アップルの発表会が今年も開催。会場には世界各国のメディアが集まった。
撮影:石川温
今年もアップルは新型スマホ「iPhone 16」シリーズを発表した。
日本では9月20日に発売。発表イベントにはKDDIやソフトバンクなどの幹部の姿もあった。
iPhoneが発売される9月は毎年、通信業界にとって1年で最も売れる商戦期であり、各キャリアではiPhoneの発売と共にキャンペーンや新料金プラン、新サービスの投入することで、他社から顧客を奪おうと躍起だ。
しかし、2024年も肩透かしに終わったのが、iPhoneの「ミリ波」※対応だ。
※ミリ波とは:5Gのより高周波な帯域。端末・キャリア双方の対応が必要だが、つながれば他の周波数帯より高速・大容量・低遅延のデータ通信や同時多接続などのメリットがある。
アップルとキャリアで「お見合い」状態
アップルのiPhone 16の技術仕様欄より。iPhone 16シリーズにミリ波対応バンド(日本ではn257)の表記はない。
出典:アップル
すでにアメリカ向けのiPhoneはミリ波対応になって何年も経過しているが、日本向けのiPhone 16に関しては2024年もミリ波対応が見送られた。
アップル関係者は「ミリ波はやはりキャリアがエリアを広げてくれないことには……」と消極的だ。
一方で、キャリア関係者とすれば「iPhoneが対応してくれれば、前向きにミリ波を広げていきたい」というのが本音のところだ。
つまり、お互いが譲り合った状態が続き、一向にiPhoneでミリ波対応、さらに各キャリアがこぞってミリ波の基地局を増やすということになっていないのだ。
ただ、ミリ波に関しては「基地局とスマホの間に人が立ってしまうと電波がつながらなくなる」などかなり扱いづらく、使いにくい特性があることは間違いない。
ドーム球場などスタジアムでの活用も期待されるが、こちらも設置場所などに課題がある。
「ドームでミリ波を使うとなると、観客が邪魔になるので、なかなか実用化は難しい。天井から真下にミリ波を吹けるのであれば、多少は実現できないこともないが」(キャリアのネットワーク運用担当者)
総務省が9月12日に公開した「競争ルールの検証に関する報告書2024」より。
出典:総務省
総務省ではミリ波を活性化させようと、ミリ波に対応したスマートフォンに対して、高額な割引を認めるという施策を検討しているようだ。
だが、これまでミリ波に積極的だったメーカーが、総務省の割引施策によって、売れ行きが思うように行かず、結果として、ミリ波に対応したようなハイエンドモデルを作れない状況にもなりつつある。
総務省としては「iPhoneがミリ波対応すれば、日本国内のミリ波を活性化する」と考えているかも知れないが、アップルにはやる気が感じられない。
一方で、キャリア側も「総務省に提出した計画を最低限、クリアできてれいばいい」と余計な設備投資は避けている節がある。
おそらく、ミリ波搭載iPhoneはいつまで経っても日本に上陸することはないだろう。
KDDIは「5G SA」をiPhoneで標準オンに
発表会場で展示されていたiPhone 16シリーズ。KDDI回線で使うと例年とは違う点がある。
撮影:石川温
ただ、キャリアとしてはミリ波以外の周波数帯で競争を仕掛けようとしているところもある。
今回、iPhone 16シリーズ発売に向けてアップルと交渉してきたのがKDDIだ。
iOS 18からはKDDI回線がiPhoneに入っていると「5G SA」が自動的にオンになるという設定が盛り込まれている。
これまではオフ状態であり、自分でオンにする必要があったが、iOS 18からはオンが標準設定となる。
5G SAとは「5G スタンドアローン」の略であり、すべて5Gの技術で作られた「真の5G」とも言えるネットワーク環境だ。
これまで、5Gが始まった当初は、4Gネットワークの上に5Gネットワークを構築する「5G NSA(ノンスタンドアローン)」と言われ、必ずしも5G本来の実力を発揮したものではなかった。
これが、5G SAになると、従来よりもネットワーク化が高速化し、さらに快適な通信環境が実現するという。
これまで(5G NSA)と5G SAの違い。
出典:KDDI
KDDIではSub6という3.7GHz帯/4.0GHz帯での基地局を全国で3.9万局を展開。従来のネットワークと比べて通信速度が約3倍、300Mbpsを超える高速通信ができる場所が増えているとアピールする。
ここに5G SAが広がると「さらに100Mnps以上、高速化が期待できるのではないか」(KDDI関係者)と自信を見せている。
ただ、KDDIでは5G SAのエリアを一般には公開していないので、どこで使えるのかは不明なのだが「それなりには使えるはず」(KDDI関係者)のとのことだった。
5Gのネットワークが快適であれば、ユーザーはいままで以上に多くのデータ容量を消費する。小中容量のデータ契約しかしていないユーザーであれば、使い放題プランに切り替えていく。
キャリアとしても通信料収入を上げていくには、ネットワーク品質の向上が不可欠だ。