メキシコ最高裁、全土で人工妊娠中絶の権利認める判断 禁止は「女性の人権侵害」
メキシコの最高裁判所は6日、全土において、人工妊娠中絶を合法とする判断を示した。
メキシコではこれまで、人工妊娠中絶は一部の州でのみ合法だった。今回の判断は32州すべてに適用される。
メキシコ最高裁は2021年9月、北部コアウイラ州が中絶に刑事罰を科すのは違憲との判断を全員一致で示していたが、各州と連邦政府による現行の刑法の無効化のプロセスは遅々として進んでいなかった。
最高裁は、中絶の可能性を否定することは、女性の人権侵害にあたると指摘した。
アルトゥーロ・サルディバル最高裁長官は、「レイプの場合、いかなる少女も、州や親、保護者から母親になることを強制されることはない」と述べた。
「この場合の女性の権利侵害は、被害者としての立場からだけでなく年齢からみても、より深刻であり、未成年者の最大の利益の観点から、問題を分析する必要がある」
この判断を受け、連邦医療機関が中絶手術を行う道が開かれた。女性の権利団体も歓迎している。
「重要な判断」
メキシコシティは2007年、32州で初めて中絶を非犯罪化した。その後、12州がこれに続いた。
しかし、中絶手術を行える施設が不足していることに加え、「地方自治体が中絶に関する広報キャンペーンを展開しておらず、多くの女性が中絶の権利があることを知らずにいる」と、女性の権利活動家サラ・ロヴェラ氏はAFP通信に語った。
「その点で、きょうの最高裁の判断は重要なものだ」
メキシコは、キリスト教カトリック教会の信者がラテンアメリカで2番目に多い。今回の司法判断は、保守派の政治家やカトリック教会の怒りを買う可能性が高い。
ただ、教会の影響力は近年低下しており、メキシコ政府は自分たちは世俗主義的だととらえている。
「緑の波」
ラテンアメリカでは「緑の波」と呼ばれる中絶規制緩和の流れがみられる。
コロンビア、キューバ、ウルグアイ、アルゼンチンでは選択的中絶が合法だが、10月に実施されるアルゼンチン大統領選挙の有力候補ハビエル・ミレイ氏は中絶を禁止したい考えだ。
レイプや、健康上のリスクがある場合の中絶を認めている国もある。一方、エルサルヴァドルやホンジュラス、ニカラグア、ハイチ、ドミニカ共和国では全面的に禁止されている。
メキシコなどラテンアメリカ諸国でのこうした動きは、女性の人工妊娠中絶権は合憲だとしてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆す判断が最高裁によって示されたアメリカと対照的だ。