76
ロ
総
ー
タ
リ
ー
エ
ン
― 昭 和43年9月2日
ジ
ン
受 理―
説
東洋工業株式会社
1.
NSU‑バ
が,は
は
山
本
健
一
し が き
ンケ ル 型 ロ ー タ リー エ ンジ ン の 試 作 成 功
じ め て公 表 され て か ら約8年
間 に はNSU,バ
を経 過 した 。 こ の
ンケ ル 両 社 を含 め,世
界 で18社 が 開
発 グ ル ー プ に加 わ り,そ れ ぞ れ の 応 用 分 野 にお け る実
用 化 をめ ざ し開 発 努 力 を続 けて い る。 し たが つ て,そ
の 開 発 状 況 は きわ めて 多 岐 にわ た り,多 彩 な成 果 を挙
げ て き た。
表1
NSU・ バ ンケ ル 型 ロー タ リー エ ンジ ン 提 携 社 名
図1
ロー タ リー エ ン ジ ン を 塔 載 したNSU
(上);NSU
KKM612型
R0 80
ロー タ リー エ ン ジ ン
外 観(下)
こ の うちす で に企 業 化 段 階 に は いつ た ロ ー タ リ
ー エ ン ジ ンは,NSU社
が1962年
秋 の小 型 ボ ー ト
に は ス ポ ー ツ カ ー用1ロ
(b)
(a)
用 水 冷 エ ンジ ン生 産 開始 を皮切 りに,196(年9月
ー タ ー エ ンジ ン,1967年
秋 には 図1に 示 す 外 観 の乗 用 車 用2ロ ー タ ー エ ン
ジ ン と相 つ い で 市 販 を行 なつ て き た1)2)。
ま たFichtel
&
Sachs社
は,図2(a)に
示す汎用空
図2
Fichtel
&
Sachs社
空 冷 ロ ー タ リー エ ン ジ ン
― 「
燃 料 協 会 誌 」 第48巻
第502号(1969)―
77
(a)
上:コ
スモ ス ポ ー ツ外 観
下:同
上塔載 エンジン
図3
冷 小 型 エ ン ジ ンか ら図2(b)に
(b)
ァ ミ リ ア ・ロ ー タ リ ー ・ク ー ペ ・外 観
下:同
上塔載エ ンジン
東 洋 工 業 に お け る ロ ー タ リー エ ン ジ ン塔 載 車
み る よ うな エ ンジ ンへ
ま りをみ せ て い る。
と しだ い に生 産 機 種 の拡 充 を は か りつ つ あ る3)。
一 方 わ が 国 にお い て も東 洋 工 業 が1967年6月
,2ロ
ー タ ー エ ンジ ン を搭 載 した 「コス モ ・ス ポ ー ツ」 の 市
販 開 始 に引続 き,1968年7月
上:フ
以 下 最 近 の 自動車 用 エ ンジ ン を主 体 に,そ の構 造 概
略 と技 術 的 進 歩 の一 端 を紹 介 す る 。
2,
には 「フ ァ ミ リア ・ロー
表2と 図4か
タ リー ・ク ー ペ 」搭 載 エ ンジ ンの本 格 的 生 産 が始 ま る
出 力 性 能
ら図6に 主 要 諸 元 と全 開 出力 性 能 を示
した 。
な ど,ロ ー タ リー エ ンジ ン実 用 化 の テ ンポ は急 速 な高
表2
エ
ン
ジ
ン
主
要
諸
元
ロ ー タ リ ー エ ン ジ ン(山
78
図6
本)
フ ァ ミ リア ・ロ ー タ リー ・ク ー ペ エ ン ジ ン性能
曲 線(東 洋 工 業)
図4
KKM612エ
ンジ ン性 能 曲 線(NSU)
東 洋 工 業 の場 合,い わ ゆ るNSU‑バ
ンケ ル 型 ロー タ
リー エ ンジ ンの 生 産 発 売 が 日本 で 最 初 で あ り,し か も
な お,海 外 にお け る過 去 の実 績 が きわ めて 限 られ て い
る とい う事 情 か ら,要 求 され る諸 要 素 の うち,耐 久 性
信 頼 性 を最 重 視 し た 構 造 を エ ンジ ン 開 発 の 基 本 に し
た。 した がつ て 出 力性 能 は,い たず らな高 性 能 の追 求
で な く,柔 軟 な運 転 性 状,乗
りや す い性 格 の実 現 に ポ
イ ン トが置 かれ て い る。
こ こ で,こ れ ら ロー タ リー エ ンジ ンの 大 き な メ リ ッ
トと され る コ ンパ ク トさ を,エ ンジ ン重 量 の 面 か ら レ
シ プ ロエ ンジ ン と比 較 して 表3に 示 す 。 比 較 対 象 と し
た レ シプ ロエ ン ジ ン は90〜130PSの
出 力 を もつ 国 産
エ ン ジ ン11例 の平 均 値 で あ る。
3.
ロ ー タ ー配 列
乗 用 車 用 エ ンジ ン と して 強 く望 まれ る 運 転 の容 易
さ,あ る い は振 動 ・騒 音 な どの 点 か らエ ンジ ン ・ トル
ク変 動 に 注 目 した結 果,NSU社
列2ロ
東 洋 工 業 いず れ も直
ー タ ー 方 式 を採 用 して い る。
2ロ ー タ ー エ ンジ ンの 出 力 軸 で あ るエ キ セ ン トリ ッ
図5
コ ス モ ・スポ ー ツ エ ン ジ ン性 能 曲 線(東 洋 工 業)
表3
ク ・シ ャ フ トは図7の 外 観,あ
自 動 車 用 エ ン ジ ン と し て の 重 量 比 較
る い は 図8(a)の
縦断
― 「燃 料 協 会 誌 」 第48巻
第502号(1969)―
79
を生 じ,合 成 トル ク は 図9(a)の
ご と くマイ ナ ス領 域
を示 す こ とが ない 。 こ の結 果,2ロ
トル ク変 動 特 性 は 図9(b)の4気
よ り,む し ろ 図9(c)に
ー タ ー エ ン ジ ンの
筒 レシ プ ロエ ンジ ン
示 した直 列6気 筒 エ ンジ ンの
そ れ に近 い 特 性 を もつ 。
完 全 バ ラ ンス が 図 れ る回 転 メ カ ニズ ム を主 体 とす る
構 造 上 の有 利 さ に加 え,滑
U‑バ
らか な 回転 特性 を もっNS
ンケ ル 型 ロー タ リー エ ン ジ ン は,コ
ンパ ク トさ
と使 い 易 さが と く に望 まれ る 自動 車 用 エ ン ジ ン の分 野
で 高 い 評 価 を受 け る一 要 因 とい え よ う。
4.
図72
ロー ター エ ン ジ ン エキ セ ン トリッ ク シ ャ フ ト
(東 洋 工 業)
ハ ウジング
レ シ プ ロ エ ン ジ ン の シ リ ン ダ ブ ロ ッ ク,シ
リン ダ ヘ
ッ ド に 相 当 す る エ ン ジ ン ・ハ ウ ジ ン グ に つ い て,東
工業
洋
「フ ァ ミ リ ア ・ロ ー タ リー ・ク ー ペ 」 の 例 を 図10
に示 す 。
(b)
(а)
図8
図10
フ ァ ミ リ ア ・ロ ー タ リ ー ・ク ー ペ 塔 載 エ ン ジ ン 構 造 図
2ロ ー タ ー エ ン ジ ン ハ ウ ジ ン グ構
成(東 洋 工 業)
ロー タ ーハ ウジ ング は放 熱 効 果 を主体
に した観 点 か らア ル ミ合 金 製 で,ト
ロコ
イ ド軌 道 面 は硬 質 ク ロー ム メ ッキ が施 さ
れ,倣 い研 削仕 上 げ で あ る。
一 方 ,サ イ ドハ ウジ ン グ は生 産 性 を考
慮 した結 果,シ
エル モ ール ド鋳 造 の薄 肉
鋳 鉄 製 で,そ の側 壁 摺 動 面 は高 周 波 焼 入
を行 ない,耐 摩 耗 性 と生 産 性 を両 立 させ
て い る。
む ろ ん,こ れ らハ ウ ジ ン グ素 材 材 質,
耐摩 耗 表 面 処 理 はエ ン ジ ン性 能 を主 体 と
(a)
2ロ
ー タ ー
エ ン ジ ン
図9
(b)
直‑4気
筒 レシ
プ ロエ ン ジ ン
(c)
直‑6気
筒 レシ
プ ロテ ンジ ン
トルク変 動特性の比較図
す る運 転 条件 に 関 連 づ けて 決 定 され る。
こ の 意 味 か ら純 然 た るス ポ ー ツカ ー と し
て一 層 過 酷 な使 用 状 況 の連 続 が予 想 され
面 構 造 図 か らわ か る よ う に,180° の 位 相 で 設 けた2つ
の 偏 心 輪 部 分(ク
る 「コス モ ・ス ポー ツ」 の場 合 は,サ イ ドハ ウジ ン グ
ラ ン ク ・ピ ン相 当)で そ れ ぞ れ ロー
も冷 却 効 果 にす ぐれ た アル ミ合 金 製 と し,そ の 側 壁 摺
タ ー を さ さえ て い る。 そ こで180℃間 隔 で 点 火 され る ロ
動 面 は 熱 的 お よび 摺 接 負荷 条 件 を勘 案 して 高炭 素 鋼 と
ー タ リー エ ンジ ンの 各 作 動 サ イ クル は ,こ の 出 力軸 回
モ リブ デ ン材 の 金 属 熔 射被 覆 を施 す な ど,耐 久性 確 保
転 角 で270°に わ た る とい う特 異 さか ら,2ロ
に は細 心 の 留 意 を施 して あ る 。
ーターエ
ンジ ンの 前 後 ロー タ ー の爆 発過 程 に は オ ーバ ー ラ ップ
図12 に摩 耗 傾 向 の実 測 例 を示 す。
ロ ー タ リ ー エ ン ジ ン(山
80
図11
本)
モ リブ デ ン 高 炭素 鋼 溶 射 被 覆 層 を 採 用 した サ
イ ドハ ウ ジ ン グ(東 洋 工 業)
図13
ガ ス ・オ イ ル シ ー ル エ レ メ ン ト(東 洋 工 業)
選 定 に よ っ て 完全 に解 決 され た 。 これ らカ ー ボ ン シー
ル の実 用 化 に あ た つ て は,広 範 囲 の 強 度 試験 と非 破 壊
検査 に よ る品 質 管理 が行 な わ れ,信 頼性 が確 保 され て
い る。 ち な み に,カ ー ボ ンシ ー ル の摩 耗 は 走 行1万
ロ当 た り0.07〜0.1mmの
キ
範 囲 に あ り,ト ロ コイ ド面
ク ロー ム メ ッキ 層 の摩 耗 は ほ とん ど無 視 で き る程 小 さ
い。
一方
,NSU社
は トロ コイ ド軌 道 面 にElnisi1と 呼 ぶ
プ ロセ ス を採 用 し,シ
リコ ン カー バ イ ドの 粉 末 を添 加
した ニ ッケ ル メ シキ で 高硬 度 層 を確 保 し,特 殊 鋳 鉄 ア
ペ ック ス シ ー ル との 組 合 わ せ で 好 結 果 を得 て い る とい
われ る。
半 径 方 向 に2重 配 置 と し,ラ ビ リンス 効 果 に よ りシ
ー ル 性 能 を高 めた サ イ ドシー ル に は,ア ペ ックス シ ー
ル ほ どの 困 難 さ は な く,シ ー ル 断 面 形 状 の選 定 に注 意
し,シ ー ル 溝 壁 とサ イ ドハ ウ ジ ン グ側 壁 面 の問 との接
図12
サ イ ド ハ ウジ ン グ の 摩 耗10万km走
行後
(東 洋 工 業)
触 に確 実 さ を期 して あ る。 使 用 材 質 は ピス トン リン グ
鋳 鉄 で あ る。
これ ら ガス シー ル 部 分 の潤 滑 は,減 摩 作 用 と同 時 に
エ ンジ ン作 動 室 を構 成 す る5つ のハ ウジ ング は お の
油 膜 を媒 体 とす る気 密 保 持 の点 か ら重 要 で あ る。 当初
お の ダ ウエ ル ピ ン,テ ン シ ョンボ ル トを併 用 した サ ン
の テ ス トエ ン ジ ン で は50:1な
ドイ ッチ 構 造 で 均 質 な締 付 け面 圧 を保 ち,熱 膨 脹 に対
合 油 燃 料 を用 い た り,ロ ー タ ー側 面 か らの洩 れ オ イ ル
応 させ て あ る。
量 を適 当 に コ ン トロ ール す る 方 式 な どが 用 い られ た
5.
ガスシール
エ ン ジ ン の ガス シ ール,と
りわ け ア ペ ック ス シ ー ル
い し100:1程
度 の混
が,実 用 面 にお け る不 便 さ,困 難 さか ら現 在 は 主 と し
て可 変 ス トロー ク の プ ラ ンジ ャタ イ プ ・メ ー タ リ ング
ンケ ル型 ロー タ リー
ポ ン プ を使 用 し,エ ンジ ン回転 数 お よ び 負荷 に応 じて
エ ン ジ ン の最 大 の 問題 点 で あ っ た と い え る。 す な わ
計 量 され た オイ ル を 吸気 系統 の 特 定 の場 所 か ら吸 入 さ
ち,開 発 初 期 に使 用 され て い た金 属 シ ー ル で は トロ コ
せ る<<分 離 給 油 シ ス テ ム>>が 採 用 され て い る。
は気 密 性,耐 久 性 の点 でNSU‑バ
イ ド軌 道 面 に波 状 痕 を伴 う異 常摩 耗 を発 生 し,エ ンジ
ン耐 久 性 を 限定 す る大 き な要 素 とな つ て い た 。摩 擦 振
動 に 起 因 す る この 波 状 摩 耗 は,東 洋 工 業 の 場 合,自 己
潤 滑 性 を も ち,振 動 減 衰 能 にす ぐれ た 特 殊 カ ー ボ ン シ
ール 材 を開 発 し,そ れ に適 合 す る トロ コイ ド面 材 料 の
図14に は 吸気 マ ニ ホ ル ド中 に 噴 き込 まれ る メー タ リ
ング オイ ル送 給 特 性 の 例 を示 す 。
これ らメ ー タ リ ン グオ イ ル を含 めた オ イ ル 消 費 率 は
平 均2,000〜3,000km/lで
あ り,同 出 力 ク ラス ・4
サ イ クル レシ プ ロ エ ン ジ ン とほ ぼ同 水 準 に あ る とい え
―
「燃 料 協 会 誌 」 第48巻
第502号(1969)
―
81
て サイ ドハ ウジ ング に一 定 荷 重 で 押 しつ け られ,テ
ーパ ー状 の リ ップ。
部 に よっ て オイ ル か き取 り作 用 を
行 なわ せ て い る。 こ の場 合,シ
か に"O"リ
ール 内外 径 面 いず れ
ン グ を挿 入 し,シ ール 溝 背 隙 か らの オ
イ ル 洩 れ を防 止 す る構 造 で あ る。
この 形 式 は オ イ ル シー ル が ロー ター と と も に遊 星
運 動 を行 な い な が ら,サ イ ドハ ウジ ン グの 面 を摺 動
す るた め,サ イ ドハ ウジ ン グの 平 面度,材
質 が シー
ル 性 能 とシ ー ル リ ップ摩 耗 に 関連 す る困難 さは あ る
もの の,構 造 が単 純 で応 用 範 囲 が広 い 特徴 が あ る。
これ に対 し,(b)はNSU社
図14
定 常 走 行 時(ト
が 開発 した オ イ ル シ
ー ル構 造 で ,シ ー ル は 主 と して ロー タ ー とエ キ セ ン
ッ プ ギ ア)メ ー タ リン グ オ イ
トリ ック ・シ ャフ トの 問 で行 な わ れ る。 シ ャフ ト偏 心
ル送 給 特 性(東 洋 工 業)
輪 部 分(A)に
る。
ロー タ ー と同 心 の 円板(B)を
この 円 板 外 周 構 に2枚1組
6. オ イ ル シ ー ル
一 般 に ロ ー タ ー冷 却 は そ の 内部 に潤 滑 オ イ ル の 一 部
を循 環 させ る た め,オ イ ル シ ー ル は ガ ス シー ル と と も
取 り付 け,
の ピス トン リン グ(C)を 挿
入 し,ロ ー タ ー片 側 内径 面 に 張 らせ て い る。 ま た,こ
の 円 板 の軸 方 向端 部 は サイ ドハ ウジ ング 内径 と 同心
で,そ
の部 分 に も ピス トン リ ング(D)を
用 い サイ ド
に開 発 当初 か ら解 決 の難 しい 問題 で あ つ た 。 しか し,
ハ ウジ ン グ内 径 面 に張 力 を与 えて あ る。 い ま一 つ の ロ
今 日で は シー ル 性 能 が 飛 躍 的 に改 善 され,実
ー タ ー 片 側 内 径 面 に 対 して は,円 板 の 代 りに偏 心 輪 部
用上十分
な 域 に到 達 した 。
分 に 円周 構 を設 け,こ の 構 中 に2枚1組
現 用 され て い るオ イ ル シー ル 型 式 は大 別 してつ ぎ の
2型 式 に分 け られ る。 す な わ ち,
(a)
挿 入 し,ロ
の ピス トン リ
ー タ ー 内径 面 に 張 らせ て あ
る。
ロー タ ー とサ イ ドハ ウ ジ ン グ の間 で シ ール す
る形 式 。
(b)
ン グ(E)を
これ はサ イ ドシ ール か ら洩 れ た ガ ス圧 力 で各 ピス ト
ン リン グ をそ れ ぞれ の構 壁 に押 し付 け,シ ール 作 用 を
主 と して ロー タ ー とエ キ セ ン トリ ッ ク ・シ ャ
フ トの間 で シ ール す る形 式4)
受 持 たせ る構 造 で あ る。 し たが つ て ピス トン リ ング に
加 わ るガ ス 圧 力 が 極 度 に高 くな る と,駆 動 抵 抗 の増 加
で,そ れ ぞれ の代 表 的 な構 造 例 を図15(a,b)に
示 す。
(a)は 東 洋 工 業 が 採 用 した オイ ル シ ール 形 式 で あ る。
ロー ター の両 側 面 に オ イ ル か き リン グ を2重 に配 置
し,そ れ ぞ れ の リ ン グ は底 に敷 かれ た波 状 バ ネ に よっ
を もた ら し,ピ ス トン リン グ とそ れ ぞ れ の 構 壁 の摩 耗
が 問 題 とな る とこ ろ か ら,こ れ らシ ール リ ング に作 用
す る ガ ス圧 力 を約0.2kg/cm2以
下 に保 つ た め の リ リ
ー フ弁(F)を
用いて いる
。 さ らに ガス 圧 力 が ゼ ロ と
な るエ ンジ ン停 止 時,オ イ ル が ピス トン リン グ間 隙 を
通 つ て燃 焼 室 に洩 れ るの を防 止 す るに は,ロ ー タ ー 側
面 のサ イ ドシ ール 内側 に波 状 バ ネ を背 面 に使 用 した フ
ェイ ス シ ール(G)を
設 け て い る。
こ う した シー ル 形 式 はサ イ ドハ ウ ジ ン グの 平 面 度 に
無 関 係 で,シ ー ル 構造 体 の 主 要 部 分 が 同 心 運 動 を行 な
うた め 安 定 した 性 能 が 得 られ る反 面,構 造 が 複 雑 で サ
イ ドシ ー ル を洩 れ た ガ ス圧 力 が ほ とん ど大 気 圧 に近 い
サイ ドポ ー トの 吸気 方 式 を採 用 した エ ンジ ンへ の応 用
は 困難 で あ る な どの欠 点 を もつ て い る。
7.
7‑1
(a)
(b)
図15
オ イ ル シ ー ル構造
冷
却
ハ ウジ ング冷 却
NSU‑バ
ンケ ル 型 ロ ー タ リー エ ン ジ ン で は,各
作動
過 程 が トロ コイ ド軌 道 面 の一 定 し た場 所 で 行 なわ れ る
ロ ー タ リ ー エ ン ジ ン(山
82
本)
た め,燃 焼 室 付 近 の最 高 温 度 を下 げ る と と もに,ト ロ
ッ トは熱 的 負荷 に 応 じて 貫 流 す る流速,流
コイ ド全 周 に沿 つ て の温 度 差 を で き る だ け少 な くす る
あ る。
図17に は同 じ く東 洋 工 業 の冷 却 水 循 環 流 路 の大 要 を
こ とが 重 要 で あ る。
こ の意 味 か ら冷 却 水 の流 路 設 定,あ
量 を変 え て
る い は冷 却 フ ィ
示 し た。 冷 却 水 の主 流 は トロ コイ ド軌 道 面 の外 周 を軸
ン の設 定 に は細 か い 配 慮 を必 要 とす る 。
方 向 に流 れ,反
図16に 東 洋 工 業 に お け るサ イ ドハ ウジ ング切 断 面 の
一 例 を示 した
。 多数 の リブ で仕 切 られ た冷 却水 ジ ャケ
式>>で あ る。 これ ら冷 却 系 統 はサ ブ タ ン ク を使 用 した
0.9kg/cm2加
転 往 復 す る<<ア キ シ アル ・フ ロ ー方
圧 密 封 式 で,カ ー ヒ ー ター を含 め た全 容
量 は7l。 エ ン ジ ン内 部 へ の水 洩 れ 防 止,ウ
ォーターポ
ン プ シ ール 部 の保 護 と鳴 き防 止 の役 割 りをす るバ ー ズ
リー ク ス を加 え た ロ ン グ ラ イ フ ・ク ー ラ ン トを用 い,
ク ー ラ ン トの交 換 は2年
も し くは4km万
ンテ ナ ンス ラ イ フ の延 長,簡
と して メ イ
易化 をは か つ て い る。
図18は ロー タ ーハ ウジ ング が鋳 鉄 の場 合 とア ル ミ合
金 材 の場 合 に つ い て,ト
ロ コイ ド面 よ り1mm離
れた
位 置 に お け る温 度分 布 の 計 測 結 果 で あ る。 最 高 温 度 部
に お い て 鋳 鉄 ハ ウジ ン グ は アル ミ合 金 材 に比 べ 約150
℃ 高 く,す
で に 潤 滑 油 膜 保 持 の 限 界 温 度 を越 え て い
る。 した が つ て 運 転 条 件 の 過 酷 な エ ン ジ ン に対 し て
図16
サ イ ドハ ウ ジ ン グ ウ ォ ー タ ー ジ ャケ ッ ト構 造
(東 洋 工業)
は,ア ル ミ合 金 材 ハ ウ ジ ン グが 温 度 的 に有 利 で あ る。
7‑2
ロー タ ー 冷 却
自動 車 用 エ ン ジ ンな ど比 出 力 の高 い 場 合,ロ
ーター
内 部 冷 却 は油 冷 式 が 採 用 され て い る。 そ の循 環 機 構 は
図19の ご と く,ロ ー タ ー の遊 星運 動 に よつ て オイ ル に
働 く慣 性 力 の変 化 を巧 み に利 用 した もの で,自 動 的 に
循 環 排 出 させ て い る。
図20に ロー タ ー冷 却循 環 油 量 が 出 力,燃 費 にお よぼ
す影 響 の 一 例 を示 す 。 最 終 的 に は ロー タ ー の 熱 変 形 や
図17
エ ン ジ ン ハ ウ ジ ン グ 冷 却 水 流 路(東 洋 工 業)
ガ ス シ ー ル の 膠 着(ス テ ィ ック)を 防 止 し,オ イ ル 性
状 の 劣 化 を最 小 限 に保 ち 得 る限 界 油 温 を考 慮 しつ つ,
出 力,燃 費 の影 響 をバ ラ ンス させ るな どの 見 地 か ら循
環 油 量 が 決 定 され て い る。
またFichtel & Sachs社
で は小 型 空 冷 エ ン ジ ン に対
し,吸 入 混 合 気 に よつ て ロー ター 内 部 冷 却 を行 な い成
功 し て い る。 図21は そ の導 入 経 路 で,吸 入 混 合 気 は片
側 のサ イ ドハ ウ ジ ン グ か らロー タ ー内 部 に導 かれ,軸
図18
トロ コ イ ド軌 道 面 温 度 の比 較
図19
慣性 力変 化 を 利 用 した ロー タ ー 冷 却
― 「燃 料 協 会 誌 」 第48巻
第502号(1969)―
図22‑(a)
83
ペ リフ ェ ラル 吸 気 ポ ー ト・2段作 動2連 式
気 化 器(NSU)
図20
ロー ター 冷 却 油 量 が 性 能 ・燃 費 に お よぼ す 影 響
図22‑(b)
サ イ ド吸 気 ポ ー ト ・2段 作 動4胴 式 気 化
器(東 洋 工 業)
図21
F & S社
混合 気導 入経 路 図
方 向 に貫 流 して 反 対 側 のサ イ ドハ ウ ジ ン グ に抜 け る。
図22‑(c)
コ ン ビ吸 気 ポ ー ト ・2段 作 動3胴 式 気 化
器(東 洋 工 業)
した が つ て 吸 入 混 合 気 は ロー ター か ら熱 を奪 うと同 時
は常 用 軽 負 荷 運 転 用 と して の一 次 側 お よ び高 出 力 時 一
に 予 熱 され,気 化 が 促 進 され る とい う興 味 深 い構 造 で
次 側 と協 働 す る二 次 側 ガス 流 路 を構 成 し,2段
あ る。
式 気 化 器 と組 合 わ せ で あ る。
8.
吸 気 方 式
出 力 性 能 に 密 接 な 関 連 性 を もつ 吸 気 ポ ー ト配 置 に関
作動胴
図23に これ らサ イ ドポー トとペ リフエ ラル ポ ー トの
ポ ー ト開 口時 間 面 積 経 過 ダイ ア グ ラ ム を示 す 。
612エ ン ジ ンで は トロ コイ ド軌 道
一 般 にペ リ フエ ラル ポ ー トは 吸 気 時 間 面 積 が 大 き
面 に開 口す るペ リフ エ ラル ポ ー トと2段 作 動2連 式 気
く,吸 入 抵 抗 が 小 さい ので 吸 入 効 率 が 高 く,か つ 有 効
化器 の組 合 わ せ を採 用 して い るの に 対 し,東 洋 工 業 の
圧 縮 比 の 向 上 が 得 られ や す い 反 面,吸 排 気 ポ ー トが 同
場 合 「コス モ ・ス ポ ー ツ 」,「フ ァ ミ リア ・ロー タ リー
・クー ペ 」 両 エ ンジ ン と も各 サ イ ドハ ウジ ング 側壁 面
時 に開 口す るポ ー ト ・オ ー バ ー ラ ップ が 大 き くな り,
に 吸気 ポ ー トを設 け た サ イ ドポ ー ト方 式 で,そ れ ぞれ
を生 ず る これ に対 して サ イ ドポ ー トは,吸 入 ポ ー トの
し,NSU社KKM
ア イ ドリ ング や部 分 負 荷 時 に運 転 の安 定 性 確 保 に難 点
ロ ー タ リ ー エ ン ジ ン(山
84
図23
本)
ポ ー トタ イ ミン グ と 開 口面 積 一時 間 経 過 の比 較
開 き始 め 時 期 が 上 死 点 後 と幾 何 学 的 に遅 くな るた めオ
ー バ ー ラ ップ が 小 さ く,ア イ ドリ ン グや 部 分 負 荷 性 能
は ペ リフ エ ラル ポ ー トに 比 べ て 著 し く改 善 され るが,
屈 曲 した ガ ス 流 路,ポ ー ト開 口面 積 な どか ら高 負 荷 時
の 吸 入 効 率 に制 約 を受 け る。 した が つ て基 本 的 にペ リ
フエ ラル ポ ー トは高 速 高 出 力 型 エ ン ジ ン に適 し,サ イ
ドポ ー トは低 速 部 分 負 荷 運 転 性 を重 視 す る エ ン ジ ン に
適 す る傾 向 を もつ とい え よ う。
む ろ ん,こ れ ら両 方 式 の長 所 を組 合 せ た コン ビポ ー
ト方 式 の研 究 も す す め られ て い る(図22(c))。
この
図24
火 炎 伝 播 時 間 の バ ラ ツ キ(1,000rpm,Pe=
1.3kg/cm2)(東
洋 工 業)
方 式 は た とえ ば2段 作 動3胴 式 気 化 器 を用 い,一 次 側
が サ イ ドポ ー ト,二 次 側 がペ リフ エ ラ ル ポ ー トにつ な
が つ て い る。 さ らに二 次 側 ポ ー ト近 くに は一 次 側 ス ロ
ッ トル バ ル ブ と連 動 す る ポ ー トバ ル ブ が設 け られ,軽
負 荷 運 転 で は サ イ ドポ ー トと して 作 動 し,一 次 側 ス ロ
ッ トル バ ル ブ が一 定 開 度 以 上 に 開 く高 負荷 時 にの み ポ
ー トバ ル ブ が 開 い て 吸 入 効 率 の よい ペ リフエ ラル ポ ー
トの 作 動 が 追 加 され る結 果,ア イ ド リン グか ら高 速 重
負 荷 まで の広 汎 な運 転 範 囲 で良 好 な性 能 を得 る こ とが
で き る。
9.
燃
焼
東 洋 工 業 に お い て は 自動 車 用 エ ンジ ン と して最 も重
要 と考 え られ る比 出 力 の 向上 と部 分 負 荷 時 の燃 費 経 済
性 確 保 の た め 吸排 気 系統,点
火 系統 な ど燃 焼 室 を含 め
た 関連 要 素 に つ い て種 々 の計 測 を行 な つ て き た 。
図24は 吸気 ポ ー ト方 式 の 相違 が 部分 負 荷 燃 焼 に お よ
ぼ す 影 響 をみ るた め,イ オ ン ギ ャ ップ を用 い 燃 焼 速 度
の バ ラ ツ キ を統 計 的 に記 録 した 例 で あ る。 部 分 負 荷 時
の 燃 焼 安 定 性 に関 し,サ イ ドポ ー トはペ リフ エ ラル ポ
ー トよ り好 ま しい傾 向 に あ る こ とを裏 付 け る一 例 とい
え よ う。
図25に ヒー トバ ラ ンス測 定 例 を示 す 。 ま た指 圧 線 図
測 定 結 果 か らポ リ トロー プ 指 数 は,ほ ぼ 理 論値 に近 い
図25
ヒー トバ ラ ン ス(東 洋 工業)
こ とが 確 認 され て い る。
点 火 プ ラ グ配 置 は 図8(b)の
横断面構造 図に み るよ
う トロコイ ド短 軸 をは さん で設 け た2点 火 プ ラ グ方 式
で,そ れ ぞ れ は 独 立 した 点 火 系 統 に よつ て 点 火 され る
シ ス テ ム を採 用 した 。1点 火 プ ラ グ に比 べ,燃 焼 率,
― 「燃 料 協 会 誌 」 第48巻
第502号(1969)―
85
を もつ 段 階 に到 達 した 。
冷 問始 動性 な ど を大 幅 に 向 上 させ る一 つ の 要 素 と なつ
レシ プ.ロエ ン ジ ン に比 べ 本 質 的 に有 利 とされ る,軽
て い る。
とは い え,単 室 容 積490ccク
量 小 型,幅 広 い 回 転 レン ジ,振 動 騒音 な どの特 徴 を さ
ラス の 燃 焼 室 は従 来 の
自動 車 用 レシ プ ロエ ンジ ンの 概 念 か らい つ て も大 きい
らに生 か し,現 時 点 で なお 限 界 を究 め た とい い難 い,
ほ うに属 し,ま た作 動 の特 異 さ と相 まつ て,そ の 燃 焼
低 速 域 で の ガス シー ル 性 能,燃 焼 過 程 な どの積 極 的 な
過 程 の本 質 に つ い て は な お 多 くの 不 明 確 な 点 が あ り,
改 善 を はか る な らば,名 実 と も に備 え た高 速 エ ン ジ ン
今 後 の研 究 に ま つ べ き課 題 が 残 され て い る。
と して 一 段 とそ の真 価 を発 揮 す る こ とが で き よ う。
度の濃
1) W. Froede,
文
献
SAE Paper 650722, Oct. (1965)
い開 発 研 究 に よ つ て実 用 化 を 阻 む 多 くの 問題 点 をほ と
2) W. Froede,
SAE Paper 680461, May (1968)
ん ど解 決 し,自 動 車 用 エ ンジ ン をは じめ とす る各分 野
3) H. Keller,
で レシ プ ロエ ン ジ ンに十 分 対 抗 し得 る耐 久性,信
4) G. Jungbluth,
10.
将 来の展望
NSUー バ ンケ ル型 ロー タ リー エ ンジ ンは,密
頼性
Rotary
by
Piston
Kenichi
MTZ,
26, 4, 165 (1965)
MTZ,
28,9,
351, (1967)
the
proto-type
Engine
Yamamoto
(Toyo Kogyo Co., Ltd.)
SYNOPSIS:-Eight
Wankel
rotary
ing NSU
in their
piston
and Wankel,
respective
at an extremely
merits
fields
gone
by since
and
the success
Today,
efforts
for the
commercialization
a total
practical
and
of
NSU-
of 18 organizations,
includ-
use of
engine
the
volume-production
Wankel
are
progressing
tempo.
of the Wankel
of portable
of the Wankel
Future
have
was announced.
are continuing
fields,
quick
Developments
in the
years
engine
engines
engine
developments
are
engine
have
for various
been
uses,
remarkably
or automobile
progressed
engines
effective.
of the Wankel
engine
are worthy
of attention.
especially
in which
the