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現代朝鮮語のヴォイス : '漢字語+하다','漢字語+되다'の考察を中心に

2018

崔 昌 玉 松 山 大 学 言語文化研究 第 巻第 号(抜刷) 年 月 Matsuyama University Studies in Language and Literature Vol. No. March 現代朝鮮語のヴォイス ―― 漢字語+㿏ᵛ , 漢字語+ẏᵛ の考察を中心に ―― 崔 昌 玉 1.本 稿 の 目 的 本稿の目的は, 現代朝鮮語のヴォイス 1), 特に 漢字語 2)+㪘ᠤ の 㪘ᠤ を ᥘ ᠤ に変えて,その動詞のヴォイスを変える方法を次の観点から考察,記述す ることである(現代朝鮮語の動詞をヴォイス的に派生する方法については,2.1 で詳しく取り扱うことにする) 。それは, (1) その動作の主体や客体が存在論的 卓立性においてどのような関係を成立させているかという観点と(2) 漢字語 +㪘ᠤ の 㪘ᠤ を ᥘᠤ に変えることで,その動作のアスペクト的特性が どのように変わり得るかという観点である。 最初の観点は崔昌玉(2007)に基づくところが大きいし,次の観点は浜之上 幸(1991)に基づくところが大きい(これらの観点は 2.1 と 2.2 で詳しく言及す ることにする) 。 本稿の構成は次の通りである。最初に,現代朝鮮語のヴォイスとアスペクト の先行研究を概観する。次に,菅野裕臣他編(19912) における 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ を整理し,それらを考察,記述する。最後に,本稿で考察 しきれなかった今後の課題を提示することにする。 言語文化研究 第 巻 第 号 2.現代朝鮮語のヴォイスとアスペクトの先行研究 2. 1.現代朝鮮語のヴォイスの先行研究 まず,現代朝鮮語において自動詞や他動詞を受身形や使役形に派生する,形 態論的な方法を確認することにしよう 3)。 菅野裕臣他編(19912:1044)では,現代朝鮮語において動詞をヴォイス的に派 生する,形態論的な方法として,次の 3 つのものを提示する。 1) 接尾辞…基本語幹 4)にヴォイス接尾辞 - Ⲵ -,- 㳈 -,- Ử -,- ፰ - 等をつ ける方法 2) 疑似接尾辞…基本は - 㪘ᠤ であり, 使役を表す場合は - 㪘ᠤ に変えて ⠜㗤ᠤ を,受動を表す場合は - 㪘ᠤ に変えて - ᥘᠤ , ⅛ᠤ , - ᠹ㪘ᠤ をつける方法 3)分析的な形 5)…ⅰ)第Ⅰ語基 6)+ ᇌ#㪘ᠤ ,ⅱ)第Ⅲ語基 6)+ ⼀ᠤ とい う方法 このうち,本稿で取り扱う 2)の疑似接尾辞の特徴に言及するのであれば, 菅野裕臣(1982:282 - 283) では,その接尾辞は名詞あるいは名詞+助詞を伴う形 で現れる分離用言 7)であるが,①その接尾辞を取り得る名詞としては主に漢字 語,外来語があり,② 名詞+㪘ᠤ が必ずしも他動を表すとは限らず,自動 を表すこともあり,㪘ᠤ を ᥘᠤ に変えると, それが受動を表すだけでなく, 自動を表すこともある点などを指摘している (例えば,☝◰㪘ᠤ (生産する) 【他 動詞】 対 ☝◰ᥘᠤ(生産される) 【受身形】 と ⅜ⵄ㪘ᠤ(発展する) 【自動詞】 対 ⅜ⵄᥘᠤ(発展する) 【自動詞】 を比較されたい) 。 また,現代朝鮮語のヴォイスを考察する方法論も多様である。例えば,♜ ⵕ❘(1996)そしてその方法論などを受け継ぐ⯰Ⲹ㭜(1997)では,現代朝鮮 語のヴォイスにおいて典型的な派生方法をヴォイス接尾辞による派生だけに 限定し,その他の派生方法を非典型的なものと見做している。更に,♜ⵕ❘ (1996:1053,1057-1058)では,以下のように,形態論的,統辞論的,意味論的 条件を全て備えるものが ⼄㩼ᤙ⁸(真の受動文) であるとしている 8)。 (1) a.ᅜᅀ#ᠭⲄ#〓។ᠤ .(犬が鶏を追う。 ) 【能動文】 b.ᠭⲴ#ᅜ⬐ᇌ#〓፴ᠤ .(鶏が犬に追われる。 ) 【受動文】 ♜ⵕ❘(1996:1057-1058)で提示する形態論的条件とは,無標形としての他動 詞 〓ᠤ(追う) と有標形としての受身形 〓፰ᠤ(追われる) という形態論 的対立が成立するということである 9)。一方,そこでの統辞論的条件とは,能 動文には必ず対応する受動文が存在し,能動文で主語であったものが受動文で 主語や目的語以外に降格し,能動文で目的語であったものが受動文で主語に昇 格するということである。更に,そこでの意味論的条件とは,能動文や受動文 は言語外事実(先の(1)を例にするのであれば, 犬が鶏を追う ということで ある)は変わらないものの,動作の主体や動作の客体 10)の見方によってそれぞ れの文の現れ方が異なるということである。 しかしながら,本稿では,♜ⵕ❘(1996)と⯰Ⲹ㭜(1997)のヴォイスの考察 対象の選定に疑問を呈している。というのも,本稿の調査によれば,菅野裕臣 他編(19912)で収録しているヴォイス接尾辞による動詞の派生は 174 個 11)であ るのに対して,疑似接尾辞による動詞の派生は 639 個も存在することがわかっ ているからである。ヴォイス接尾辞による動詞の派生よりも疑似接尾辞による 動詞の派生が生産的であり,その数も多いのに,現代朝鮮語のヴォイスを規定 する折,疑似接尾辞による動詞の派生を考察対象から外すのはその正確性が著 しく欠如している。それ故,本稿では,疑似接尾辞による動詞の派生も現代朝 鮮語のヴォイスに関与する派生方法として見做して, 議論を進めることにする。 ところで,本稿が知る限り,ヴォイスの先行研究には形態論的,統辞論的, 意味論的観点から考察するものだけではなく,語用論的,認知論的そして機能 言語文化研究 =意味論的観点 第 巻 第 号 から考察するものまで存在する。 12) ヴォイスを考察する方法論が様々に存在する中,本稿では Klaiman(1991)で 提示した存在論的卓立性による方法論を採用することにする。本稿がこの方法 論を採用する理由は,崔昌玉(2007,2010b,2013a)において,ヴォイス接尾 辞による動詞の派生のみを考察しているといっても,存在論的卓立性の尺度が 現代朝鮮語のヴォイスを考察する折に,かなり有効であることを示しており, ある程度の結果を残していると判断するからである。 以下,Klaiman(1991)の概観及び現代朝鮮語のヴォイス接尾辞による動詞の 派生を存在論的卓立性によって考察するとどうなるかを提示することにする。 こ こ で い う Klaiman(1991)の 方 法 論 と は, 存 在 論 的 卓 立 性(ontological salience)13)によって,現代朝鮮語の能動文と受動文の対応関係を説明するもの である。 この観点を導入すれば,なぜ以下の例文(3b,4a) が現代朝鮮語において文法 的に受け入れにくい受動文と見做されるかを説明することができる(以下の例 文(3) (5) - は Klaiman (1991:173) から引用している)14)。 (2) a.㭕◬ᅀ#⇔ⲸⲄ#〓។ᠤ .(刑事が犯人を追う。 ) 【作例】 b.⇔ⲸⲴ#㭕◬⬐ᇌ#〓፴ᠤ .(犯人が刑事に追われる。 ) 【作例】 (3) a.ᗨⳐᅀ#ስⲄ#〓ሠ#Ⳉ⫴⯔ .(男がボールを追っています。 ) b.* ስⲴ#ᗨⳐ⬐ᇌ#〓፰ሠ#Ⳉ⫴⯔ .(ボールが男に追われています。 ) Klaiman(1991:173)では,動作の主体が動作の客体より存在論的卓立性が高 い場合, 追う という動作において存在論的卓立性が低い動作の客体が主語の 位置にたちにくいことを(3b)が文法的に正しいが,意味論的には不自然な理 由として指摘する。一方,以下の例文では同様の理由から能動文が文法的に受 け入れにくい文になってしまう。 (4) a.* ⠜ᅄⲴ#ᗘẼ#〓ሠ#Ⳉ⫴⯔ .(時間が私を追っています。 ) b.ᗘ។#⠜ᅄ⬐#〓፰ሠ#Ⳉ⫴⯔ .(私は時間に追われています。 ) Klaiman (1991:173) の指摘に従えば,能動文であろうが,受動文であろうが, 動作の主体が動作の客体より存在論的卓立性が高い場合, 追う という動作に おいて主語の位置に存在論的卓立性が低いものがたつ文は現代朝鮮語において 文法的に受け入れにくいということになる。ただし,先の例文(2)や以下の例 文(5)のように存在論的卓立性という観点から動作の主体と動作の客体が同等 である場合は能動文も受動文も文法的に受け入れやすい文である。 (5) a.ጸ#㘝⠜ᅀ#ⵀ#ㅨẼ#〓ሠ#Ⳉ⫴⯔ 1(そのタクシーがあの車を追っていま す。 ) b.ⵀ#ㅨᅀ#ጸ#㘝⠜⬐#〓፰ሠ#Ⳉ⫴⯔ .(あの車がそのタクシーに追われてい ます。 ) 以上の考察結果を表で示すと,以下のようになる。 表 1.例文(2) (5) の考察 動詞の意味 主体 客体 2a 他動 㭕◬ ⇔Ⲹ 存在論的卓立性の比較 文法的に受け入れやすいかどうか 主体=客体 受け入れやすい 2b 受動 㭕◬ ⇔Ⲹ 主体=客体 受け入れやすい 3a 他動 ᗨⳐ ስ 主体>客体 受け入れやすい 3b 受動 ᗨⳐ ስ 主体>客体 受け入れにくい 4a 他動 ⠜ᅄ ᗘ 主体<客体 受け入れにくい 4b 受動 ⠜ᅄ ᗘ 主体<客体 受け入れやすい 5a 他動 㘝⠜ ㅨ 主体=客体 受け入れやすい 5b 受動 㘝⠜ ㅨ 主体=客体 受け入れやすい 言語文化研究 第 巻 第 号 つまり,Klaiman (1991:173) の議論によれば, - Ⲵ -,- 㳈 -,- Ử -,- ፰ - 受 動文が存在するかどうかは動作の主体と客体の存在論的卓立性の尺度によって 決定される場合があるということになる。 以上の Klaiman(1991)の議論は,存在論的卓立性によって,現代朝鮮語の 受動文,特にヴォイス接尾辞によるものを説明しているものである。崔昌玉 (2010b)では,この存在論的卓立性によって,現代朝鮮語の受動文を類型化し ようと試みる。 崔昌玉(2010b) では, (ヴォイス接尾辞により受身形に派生した用言を含む) 受動文を(1)有生性の尺度によって,動作の主体と客体にどのくらいの卓立性 が置かれるか, (2) 動作の主体が明示されるかどうか, (3) 収集した用例におい てアスペクトを表す形式 15)を伴っているかどうかという 3 つの観点から類型 化している。 崔昌玉(2010b:98-99) の受動文の類型化を示すと,次のようになる。 典型的な受動文 [ 動作の主体が明示される ] ⬰, (6)ጸ។#ᗘⲴᤄ#Ⳋሠ#⫴ὸ᠈⬐ᇌ#⪈፴ᠤ .16) (彼は年を忘れ,母に抱かれる) p.1220 [ 動作の主体が明示されないが,文脈から特定できる ] 㳱㘀ሠᗜ#⟹⋀◬㳲᲼ሠ#⋈Ựᠤ .(外国為替ドルは 生まれつきの (7)⮸㮘ᠬᴬ។# 勝負師 と呼ばれる。 )ⶰ 93/10/25,9 面 自動詞文 [ 動作の主体が明示されるが,外部からの影響は未知 ] (8)㩼ᶜᅀ#⡓Ⲹᠤ .(疲労がたまる。 )⛌,p.1180 状態相 17) [ 動作の主体が確定できず,地理的状況などを表す ] (9)◰Ⲁ#⭨㛵#⯸ㅽ㪜#❲ⱼᶜ#᢮⬬#Ⳉᠤ .(山は全て鬱蒼とした森で覆われてい る。 )ℼ【Ⱡⳬ㭄㶫『Ⱡⳬ㭄Ⲙ#⬭◬㳤⁸㮔፰㫉 = ᾔ㒩Ⲙ#⟬㩈#ጸỼⳐ 1#Ⲹᤄㅨ Ⲵᗘ』 㶫㶀ㅽ⎄㶫2003】 受動というより他の意味を表す文 [ 動作の主体が明示されず,また動作の主体の影響に関わらず,動作の客体が その動作を受け入れる可能性 / 潜在性があることを示す 18)] ᚼⲀ#Ⳙ#ᅈᵤ#Ⳉᠤ .(田はよく耕されている。 ⬰,p.35 (10) ) 崔昌玉(2010b)は,ヴォイス接尾辞による動詞の派生を(1)動作の主体と客 体が存在論的卓立性によってどのような関係を成立させているかという観点, (2) 受身形のアスペクト的特性は何かという観点,そして(3) 受動文においてそ の主体が明示されるかどうかという観点から考察し, (ヴォイス接尾辞による 動詞の派生を含む)受動文を類型化している。本稿では,崔昌玉(2010b)で使 用した観点のうち, (1)と(2) の観点を採用し,疑似接尾辞による動詞の派生に それらの観点を適用しようと考えている。 2. 2.現代朝鮮語のアスペクトの先行研究 現代朝鮮語には,その動詞のアスペクトを表す形式が 2 つ存在する。この 2 つの形式は動詞が自動を意味するか,他動を意味するかによって,その伴い方 が異なる。つまり,動詞が自動詞であれば, Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ と Ⅲ Ⳉᠤ どちら も伴うことができ,動詞が他動詞であれば, Ⅰ - ሠ# Ⳉᠤ しか伴うことがで きない。自動詞が Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ を伴えば,動作の進行を表すのに対して, Ⅲ Ⳉᠤ を伴えば,動作の結果状態を表す。一方,他動詞が Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ を伴 えば,動作のアスペクト的性質によって動作の進行と動作の結果状態どちらも 表す場合があり得る。 これらを正確に説明するために,例文を提示する(以下の例文は全て作例で ある) 。 言語文化研究 第 巻 第 号 (11) a.⼀ፈ#ᅀሠ#Ⳉ⫴⯔ .(今,行っている途中です。 ) 【作例】 b.ᅀ#ⳈⲄ㚐ᢰ⯔ .(行って, (そこに) いるはずですが。 ) 【作例】 (12)a.⼀ፈ#ⳅሠ#Ⳉⱼ᠈ᎌ#Ⳡ᎐Ἄ#፰ᠤᵤ#⹘⯔ .(今,着ている途中だから, 少しだけ待ってください。 ) 【作例】 b.⭈▜#⭷Ⲅ#ⳅሠ#Ⳉᙤ⯔ .(かわいい服を着ていますね。 ) 【作例】 (11a)はある場所に行く途中を表し, (11b)はある場所に行き,到着し,そこ にいることを表す。これらは Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ と Ⅲ Ⳉᠤ によって,その意味 が異なっている。一方, (12a)は着ている途中を表し, (12b)は着ている状態を 表す。これらは同じ Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ を伴っているにも関わらず,その意味が異 なる。 以上のことから現代朝鮮語では,自動詞であれば,アスペクト形式 Ⅰ - ሠ# Ⳉᠤ と Ⅲ#Ⳉᠤ どちらも必ず伴うことができ,他動詞であれば,アスペク ト形式 Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ を必ず伴うことができると多くの人が認識するだろうが, 自動詞 ⸽ᠤ(死ぬ) や ⪉ᠤ(座る) のように Ⅲ#Ⳉᠤ しか伴わない動詞 もあれば (ある特定の文脈では, これら動詞も Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ を伴うことがある) , 他動詞 ᠮᠤ(似る) のように Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ と Ⅲ Ⳉᠤ どちらも伴わない 動詞もある 19)。 浜之上幸(1991) では,これら 2 つの形式と動作の主体が変化するかどうか, その動作の主体と客体がどのような関係にあるかに着目し,現代朝鮮語の動詞 をアスペクト的観点から分類する。 まず,浜之上幸(1991:8) では,言語外的な事象が生起して終了していく一連 の段階における位置づけを局面(phase) と呼び 20),以下の図を提示する。 生起前 A → 生起 B → 終了 → C D E 図 1.浜之上幸(1991:7)の図 別の事象の生起 そして,浜之上幸(1991:22-27)では,以下の動詞を規定する。それは,その 動詞が Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ と Ⅲ#Ⳉᠤ の形式を持つかどうかで動作動詞と状態動 詞に分かれ,動詞が Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ を伴い,それが具体性・動作性を持つかど うかによって,動作性動詞と状態性動作動詞に分かれ,主体変化後の局面を表 す形式を持つかどうかで主体変化動詞と主体非変化動詞に分かれるということ である(後に,浜之上幸(2016:24-25)では,主体変化動詞を限界動詞,主体非 変化動詞を非限界動詞として術語を変えて,現代朝鮮語のアスペクト論を進め ている。しかし,本稿では,浜之上幸(1991) に従い,議論を進めることにする) 。 以上の規定をし終えて,浜之上幸(1991:29-78)では,現代朝鮮語の動詞をア スペクト的観点から考察し,分類する。その中でも特に本稿が関心を持つの は,ヴォイス接尾辞,疑似接尾辞を伴う動詞をアスペクト的観点から考察した 部分,すなわち浜之上幸(1991:60-78) である。 浜之上幸(1991:66-70)では,疑似接尾辞 ᥘᠤ を伴う動詞をアスペクト的 観点から考察しているが,次の特徴を指摘する。それは以下の例のように, (1) Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ と Ⅲ Ⳉᠤ どちらの形式を持つものが多数であるが,主体 変化動詞というよりも状態性動作動詞を表す場合が多い点, (2) Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ の形式しか持たない主体変化動詞が少ない点である。以下は浜之上幸(1991) の記述に基づき,本稿が収集した例文である。 (13)㏐ᗘᠤ#㛠ᶠ㛠ᡀ⬐♠#⬬፰♜#㪜⅜#ᢔ#ᗘ⪄ᅀ#⛌ᤄ♸㤬Ẽ#ሠ⋄Ⳑ#⁼⼈ᶜ#⠸ ♜#Ⲵ⠝㪘។#Ⅹ⇕Ⲵ#ᅜ⅜ᥘሠ#Ⳉᠤ .(カナダのトロント大学ではここから 一歩進んで,膵島細胞を高分子の物質で包み,移植する方法が開発されつ つある。 )ℼ【 『ⶰ♠Ⲽ∴#☝㮜(93) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1993】 (14)1 ⸼Ⲽ#Ⲽⵕⱼᶜ#ᙤᢜ᳀᨜#ⵄክⲄ#Ⲽ⸼㪘។#Ⳑⵄᆰ#⬬㫉#㒔⟤ᎌ⼀#ᅜ⅜ᥘ ⫴# Ⳉᠤ 1(一週間の日程でオランダ全国を一周する自転車旅行のコースま ℼ㳿『ⶰ♠Ⲽ∴#ሼ㪙(93) で開発されている。 ) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1993】 (15)ጸ᳘♜#ጸᴰ⼀#⭁ክ⬐♜។#Ⲵ#⭁㮔Ⲙ#☁⭁Ⲵ#⪄⼁ᤄ#ፈ⼀ᥘሠ#Ⳉᠤ .(だか 言語文化研究 第 巻 第 号 らなのかイギリスではこの映画の上映が禁止されている。)ℼ【 『㪜ᇨᵈ⠠ ⁸㶫㎼ᴼ(92) 』 ,㪜ᇨᵈ⠠⁸◬,1992】 (16)Ⲽ⅘#ክℼⲘ#⟹⯩ㅨ#ኬⳅⲀ#⬄ᇩ㳈#ፈ⼀᤼#Ⳉ⼀Ἄ#Ⱡᤅ#ᗡⲀ#ℸክⵜ#⟹⯩ ㅨἌⲀ#ᆰ᳘ᅀ#ᅀ៥㪘ᠤ .(一般国民の乗用車購入は厳格に禁止されている が,唯一アメリカ製の乗用車だけは取引が可能だ。 )ℼ【 『ⶰ♠Ⲽ∴#፰㘀㶫 㪴♤(⬰ⳬ,90) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1990】 (17)ᡀ⋀⋄Ⲙ#⠝ℼ⼀#⸼ℼⲀ#∸ክሼ។#ᠤẸ#ⰐỬᶜ#㛵㎘ᥘሠ#Ⳉ⬈ⱼᾰ㶫⠝ℼ ⼀Ẽ#⋄Ửᥜ#⠤ㇴᶜ#Ⲹⵕ㪘។#⭁ክⲘ#ᇽ⯰∴ᠤᤄ#⭤㳈ᵤ#ⵕ㎘ⵁⲸ#ⳐⱠ។# ⫵⪕ᥘ។#☁㮩⬐#ᛓ⬬#Ⳉ⬈፰#᪌⁸Ⲵᠤ .(大部分の植民地の住民は本国と は異なるやり方で統治されており,植民地を分離した実体として認定する イギリスの場合よりもむしろ政治的な自由は抑圧される状況に置かれてい ℼ㳿ᅕἌ፸#⮸, るからだ。 ) 『㪜ክ◬』 ,㪜፸◬,1994】 浜之上幸(1991:67-69)では, (13) (14) の ᅜ⅜ᥘᠤ(開発される) と(15) (16) の ፈ⼀ᥘᠤ(禁止される) を Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ , Ⅲ Ⳉᠤ どちらの形式を 持つ動詞(前者の ᅜ⅜ᥘᠤ(開発される) は主体変化動詞であり,後者の ፈ ⼀ᥘᠤ(禁止される) は状態性動作動詞である) として, (17)の 㛵㎘ᥘᠤ(統 治される) を Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ の形式しか持たない動詞( 㛵㎘ᥘᠤ(統治される) は主体非変化動詞である) として提示する 21)。 本稿は,浜之上幸(1991) の方法論を採用し, 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘ ᠤ をアスペクト的観点からも考察しようと試みるものである。 3.現代朝鮮語の 漢字語+㢣ᘯ , 漢字語+ᝣᘯ について 3. 1. 漢字語+㢣ᘯ , 漢字語+ᝣᘯ を取り扱った先行研究 漢字語+㪘ᠤ の 㪘ᠤ を ᥘᠤ に取り換え,その動詞のヴォイスを変え る疑似接尾辞の研究は韓国本土では,それほど詳細になされてこなかった。こ の理由としては♜ⵕ❘(1996)や⯰Ⲹ㭜(1997)での議論のように,現代朝鮮語 のヴォイスで中心的に取り扱われるのはヴォイス接尾辞による動詞の派生で あって,疑似接尾辞による動詞の派生は周辺的であるという考え方が韓国本土 で一般的であった点を取り上げることができる。また,疑似接尾辞による動詞 の派生も取り扱う研究があっても,ヴォイス接尾辞による動詞の派生や分析的 な形による動詞の派生と一緒に研究対象としていたりして,疑似接尾辞による 動詞の派生のみを取り扱った研究はそれほど多くないのが実態である 22)。 本稿では,現代朝鮮語の研究において本格的に疑似接尾辞による動詞の派生 を個別に取り扱ったのは,生越直樹(1982)が最初で,柴公也(1986) ,生越直 樹(1992,2001a,2001b)に引き続いていると考える。ここでは,特に生越直 樹(2001a) を概観することにする。 まず,生越直樹(2001a:93-94)では,生越直樹(1982)と柴公也(1986)を整理 して,次の観点から 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ を使い分けるとしてい る 23)。その観点はよく似通っていて,(1)動作・状態変化が主語の持つ力によ るのか,主語以外の力によるのかということと,(2)主語の動作や状態の変化 が主体的に行われたか否かで, 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ が使い分け られるということである。 ところで,生越直樹(2001a)では,例えば ⅜ᠬ㪘ᠤ(発達する) と ⅜ᠬ ᥘᠤ(発達する) のように, どちらも自動詞として使われる場合に焦点を当て, その場合の 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ の使い分けの条件を明らかにし ようとしている。本稿では,以下にそれらの例を提示することにする。 (18)Ⱡ፰#㪩♱#㮔㪙Ⲁ#⊐ᴬᅀ 1828 ᚄ#⠤㬘⠤⬐♜#⯔⛌Ẽ#㪩♱㪜#Ⲵ㰄 1 ⅱ 60 ⬬ᚄ#ᤙ⪈#ᝈ⋀⠜ᇌ#⅜ᠬ㫈ᠤ .(有機合成化学はヴェーラーが 1828 年,実 験室で要素を合成した後,160 年余りの間,輝かしく発達した。 )ℼ【 『ⶰ♠ Ⲽ∴#ሼ㪙(93) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1993】 (19)⠤⯩ⵁⲸ#⼀⠝Ⲵ#㋕ⵁᥘሠ#⅜ⵄᥘ⫴⪼#☝㮜Ⲵ#㫥☁ᥘሠ#⁸῅Ⲵ#⅜ᠬᥜᠤ . 言語文化研究 第 巻 第 号 (実用的な知識が蓄積され,発展して初めて,生活が向上し,文明が発達 ℼ【ⶰᤙⲼ, する。 ) 『⯰Ử#㪙⁸Ⲙ#፸』 ,⼀⠝◰⬅◬,1993】 (18) (19) は本稿で収集した ⅜ᠬ㪘ᠤ(発達する) と ⅜ᠬᥘᠤ(発達する) の例文であるが,その意味の相違はどこにあるか判然としない。 生越直樹(2001a:91-92) では,菅野裕臣他編(19912) における 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ どちらも自動詞として使用されるものを考察対象として選 定し,それぞれの動詞を考察している。それらの用例考察を通じて,生越直樹 (2001a:85)では, 漢字語+㪘ᠤ が使用される条件として①主体の力・活動に よって事態が引き起こされる場合,②主体に対する他からの働きかけや影響が ない場合があると提示し, 漢字語+ᥘᠤ が使用される条件として主体に対し て他からの働きかけや影響がある場合があると提示する。 更に,生越直樹(2001a:82)では,次の使用条件を付け加える。それは 漢字 語+㪘ᠤ が事態の実現・発生に注目している場合に使用されること, 漢字語 +ᥘᠤ が事態の結果状態に注目している場合(話し手に影響が及びながら, あるいは話し手が関心を持ちながらも事態に関与できない場合)に使用される ことである。本稿では,以下の例を提示する。 (20)⸼ἐ⬬㫉Ⲵ# ⻝ᅀ㪘ᾴ# ቀቑ◰⬅ᤄ# ⅜ⵄ㪜ᠤ .(週末旅行が増加しながら, 観光産業も発展する。 )ℼ 【 『ᤙ⪄Ⲽ∴ 2002 ᚄ#፰◬ : ⭤㩼᠈⫸』 ,ᤙ⪄Ⲽ∴◬, 2002】 (21)Ⲵ⫑㭸#ⵄ#ክⅩ⳥ቀⲘ#ኰ◬⳥⎄#ኬⳅሼ#ቀᵨ㪜#ᾔῨⵜስ#◬ᆴⲀ#ጸᅀ#ᇽⵄ 㝬#㬬፰㶫⎄㫉⳥#ᇽ⎄⯩#⳥ᅑㅨ#ኬἤ⬐ᤄ#ᅜⳅ㫈Ⲅ⼀#ῨẸᠤ។#Ⲙ㭹ⱼᶜ ᎌ⼀#⅜ⵄᥘሠ#Ⳉᠤ .(イ ・ ヤンフォ前国防長官の軍事装備購入と関連した メモ提供事件は彼が戦闘ヘリ,飛行場警備用装甲車の購買にも介入したか もしれないという疑惑にまで発展している。 )ℼ【 『ᇽ㫥⠠⁸ 96-10 ◬♤』 , ᇽ㫥⠠⁸◬,1996】 (22)⎄ጹ⬐♜។#Ⲙℸ⮀#Ⲽ☁ⵁ#☝ⶴⲴ#♜ᶜ#ᡀỽ㪜ᠤ .(悲劇では意味と日常の 生存が互いに対立する。 )ℼ【ᎀⱤ⠝, 『⯴῅ሼ#㭕⠝』 ,⛔,1992】 (23)⇌ᵈᅀ#㘀ሠᗜ#ⳬ៥ⱼᶜ♜។㶫Ⲵ#ᦐ#ᅀ⼀#ⵐⲴ#㪭☁#ⵕ⅘ᡀᶜ#ᡀỽᥜᠤ . (虫が生まれつきの才能としては, この 2 つの点が常に正反対に対立する。 ) ℼ【J.H. 㡌⍌Ẵ, 『ሤ㋩፰』 ,Ἀᠹℸᩔ⫴,1994】 (20) (23) は生越直樹(2001a) の議論に基づき,本稿が収集した例文である。 例文を収集する過程で, (20)や(22)のような 漢字語+㪘ᠤ は文末に現れる ことが多く, (21) や(23) のような 漢字語+ᥘᠤ は連体形であったりして,漢 字語+㪘ᠤ に比べると,文末に現れることはそれほど多くないことは判明し た。ここで提示した例文は前後の文脈が少なかったり,ほぼなかったりするの で,生越直樹(2001a)の議論を正当化できるものでもないし,それを否定する ものでもない。ただし, (20) を考察しても,周りの状況が観光産業を発展させ ているようにも理解できるし, (22) に至っては,意味と日常の生存が相互に対 立することを表しているので,主体だけではなく他のものの影響もあるように 思える。一方, (21) にしろ, (23) にしろ,主体以外の力が働いているようにも 見て取れるが,特に(23)では,主体の力でそのようになったとも言えなくは ない。 生越直樹(2001a)は,それぞれの動作の主体がその動作にどのように関与し ているか,それぞれの動作のアスペクト的特性が何であるかによって, 漢字語 +㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ が使い分けられているのではないかという問題提 起をおこなっている。ただ,生越直樹(2001a)の議論はあまりに意味論的な観 点からの考察にその焦点が当てられており,本稿はこの論文の概観を通じて, 形態論的,統辞論的観点からの考察も 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ には 必要であると再認識した。 本稿では,生越直樹(2001a)の言及も念頭に入れつつも,議論の焦点を意味 論的観点からの考察に傾きすぎることなく,まずは形態論的観点,統辞論的観 言語文化研究 第 巻 第 号 点から 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ を考察し,それぞれの動詞を記述し ようと考えている。 3. 2.菅野裕臣他編(19912) における 漢字語+㢣ᘯ , 漢字語+ᝣᘯ 先にも言及したが,菅野裕臣他編(19912) において 漢字語+㪘ᠤ の 㪘ᠤ を ᥘᠤ に変えて,そのヴォイスを転換させているものとして記述されてい るのは 639 個ある 24)。 本稿では,次の点を踏まえて,語彙の選定をしている。それは,漢字語で あっても, ᅀ㪘ᠤ , ቀ㪘ᠤ , ᡀ㪘㪘 のような単音節の漢字語に 㪘ᠤ が ついたものを考察対象から外している。これらは ⬐#ቀ㪘⬬(に関して) や ⬐# ᡀ㪘⬬(について) などの慣用句的用法もあり,十分に記述するのに値する対 象であるが,本稿で取り扱う考察対象はあくまでも 漢字語+㪘ᠤ の 㪘ᠤ を ᥘᠤ に変えて,そのヴォイスを変えるものであるからである。 また,本稿で考察対象とする 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ の漢字語は 2 音節以上のものである。更に,本稿では,次の点も考慮している。それは ኬ ᇽ(見物) や Ⲵ⅔⼀(貢献) のように,現在では漢字語とは判断しにくいも のも考察対象としていることである。 以下の表は菅野裕臣他編(19912)を整理したものである(割合は小数点第二 位を四捨五入して,算出している) 。 表 2.菅野裕臣他編(19912)における 漢字語+㢣ᘯ , 漢字語+ᝣᘯ 漢字語+㪘ᠤ が表す意味 漢字語+ᥘᠤ が表す意味 他動 受動 363 個(56.8%) その数 他動 自動 28 個(4.4%) 他動 自動,受動 2 個(0.3%) 自動 受動 9 個(1.4%) 自動 自動 74 個(11.6%) 自動,他動 受動 3 個(0.5%) 自動,他動 自動 自動,他動 自動,受動 1 個(0.2%) 1 個(0.2%) その他 25) 158 個(24.6%) 合計 639 個(100%) 菅野裕臣他編(19912)の記述を整理すると, 漢字語+㪘ᠤ が他動を表し, その 㪘ᠤ を ᥘᠤ に変えると,受動を表す場合が全体の 56.8%と大多数で あることがわかる。 4.本 稿 の 考 察 まず,本稿で取り扱う用例について言及することにする。本稿では,以下の 点に留意しながら,用例を収集している。それは, (24)や(25)のように, 漢 字語+ᥘᠤ を考察する時,格助詞 ᅀ 2 Ⲵ(が) を伴い,副詞 ⪈(〜しない) が入る場合は考察対象とはしないということである。 (24)ᑭ#ጸ#ⳐỬ⬐♜#ስ⋀㪴⪼#㪜ᠤ។#⇕ᤄ#⬆ሠ㶫ስ⯩#⳥⛌Ⲹ#ᤄ♜ቀ⬐♜#ጸ# ⳐỬᅀ#ᗘⲘ#◬Ⱡ⁼Ⲵ#ᥠ#❘ᤄ#⬆⼀Ἄ#ᝄኰᅀ#ጸ#ⳐỬ⬐#⪉⪄#Ⳉⱼᾴ#ጸᗠ Ⲁ#㪘Ḩ#ⷅⲼ#၀⃋ཋ#⢓#ᝧᘯ .(必ずその席で勉強しなければならないとい うこともなく,公共の場である図書館でその席が私の所有物になり得もし ないが,その席に座っていれば,その日は一日中,勉強にならない。 )ℼ【⡍ ⯩#◬㯌⋀#㣸⼑⠤, 『⬬Ⲙ⸼ 2 ⵊⲀ#ጸᡀ』 ,⡍⯩,1994】 (25)ጸᴰᢰ#ጸᴰᢰ…… ⫸᠈។#ㄳⴌ⪿#⢓#᝛ᘯ .(ところで,ところで…お姉さ んは就職がだめだった。 )ℼ【Ⲵ⭤ᢕ⬮Ⲍ, 『Ⲵ◬#ᅀᢘ#ᗠ』 ,ㅽⳑሼ#⎄㤉◬, 1991】 (26)ጸỬ㪘⬬# ስⵁⲸ# ❘◬ᅀ# ἐ㪘។# ◬㯌ⵁⲸ# 㫉∵⬐# ἞♜។# ↏㙛⪿# ᝧᘯ . (そうして,公的な修辞が述べる社会的な幸福に相対する批判になる。 )ℼ 【#ᎀ⯰ㅽ, 『⠬ℸⵁ#Ⲵ♱Ⲙ#㘐ኬ』 ,⛔,1992】 言語文化研究 第 巻 第 号 これは ᅀ 2 Ⲵ#ᥘᠤ が になる を表したり,⪈#ᥘᠤ が だめだ / できない を表したりするからである。 しかしながら, ⪈(〜しない) を伴っていない場合には,以下のように考 察対象とすることもある。 (27)⎄ᶝ#ⵜ㪜ⵁⲸ#၀࿴⪿#ᝫⴋ᫇ᜏ#㪜⅘ᤄ#☁ስ⬐#㤭㘄Ⲅ#ⵁⳬ㪜#ኰ⯩፰ᅀ#⎄ 㫉#㤭ᇩ㪜ᠤ។#ᅀⵕⲀ…(中略) (かりに限定的に攻撃されたとしても,朝 鮮半島上空に爆弾を積載した軍用機が飛行爆撃したという仮定は)ℼ【ᎀ ⰐⲼ, 『◶Ⲙ#ᇰ#◴ỼⲘ#⼈』 ,♸ሄ◬,1993】 次に,本稿では,能動文や受動文がどのくらい出現し,それぞれの無標形と 有標形がどのような語形を伴って出現したか等も考察対象から除外することに する。この理由の 1 つには受動文が能動文に比べて,あまり出現せず,用例を 収集する小説等の種類によっても,それらの現れ方が異なるからである。 例えば,Shibatani (1988:95) では,収集した日本語の 508 の例文のうち,その 82%が能動文であるのに対し,その 18%が受動文であると報告している。ま た, そこでは新聞や科学文書の受動文の割合が 25%から 32%であるのに対し, 小説や随筆の受動文の割合が 5%から 7%であるとも報告している。一方, Shibatani(1988:95-96)では,Svartvik(1966:46)の報告を引用しながら,英語の 科学文書において 32%が受動文,68%が能動文であり,英語の小説において 5% から 7%が受動文,73%から 95%が能動文であるとしている。このような能動文 と受動文の現れ方の相違は現代朝鮮語の受動文にも見て取れることができる 26)。 以下,菅野裕臣他編(19912) における疑似接尾辞による動詞の派生,特に 漢 字語+㪘ᠤ の 㪘ᠤ を ᥘᠤ に変えて,それぞれ他動が受動を意味するも のと自動が自動を意味するものを中心にを考察し,記述することにする。 4. 1. 漢字語+㢣ᘯ が他動を表し, 漢字語+ᝣᘯ が受動を表すもの まず,以下の例文を提示することにする。 (28)㮘ᇽ⋀។ 5 Ⱄ#ᇽᗨ#㪩㇜⬐#⬰ᅄ#㇘Ử៥ᵥ 2,500 㛤#ጜῨⲘ#㤐⎄᠐⹑ᅄ㇘Ử ⠜♤Ⲅ#⮄ስ㪘ሠ#❘⼑ᥜ#㤐⎄᠐Ⲅ#ⳬ☝⎄᠐#ⰐḌᶜ#ᅀስ㪘፰ᶜ#㫈ᠤ .(環 境省は 5 月,慶尚北道ハプチョンに年間処理能力 2,500 トン規模の廃棄ビ ニール中間処理施設を完工し,収集した廃棄ビニールを再生ビニールの 原料に加工することにした。)ℼ㳿『㪜ክⲼ∴ 96-02 ሼ㪙』,㪜ክⲼ∴◬, 1996】 (29)ሰ⍌Ử㎘⬐#Ⲙ㪘ᾴ#ᝈⲘ#ἝἉ⬐#⎄㎜#☁Ⲁ#ᠤ⠜#ᦐᜌⲘ#ⳑ⯩⬐#Ⲙ㪴#ᅀስ ᥜᠤ .(ゴンブリッジによれば,目の網膜に映された像は再び大脳の作用 ℼ【ᎀ㘜㮘, によって加工される。 ) 『㦸Ẹ#⳥ℸẼ#ㅾ⪄♜』 ,⁸㪙ሼ⼀♱◬, 2001】 (30)㋔Ử#⛌♤Ⲁ#ጼᆰ#⬆។#⸼ቀⵁ#ℿⲌሼ#ᅝቀⵁ 㳧 ⠤ㇴⵁ#⼄⠤Ⲙ#⬄ᇩ㪜#⋄ Ử⬐#፰㉈Ẽ#ᦐሠ#Ⳉⱼᾰ㶫Ⲵ♱Ⲵ#Ⲵᴰ#⼄⠤⬐#ⵑጼ㪠#❘#Ⳉᠤሠ#ᅀⵕ㪜ᠤ . (推理小説は根拠ない主観的な信頼と客観的で実体的な真実の厳格な分離 に基づいており,理想がこのような真実に近づくことができると仮定す ℼ㳿ᎀ㘜㮘, る。 ) 『㦸Ẹ#⳥ℸẼ#ㅾ⪄♜』 ,⁸㪙ሼ⼀♱◬,2001】 (31)ጸᴼ⬐ᤄ#Ⲵᨤ#ᅜᚐᨤⲴ#∴㣸ⵁⲸ#ᇃⱼᶜ#ᅀⵕᥘ⼀#⪊ሠ#ⵀⳐᅀ#㟹ⵕ㪜#⬭ ◬ⵁ#⠜፰⮀#㮘ᇽⲄ#ሠᵤ㪘ᠤᅀ#Ⲁ⬰⹑⬐#㋔㋜ᥜ#ᇃⲴ᲼ሠ#ᅀⵕᥜᠤ .(そ れにも関わらず,これらの概念が普遍的なものとして仮定されず,著者が 特定の歴史的時期と環境を考慮している中で,ひそかに抽出されたものだ と仮定される。 )ℼ【ᅕ῅ኬ, 『ᡀ⹑⁸㮔Ⲙ#⎄㡐ⵁ#㪴♝』 ,ℼⲌ◬,1994】 (32)ᗘ។, ᗘᤄ#㪜᪌#⛌♤Ⲅ#⢼⬈⼀ . 㪘ሠ#㬛Ὸ⼓Ⲅ#∴Ⲽ#⻝ᆰᶜ#⛌♤⼑ᎌ⼀# Ⲵℸ# ᅄ㫉㫈ᠤ .(私は, 私もある時,小説を書いたっけ。 と悪あがきを みせる証として小説集まですでに刊行した。 )ℼ【ⲴⲸ♱, 『Ἀ⼀Ἁ#⬰⪠Ⲙ# ☁☁』 ,⛔,1992】 言語文化研究 第 巻 第 号 (33)Ⳅ⼄⮜᳀Ⲵ#Ⳉ፰#ⶰፈ#ⵄ⬐#⹑ክ⬐♜។ { ◰⇕㛵ⷅ } Ⲵ᲼។#◰⇕♜ᅀ#ᅄ㫉 ᥘ⬈ᠤ .(文禄・慶長の役がある少し前,中国では{算法統宗}という算法 書が刊行された。 )ℼ【ᎀ⯩⯴, 『Ⲽ∸Ⲹሼ# 㪜ክⲸⲘ# Ⲙ⠝ኬⶰ』 ,㪜፸◬, 1985】 (28) は ᅀስ㪘ᠤ(加工する) の例文であり, (29) は ᅀስᥘᠤ(加工される) の例文である。 (28)の動作の主体は環境省という団体名詞 27)であり,動作の客 体は廃棄ビニールである。一方, (29) の動作の主体は ⬐#Ⲙ㪴(によって) で 明示され,大脳の作用であり,動作の客体は像である。存在論的卓立性の観点 から考察すると, (28) は動作が卓立性の高いものから卓立性の低いものへと移 行していることを表すし, (29) は動作が卓立性が同等のものから卓立性が同等 のものへと移行していることを表している。 (30) ᅀⵕ㪘ᠤ(仮定する) と(31) ᅀⵕᥘᠤ(仮定される) に言及すると,動作の主体が明示されていないが, どちらの主体も存在論的卓立性において高いものであるし,どちらの客体も存 在論的卓立性において低いものである。 (32) ᅄ㫉㪘ᠤ(刊行する) と(33) ᅄ㫉ᥘᠤ(刊行される) も動作の主体が明示されているかどうかが異なるだ けで, (30) と (31) の考察と同じことがいえる。これらの考察結果を整理すると, 以下のようになる。 表 3.例文(28) (33) の考察 例文 動作の主体 動作の客体 存在論的卓立性の比較 (28) 環境省 廃棄ビニール 主体>客体 他動 (29) 大脳の作用 網膜の像 主体=客体 受動 (30) 人 推理小説 主体>客体 他動 (31) 人 概念 主体>客体 受動 (32) 私 小説集 主体>客体 他動 算法書 主体>客体 受動 (33) 中国の役人など その文が表す意味 本稿の考察を通じて, 漢字語+㪘ᠤ の 㪘ᠤ を ᥘᠤ に変えて,他動詞 から受身形に派生する 363 個の大部分が能動文や受動文において, (動作主が 明示されているかどうかという相違があるものの)動作が存在論的卓立性が高 いものから低いものに,あるいは存在論的卓立性が同等のものから同等のもの に移行することが判明している。 次に,それぞれの動詞をアスペクト的観点から考察することにしよう(例文 (13) (14) は先に提示したものを再録したものである) 。 (34)ⲴẼ#ⱄ㪴#⋁㪜Ⲙ#Ⱡ⬔#ᅀⳅⱼᶜ#⬰Ⅹⵜ#㛵Ⲽ#⠤㭄#⋄ⱄ፰ᅀ#㪜㍵#ሠⶰᥠ# ❘# Ⳉᠤ។# ☈ᶜ⯴# ⲴᶠⲄ# ጸᨤⲀ# ᅜ⅜㪘ሠ# Ⳉᠤ .(このため北朝鮮の国連 加盟で連邦制の統一実現の雰囲気が一層高まり得るという新しい理論を 彼䁺 2 彼女䁺は開発している。 )ℼ【 『ᤙ⪄Ⲽ∴,㎼ᴼ(91) 』 ,ᤙ⪄Ⲽ∴◬, 1991】 (13)㏐ᗘᠤ#㛠ᶠ㛠ᡀ⬐♠#⬬፰♜#㪜⅜#ᢔ#ᗘ⪄ᅀ#⛌ᤄ♸㤬Ẽ#ሠ⋄Ⳑ#⁼⼈ᶜ#⠸ ♜#Ⲵ⠝㪘។#Ⅹ⇕Ⲵ#ᅜ⅜ᥘሠ#Ⳉᠤ .(カナダのトロント大学ではここから 一歩進んで,膵島細胞を高分子の物質で包み,移植する方法が開発されつ つある。 )ℼ【 『ⶰ♠Ⲽ∴#☝㮜(93) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1993】 (14)1 ⸼Ⲽ#Ⲽⵕⱼᶜ#ᙤᢜ᳀᨜#ⵄክⲄ#Ⲽ⸼㪘។#Ⳑⵄᆰ#⬬㫉#㒔⟤ᎌ⼀#ᅜ⅜ᥘ ⫴# Ⳉᠤ .(一週間の日程でオランダ全国を一周する自転車旅行のコースま ℼ【 で開発されている。 ) 『ⶰ♠Ⲽ∴#ሼ㪙(93) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1993】 先に浜之上幸(1991:67-69)を概観した折, ᅜ⅜ᥘᠤ(開発される) は客体 変化動詞であることを提示した。一方, ᅜ⅜㪘ᠤ(開発する) は主体である 彼ら / 彼女らは何の変化もなく,主体非変化動詞であるが,客体である新しい 理論は何らかの変化があり,客体変化動詞である。 本稿では, 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ のアスペクト的特性を考察し たが,その考察は菅野裕臣他編(19912)の記述と浜之上幸(1991)の記述に基づ くものである。本稿の考察を通じて, 漢字語+㪘ᠤ の 㪘ᠤ を ᥘᠤ に変 えて,他動詞から受身形に派生する 363 個の大部分が能動文において主体変化 言語文化研究 第 巻 第 号 動詞,客体変化動詞であるものが受動文において客体変化動詞になるというア スペクト的特性を示すことが判明している 28)。 ただし,本稿の考察を通じて, (1) 漢字語+ᥘᠤ が可能や自発 29)を表す場 合, (2) 漢字語+ᥘᠤ が相互 30)的な意味を表す場合, (3) 収集した例文では 漢 字語+㪘ᠤ しか出現しない場合があったことがわかっている。それらを提示 すると,以下のようになる。 (35)1913 ᚄ#∴Ẵᤄ⬐♜#㋜☝㪜#㖴ᵈἝ#ᅐᤅⲀ#⭁㮔⛍⬐♜#㬈ኬ⮀#፰ᶝ♱Ⲅ#⭈ ❠ⵁⱼᶜ#ⵑῩ⠜㗤។ᢰ#♱ስ㶫㩄᳑⟤#⭁㮔ሄ⬐#㖰#⅜Ⳑ㌨Ẽ#ᗨ፴#Ⲹ⁼⹑# 㪜# ῅ⱼᶜ# ፰⫵ᥜᠤ .(1913 年,ボルドーで生まれたクレマン監督は映画 の中で虚構と記録性を芸術的につなげることに成功,フランス映画界に大 きな足跡を残した人物の中の一人として記憶される。 )ℼ【 『⹑⪙Ⲽ∴ 96-03 ἤㇴ』 ,⹑⪙Ⲽ∴◬,1996】 (36)ጸᴬሠ#∴᠈#㚔ᵈ⎄ⵄⲄ#⭤᳘#∴ᾴ#㇜㎘ᅀ#ᥜᠤ។#⫴័#Ⲙ㪙ⳐⲘ#⠤㬘ᠴⲴ ☁፰ᥜᠤ .(そうしてみると,テレビを長いこと視聴すると,ぼけるという ある医学者の実験談が思い出される。 )ℼ【Ⲵ⫴ᵹ, 『ㅨ#㪜#ⳔⲘ#◬☁』 ,⁸ 㪙◬☁◬,2003】 (35)の ፰⫵ᥘᠤ(記憶される) と(36)の ☁፰ᥘᠤ(想起される) は受動 というよりは自発を表す。以下の例も 漢字語+ᥘᠤ が自発あるいは可能を 表すものである(ここでは,漢字語だけを提示することにする) 。 ☁☁(想像) ,☝ᅁ(考え) ,⯰ᵤ(憂慮) ,㯌☁(回想) ,㪙⟵(学習) ,㪴ᇰ(解 決) ,㮕Ⲹ(確認) ,㰄㯌(後悔) (37)ᗘ⪄ᅀ#⫑⼈Ⲙ#ᤌᨤ㶫㲑☉#⪈Ḍ㶫⛌ፈ㶫㲑⬰㶫ᗩ㶫ኬỬ㶫⸼♝#ጸỬሠ#ᗘ ⹑⬐។#㇠ሼ#⳥⠠ኬ㶫ⶰᅜ#ᐍ⼈㶫㭸⅕㶫ጀፈ⛍#ᨱⲴ#ነ㮘ᥘ⬈ᠤ .(更に, 良質の石,黒色顔料,塩,黒鉛,鉛,銅,錫そして後には鉄と装身具, ℼ【ᎀ㲥ጜ,Ɽኬ∑, 貝の殻,かぼちゃ,貴金属などが交換された。 ) 『㪨ᐘ# ᆷ។#Ⲵ#፸Ⲁ : 㪜☘#ℸᙤẴ⅔⁸ሠ 3』 ,㪜☘㋜㡐◬,1993】 (38)Ⲵᴰ#ⵐ⬐♜#ᇌⳄⵁⲸ#♠㘝Ⲁ#ᅜⲸⲘ#♠㭸⬐#ᩰẸ#♠㘝ሼ។#ኬ∄ᥜᠤ .(こ ℼ のような点でゲーム的な選択は個人の好みによる選択とは区別される。 ) 【ᎀ㘜㮘, 『㦸Ẹ#⳥ℸẼ#ㅾ⪄♜』 ,⁸㪙ሼ⼀♱◬,2001】 (37)の ነ㮘ᥘᠤ(交換される) も(38)の ኬ∄ᥘᠤ(区別される) も動作 の主体が明示されていないが,文脈から個々人あるいは複数の人であることは 間違いない。しかしながら, 動作の客体は他のものと相互的に並べられている。 それ故,本稿では,これらを相互的な意味を表すものとするのである。 他の例は以下のものがある(ここでは,漢字語だけを提示することにする) 。 ኬ⋄(区分) ,ᡀⶰ(対照) ,⎄ነ(比較) ,⬰ᇰ(連結) ,ⵑ㉉(接触) (39)⭁ⳬ។#Ⰳⱼᾰ#◬ⵈ㪜ᠤ .(ヨンジェは笑いながら,断る。 )ℼ【Ⲵ⫴ᵹ, 『⠠ 㮔#⛍Ⲙ#㪜ክⵕ⠠』 ,⁸㪙◬☁◬,2003】 (40)ᠬᵘ# ⅕⁼ቀⲀ# ⵄ⠜# Ⲽⵕ# ◬㲘# ⵄ⬐# ⎄㫉፰ᶜ# ጸ# Ⲹ㭕ᨤⲄ# ❘⛡㫈ᠤ . (ダーレム博物館は展示日程の 3 日前,飛行機でその複数の人形を輸送し た。 )ℼ【ᎀ⭁㲬, 『⪄ⲴẼ#Ⳙ#Ἄ᨜។#⬬Ⳑ』 ,ᩔⳐⲸ#㪘⯰⟤,1992】 (39) ◬ⵈ㪘ᠤ(断る) と(40) ❘⛡㪘ᠤ(輸送する) は菅野裕臣他編(19912) では,それぞれ ◬ⵈᥘᠤ(断られる), ❘⛡ᥘᠤ(輸送される) もあるとし ているが,収集した例文の中には ◬ⵈᥘᠤ(断られる), ❘⛡ᥘᠤ(輸送さ れる) を含む例文が存在しないものである。 他の例は以下のものである(ここでは,漢字語だけを提示することにする) 。 言語文化研究 第 巻 第 号 ሄ´(啓蒙) ,ሠᡀ(苦待) ,⋄⋀(分付) ,♠ᆰ(選挙) ,♸㘁(洗濯) ,⛌⼀(所 持) ,❘Ჽ(受諾) ,❘Ử(修理) ,❘⛍(手続) ,⠜㬘(試験) ,⠠⯩(信用) ,⪔ ፰(暗記) ,⬰⟵(練習) ,⬴᳌(閲覧) ,⬼Ⱀ(念願) ,⭈⟵(予習) ,⯔Ử(料理) , ⯴ⵄ(運転) ,ⱠⲘ(留意) ,Ɽ☉(潤色) ,Ⲙᚼ(議論) ,Ⲙℸ(意味) ,⸼㊜(主 催) ,⹑ᅜ(仲介) ,ㇴᚐ(諦念) ,㋔⫵(追憶) ,㌨ⳬ(取材) ,㘀Ⳑ(打字) ,㘀 ⼄(打診) ,㘄⠝(嘆息) ,㛠ᶜ(吐露) ,㛵⛔(統率) ,㛵⬭(通訳) ,㝬㦜(投票) , 㧍Ⳑ(風刺) ,㪩ሄ(合計) ,㪩ㅽ(合唱) ,㭑☁(協商) ,㭑Ⲙ(協議) ,㭸⛌(呼 訴) ,㮕⠠(確信) ,㰼Ⅹ(誹謗) ,㱴ᡀ(携帯) ,㲥ⵕ(駆け引き) において受身形とされて その他にも 漢字語+ᥘᠤ が菅野裕臣他編(19912) いるが,実際の用例では自動詞であったり,例文に全く現れないものがあった りもした。 (41) (…中略)ᇰἐⲀ#Ⲙ⮸ᶜ#⠱ᇁᇌ#Ἀ⁴Ửᥜᠤ .(結末は意外にも味気なく終 わる。 )ℼ【 『ᤙ⪄Ⲽ∴ 2002 ᚄ#፰◬ : ⁸㮔』 ,ᤙ⪄Ⲽ∴◬,2002】 漢字語+ᥘᠤ が自動を表すその他のものは以下である。 ኬ♱(構成) ,ἤᅜ(媒介) ,⅘∵(反復) ,⅜㱘(発揮) ,⋀ᠴ(負担) ,☁⠤(喪失) , ♱◬(成事) ,⠠⳥(伸張) ,⬰⛍(連続) ,Ⱡ⼀(維持) ,ㅸሠ(参考) ,㲡❘(吸収) 以下は例文収集ができなかったものである。 ᆰᨭ(繰り返し) ,⼕∑(徴兵) ,㋔ᴉ(推量) ,㪴ᠵ(解答) 最後に, ⭤⬼(汚染) は 㪘ᠤ を伴わず,代わりに ⠜㗤ᠤ を伴い,他 動詞を表す。一方,その受身形として ⭤⬼ᥘᠤ(汚染される) が使われる。 (42)⎄᠐⨰ᵈ፰ᅀ# ᛍ㛠Ẽ# ⭤⬼⠜㗤ሠ# Ⳉᠤ .(ビニールごみが農地を汚染して いる。 )ℼ【 『ⶰ♠Ⲽ∴#ሼ㪙(93) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1993】 (43)ጸᶜ# Ⲹ㪴# 㚜⻈ᅕⲴ# ⭤⬼ᥩ᠈ᠤ .(それによってテムズ川が汚染されま す。 )ℼ【 『ⶰ♠Ⲽ∴#ሼ㪙(93) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1993】 その他には以下のものがある(ただし, 㮘፰ᥘᠤ(喚起される), 㮘፰⠜㗤 ᠤ(喚起する) を含む例文だけでなく, 㮘፰㪘ᠤ(喚起する) を含む例文も あるので,今後,作例を含めて,再考察する必要がある) 。 㮘፰(喚起) 4. 2. 漢字語+㢣ᘯ が自動を表し, 漢字語+ᝣᘯ が自動を表すもの 本稿では, 漢字語+㪘ᠤ が自動を表し, 漢字語+ᥘᠤ が自動を表すもの を,実際の例文において(1) 疑似接尾辞 㪘ᠤ , ᥘᠤ どちらも伴い,出現す るもの, (2) 疑似接尾辞 㪘ᠤ しか伴わず, 出現するもの, (3) 疑似接尾辞 ᥘᠤ しか伴わず,出現するもの, (4) 相互の意味を表すもの, (5) 全く出現しないも のに分けて,考察することにする。 まず,実際の例文において,疑似接尾辞 㪘ᠤ , ᥘᠤ どちらも伴い,出 現するものであるが,この数は多い。以下に例文を提示する(例文(18) (21) は再録である) 。 (44)ᡀ፰⬅⬐#ᡀ㪜#♸⁴ⶰ◬ᅀ#∸ᇩ#⠜ⳑᥨ⬐#ᩰ᲼#ᅁ#፰⬅ᨤⲴ#⅔⼝#፴⳥㪘ሠ# Ⳉᠤ .(大企業に対する税務調査が本格的に始まるに従い,各企業がぐっ と緊張している。 )ℼ【 『ⶰ♠Ⲽ∴ 2001 ᚄ#፰◬ : ᇽⵜ』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,2001】 (45)Ⲽ⋀#ⳬ◰ἎⲀ#ስ⼁ⳐᨤⲴ#⁼ⲘẼ#⎚Ⲅ#ᇃ⬐#ᡀ⎄㶫♠❘Ẽ#㈐#◬㦜Ẽ#ᗴ។# ⭈ᅀ#Ⳉ។ᅀ#㪘ᾴ#♜ᦘᴬ#ⳬ◰Ⲅ#㇘⋄㪘፰#ⱄ㪴#∵ᢕⅩ⬐#⋀ᤙ◰Ⲅ#㬐ᅒ⬐# ᗴᛓ។#ᨱ#ስ⼁◬㯌ᅀ#ጹᤄᶜ#፴⳥ᥘሠ#Ⳉᠤ .(一部の財産が多い複数の公 言語文化研究 第 巻 第 号 職者が物議を醸すことに備えて,先手を打ち,辞表を出す例があるかと思 えば,急いで財産を処分するために不動産に不動産物件などを安値で差し 出すなど,公職者の界隈が急激に緊張している。 )ℼ【 『឴⟤㩼㩌(1993/07 1993/08) 』 ,ᇽ㫥⠠⁸◬,1993】 (18)Ⱡ፰#㪩♱#㮔㪙Ⲁ#⊐ᴬᅀ 1828 ᚄ#⠤㬘⠤⬐♜#⯔⛌Ẽ#㪩♱㪜#Ⲵ㰄 1 ⅱ 60 ⬬ᚄ#ᤙ⪈#ᝈ⋀⠜ᇌ#⅜ᠬ㫈ᠤ .(有機合成化学はヴェーラーが 1828 年,実 験室で要素を合成した後,160 年余りの間,輝かしく発達した。 )ℼ【 『ⶰ♠ Ⲽ∴#ሼ㪙(93) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1993】 (19)⠤⯩ⵁⲸ#⼀⠝Ⲵ#㋕ⵁᥘሠ#⅜ⵄᥘ⫴⪼#☝㮜Ⲵ#㫥☁ᥘሠ#⁸῅Ⲵ#⅜ᠬᥜᠤ . (実用的な知識が蓄積され,発展して初めて,生活が向上し,文明が発達 する。 )ℼ【ⶰᤙⲼ, 『⯰Ử#㪙⁸Ⲙ#፸』 ,⼀⠝◰⬅◬,1993】 (20)⸼ἐ⬬㫉Ⲵ# ⻝ᅀ㪘ᾴ# ቀቑ◰⬅ᤄ# ⅜ⵄ㪜ᠤ .(週末旅行が増加しながら, ᤙ⪄Ⲽ∴◬, 観光産業も発展する。 )ℼ 【 『ᤙ⪄Ⲽ∴ 2002 ᚄ#፰◬ : ⭤㩼᠈⫸』 , 2002】 (21)Ⲵ⫑㭸#ⵄ#ክⅩ⳥ቀⲘ#ኰ◬⳥⎄#ኬⳅሼ#ቀᵨ㪜#ᾔῨⵜስ#◬ᆴⲀ#ጸᅀ#ᇽⵄ 㝬#㬬፰㶫⎄㫉⳥#ᇽ⎄⯩#⳥ᅑㅨ#ኬἤ⬐ᤄ#ᅜⳅ㫈Ⲅ⼀#ῨẸᠤ។#Ⲙ㭹ⱼᶜ ᎌ⼀#⅜ⵄᥘሠ#Ⳉᠤ .(イ・ヤンフォ前国防長官の軍事装備購入と関連した メモ提供事件は彼が戦闘ヘリ,飛行場警備用装甲車の購買にも介入したか もしれないという疑惑にまで発展している。 )ℼ【 『ᇽ㫥⠠⁸ 96-10 ◬♤』 , ᇽ㫥⠠⁸◬,1996】 例文(44) , (45) の動作の主体はいずれも団体名詞で,存在論的卓立性が高い ものである。 本稿で考察した動詞群のうち, ፴⳥㪘ᠤ(緊張する) と ፴⳥ᥘᠤ(緊張す る) が,生越直樹(2001a)が提示した条件,つまり 漢字語+㪘ᠤ が主体の 力・活動によって事態が引き起こされ, 漢字語+ᥘᠤ が主体に対して他から の働きかけや影響がある場合に使われるというものに一致する唯一の例である ように思われる。というのも,先にも提示したが, (18) (19) の ⅜ᠬ㪘ᠤ(発 達する) と ⅜ᠬᥘᠤ(発達する) や(20) (21) の ⅜ⵄ㪘ᠤ(発展する) と ⅜ ⵄᥘᠤ(発展する) のように,これらの動詞が(前後の文脈が不足しているも のの) 生越直樹(2001a) の条件に一致するとは考えられないからである。 もちろん,動作の主体が何かによって,あるいは 漢字語+㪘ᠤ や 漢字語 +ᥘᠤ が文末で終わるのか,連体形で終わるかなどによって,その意味が変 わり得る可能性もある。 本稿では, それらを様々な観点から考察することで,漢 字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ の意味を総合的に判断する必要があると考える。 他の例は以下のものである(ここでは,漢字語だけを提示することにする) 。 ᅐᤙ(感動) ,ᅐ⛌(減少) ,ᅜⳅ(介入) ,ᅜ㛵(開通) ,ᅜ㮔(開化) ,ᇩ㮔(激 化) ,ሠỽ(孤立) ,ᠨᇰ(団結) ,ᤄᠬ(到達) ,ᤄㅩ(到着) ,ᤅỽ(独立) ,⅜ ☝(発生) ,∀ᤙ(変動) ,∀㮔(変化) ,⋀㡨(腐敗) ,⋀㮜(復活) ,⋄⬴(分裂) , ⋄㤬(分布) ,☁⟹(上昇) ,♱ỽ(成立) ,♱❙(成熟) ,♱㫉(盛行) ,⛌⛍(所 属) ,⠤ᶀ(失礼) ,⪈⠬(安心) ,⪈ⵕ(安定) ,Ⱡ᳘(由来) ,Ⱡⵄ(遺伝) ,Ⱡ ㅩ(癒着) ,Ⱡ㛵(流通) ,Ⱡ㫉(流行) ,Ⳅ⠠(妊娠) ,ⵄ⬼(伝染) , ⵕㅩ(定着) ,⼄∴(進歩) ,㌨⼁(就職) ,㎨㝬(浸透) ,㘈Ჽ(脱落) ,㡌ፉ(波 及) ,㡌☝(派生) ,㡽ㅽ(膨張) ,㤭Ჽ(暴落) ,㪩ᇩ(合格) ,㪴ᠹ(該当) ,㮩 㤐(荒廃),㲥⋄(興奮) 次に,実際の用例で疑似接尾辞 㪘ᠤ だけを伴い,出現するものである。 (46)ᠤἌ#ℸẼ#ᤙᇽ(憧憬)㪘ሠ#ᅐ☁(鑑賞)㪘ᾰ#Ⲵ⬐#ᤄ㌨㪘ሠ#ᅐᇩ㪜ᠤ .(た だ美に憧れ,鑑賞し,これに陶酔し,感激する。 )ℼ【⬼☁♭, 『Ἄ♸ⵄ』 , ㅽⳑሼ⎄㤉◬,1987】 (47)㏘Ử㤬᠈⪄⸼Ⲙ#ᡀ⋀⋄#ስỽ㪙ነ#㪙☝ᨤⲀ#ἤⲼ#1 ⠜ᅄ⩩#⯴ᤙ㪜ᠤ .(カリ フォルニア州の大部分の公立学校の学生は毎日 1 時間ずつ運動する。)ℼ 【 『ⶰ♠Ⲽ∴ 2003 ᚄ#፰◬ : ⟤㤬㍠』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,2003】 言語文化研究 第 巻 第 号 他の例は以下のものである(ここでは,漢字語だけを提示することにする) 。 ᇽሼ(経過) ,ሠℼ(苦悶) ,ሠ☝(苦労) ,ጼ⠬(心配) ,⠜ⷅ(終始) ,Ⲵ⅔⼀(貢 献) ,ⵕ㛵(精通) ,㯌ⵄ(回転) 以下は実際の用例で疑似接尾辞 ᥘᠤ だけを伴って,出現するものである。 (48) ᗘ។#⹑ᤅᥐ⫴ . ( 私は中毒になった。)ℼ【 ᎀ⭁㪘, 『⪄᳑Ⲁ#⮜』 ,⁸㪙 ሼ⼀♱◬,2001】 他の例は以下のものである(ここでは,漢字語だけを提示することにする) 。 ⵕㇴ(停滞) ,ⷅ⛍(従属) 本稿では,以上の漢字語が疑似接尾辞 㪘ᠤ るいは疑似接尾辞 のみ伴い,出現するのか,あ ᥘᠤ のみ伴い,出現するのか,実際の用例の考察のみな らず,作例の考察も踏まえながら,再考察する必要があると考える。 また,以下のものは相互を表すものである(例文(22) (23) は再録である) 。 (22)⎄ጹ⬐♜។#Ⲙℸ⮀#Ⲽ☁ⵁ#☝ⶴⲴ#♜ᶜ#ᡀỽ㪜ᠤ .(悲劇では意味と日常の 生存が互いに対立する。 )ℼ【ᎀⱤ⠝, 『⯴῅ሼ#㭕⠝』 ,⛔,1992】 (23)⇌ᵈᅀ#㘀ሠᗜ#ⳬ៥ⱼᶜ♜។,Ⲵ#ᦐ#ᅀ⼀#ⵐⲴ#㪭☁#ⵕ⅘ᡀᶜ#ᡀỽᥜᠤ . (虫が生まれつきの才能としては,この 2 つの点が常に正反対に対立す ℼ【J.H. 㡌⍌Ẵ, る。 ) 『ሤ㋩፰』 ,Ἀᠹℸᩔ⫴,1994】 (49)◬㯌ᅀ#ⶴỽ㪘។#㇫⼸#ⲴⱠᅀ#ክℼ☝῅ሼ#ⳬ◰Ⲙ#⪈ⵄⲄ#㮕∴㪘។#ᢰ#Ⳉ។# ᇃⲴ᲼ᾴ㶫Ⲵ⇈ᅙⲀ#◬㘜។#⅔ᶜ#ጸ#ጼ∸⬐ᎌ⼀#ቀሄᥜᠤ .(社会が存立す る最初の理由が国民の生命と財産の安全を確保するところにあるのであ れば,今般のような事態はまさにその根本にまで関係する。 )ℼ【㪜ክⲼ∴# 㣸⼑⋀, 『㪜ክⲼ∴#◬♤』 ,㪜ክⲼ∴◬,1982】 (50) ⢩Ⲁ# ◴ ᶠⲀ# ⁼ᶠ# ◬ⵕⲄ# ⼀㎭㪘។# ᇃⲴ⼀Ἄ# ᦐ# ⯩⫴Ⲙ# 㭼⯩Ⲁ# ጸᇃ Ⲵ#ⲘᤄⵁⲴᨠ#⪄᠈ᨠ#ᠨ❜㪜#㦜㭄#⁸ⵜ#Ⲵ☁Ⲙ#∸⼈#⁸ⵜ⮀ᤄ#ቀᵨᥜᠤ . ( 腐った肉 論はもちろん事情を指し示すものだが,2 つの用語の混用は それが意図的であろうがなかろうが,単純な表現の問題以上の本質の問題 ℼ【 にも関連する。 ) 『ᤙ⪄Ⲽ∴#㎼ᴼ(93) 』 ,ᤙ⪄Ⲽ∴◬,1993】 ᡀỽ㪘ᠤ(対立する) と ᡀỽᥘᠤ(対立する) のように, 漢字語+㪘ᠤ と 漢字語+ᥘᠤ どちらも相互を表すものもあれば, ቀሄᥘᠤ(関係する) や(50)の ቀᵨᥘᠤ(関連する) のように, 漢字語+ᥘᠤ のみが相互を表す ものもある。 他の例は以下のものである(ここでは,漢字語だけを提示することにする) 。 ᇰ㪩(結合) ,ᡀⲑ(対応) ,ᤙ㮔(同化) ,∑ᵬ(並列) ,⬰ሄ(連繋) ,Ⲽ㎘(一 致) ,ⶰ㮔(調和) ,㋩ᤌ(衝突) 最後に,実際の用例で出現しなかったのは ⵕⵄ㪘ᠤ(停戦する), ⵕⵄᥘ ᠤ(停戦する) であったことを示しておこう。 4. 3. 漢字語+㢣ᘯ が他動を表し, 漢字語+ᝣᘯ が自動を表すもの 以下に例文を提示する。 ጸ᪌#ᗴ#⠜♠Ⲵ#ⵀ⿽#⇽⬐#ᆸỰ#ⳐጸἈ㪜#⪡Ⳑ#ⱄ⬐#ሠⵕᥘ⬈ᠤ (その時, (51) . 私䁟視線があちらの壁にかかった小ぶりの額縁の上にとまった。 )ℼ【ⲴⲸ ♱, 『Ἀ⼀Ἁ#⬰⪠Ⲙ#☁☁』 ,⛔,1992】 言語文化研究 第 巻 第 号 (52)㖴Ự㙴#㫉ⵕ⋀#ᨱ⳥ⱼᶜ#Ⲹ㪜#㪜ℸ#⪈∴#㭑ᵥ#ቀሄ⬐#⫴᫤#∀㮔ᅀ#⭨ᠤᾴ# ጸᇃⲀ#⸼㪜#ℸኰⲘ#㋔ᅀ#ᅐ㋕ሼ#Ⅹⱄ⎄#⋄ᠴፈ#⻝⪡#⯔ኬ#ጸỬሠ#ℸ#⋁㪜# ቀሄ#ᅜ♠ⱼᶜ#ᗘ㘀ᗠ#ᇃⱼᶜ#ቀ㍡ᥜᠤ .(クリントン政府の登場による韓 米の安保協力関係にどんな変化がきたと仮定しても,それは駐韓アメリカ 軍の追加減縮と防衛費の増益要求そしてアメリカと北朝鮮の関係改善に現 ℼ【 れると観測される。 ) 『ᤙ⪄Ⲽ∴#ⷅ㪩(92) 』 ,ᤙ⪄Ⲽ∴◬,1992】 (53)ጸᨤⲴ#⼄ᠨ · 㤉ᅀ㪜#ᗴ⯩ᨤⲀ#ᆰⲘ#Ῠᦐᅀ#◬⠤⬐#⋀㪩ᥜᠤ .(彼ら / 彼女 らが診断・評価した内容はほぼ全䁗が事実に符合する。 )ℼ【 『㪜ክⲼ∴ 9611 ◬♤』 ,㪜ክⲼ∴◬,1996】 例文(51)は 漢字語+ᥘᠤ が自動を表し,例文(52)は 漢字語+ᥘᠤ が 受動を表し,例文(53)は 漢字語+ᥘᠤ が相互を表している。このように, 菅野裕臣他編(19912)では, 漢字語+ᥘᠤ を受身形と記述しているものが自 動や相互を表したりしている。 他の例は以下のものである(ここでは,漢字語だけを提示することにする) 。 ᆱⵕ(心配) ,ነㇴ(交替) ,፰ᡀ(期待) ,ᗩ᨝(納得) ,⅘ᡀ(反対) ,Ⅹ⛡(放 送) ,∴ፉ(普及) ,⋄Ử(分離) ,⛌㮔(消化) ,⠜ⳑ(開始) ,⬰Ჽ(連絡) ,⬰ ⳥(延長) ,⬼ (念慮) ,⮄Ḍ(完了) ,ⱄ⅘(違反) ,Ⲵḩ(成立) ,Ⲵ⪼፰(話) , ⳑⵕ(決心) ,ⵈ⪽(節約) ,ⵕỬ(整理) ,⸼ⵀ(躊躇) ,⹀⎄(準備) ,ㅩᅁ(錯 覚) ,㛵ሼ(通過) ,㯌∵(回復) 4. 4. 漢字語+㢣ᘯ が自動を表し, 漢字語+ᝣᘯ が受動を表すもの 以下に例文を提示する。 (54)㰄፰Ⱡነ㶫⠠Ⱡነ#᭐។#ጼᡀⱠነ(Neo-Confucianism)។#Ⲽ∸,㪜ክ,ᡀἌ, 㮍㒩,⠱ᅀ㤬ẴⲘ#◰⬅⸼ⲘẼ#⼀㘱㪘។#ⵕ⠠ⵁⲸ#㳘ⱼᶜ♜#ⷅⷅ#⫸ፉᥜᠤ . (後期の儒教,新しい儒教または近代の儒教(Neo-Confucianism)は日本, 韓国,台湾,香港,シンガポールの産業主義を支える精神的な力として時 折,言及される。 )ℼ【Ⲵⳬጜ, 『⎅ↅᇽ⭁』 ,21 ♸፰⋁⟤,1998】 (55)⮸⋀ᶜ⋀㙰#⫴᫤#ⳐጹⲄ#⅛ⱼᾴ#ᗴ⋄⎄ሄ㛵Ⲵ#⅘ⲑⲄ#Ⲽⱼ㑜#⋀⠠㩼⼈#㭸 ẴῬⲘ#⋄⎄ᅀ#⻝ᅀᥜᠤ .(外部からある刺激を受ければ,内分泌系統が反 ℼ【Ⲵ☁ⷅ, 応を起こし,副腎皮質のホルモンの分泌が増加する。 ) 『⹑ᚄ፰# ᆴᅕ㖬Ử᠉』 ,ᤄ♜㋜㡐#⳥Ჽ,1994】 (56)⋀ῨẼ#ᩰ᲼⭨#ᑬἈᨤⲀ#㪜⿽#ኬ♝Ⲙ#ⵄⳐ⭤Ჽ፰ሄ#⪞⬐♜#⎠Ẹ#⛐ᤙⳑⱼ ᶜ# ᇌⳄ⬐# ⬴⹑㪜ᠤ .(両親についてきたちびっ子たちは一方の隅のゲー ム機器の前で素早い手の動きでゲームに熱中する。 )ℼ【 『ⶰ♠Ⲽ∴,◬㯌 (92) 』 ,ⶰ♠Ⲽ∴◬,1992】 例文(54)は 漢字語+ᥘᠤ が受動を表し,例文(55)は 漢字語+ᥘᠤ が 自動を表し, 例文(56) は実際の用例で ⬴⹑㪘ᠤ(熱中する) しか出現しなかっ たことを示す例である。 他の例は以下のものである(ここでは,漢字語だけを提示することにする) 。 Ⲵᤙ(移動) ,ⳅ㯌(立会) ,ⳑ⯩(作用) ,ㅩῩ(着目) ,㪩Ⲙ(合意) ,㪩ⳑ(合作) 4. 5. 漢字語+㢣ᘯ が他動を表し, 漢字語+ᝣᘯ が自動,受動を表すもの 以下に例文を提示する。 (57)Ⲵᴰ#ነⱡⲀ#Ⲵ#㯌◬Ⲙ#ⵄክ 34 ᅜ⭁⬅⛌⬐♜#ἤ⸼#㛠⯔Ⲽ#⭤㰄 2 ⠜⋀㙰 3 ⠜ᅄ# ᤙ⪈# ⼄㫉ᥜᠤ .(このような教育はこの会社の全国 34 カ所の営業所 で毎週土曜日の午後 2 時から 3 時間進められる。 )ℼ 【 『ⶰ♠Ⲽ∴#☝㮜(93) 』 , ⶰ♠Ⲽ∴◬,1993】 言語文化研究 第 巻 第 号 (57)は ⼄㫉ᥘᠤ(進行する) が受動として使用されている例である。 その他の例としては,以下のものがある(ここでは,漢字語のみを提示する) 。 㮕ᡀ(拡大) 4. 6. 漢字語+㢣ᘯ が自動,他動を表し, 漢字語+ᝣᘯ が受動を表すもの NJ以下に例文を提示する。 (58)♜⯸#ᡀነኬᅀ#⋁㪜#ᤙ㤬⮀Ⲙ#ክ❘#ᗘᝄ፰#⯴ᤙⲄ#ⵄᅜ㪜ᠤ .(ソウル大教 区が北朝鮮の同胞とのうどん分ち運動を展開する。 )ℼ【 『㤉㮔⠠⁸』 ,㤉㮔 Ⅹ⛡#㤉㮔⠠⁸,1996】 (59)㳈ᩩ㖬⠝#ᇽ⭁Ⲅ#ᤄⳅ㪘Ⳑ។#ⵜ⪈⋀㙰#⠜㇭#⪞Ⲅ#⁸㮔ስᅄⱼᶜ#ἌᨤⳐ។# ⸼⳥ᎌ⼀#ᠤ⫑㪜#ᚼⲘᅀ#ⵄᅜᥘሠ#Ⳉᠤ .(ヒディング式の経営を導入しよ うという提案から市役所の前を文化空間として作ろうという主張まで多様 な議論が展開されている。 )ℼ【 『ⶰ♠Ⲽ∴ 2002 ᚄ# ፰◬ : ⭤㩼᠈⫸』 ,ⶰ♠ Ⲽ∴◬,2002】 (58)は ⵄᅜ㪘ᠤ が他動を表すことを示す例である。ここで指摘したいこ とは収集した用例の中には ⵄᅜ㪘ᠤ を自動の意味で使われているものを 1 つも探すことができなかったということである。 他の例としては,以下のものがある(ここでは,漢字語だけを提示する) 。 ⼀㘱(支え) ,ㅬ♱(賛成) 4. 7. 漢字語+㢣ᘯ が自動,他動を表し, 漢字語+ᝣᘯ が自動を表すもの 本稿の調査の結果,菅野裕臣他編(19912) の記述通り ⼑⹑㪘ᠤ(集中する) は自動と他動の意味を表し, ⼑⹑ᥘᠤ(集中する) は自動の意味を表すとい うことである。以下にその例を示す。 (60)⭨#ᅐᅁሼ#⬐ᙈ⼀ᅀ#┌Ửᶜ#⼑⹑㪴⯔ .(全ての感覚とエネルギーが根に集 まります。 )ℼ【Ⲵ⟹⯰, 『⠝⁼ᨤⲘ#◬☝㮜』㶫⁸㪙ᤙᙤ,2000】 (61)❘ᵤ㪜#Ⳑ⬰Ⲅ#㭸㲡㪘ሠⳐ#ㅾ។#㘐Ⅹᅝ∴ᠤ#㘐ⅩᅝⲴ#┌Ử។#ᤈⲄ#ὼⵀ#☝ ᅁ㪘។#፰ⶴ#☁ስⲸᨤⲀ#Ⳑ⬰Ⲅ#∴ⶴ㪘፰∴ᠤ#῰ᵤ᨜។#㘐ⅩᅝⲄ#❘⯩㪘 ᵤ។# ᢰ# ቀ⠬Ⲅ# ⼑⹑㪜ᠤ .(豊かで美しい自然を満喫しようと訪れる客よ りも客が落とすお金をまず考える既存の商売人たちは自然を保持すること よりも押し寄せる客を受容しようとすることに関心を集中させる。 )ℼ【⅕ ∑☁, 『ㅸ⬬ᶜ#⬬។#☝㘜ስᤙㇴ : ⫴័#ጼ∸⸼ⲘⳐⲘ#㮘ᇽ#ᙋᦐỬ』 ,⪄Ẵ㑀, 2003】 (62)ጸᴰᢰ#Ⲵⵜ។#Ⳑ #⫑ⱡⲴᗘ#ᚸⲸ#⋀⫑Ⲙ#Ⲙ⁴ᅀ#㪜#◬᳌⬐ᇌ#⼑⹑ᥜᠤ . (ところで今では子供の養育や老人の扶養の義務が一人の人に集まる。)ℼ 【ᎀᤙ♠, 『⪼Ἀ㛠Ἀ㎘⬐♜#Ἄᗜ#ᚸⲸᨤ』 ,዁Ử㋜㡐,2004】 4. 8. 漢字語+㢣ᘯ が自動,他動を表し, 漢字語+ᝣᘯ が自動,受動を表すもの 本稿の調査の結果,菅野裕臣他編(19912) の記述通り ⵕ⼀㪘ᠤ(停止する) は自動と他動の意味を表し, ⵕ⼀ᥘᠤ(停止する,停止される) は自動と受 動の意味を表すということである。 (63)⍔᳙㮀Ⲙ# ⼀㤉ᾴ⬐♜# ⠜ᅄⲀ# ⵕ⼀㪜ᠤ .(ブラックホールの地平面で時間 # 㶹#㪜☘#ℸᙤẴ⅔ が止まる。 )ℼ【ዌⳬ❠・♱㪘ㅽ㶫 『Ⲵ#㪘៘#Ⲵ#⅔᳌#Ⲵ#᪅# ⁸ሠ 5』 ,㪜☘㋜㡐◬,1993】 (64)M 㭸Ⲙ# ፰ቀ⳥Ⲁ# ᾰ㎠# ⵄ⋀㙰# ⸼፰ቀ# ⬰Ḍ# 㣌㩄⬐♜# ⬰ḌⱠᅀ# ☈។# ᇃⲄ# Ⲵ᪌Ẽ#Ⲵ⯩㪴#Ⳡ⠜#⛐Ⲅ#∴ᵤሠ#፰ቀⲄ#ⵕ⼀㫈ᠤ .(J 号の機関長は何日前 から主機の燃料ランプから燃料油が漏れるのをこの時を利用して,手入れ ℼ【ᎀ☁❜#⮸, しようと機械を停止した。 ) 『᫠ᤄ។#ⅰᨤ』 ,㪜ክᇽⵜ⠠⁸◬, 言語文化研究 第 巻 第 号 1995】 (65)⯴ⵄᾴ㬈⻝#ᅱ⠠#፰ᅄⲴ#ᇽሼ᤼#ᾴ㬈ᅀ#ⵕ⼀ᥐᠤ .(運転免許証の更新期間 が過ぎて,免許が停止した。 )ℼ【 『⹑⪙Ⲽ∴ 2002 ᚄ# ፰◬ : ⷅ㪩』 ,⹑⪙Ⲽ ∴◬,2002】 (66) (…中略)∀♠㮘・㮍ⵕ❘#ᦐ#ነ❘Ẽ#ⳬ㡐ⱄⰐ㯌⬐#፰⛌㪨⬐#ᩰ᲼#ᅐỬነ 㯌⇕☁#⪞ⱼᶜ 6 ᅜⰔ#⪈⬐#⬴Ửᇌ#᤼#Ⳉ។#ⳬ㡐#᪌ᎌ⼀#ᦐ#◬᳌Ⲙ#Ῡ◬Ⳑ ᇩⲴ# ⵕ⼀ᥐᠤ .(ピョンソンファン・ホンジョンス 2 人の教授を裁判委員 会に起訴することによって,メソジスト法相の前で 6 カ月以内に開かれる ことになっている裁判まで 2 人の牧師資格が停止された。 )ℼ【 『한겨레신 문 문화(92) 』 ,한겨레신문사 , 1992】 4. 9.疑似接尾辞 㢣ᘯ , ᝣᘯ だけでなく, ὦᘯ , ᙄ㢣ᘯ を伴うもの これらの動詞については,本稿では,詳しく考察することができなかった。 今後の課題としたい。 5.今 後 の 課 題 今後の課題として,以下のものを提示する。 ①漢字語自体のより詳細な考察が必要である。 ②疑似接尾辞の派生における動作主の明示がヴォイス接尾辞の派生における それと比較すると,かなり多いように思われた。このより詳細な考察と記 述が必要である。 ③例えば, ⛌ᅜ㪘ᠤ(紹介する) と ⛌ᅜ⠜㗤ᠤ(紹介する) のように, 漢 字語+⠜㗤ᠤ が 漢字語+㪘ᠤ と同じく他動の意味で使われるものが 多々あった。このより詳細な考察と記述が必要である。 ④菅野裕臣他編(19912) に掲載している 漢字語+㪘ᠤ , 漢字語+ᥘᠤ 以 外のそれらを形態論的,統辞論的,意味論的に考察する必要がある。 ⑤以上の課題を解決するために,より多くの先行研究を概観する必要もある ᠹ㪘ᠤ に関しても用例を収集し, し, 他の疑似接尾辞 ⅛ᠤ, 疑似接尾辞 ᥘ ᠤ の意味と機能がどう類似していて,どう相違するかを考察する必要が ある。 註 1)ここでは,一般言語学のヴォイスを説明することにしよう。 Asher(1994:4983)によれば,術語としてのヴォイスはラテン語の名詞 vox(音,語) に由 来されるとされる。つまり,その由来は文法とは全く関係ないものであった。また,そこでは, 音を発することを取り扱う音声的な術語との簡単に予想できる混乱があるために,ギリシア 語の術語 diathesis (状態,機能) を voice よりも好む言語学者もいるとしている。 従来のヴォイス研究では,能動形,受動形,中動形という形態論的な対立の中で文法範疇 としてのヴォイスを捉えようとしていた。しかしながら,形態論的対立だけでは,諸語のヴォ イスを網羅的に記述できないという理由からペテルブルク学派は形態論的観点,統辞論的観 点,意味論的観点をも含めた,機能=意味論的範疇としての diathesis を提示している。 機能=意味論的範疇としての diathesis については,以下の註 12 で簡略的に言及している ので,それを参照されたい。 2)漢字語とは,菅野裕臣(20072:58)では,漢字で書くことができる単語で,日本の漢語に 相当するとしている。一方,そこでは,外来語を,現代朝鮮語の語彙の中で,固有語と漢字 語を取り除いたものであるとしている。 3)菅野裕臣他編(19912:1032-33)における自動詞,他動詞,受身形,使役形の定義は次のよ うに示されている。 自動詞…動詞のうち対象を表す格語尾 - Ẽ /- Ⲅ を取り得ないもの 他動詞…動詞のうち対象を表す格語尾 - Ẽ /- Ⲅ を取り得るもの 受身形…自動詞のうち動作の主体が - ⬐ᇌ , - ⬐ᇌ♜ , - ᶜ⋀㙰 /- ⱼᶜ⋀㙰 , - ⬐ 㳤㳤㳤㳤㳤㳤Ⲙ㪘⬬ 等で表し得るもの,可能の意味を表し得るもの 使役形…他動詞のうち動作の主体が - ⬐ , - ⬐ᇌ , - ᶜ /- ⱼᶜ 㪘⬬ፈ 等で表し得る もの 本稿でも,この菅野裕臣他編(19912:1032-33)の定義に従うことにする。 また,本稿では,現代朝鮮語のヴォイスを考察する上で,形態論的レベルとしての自動詞, 他動詞,受身形,使役形,統辞論的なレベルとしての自動詞文,他動詞文,受動文,使役文, 意味論的レベルとしての自動,他動,受動,使役を厳密に区別することにする。 言語文化研究 第 巻 第 号 4)基本語幹等の現代朝鮮語に関する文法的な術語は,菅野裕臣他編(19912)並びに菅野裕臣 (20072)に従うことにする。 5)菅野裕臣他編(19912:1018)では,分析的な形(analytic form)を補助的な単語を含む 2 単語 以上からなる文法的な形と説明し,それに対立する術語として 1 単語内の色々な文法的な形 (すなわち語幹+接尾辞+語尾)を意味する総合的な形(synthetic form)を提示する。 6)菅野裕臣他編(19912:1009-1016)では,用言の語幹そのままの形を第Ⅰ語基,子音語幹で ⱼ が接尾する形を第Ⅱ語基, - ⪄ /- ⫴ が接尾する形を第Ⅲ語基と呼んでいる。 7)菅野裕臣他編(19912:1033)では,ある種の用言は 2 つの構成要素の間に格助詞や副助詞が 挿入されて,あたかも 2 単語のように見えるものがあり,これを分離用言としている。また, そこでは,その例として, ስᇩᥘᠤ(攻撃される) :次のように出現し得る【ስᇩᥘᠤ , ስᇩ Ⲵ ᥘᠤ , ስᇩᤄ ᥘᠤ , ስᇩἌ ᥘᠤ…】, ⶴᇽ㪘ᠤ(尊敬する) :次のように出現し得る【ⶴ ᇽ㪘ᠤ , ⶴᇽⲄ 㪘ᠤ , ⷅᇽⲀ 㪘ᠤ , ⶴᇽᤄ 㪘ᠤ , ⶴᇽἌ 㪘ᠤ…】 などを取り上げている。 8)本稿では,例文を以下のように示す。 (1)論文等から引用する場合は,提示する前に言及し,例文末に何の表示もしない。 (2)作例した用例を示す場合は,例文に作例であることを表示する。 (3)小説や辞典から用例を引用する場合は,例文末に略字とページを,新聞から用例を 引用する場合は,例文末に新聞の略字とその記事の日付そしてその記事が掲載され ている面を表示する(インターネット新聞の場合も同じように表示する)。 (4)インターネット上の記事などは例文の末尾にそのアドレスを表示する。 また,以下,例文を提示する時,動作の主体は そして被使役者は で,動作の客体 で,使役者は㳤㳤で, で示すことにする(動作の主体や客体などの意味論的役割について は,註 10 を参考にされたい)。 9)本稿では,無標形を動詞のヴォイスを変える形態素を伴っていない形として,有標形を 動詞のヴォイスを変える形態素を伴っている形として規定し,議論を進めることにする。 10)動作の主体や動作の客体という意味論的役割は,国立国語研究所(1997:8-59)でも指摘 しているように,主観的なものであり,研究者の数だけその数が減ったり,増えたりするも のである。この混乱を避けるために,本稿で使用する意味論的役割を以下のように規定して おく。 動作主(動作の主体)…能動,受動,非使役において,動作を遂行するもの 受動者(動作の客体)…能動,受動,非使役,使役において,動作を被るもの 使役者…使役において,被使役者を納得させたり,無理強いしたりしながら,動作を遂 行させる扇動者 被使役者…使役において,実際に動作を遂行するもの 11)崔昌玉(2010b:104)では,ヴォイス接尾辞を伴うことができる動詞を 173 個としている が,本稿では,そこに ⬐ᠤ(えぐる)【他動詞】- ⬐Ⲵᠤ(えぐられる)【受身形】を加え, 174 個とする。 12)機能=意味論的観点からの考察とは,機能と意味どちらの観点も踏まえた考察というこ とである。言語類型論及び諸語の記述を主導するペテルブルク学派はこのような観点を積極 的に採用している(ペテルブルク学派の詳細については, Nedjalkov & Litvinov (1995)を参照)。 彼ら / 彼女らの考えによれば,(議論をヴォイスに限定して言うのであれば)無標形対有標形 という形態論的観点から記述する文法範疇だけでは,諸語のヴォイスを記述することができ ないということである。このような考え方から,ヴォイスも形態論的,統辞論的,意味論的 観点を含めた機能=意味論的範疇としての diathesis を提示する。この diathesis については, 本稿では,詳しく取り扱うことはしない。詳しくは崔昌玉(2013b:434-437)を参照されたい。 ところで,浜之上幸(1991:8-9)では,文法範疇としてのアスペクト,語彙範疇としてのアク ツィオンサールト,機能=意味論的範疇としてのアスペクチュアリティーを厳密に区別しよ うとする。本稿でも,ヴォイスでも文法範疇としてのヴォイス,語彙範疇としてのヴォイス, 機能=意味論的範疇としてのヴォイス(diathesis)を厳密に区別し,議論を進めたいと考える。 13)Klaiman(1991:169)では,以下の尺度によって存在論的卓立性が高いか低いかが決定さ れるとしている。 一人称 二人称 三人称 固有 人間一 有生一 無生一 代名詞 代名詞 代名詞 名詞 般名詞 般名詞 般名詞 存在論的卓立性の尺度 つまり,上の図によれば,一人称代名詞が存在論的に最も高い卓立性を持ち,無生一般名 詞が存在論的に最も低い卓立性を持つということになる。 また,Klaiman (1991:119)では,この図は Dixon(1979:85)において最初に示されたものであ るとしている。しかしながら Croft(1990)では,この図は Dixon(1979:85)において見出され たものであるが,Silverstein (1976)において最初に記述されたものであるとしている。 14)Klaiman (1991)では,* という記号をその文が文法的であると認められないことを示すも のとして使用している。本稿もこれに従うことにする。 15)現代朝鮮語には,アスペクトを表す形式が 2 つある。1 つは Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ であり,もう 1 つは Ⅲ Ⳉᠤ である。現代朝鮮語のアスペクトについては,2.2 において詳しく言及する ことにする。 16)受身形がⅡ - 㸁ᠤ / Ⅰ - ។ᠤを伴っていないが,終止形語尾をⅡ - 㸁ᠤ / Ⅰ - ។ᠤに修正 したり,語順をかえたりして,例文として使用したものである。また,主体や客体が明示さ れていない場合,これらを前後の文脈から探し出すことができ,動作の主体を明示しても文 法的におかしくない場合は,その例文に主体や客体を補って,提示している。 言語文化研究 第 巻 第 号 17)浜之上幸(1992:49)では,Nedjalkov & Jaxontov(1988:6)を引用し,状態相を物事のある 状態をその起源をまったく含意することなしに表し,自然な状態を表すことが多いとしてい る。また,浜之上幸(1992:98)は,Nedjalkov & Jaxontov(1988:4)を引用し,自然な状態とは, ひとりでに生じたもので,動作主(agent)の意志や努力と無関係のものであるとしている。 本稿もこの見解に従うことにする。 18)ᗨ❘ᇽ(2011:90-94)では,このような文を中動(middle)として規定している。中動は古 典ギリシア語やラテン語において文法範疇としてのヴォイスとして取り扱われている。なぜ ならば,それらの言語において動詞の形態論的対立として能動形,受身形,中動形が存在す るからである。この中動は,Kemmer(1993:16-20)によれば,再帰,相互だけでなく,可能 などの意味も表すとされている。ᗨ❘ᇽ(2011)では,再帰,相互,可能などの意味を含む 広義の術語として中動を便宜的に採用したと思われる。本稿では,現代朝鮮語のヴォイスが どのような意味を表すかについては未解決の部分が多々あるので,このような意味論的な規 定にとどめておくことにする。 19)浜之上幸(1991:23)では,現代朝鮮語のアスペクトに関する先行研究と菅野裕臣他編 (19912)の情報に基づき,以下の表を提示する(本稿では,浜之上幸(1991:23)の表を少し変 えて,以下の表を提示している)。 表.浜之上幸(1991:23)の表 他 自 動 動 詞 詞 Ⅰ - ሠ#Ⳉᠤ Ⅲ#Ⳉᠤ 動詞の例 + − ⪌ᠤ(分かる)όᠤ(食べる)ⳡᠤ(握る) − − ᠮᠤ(似る)἞ᠤ(合う) + + ⬴⹑㪘ᠤ(熱中する)⭤ᠤ(来る) + − ៦ᠤ(老いる) ᆷᠤ(歩く) − + ៙ᠤ(老いる) ᤌᠤ(気が触れる) − − ᇰ㭼㪘ᠤ(結婚する) ☝፰ᠤ(見える) (+はこの形式を持つことを示し,−はこの形式を持たないことを示す) この表から他動詞の中には, Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ を伴わない動詞もあるのに対して,自動詞の 中には Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ を伴わない動詞, Ⅲ Ⳉᠤ を伴わない動詞,どちらの形式も伴わない 動詞があることがわかる。 20)浜之上幸(1991:84)では,事象を Comrie(1976),Lyons(1977)で situation としている ものに相当し,言語外的なものと規定している。一方,浜之上幸(1991:84)では,Comrie (1976:48)の局面の説明を引用しながら,局面を主観と客観の相互規定のもとで存在するこ とを認めつつも,それを一義的に客観的な規定として考えるところから議論を出発している。 21)浜之上幸(1991)では,その動詞が Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ を伴い,動作の生起〜終了の局面, Ⅲ Ⳉᠤ を伴い,動作の終了後の局面を表すものを主体変化動詞としている。また,そこでは, 動詞が Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ を伴っても, Ⅲ Ⳉᠤ を伴っても,それらが表す局面が同じであるも のを状態性動作動詞とし,動詞が Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ しか伴わないものを主体非変化動詞である としている。 また,本稿の考察では, ᅜ⅜ᥘᠤ(開発される) も 㛵㎘ᥘᠤ(統治される) も受身形な ので,厳密な意味ではそれぞれ主体変化動詞,主体非変化動詞ではなく,客体変化動詞,客 体非変化動詞ということになる。 22)現在では,韓国本土でも疑似接尾辞のみ取り扱った研究が数多くあるし,日韓対照研究 という観点から日本でも様々な研究があるが,本稿では,それを全て網羅的に概観すること ができなかった。これらの詳細な概観は今後の課題である。 23)生越直樹(2001a)では,名詞に 㪘ᠤ が付いた形を㪘ᠤ形,名詞に ᥘᠤ が付いた形 をᥘᠤ形としているが,本稿では,それぞれを 漢字語+㪘ᠤ , 漢字語+ᥘᠤ とし,生越 直樹(2001a)を概観することにする。ただし,本稿では, ✼㪑㪘ᠤ(買い物する) のように 外来語+㪘ᠤ を考察対象からはずしているので,厳密な意味では生越直樹(2001a)とはそ の考察対象が異なる。これについては 4 の冒頭部分で詳しく言及することにする。 24)本稿では,以下のものを考察対象から除外している。というのも,菅野裕臣他編(19912) において, 名詞+㪘ᠤ の記述しかなかったり, 名詞+ᥘᠤ の記述しかなかったりしてい るからである。ここでは,紙幅の都合から,301 個あるその動詞のうちの一部を示すことに する。 (1) ᅁ⭤㪘ᠤ(覚悟する)【他動詞】 (2) ᅄሼ㪘ᠤ(見逃す)【他動詞】 (3) ᅄ㭸㪘ᠤ(看護 する)【他動詞】 (4) ᅐᠹ㪘ᠤ(十分堪え得る)【他動詞】 (5) ᅐᤅ㪘ᠤ(監督する)【他動詞】 (6) ᅐ☁ 㪘ᠤ(鑑賞する)【他動詞】 (7) ᅐ㘄㪘ᠤ(感嘆する)【自動詞】 (8) ᅕ⬰㪘ᠤ(講 演する)【他動詞】 (9) ᅕⲘ㪘ᠤ(講義する)【他動詞】 (10) ᅕⶰ㪘ᠤ(強調する)【他動詞】 等々 25)その他には 漢字語+㪘ᠤ , 漢字語+ᥘᠤ 以外にも 漢字語+⅛ᠤ , 漢字語+ᠹ㪘 ᠤ を持つと菅野裕臣他編(19912)で提示しているものが含まれている。以下はそれを整理 した表である(割合は小数点第二位を四捨五入して,算出している)。 表.同じ漢字語に疑似接尾辞 㢣ᘯ , ᝣᘯ , ὦᘯ , ᙄ㢣ᘯ がつくもの (1)漢字語 㶪㪘ᠤ 㶪ᥘᠤ 㶪⅛ᠤ 㶪ᠹ㪘ᠤ その数 〇 〇 〇 〇 23 個(14.7%) (2)漢字語 〇 × 〇 〇 8 個( 5.1%) (3)漢字語 〇 〇 × 〇 39 個(24.7%) 言語文化研究 第 巻 第 号 (4)漢字語 〇 〇 〇 × 41 個(25.9%) (5)漢字語 〇 × 〇 × 25 個(15.8%) (6)漢字語 〇 × × 〇 19 個(12.0%) (7)漢字語 × 〇 〇 × 1 個( 0.6%) (8)漢字語 × 〇 × × 1 個(0.6%) (9)漢字語 × × × 〇 合計 1 個(0.6%) 158 個(100%) (〇はその疑似接尾辞を伴うことを表し,×はその疑似接尾辞を伴わないことを表す) 26)崔昌玉(2007)を概観しても,現代朝鮮語の - Ⲵ -,- 㳈 -,- Ử -,- ፰ - 受動文の出現 が少なく,実際の用例として受動文を収集することが難しいことがうかがえる。本稿では, あくまでも動作の主体と客体を存在論的卓立性という観点から考察するものであって,例文 をどのようなジャンルのものから収集したか,それぞれのジャンルのもので現代朝鮮語の能 動文と受動文がどのように現れるかを考察するものではない。これについては今後の課題で ある。 27)菅野裕臣(1995:237)では,団体名詞を意志動詞を述語とする文の主語(助詞 - ⬐♜によ る)となる名詞と規定しており,その例として ᠹ(党), ክᅀ(国家), 㪙ነ(学校) をあ げている.また菅野裕臣(19912:1040)では,意志動詞を(聞き手に対する命令を表す)命令法, (聞き手に対する勧誘を表す)勧誘法を取りうるものと規定している。 28)菅野裕臣他編(19912)では,その動詞が Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ と Ⅲ Ⳉᠤ どちらもを取り得る のか,あるいは Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ しか取り得ないかを 1 つ 1 つの動詞に標示している。ただし, 菅野裕臣他編(19912:864)では, 㛵㎘ᥘᠤ(統治される) が Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ と Ⅲ Ⳉᠤ どち らも取り得るとしているのに対して,浜之上幸(1991:70)では,㛵㎘ᥘᠤ(統治される) が Ⅰ - ሠ Ⳉᠤ しか取り得ないとしている。このような相違はまだ数多く存在するように思われ る。本稿では,このような相違を考察し,記述することはできなかった。これらの 1 つ 1 つ の動詞をアスペクト的観点から考察することは今後の課題とする。 29)日本語文法学会(2014:122)では,狭義の可能を定義しており,動作主がその行為をしよ うという意図を持った場合にその行為が実現するだけの許容性,萌芽がその状況の中に存在 するとする。また,日本語文法学会(2014:258)では,自発を通常意志的に行われる行為が, 行為主体が意志しないのに(意志に反して)実現することと意味論的に規定する。本稿もそ の規定に従い,議論を進めることにする。 30)現代朝鮮語の相互構文を考察した崔昌玉(2010a:7)では,相互をその動作が 2 つ以上の 関与者によって成し遂げられ,それぞれの関与者を相互者と呼んでいる。更にそこでは,相 互を各々の相互者が何らかの意志をもって,同じ遂行をすることを意味すると規定する。本 稿もその意味論的規定に従い,議論を進めることにする。 用例を収集した文献一覧 ℼⶱ⁸㮔⬰ኬⰐ ⯩ᶀᇀ☉፰:http://db.koreanstudies.re.kr/ (略号ℼを使用する。) ⬰♸ᡀ㪙ነ ⫸⫴ⵕ∴ᅜ⅜⬰ኬⰐ 㣸(1998) (略号⬰を使用する。) ⶰ♠Ⲽ∴(1993 年,1994 年の記事から例文を収集し,略号はⶰを用いる。) 小学館 ・ 金星出版社共同編集(油谷幸利 ・ 門脇誠一 ・ 松尾勇 ・ 高島淑郎編) (1993)(略号⛌ を使用する。) 参 考 文 献 ክỽክ⫴Ⱀ(2005) 『⮸ክⲸⲄ ⱄ㪜 㪜ክ⫴ ⁸⇕ 2』♜⯸ : 㐤⃤᠈㑀Ⲵ⚘⋁⟤ . ፰㘀⁴᲼ ᠤᠤ⠜(1997) 『㪜ክ⫴ 㩼ᤙ 㦜㭄 ⬰ኬ』♜⯸ : J & C. ᎀ㲥❘(1998) 「㩼ᤙሼ ◬ᤙ」 『⁸⇕ ⬰ኬ⮀ ⳐḌ』♜⯸ : 㘜㪙◬,621-664. ᗨ❘ᇽ(2011) 『㪜ክ⫴ 㩼ᤙ⁸ ⬰ኬ』♜⯸ : ⰔⲸ . 裵禧任(1988) 『國語被動研究』♜⯸ : 高麗大學校民族文化硏究所 . ♜⯸大學校 大學院 國語硏究會 編(1990) 『國語硏究 ⫴ᩔᎌ⼀ ⮔ᗘ』♜⯸ : 東亞出版社 . ♜ⵕ❘(1996) 『ክ⫴⁸⇕』♜⯸ : 㪜⫑ᡀ㪙ነ㋜㡐Ⱀ . ⬰♸ᡀ㪙ነ ⫸⫴ⵕ∴ᅜ⅜⬰ኬⰐ 㣸(1998) 『⬰♸ 㪜ክ⫴◬ⵄ』♜⯸ : ᦐ◰ᤙ⪄ . ⯰Ⲹ㭜(1997) 『⯰Ửἐ 㩼ᤙ ⬰ኬ』♜⯸ : 㪜ክ⁸㮔◬ . 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