
「無礼」「失礼」「非常識」朝日新聞出版の“編集責任者”がフリーランス女性にパワハラ…協業者をCCに入れたままメールで叱責 東京地裁が賠償命令

朝日新聞出版(朝日新聞100%子会社)の社員からパワハラに遭ったとして、フリーランサーの女性、依田さん(仮名)が同社と社員に対し約1950万円の損害賠償を求めていた訴訟で7日、東京地裁は約60万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
同日、依田さんと代理人の平井哲史弁護士が都内で会見。
平井弁護士は「朝日新聞出版には、これを機に企業としての体質を改めてほしい」として、次のように語った。
「私が弁護士になった二十数年前と比べて、このような事件は大分減少したと思っていたので、『いまだにこのようなことをする会社があったのか』というのが正直な思いです。
世間に対し、こうして(会見を開き)きちんと警鐘を鳴らすことで、行政が企業に対ししっかりとした監督・指導を行う機会になればとも思っています」
出版に遅れ、年明けに電話で“叱責”受ける
原告側によると、2018年9月、同社社員で編集責任者であるX氏が依田さんにムック本51ページの編集業務を委託。依田さんは11月にこれを承諾し、報酬25万円で委託契約を締結したという。
依田さんは当初、ライターから上がってくる原稿を編集することが求められていたが、本来追加されるはずの人員が配置されないなど、同ムック本の進行に遅れが生じていたことから、本来予定していた編集作業以外にも、取材先探しなどの業務が発生。自分の担当するページ以外の作業を引き受けることもあったという。
こうした状況にもかかわらず、編集責任者であるX氏からは具体的な指示もなく、そのまま年を越した。
しかし、翌2019年1月7日、X氏が依田さんに電話で叱責(なお、この叱責については裁判所は「不相当であったとまではいえず、違法な行為であったとは認められない」と判断している)。
その後も、X氏からの人格攻撃などが続いたといい、「出版が遅れている原因が依田さんにあるとアピールするような内容」が、取引先のデザイナーや編集部の人間をCC(宛先)に入れたメールで送信されたという。
「無礼」「失礼」「非常識」メールで送信
依田さんは1月7日の電話以降、不眠や指先の震えなどの症状が出るようになり、ムック本の発売後に受けた別の仕事でも、同ムック本に関わる単語が出てくると、症状が再発。
労働組合に加入し、補償などを求め同社と交渉を重ねたものの、話がまとまらなかったことから、訴訟に至った。
平井弁護士によると、裁判では、和解の案も出たものの、結果として原告側が和解を断念したという。
「和解交渉の中で、われわれは、会社側がきちんと非を認めて謝罪することを求めていました。しかし、会社側からはそうした態度が見られず、金額のみの話になったため裁判所の判断をいただくことにしました」(平井弁護士)
結果、裁判所はX氏がライターやデザイナーらをCCに入れつつ、依田さんに送信したメールのうち、依田さんを「無礼」「失礼」「非常識」と表現したメールや「親の顔が見たい」と記載したメールについて、不法行為と認定した。
一方で、治療費や休業補償については認められなかった。
「私からすれば、形式論だとは思いますが、依田さんは身体的な不調が出ていたものの病院に行くのを我慢してしまったことから、裁判所はX氏による行為と依田さんの症状の因果関係を認めませんでした」(平井弁護士)
「厳しい、野蛮な言葉が飛び交う職場、慣れて何も思わなくなっていたが…」
会見に出席した依田さんは、今回訴訟を起こした経緯を次のように振り返る。
「今日、取材に来ているメディアの皆さんはご存じかと思いますが、急いで仕事を進めていく中で、厳しい、野蛮な言葉が飛び交う職場が、この業界には多いと思います。
私も若いころから、こうした業界に慣れてはいたので、仕事を通じて、厳しい言葉を投げかけられることについては、何も思わなくなっていました。
しかし、他の皆さんも見ているメールで断罪されたり、一方的に『あなたが悪い』と言いふらされたりしたのは初めてのことでした」
こうしたX氏からの行為について、依田さんは第三者に相談したり、無料の弁護士相談を利用。相談した弁護士全員が「このような事案はめったにない」と口を揃えたという。
「私にとって、これらのメールは2度と見たくないもので、消去してしまおうかと何度も思いました。
ですが、私と同じような目に遭い、泣き寝入りしている人も多いと思います。そういう人たちに対して同じようなパワハラが行われないよう、抑止力の一端を担えればと訴訟に至りました」(依田さん)
今後、今回の判決で認められなかった治療費や休業補償を求め控訴するかどうかは、現時点では未定としている。
なお、朝日新聞出版は弁護士JPニュース編集部の取材に対し「当社の主張が一部認められなかったものと認識しています。 今後、判決内容を慎重に精査し、引き続き真摯に対応してまいります」(担当者)と回答している。
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