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<連載> 今すぐできる終活講座

義父の墓じまいと義母の入院から見えてきた、「お墓」と「お金」の現実

妻の実家が大変②

2024.11.01

 義父の相続手続きが終わった矢先、義母が倒れるという事態に見舞われたのは、終活や相続のスペシャリストの齋藤弘道さんです。前回は、救急病院に搬送された後の転院先についてさまざまな選択肢があることをまとめました。今回は、終活を考える際に切っても切れない「お墓」や各種費用の支払い、意思能力のない家族のための支払いについてお伝えします。

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齋藤弘道さん 妻の実家が大変②サムネイル

お墓の種類やかかる諸費用も、あらかじめ終活で考えておきましょう(c)Getty Images

義父の墓じまいにまつわる検討事項

  昨年、義父が亡くなり、その遺骨は義父が熱心に信仰していた宗教団体の墓園に埋葬しました。そのお墓には、義父方の親族が合わせて4人眠っています。しかし、義母の宗教への見方はだいぶ義父とは異なっていたうえ、その墓園は遠方にあるため墓参りするのが大変なこともあり、義母は「いずれは墓じまいをして家の近くの霊園に遺骨を移したい」と、娘である私の妻に話していたそうです。

 そこで、妻が義母の代わりに宗教団体の墓園に行き墓じまいの方法について相談したところ、次のような検討事項があることがわかりました。

●離壇料(お墓を移したり撤去したりして寺などの檀家<だんか>をやめること)などは不要だが、お墓の撤去費用が数十万円かかる。
●遺骨は一人ひとり別々の状態ではなく「土に還(かえ)る」状態である。
●お墓を撤去する際に、お坊様に読経をお願いするかどうか。
●役所には改葬許可の申請が必要。
●改葬許可を得るためには、新たな納骨先が決まっていることに加え、遺骨の受入証明書(改葬先の墓園などが故人の遺骨を受け入れる証明として発行するもの)が必要。

 お墓の撤去手続きや費用などは別途検討することとして、まずは新しい納骨先(お墓)を探すことになりました。

意外と知らないお墓の選択肢 

 この終活講座の「実家とお墓③」でもお墓の選択肢を考えましたが、お墓には大まかに以下のような分類があります。

■運営主体別(埋葬する墓地の場所)
 ・公営墓地
 ・民営墓地
 ・寺院墓地
 ・みなし墓地

■お墓や供養のスタイル別
 ・一般墓
 ・納骨堂
 ・樹木葬
 ・永代供養墓
 ・散骨

■埋葬される人別
 ・家墓(いえはか)/累代墓(るいだいぼ)
 ・両家墓(りょうけぼ)
 ・個人墓
 ・夫婦墓
 ・共同墓

 妻の実家のお墓は義母の希望も踏まえ、「民営墓地」かつ「一般墓」かつ「家墓」で探すことにしました。

お墓を建てるために必要な費用とは

 妻と一緒に候補となる民営の霊園に行き、どのような条件や費用があるのかを確認しました。そこは寺院墓地ではないのですが、近くの寺が母体となって運営している霊園でした。新しくお墓を建てるために必要な費用の主な項目は以下のとおりです。

■永代使用料
 お墓の土地を借りる費用です。区画の大きさによって異なります。
■管理料
 霊園全体を管理するための費用です。霊園の種類や地域により変わりますが、年間1万円程度のようです。
■墓石代
 石の値段・彫刻代・設置費用です。石の種類によって大きく価格が違います。
■開眼法要
 お墓や位牌、仏壇などを新しく購入した際に、僧侶の読経などを行う儀式のこと。僧侶へのお布施や納骨作業費用などがかかります。

 場所は妻の実家の近くですので、都内の霊園と比べると永代使用料は比較的安価に感じたのですが、墓石代は結構な高額です。
 霊園の管理人から説明を受けたのですが、お墓の説明の約8割は墓石の話でした。どうやら、母体のお寺は石材店に管理を依頼しているようです。後で調べたところ、民営霊園では利用できる石材店が決まっていることが多く、公営霊園でないと石材店を比較検討できない場合があるそうです。

お墓にかかる費用は墓石の種類が決め手に

 義母は妻に「黒御影石(くろみかげいし)がいい」と言っていたそうです。お墓で良く見かける黒い石で、霊園の管理人の話では最も高価な種類の墓石だそうです。黒御影石のうち、少し緑がかった石を勧められました。私たちは小さな区画のお墓を予定しているので墓石も比較的小さいサイズですが、それでも100万円以上します。

 調べてみると、黒御影石は斑れい岩といった深成岩で、硬く・重く・吸水率が低い性質があります。硬いので加工や研磨に手間がかかること、インドやスウェーデンなどから輸入することも、価格が高い要因だそうです。
 私は比較的安価な花崗岩(かこうがん)など白御影石(しろみかげいし)でもよいような気がするのですが、妻の気が済めばそれでいいと思っています。

意思能力がない家族の金融資産を引き出すには

 妻の実家ではお墓だけでなく、脳梗塞(こうそく)で倒れた義母の入院などの費用を誰がどのように負担するのかも問題になりました。義母の入院費用は、義母自身のことなので本人の銀行預金から口座振替で支払えればよいのですが、義母は意思能力がない状態と診断されており、本人が手続きすることもできません。
 ここで、認知症などで家族の意思能力がない場合に、本人の金融資産を引き出すことができる方法を整理してみます。

1.成年後見制度
(1)任意後見制度
(2)法定後見制度
 ・後見
 ・保佐
 ・補助
2.信託
(1)商事信託(信託銀行や信託会社が営利目的で提供する信託商品)
(2)民事信託(家族信託)
3.代理請求
(1)金融機関への任意代理人の届け出
(2)認知症保険(指定代理請求特約の締結)
4.一般社団法人全国銀行協会の「不測の事態における預金の払出しに関する考え方

 成年後見制度は、意思能力の低い状態にある人の判断を本人以外が補うことにより、さまざまな契約や手続きを支援します。
 信託とは、金銭や不動産を第三者に託して管理や運用をしてもらうことで、信託会社などが営利目的で行う「商事信託」と、家族など信頼できる人物が受託者になる「民事信託」があります。

 また、金融機関へあらかじめ任意代理人の届け出を行うことにより、口座保持者本人の判断能力が低下した場合でも、代理人が預金の引き出しを行うことができるようになります。
 保険においては、被保険者が認知症などにより保険金や給付金の請求の意思表示ができない場合、「指定代理請求特約」を結んでおくことにより、指定された代理人が被保険者本人に代わって請求を行うことができます。

 そして、預金者本人に病気や事故といった不測の事態が生じた場合、本人以外の第三者に対して人道的な観点から特別に預金の払い出しを認めるかどうかについては、一般社団法人全国銀行協会が「不測の事態における預金の払出しに関する考え方」として指針を示しています。

 上記のうち1.(2)の「法定後見制度」と4.の「不測の事態における預金の払出しに関する考え方」は、意思能力が減退したり失われたりした場合に利用できますが、法定後見制度は専門職が後見人等に選任された場合に報酬として費用がかかり続けますし、全国銀行協会のガイドラインは緊急事態用なので利用は1回きりです。
 また、これら以外の方法は、意思能力がしっかりしているうちに本人が契約することが必要です。

義母のための支払いで浮かび上がった相続の実態

 義母はすでに意思能力がないものの、入院費用の支払い以外に特に法律行為は必要ないため、費用がかかりうる法定後見制度の利用はためらわれるところです。実際には、本人の銀行口座の印鑑がわかれば口座振替の手続きを可能とするといった取り扱いをする病院もあるようです。

 お墓や墓石については妻が支払いますが、領収書は義母の名前で発行してもらえることになりました。義妹との間ではいったん妻が立て替えた形をとり、将来的に義母が亡くなったときに清算する約束です。これも相続の実態なのだと感じています。

 

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  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

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