味深い話もあるが,残念ながらすべてを載せることは叶わないので本稿はここで締めとしたい。今回の飲み会を主催したクドウ氏は,まだまだ麻野氏に聞きたいこと,そしてもっとみんなに麻野氏を紹介したいとのことで,2回めの飲み会も前向きに考えているとのこと。東京近郊で麻野氏や麻野氏の制作したゲームのファンは,ぜひ次の飲み会への参加を検討してみてはいかがだろうか。
 なお,この飲み会の模様は,有料(2500円)かつ11月1日23:59までの期間限定となるが,前半の2時間部分がツイキャスでアーカイブされている。気になる読者は視聴してみよう。

「ゲーム開発者が裏話を語る飲み会」ツイキャスアーカイブ


お開きになったあと,麻野氏の回りにはもっと話をしたい,サインが欲しいというファンが集まり交流を深めていた。この距離の近さは,飲み会ならではなのかもしれない
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