距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜
言っちゃいましょう!
「まずはお台場から回ろうと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「では出発いたします」
村尾が運転する車で、三人はお台場に向かった。
資料を手に、マンションの立地や景色、ショッピングモールの外観、ホテルなどをまず見て回る。
「調べてみたら、お台場って案外分譲マンションは少ないんですね。それに少し見ない間に、色んなお店が入れ替わっている気がします」
「ああ。お台場のマンションには賃貸も多い。東京都が土地を売却せずに、借地期間が短くて済む事業用定期借地権をメインに土地の活用を始めたから、あまり多くのマンションが建てられなかったんだ。それと借地借家法は2008年に大きく改正されたけど、旧法に基づいた契約をしていた施設は、近年次々と契約期間が終了している。だから色んな施設が閉館しているんだ」
「なるほど。時代の流れを感じますね」
「そうだな、法の改正なんてある意味運命的なものだ。我が社も、そういったどうしようもない部分も含めて先々を見据えつつ動いて行かなければ、事業は大失敗に終わる。気を引き締めて視察を重ねていこう」
はい、と芹奈と村尾は、翔の言葉に真剣に頷いた。
ショッピングモールの開店時間になると、ショップガイドをもらってお店を見て回る。
「ここは海外からの観光客も多いせいか、キャラクターショップや和のテイストのお土産もありますね。あとは、SNS映えしそうなデザートのお店も」
「うん、フードコートも充実してる。せっかくだから、何か食べて行こうか」
「そうですね」
まだ時間が早いせいか、広い店内は人の姿もまばらだった。
「俺、がっつりラーメンとギョウザにしよう」
村尾が中華のお店に向かい、芹奈は何にしようかとその場に佇んで案内板を見上げる。
(うーんと、この洋食屋さんのオムライスにしようかな?でもパスタもいいな)
その時ふいに若い男性が横から声をかけてきた。
「お姉さん、どれにするか決まった?俺、おごるよ」
は?と芹奈は目を丸くする。
「え?どうしてあなたが?」
「お姉さんが綺麗だから、お近づきになりたくてさ。ほら、どれにする?」
「いえ、結構ですから」
さっさと歩き出そうとすると、男性は芹奈の前に立ちはだかった。
「いいじゃない、ちょっとくらい」
そう言って芹奈の腕を掴もうと手を伸ばす。
やめて!と思わず身をよじった時だった。
「芹奈!」
誰かが駆け寄って来て、グッと芹奈の肩を抱き寄せる。
(副社長?)
翔はそのまま芹奈を自分の背中にかくまうと、男性に冷たく言い放つ。
「人の彼女に気安く触るな」
「チッ、なんだよ。お前がほったらかしにしてるからだろ?俺じゃなくても他の男だって狙ってたぞ」
「だからと言って強引に女性の腕を掴もうとするとは失礼極まりない。だが忠告は受け取ろう。二度と彼女を離さないから心配するな」
そして芹奈の肩を抱いたまま歩き出す。
「あの、副社長。ありがとうございました。もう大丈夫ですから」
芹奈が離れようとすると、翔は更に強く芹奈を抱き寄せた。
「ごめん。ほんの少しとは言え、君を一人にするべきではなかった。それにやっぱり、きちんとしたレストランの方が良かったな」
「いえ、そんなことないです。私、フードコート大好きですから。トロトロ卵のオムライス、食べてもいいですか?あと、あそこのソフトクリームも食後に食べたいです」
翔は、ふっと優しく笑って芹奈に頷く。
「分かった。何でも好きなものを食べて」
「はい!」
先に村尾が座っているテーブルに芹奈を連れて行くと、翔は一人でオーダーしに行き、芹奈のオムライスと自分のハヤシライスをトレイに載せて戻って来た。
「はい、どうぞ。お水もね」
「ありがとうございます。今、お金払いますね」
「ご冗談を。そんなかっこ悪い男にはさせないでくれ。さ、食べよう」
「すみません、ではありがたくいただきます」
広い店内は窓からの陽射しも暖かく、遠くに海も見渡せる。
「気持ちいいですね。あ、テラス席もあるみたい」
「ほんとだ。じゃあ、食後のソフトクリームはテラスで食べようか」
「はい!」
嬉しそうな芹奈の笑顔に、翔も顔をほころばせた。
「ああ、頼む」
「では出発いたします」
村尾が運転する車で、三人はお台場に向かった。
資料を手に、マンションの立地や景色、ショッピングモールの外観、ホテルなどをまず見て回る。
「調べてみたら、お台場って案外分譲マンションは少ないんですね。それに少し見ない間に、色んなお店が入れ替わっている気がします」
「ああ。お台場のマンションには賃貸も多い。東京都が土地を売却せずに、借地期間が短くて済む事業用定期借地権をメインに土地の活用を始めたから、あまり多くのマンションが建てられなかったんだ。それと借地借家法は2008年に大きく改正されたけど、旧法に基づいた契約をしていた施設は、近年次々と契約期間が終了している。だから色んな施設が閉館しているんだ」
「なるほど。時代の流れを感じますね」
「そうだな、法の改正なんてある意味運命的なものだ。我が社も、そういったどうしようもない部分も含めて先々を見据えつつ動いて行かなければ、事業は大失敗に終わる。気を引き締めて視察を重ねていこう」
はい、と芹奈と村尾は、翔の言葉に真剣に頷いた。
ショッピングモールの開店時間になると、ショップガイドをもらってお店を見て回る。
「ここは海外からの観光客も多いせいか、キャラクターショップや和のテイストのお土産もありますね。あとは、SNS映えしそうなデザートのお店も」
「うん、フードコートも充実してる。せっかくだから、何か食べて行こうか」
「そうですね」
まだ時間が早いせいか、広い店内は人の姿もまばらだった。
「俺、がっつりラーメンとギョウザにしよう」
村尾が中華のお店に向かい、芹奈は何にしようかとその場に佇んで案内板を見上げる。
(うーんと、この洋食屋さんのオムライスにしようかな?でもパスタもいいな)
その時ふいに若い男性が横から声をかけてきた。
「お姉さん、どれにするか決まった?俺、おごるよ」
は?と芹奈は目を丸くする。
「え?どうしてあなたが?」
「お姉さんが綺麗だから、お近づきになりたくてさ。ほら、どれにする?」
「いえ、結構ですから」
さっさと歩き出そうとすると、男性は芹奈の前に立ちはだかった。
「いいじゃない、ちょっとくらい」
そう言って芹奈の腕を掴もうと手を伸ばす。
やめて!と思わず身をよじった時だった。
「芹奈!」
誰かが駆け寄って来て、グッと芹奈の肩を抱き寄せる。
(副社長?)
翔はそのまま芹奈を自分の背中にかくまうと、男性に冷たく言い放つ。
「人の彼女に気安く触るな」
「チッ、なんだよ。お前がほったらかしにしてるからだろ?俺じゃなくても他の男だって狙ってたぞ」
「だからと言って強引に女性の腕を掴もうとするとは失礼極まりない。だが忠告は受け取ろう。二度と彼女を離さないから心配するな」
そして芹奈の肩を抱いたまま歩き出す。
「あの、副社長。ありがとうございました。もう大丈夫ですから」
芹奈が離れようとすると、翔は更に強く芹奈を抱き寄せた。
「ごめん。ほんの少しとは言え、君を一人にするべきではなかった。それにやっぱり、きちんとしたレストランの方が良かったな」
「いえ、そんなことないです。私、フードコート大好きですから。トロトロ卵のオムライス、食べてもいいですか?あと、あそこのソフトクリームも食後に食べたいです」
翔は、ふっと優しく笑って芹奈に頷く。
「分かった。何でも好きなものを食べて」
「はい!」
先に村尾が座っているテーブルに芹奈を連れて行くと、翔は一人でオーダーしに行き、芹奈のオムライスと自分のハヤシライスをトレイに載せて戻って来た。
「はい、どうぞ。お水もね」
「ありがとうございます。今、お金払いますね」
「ご冗談を。そんなかっこ悪い男にはさせないでくれ。さ、食べよう」
「すみません、ではありがたくいただきます」
広い店内は窓からの陽射しも暖かく、遠くに海も見渡せる。
「気持ちいいですね。あ、テラス席もあるみたい」
「ほんとだ。じゃあ、食後のソフトクリームはテラスで食べようか」
「はい!」
嬉しそうな芹奈の笑顔に、翔も顔をほころばせた。