圏論の創始者の一人であるS.マックレーンの著書”Mathematics,Form and Fanction”の訳書になる.
数の概念や幾何学の初歩から話を始め,関数・変換,微積分学,線形代数,空間と形式,力学,複素解析,基礎論(集合や圏)という数学の主要な分野を概観していく.
この本では”数学を行う態度”としての主張(哲学)として,論理主義,集合論,プラトン主義,形式主義,直観主義,経験主義といったものを初めに例示しているが,それらの内で特に集合論と形式主義(ヒルベルト形式主義)を中心的に参考にし,発想として横断的に,時に批判的に見方を変えながら話を進めていく.
扱う数学的内容はごく初歩のものから大学の学部程度(一部はそれ以上もある)のものまでとなる.それらは知識としてはすでに知っておいたほうがよい(数学としては)常識的な話が多く,この本の良さをそういった知識を得る部分には求めないほうがいい.
ヒルベルトの形式主義(公理主義)を端折っていえば,数学の形式化とその形式の対象(あるいは意味)を対にして考えようという態度だ.発生当初は形式化の方法論に抵抗があったものの,この態度は数学の実行として非常にうまくいった.
マクレーンは形式と対象という視点だけでなく変換・作用という視点を強調することで,「形式と作用」,「形式と状況」,すなわち「形式と機能」という観点から数学をまとめられないかという切り口を随所に盛り込んでくる.
これはヒルベルトの形式主義の発想の自然な延長にあるようでもあり,根本的に異なっているようにも見える.
この本は要所で「アイディア」という表現を使う.発想を切り替える時や導入する時,視点を比較する時などなどである.これは数学概念を導入するときの動機・目的などに忠実な表現となっている.
このことによっていくつかの数学の概念や分野が有機的に繋がっている実感を得られる説明となっている.
扱っている数学はこれらのネットワークを意識するための例示になっている.それは例えるなら集合論や圏論が生まれる前夜に戻ってその発見や誕生の小さな再現をしようとしているかのようでもある.
しかし,終わりの11章までは圏の正式な議論は避けていて,途中で説明なしに少しばかり可換図がでてくる程度である.あくまで自然な言葉で語ることを重視している.
例えば5章の6「群」では公理的な群の定義がメタ公理で与えられ,それは集合論的な抽象群を表しているが,それを変換群といういわば作用の群と同一視する自然な方法があることをサラッとかいてある.
普通は経験を通じて理解していくものだがハッキリと言語化して強調している.
これは公理主義の方法論の融通無碍な特徴をよく表しており,群には豊穣な応用があるが,その基礎として抽象群を定める群の(メタ)公理さえあれば充分であるという説明になっている.
そしてこれは公理主義の方法論の強力さを語るだけではなく,圏の発想にもつながっている.
総括すれば,この本は個別の数学的知識に注目するなら,ただ知識を得たい学生が読む価値はさほどない.この本のいわんとすることはそれら個別の数学対象・分野の繋がりに目を向けようという「視点」の重要さである.
そしてその視点には背景として形式的・構成的・概念的・実証的などなど様々な修辞をともなう「アイディア」がある.
この「アイディア」を重視する数学の語り方は後の数学に大きな影響を与えている.
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数学-その形式と機能 単行本 – 1992/4/1
数多くの名著の著者として著名なマックレーン教授が,現代数学の各部門にわたってその基礎概念を縦横に論じたもの.数学の構造,性格,および各部門の関係を数学と哲学の両面から論じ,数学の起原から現代数学までを概観しながら,それぞれの問題の本質を明らかにした.現代数学全般に精通した原著者のライフワーク.
- 本の長さ621ページ
- 言語日本語
- 出版社森北出版
- 発売日1992/4/1
- ISBN-104627018304
- ISBN-13978-4627018303
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
1.形式的構造の起源 2.整数から有理数へ 3.幾何学 4.実数 5.関数、変換および群 6.微積分学の諸概念 7.線形代数 8.空間が有する形式 9.力学 10.複素解析とトポロジー 11.集合、論理、圏 12.数学のネットワーク
登録情報
- 出版社 : 森北出版 (1992/4/1)
- 発売日 : 1992/4/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 621ページ
- ISBN-10 : 4627018304
- ISBN-13 : 978-4627018303
- Amazon 売れ筋ランキング: - 390,058位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2022年1月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2014年7月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
基本的に専門家には読むところは少ないと思う。
まったく数学の全貌に思いが及ばない人の最初の概論書としてはいいかもしれないが数学一般に触れるのならば個人的には二十世紀後半の重要な部分、コホモロジーやファイバー束・接続の理論(ゲージ理論)にもっとほんの少し触れるだけでなく本格的に論じて欲しかったと思う。
本書の肝は圏論というより解析力学を幾何学的に解説した接空間余切空間等のところだと思う。それにしたところでシンプレックス幾何までは一般的に解説しているわけではない。
その代わりといおうか普通は代数幾何の文脈での利用が多い「層」の理論の数学基礎論上の応用に触れられてる。層や切断が関数(ファンクション(=機能))の一般化になってることが理解できれば本書を読んだ意味があるだろう。あんまり微分形式の形式の視点は何に託けてるかよくわからんが。
数学は基礎論を抑えただけで全体像が批評できるほど生易しくないのでこの程度を全部読みこなせたとしてもあくまで読み物的な概説を読み飛ばしたにすぎないことを心しておかないと根本的に駄目だと思う。
まったく数学の全貌に思いが及ばない人の最初の概論書としてはいいかもしれないが数学一般に触れるのならば個人的には二十世紀後半の重要な部分、コホモロジーやファイバー束・接続の理論(ゲージ理論)にもっとほんの少し触れるだけでなく本格的に論じて欲しかったと思う。
本書の肝は圏論というより解析力学を幾何学的に解説した接空間余切空間等のところだと思う。それにしたところでシンプレックス幾何までは一般的に解説しているわけではない。
その代わりといおうか普通は代数幾何の文脈での利用が多い「層」の理論の数学基礎論上の応用に触れられてる。層や切断が関数(ファンクション(=機能))の一般化になってることが理解できれば本書を読んだ意味があるだろう。あんまり微分形式の形式の視点は何に託けてるかよくわからんが。
数学は基礎論を抑えただけで全体像が批評できるほど生易しくないのでこの程度を全部読みこなせたとしてもあくまで読み物的な概説を読み飛ばしたにすぎないことを心しておかないと根本的に駄目だと思う。
2021年2月20日に日本でレビュー済み
圏論の手引書を書かれた西郷甲矢人氏が、若いころ本書を読んでいた、と紹介しておいでだったので、読みました。彌永昌吉先生監修、赤尾和男、岡本周一両氏による翻訳です。
第11章 集合,論理,圏の叙述は、『圏論の道案内』ときちんと対応した内容でした。わたしも若いころに読んでおきたかったです。
第11章 集合,論理,圏の叙述は、『圏論の道案内』ときちんと対応した内容でした。わたしも若いころに読んでおきたかったです。
2008年3月12日に日本でレビュー済み
p395の数学と力学の相互関係の図はわかりやすい。
それに対して、p531の集合、関数、圏の図はあまりわかりませんでした。
ZFCという単語の説明が
ツェルメロ=フレンケルの公理系 (ZF)
フレンケルはAdolf Abraham Halevi Fraenkel
ツェルメロはErnst Friedrich Ferdinand Zermelo
最後のCは、AC:Axiom of choice
だろうということまではWEBで調べれました。
ZBQCは、Saunders Mac Laneが提案したという。
Automorphism, Maholo Cardinals, and NFU
Ali Enayat
[...]‾enayat/Aut.pdf
によれば、
Zermelo set theory with Bounded Qantification.
本書では、ラッセルのパラドックスの集まりはZFCでは構成できないが、内包公理をあらかじめ与えられたある集合Wの部分集合をつくる場合にだけ適用することによって解決するという。(8章)
具体例か、うまくいかない例がよくわかりませんでした。
リシャールのパラドックスの構成が、論理式で記述できないかどうかのもよくわかりませんでした。
それに対して、p531の集合、関数、圏の図はあまりわかりませんでした。
ZFCという単語の説明が
ツェルメロ=フレンケルの公理系 (ZF)
フレンケルはAdolf Abraham Halevi Fraenkel
ツェルメロはErnst Friedrich Ferdinand Zermelo
最後のCは、AC:Axiom of choice
だろうということまではWEBで調べれました。
ZBQCは、Saunders Mac Laneが提案したという。
Automorphism, Maholo Cardinals, and NFU
Ali Enayat
[...]‾enayat/Aut.pdf
によれば、
Zermelo set theory with Bounded Qantification.
本書では、ラッセルのパラドックスの集まりはZFCでは構成できないが、内包公理をあらかじめ与えられたある集合Wの部分集合をつくる場合にだけ適用することによって解決するという。(8章)
具体例か、うまくいかない例がよくわかりませんでした。
リシャールのパラドックスの構成が、論理式で記述できないかどうかのもよくわかりませんでした。
2003年3月24日に日本でレビュー済み
数学とは何か。日常生活で生じたアイデアから形式化されたもの、読了後に一言でまとめるとこうなるだろうか。扱っている範囲は、現代数学を含んでいてとても広く、数学を専門としなかったわたくしには理解の及ばないところが多い。しかし雰囲気は把めた。
物理学科出身の者としては、著者がハミルトン形式を理解するのに50年以上費やしたと告白しているのに感激した。
数学の基礎としては集合論が標準だが、その他の可能性もあるという。これは本書で初めて知ったことで、これだけでも本書を読んだ価値があると思った。
個人で購入するには高額だが、それだけのものは得られる。
物理学科出身の者としては、著者がハミルトン形式を理解するのに50年以上費やしたと告白しているのに感激した。
数学の基礎としては集合論が標準だが、その他の可能性もあるという。これは本書で初めて知ったことで、これだけでも本書を読んだ価値があると思った。
個人で購入するには高額だが、それだけのものは得られる。
2021年4月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は数学の構造と、その中身を解説する。
本書を通し、あらためて数学体系を見直すと、
圏論の世界を研究する著者の主張が読み取れる。
「群概念が豊富な内容をもつのはなぜか?」
という問いに対して答えを用意する。
数学の形式体系が
公理的構造を採用する理由として下記を述べる。
・実世界の選ばれた側面の整理と理解を資する(目的)
・完全に記述している必要はない(不完全性、形式的)
数学とは範疇的であり、
開かれた形式化できるアイディアとして位置づけている。(同値)
-------------------------------------------------------------------
memo
数学(=形式化の多様性、形式的な体系を探求する学問)
・幾何(イメージを形式化する道具)
・現実に即している
・現象によって示唆されたアイディア
・数学は正確であるが真実ではない
→単なる形式的な規則に過ぎない(手段)
・関手圏の拡張
・一つのアイディアを定式化する方法はひとつとは限らない
公理的構造
・一般化、抽象化、公理化、証明の分析
・不変性、共通性(類推)、内在的普遍性、同値(エルランゲン)
圏論構造
・グラフ(普遍性、可換、グラフ、同値)
・函手 (理論、形式化、関数、演算
・対象 (演繹の帰結、存在、概念、独立)
・射 (抽出、伝番、合成、類似 アイディア、合成、トポロジー、類推、代数、層)
-------------------------------------------------------------------
分類子(=演算分類子、部分集合間境界子)
・順序、半順序(フィルター)
・ブール代数、量化子(∧、∨、¬、∀、∃)
・等化子、イコライザ(=)
・ZF公理の演算子(内包性定理)
・選択定理(推移的、独立試行空間)
-------------------------------------------------------------------
空間区間(ヌル、独立試行空間)
・繋絡演算子
・微積分形式
・張り合わせ、連結、近傍、被覆
空間区間(有限収束、独立試行空間)
・終対象(極限、不動点)
・間対象(集積値)
・始対象(存在定理、基底集合、不動点、初期条件)
・整列集合(well - Order Set)
・整列点(well pointed)
空間区間(測度空間、確率試行空間)
・測度論の公理化(ルベグ積分、実解析)
-------------------------------------------------------------------
幾何解析(数理論理)
・連結
・単純閉曲線
・組成列
・ファイト・トンプソンの定理(有限単純群の分類)
・複素解析、級数、集積値
・ハミルトニアン
・切断(部分集合分類子)
・集合論(集合、独立性、組み合わせ、公理論、帰納理論、モデル理論、証明理論)
・証明、公理、定義、規則
数論(数、代数)
・ディオファントス整方程式
・質点力学
・ゼータ関数ゼロ点
・ゴールドバッハ
-------------------------------------------------------------------
1章 形式的構造の期限
2章 指数から有理数へ
3章 幾何学
4章 実数
5章 関数、変換および群
6章 微積分学の諸概念
7章 線形代数
8章 空間が有する形式
9章 力学
10章 複素解析とトポロジー
11章 集合、論理、圏
12章 数学のネットワーク
本書を通し、あらためて数学体系を見直すと、
圏論の世界を研究する著者の主張が読み取れる。
「群概念が豊富な内容をもつのはなぜか?」
という問いに対して答えを用意する。
数学の形式体系が
公理的構造を採用する理由として下記を述べる。
・実世界の選ばれた側面の整理と理解を資する(目的)
・完全に記述している必要はない(不完全性、形式的)
数学とは範疇的であり、
開かれた形式化できるアイディアとして位置づけている。(同値)
-------------------------------------------------------------------
memo
数学(=形式化の多様性、形式的な体系を探求する学問)
・幾何(イメージを形式化する道具)
・現実に即している
・現象によって示唆されたアイディア
・数学は正確であるが真実ではない
→単なる形式的な規則に過ぎない(手段)
・関手圏の拡張
・一つのアイディアを定式化する方法はひとつとは限らない
公理的構造
・一般化、抽象化、公理化、証明の分析
・不変性、共通性(類推)、内在的普遍性、同値(エルランゲン)
圏論構造
・グラフ(普遍性、可換、グラフ、同値)
・函手 (理論、形式化、関数、演算
・対象 (演繹の帰結、存在、概念、独立)
・射 (抽出、伝番、合成、類似 アイディア、合成、トポロジー、類推、代数、層)
-------------------------------------------------------------------
分類子(=演算分類子、部分集合間境界子)
・順序、半順序(フィルター)
・ブール代数、量化子(∧、∨、¬、∀、∃)
・等化子、イコライザ(=)
・ZF公理の演算子(内包性定理)
・選択定理(推移的、独立試行空間)
-------------------------------------------------------------------
空間区間(ヌル、独立試行空間)
・繋絡演算子
・微積分形式
・張り合わせ、連結、近傍、被覆
空間区間(有限収束、独立試行空間)
・終対象(極限、不動点)
・間対象(集積値)
・始対象(存在定理、基底集合、不動点、初期条件)
・整列集合(well - Order Set)
・整列点(well pointed)
空間区間(測度空間、確率試行空間)
・測度論の公理化(ルベグ積分、実解析)
-------------------------------------------------------------------
幾何解析(数理論理)
・連結
・単純閉曲線
・組成列
・ファイト・トンプソンの定理(有限単純群の分類)
・複素解析、級数、集積値
・ハミルトニアン
・切断(部分集合分類子)
・集合論(集合、独立性、組み合わせ、公理論、帰納理論、モデル理論、証明理論)
・証明、公理、定義、規則
数論(数、代数)
・ディオファントス整方程式
・質点力学
・ゼータ関数ゼロ点
・ゴールドバッハ
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1章 形式的構造の期限
2章 指数から有理数へ
3章 幾何学
4章 実数
5章 関数、変換および群
6章 微積分学の諸概念
7章 線形代数
8章 空間が有する形式
9章 力学
10章 複素解析とトポロジー
11章 集合、論理、圏
12章 数学のネットワーク