月面探査機SLIM、「トイプードル」の観測で分かること
ヴィクトリア・ギル科学担当研究委員、BBCニュース
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月探査機「SLIM(スリム)」が29日、運用を再開した。
28日夜にJAXAとの交信が始まって以来、SLIMは周囲の環境を詳細に調査し、新しい画像を地球に送信し始めた。
SLIMによる分析は、これまでよりはるかに長期にわたる、将来の月探査計画に役立つかもしれない。
月を専門とする科学者はBBCニュースに、 「我々は今、本当に科学を見ている」と語った。
20日未明に月面着陸したSLIMは、微妙な角度で立っている。野球ボール大の小型ロボット「Sora-Q」が撮影した画像には、前面を月面に伏せた状態のSLIMが写っていた。Sora-Qは、タッチダウン直前にSLIMから分離された小型プローブ(月面探査車)2台のうちの1台。
この角度が原因で、SLIMは太陽電池による発電ができず、着陸から3時間未満の時点で、電池残量を残すためにスリープモードにする措置が取られた。
こうした戦術は功を奏したようだ。日差しの角度が変わった今、SLIMは「目覚めた」。
研究チームはすでに着陸地点の画像の分析を開始しており、観測対象となる岩石を選別し、それぞれに愛称として犬種の名前を付けた。これは、個々の岩の大きさをイメージできるようにするためだという。JAXAが運営するSLIMのX(旧ツイッター)アカウントは29日、月面をスキャンした際に撮影した「トイプードル」の画像を公開した。
目覚ましい写真には見えないかもしれない。しかし、これは「マルチバンド分光カメラ(MBC)」と呼ばれるもので撮影された写真で、MBCは、岩石の組成を明らかにする画像を撮影できるのだ。
月を研究する英オープン大学のシメオン・バーバー博士は、「このカメラは、岩石に含まれるそれぞれの鉱物に、異なる波長で反応する」のだと説明する。
この技術により、科学者たちは月の歴史を描くことができるようになると、博士は話す。
「もし『トイプードル』が周囲の岩石と全く異なる成分なら、衝突などで別の場所から運ばれてきた可能性を示すかもしれない」
「こうした詳細なデータの積み重ねをもとに、月が形成されてから何が起きたのかを知ることができる」
岩石をピンポイントで特定し、この方法で調べることができれば、将来のミッションが燃料や水の供給源にできるかもしれない物質を、月面で発見することもあり得る。
「月面の地質をこうして詳細に調べられるのは、プラスアルファの成果だ」とバーバー博士は話す。「私に言わせれば、このミッションはすでに成功していた。これまでの操作技術は、実に素晴らしい」。
SLIMがいつまで稼働できるのかは、まだはっきりしない。すべては太陽とソーラーパネルの角度次第だ。
太陽はやがてSLIMから見えない位置に沈む。JAXAは以前、地球時間にして約14日間にわたり太陽光が月面に届かなくなる「月の夜」を乗り切るようには、SLIMは設計されていないと警告していた。
しかし、研究チームはすでに、着陸予定地点から100メートル以内に入るというピンポイント着陸の目標を達成している。