Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

2023年5月27日土曜日

性スペクトラム説からの性自認重視論に疑いの目を

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

トランスジェンダーを巡る問題に関連して、性分化疾患を念頭に、生物学的にヒトの性別がきれいに二分できないという指摘がされていた。いわゆる、性スペクトラム説。生物学的な性別分類がよくできていないので、トランスジェンダーの性自認を重視すべきという主張になっている。

誤謬が多い議論だ。性分化疾患を考慮してもヒトは雌雄に二分することができる。また、分類不能な性分化疾患があったとしても、その患者の性自認を尊重しようという話にしかならず、身体的には男女明確なトランスジェンダーの性自認を尊重すべきとはならない。

1. ヒトの性別は男女に二分できる

ヒトの性別は、古来より妊娠できる方が女性、孕ますことができる方が男性とされてきた。性別は、生殖における役割の違いと整合的でなければならない。成熟する前は生殖はできないし、老化や病気や怪我によっても生殖はできなくなるし、先天的に生殖不能な個体も存在するが、生殖のために必要となる臓器で分類すれば、生殖概念の自然な拡張*1になるし、実際にそうされてきた。

性分化疾患を含めた表現型の幾つかを、生殖能力、外性器、内性器の有無で、クラスター分析をかけてみよう*2。縦の長さがクラスター間の距離をあらわすのだが、女性クラスターと男性クラスターに大きく分かれることが分かる*3。このクラスター分析の結果が絶対ではないが、方法を変えたり、性分化疾患の種類を増減させても、二分したときに典型的な男性(XX)と女性(XY)が同じクラスターに含まれはしないので、性分化疾患があっても性別を二分するのは難しくない。

2. トランスジェンダーは男女の中間にいない

ここでは女性クラスターに含まれるが、精巣があり子宮はないが外生器は女性である完全型アンドロゲン不応症 (CAIS)と、卵精巣性DSDの中でもウォルフ管とミュラー管がそれぞれ一本づつ生殖器に分化するケース(O-DSD)は中間的な存在に思えるかも知れない*4。女性に分類される他の表現型とも距離がある。図で表すことは省略するが、実際、卵精巣性DSDをなくすと、CAISは男性クラスターに分類されたりと、安定的に女性クラスターに属するわけではない。

男女分類には恣意的に行わざるをえない部分が残される。スポーツなど分類が実際的な問題を引き起こす場面でなければ*5、インターセックスは社会的には性自認を尊重すべきかも知れない*6。しかし、男性クラスターに含まれる表現型のヒトが女性に、(インターセックスではない)女性クラスターに含まれる表現型のヒトが男性に分類することが肯定されるわけではない。生殖における役割の違いに反する分類となってしまう。つまり、トランスジェンダーの性自認を尊重すべき理由にはならない。

3. 性スペクトラムの概念図にあるまやかし

性スペクトラム説では男女の違いがグラデーションのように連続的に変化すると視覚的に訴えてくることが多いのだが、男女の違いは男性ホルモンと女性ホルモンのような連続変数だけで表されるものではなく、生殖能力や生殖にまつわる器官の有無を評価しないのはおかしい。幼少期は男女にホルモン分泌量の違いなどほとんど無いが、幼少期に性別がないと言うわけではない。性分化疾患を考慮すれば、生殖器を考えても男女の分類に恣意性が残る人々もごく少数存在はするが、それは解剖学的に性別が自明な人々も性自認で性別を決めることを肯定しない。生殖における役割の違いに反することが起きるからだ。

*1適応対象を広げつつも、原義を保存しているという意味。

*2表現型と表現型でダミー変数(かその平均)の相関をとり、表現型間の距離として完全連結法によるクラスター分析を行った。妊娠可能、卵巣、子宮、膣、精子生成可能、精巣、陰嚢、陰茎の8変数を用いている。図中のMGDは混合型性腺形成異常症、PGDは純粋型性腺形成不全症候群(pure gonadal dysgenesis)、T-DSDはXX精巣性分化疾患(Testicular DSD)、O-DSDは卵精巣性DSD(Ovotesticular DSD)を表す。

*3ウォルフ管とミュラー管の両方が発達しないとヒトの形態にならずに死んでしまうので、完全に未分化という意味での中性はない。

*4検索した限りでは「妊孕性に関しては、卵子形成と排卵は稀ではないが、精子形成は生じにくい」とあるので、生殖能力を重視して分類すれば女性になる。

*5完全型アンドロゲン不応症 (CAIS)5α-還元酵素欠損症(5-ARD)の人々の運動能力が高すぎるので、女子スポーツの競技会から排除される傾向にある。

*6この2つの表現型を含むインターセックスとして独立した性別とみなすべきに思えるが、実際のところ異なる表現型のインターセックスは身体の差異がそれなりあるので、同じくくりにするのは実用的ではない。また、性別を使わない社会も現実的ではないので、中間クラスターの表現型も男女どちらかに分類しておく方が実用的。なお、インターセックスの人々の多くは、出世時に登録した性別を自認しているようである。

0 コメント:

コメントを投稿