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距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜
お仕置きな?
イヤホンでクリスマスソングを聴きながら、芹奈はうっとりとツリーを見上げていた。

(綺麗だな。こんなに素敵なツリーをひとり占めしてるなんて、贅沢。ふふっ)

菜緒の合コンの誘いを断ったものの、真っ直ぐ帰宅するのもなんだか寂しいと思い、残業してからラウンジでひと息入れることにした。

静けさの中キラキラと輝くツリーは美しく、聖夜の雰囲気を味わおうと、しっとりしたクリスマスの曲をスマートフォンで選んだ。

(クリスマスイブってさ、パーティーもいいけど、こんなふうに厳かな気持ちになるのもいいよね)

頬杖をつきながら目を閉じ、心穏やかに心地良い音楽に身を任せていた時だった。

ふと誰かの気配を感じて、芹奈は目を開ける。
と、すぐ目の前に翔の顔があって、思わずギャー!と後ずさった。

「危ない!」

高さのあるカウンターチェアから落ちそうになったところを、翔にギュッと抱き留められる。

ポロリと耳からイヤホンが落ち、翔の声が耳元で聞こえた。

「なぜだ!?」
「は?な、何がですか?」
「どうして君がここにいる?クリスマスイブだぞ!」
「え?えっと、残業をしていまして、少し休憩をしに……」
「井口はどこ行った!?」
「井口くんですか?合コンに行きましたけど」

なに!?と翔は身体を起こし、「あのヤロウー!」と憎々しげに暴言を吐く。

「ふ、副社長?一体どうなさったんですか?」
「どうもこうもあるか!井口めー、タダでは済まさん!」
「ちょっと、あの。事情はよく分かりませんが、井口くんを責めるのはおやめください」
「なんだと?こんな扱いを受けても、君はまだあいつをかばうのか?目を覚ませ!」
「えっと、目は覚めてますけど……」

キョトンとする芹奈に、翔はますます怒りをあらわにした。

「俺は君が幸せになるならと、己の気持ちを押し殺して身を引いたんだ。それなのにこんな……。俺の大事な君をこんな目にあわせるなんて。もうあいつに君は任せられない。俺は井口から君を奪ってみせる!」

えっと……と、芹奈は冷静に考える。

「副社長。その口ぶりですと、私が井口くんとつき合っているように聞こえますが?」
「は?聞こえるも何も、つき合ってるんだろ?」
「いえ、つき合ってません」
「え、どういうこと?」
「それはこちらのセリフです」

翔はパチパチと瞬きを繰り返す。

「待って。君、一体誰とつき合ってるの?」
「誰ともおつき合いしていません」
「じゃあ、君の好きな人って誰?」
「特にいません」

は?と翔は声を上ずらせた。

「え、じゃあ、最近嫌いになって別れたってこと?あの時は誰が好きだったの?」

あの時?と芹奈は首をひねる。

「好きな人なんて、もう何年もいませんけど?」

そう言ってからハッと思い出し、あっ!と慌てて口を手で押さえた。

「ちょっと……、待って。あっ!って、何?」

ギラリと翔が目つきを変える。
ゴゴゴ……と背中に何かを背負ったような形相に、芹奈は恐怖を感じておののいた。

「あの、その、それは……」
「もしかして、いや、もしかしなくても。君、あの時俺に嘘をついたね?」
「そ、それは、その……」
「その上、まだ嘘をつくの?」
「いえ、あの……。申し訳ありません!」

観念して、芹奈は勢い良く頭を下げる。

「私、どうしても仕事に専念したくて。誰かとおつき合いするなんて考えられなかったんです。でも正直にそう言うと納得していただけないかもしれないと思って、それでつい……」
「へえ。じゃあ本当は他に好きな人なんていなかったんだ?」
「は、はい。申し訳ありません」

すると翔はギュッと強く芹奈を胸に抱きしめ、耳元できっぱりと告げる。

「今から俺の部屋に連れて行く」
「え、な、何をしに?」
「お仕置き」

カッチーン……と芹奈は完全に固まった。
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