FinTechに参入する事業会社が直面する法的課題は? サービス別に押さえておきたいポイント
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FinTechに関する法的な議論は様々に行われているが、金融機関がFinTech企業を傘下に収める際の規制という視点で議論が行われていることが多いように思う。
本稿は、逆に、これからFinTechに参入しようとする事業会社、あるいはすでにFinTechビジネスを始めている事業会社がクリアしなければならない法的課題を論じるものである(金融機関がFinTech企業にM&Aをかける際に留意すべき法的課題でもある)。
FinTechとは
FinTechとは、「Finance」と「Technology」を掛け合わせた造語であり、ICT技術によって新たに生まれた金融サービスを指す言葉である。
米国のPayPalやビットコインなどが有名であるが、日本でICTによる新しい金融サービスといえば、FinTechという言葉が生まれる前から存在しているモバイルSuicaのような決済サービスがこの典型例だと考えれば、イメージしやすいであろう。
現在FinTechと呼ばれているサービスには様々なものがあるが、典型的には以下のようなサービスがある。
(1)決済
米国スクエア(Square)社が著名である。スマートフォンやタブレット端末に小型のカードリーダーを接続するだけで、クレジットカードの決済ができるようになる。この分野には、アップルやグーグルなどもApple PayやGoogle Payで参入しているし、日本でもQuick Payなどのサービスが先行している。
(2)融資・クラウドファンディング
米国KabbageやAffirmのように、ICTを利用した融資サービスを提供している企業がある。
例えば、中小企業や個人がインターネットで融資の申込をすると、人工知能がネットの様々なサービス(例えば会計サービスや決済サービス、SNSサービス)から情報提供を受けて分析し、数分後には融資の可否が判断される。すでに10億ドルを超える融資額をもつ企業も現れている。
また、融資の斡旋をする企業もある。米国LendingClub(NYSE上場)がこの典型だ。日本ではmaneoなどがこれにあたる。クラウドファンディングのシステムを提供している企業も、融資斡旋のFinTech企業といえるであろう。
(3)バーチャルマネー(仮想通貨)
マウントゴックスという取引所が破産したことで有名になったビットコインが、バーチャルマネーの典型である。
(4)投資支援サービス
AIなどを利用して、市場動向やユーザーの投資性向に基づき最適なポートフォリオ運用をアドバイスするサービスである。お金のデザイン、AlpacaDBなどがこれにあたる。
(5)個人財務管理(PFM)
家計・資産管理のサービスであり、クラウド上の家計簿のようなものだと考えるとイメージしやすい。インターネットバンキングやクレジットカードの履歴などの情報を集約して、自動的に家計簿や財務管理を行うものである。日本ではマネーフォワードなどがこれにあたる。
(6)経営・業務支援(Accounting)
上記(5)の企業版だと考えるとイメージしやすい。会計のクラウドサービスが中心であり、freee、マネーフォワード、SmileWorksなどがこれにあたる。
- 決済
- 融資・クラウドファンディング
- バーチャルマネー(仮想通貨)
- 投資支援サービス
- 個人財務管理(PFM)
- 経営・業務支援(Accounting)
どのビジネスでも共通して問題となる法的規制
これらのFinTechサービスを提供する際に、共通して気をつけなければならない主要な法規制は、以下のとおりである。
(1)利用規約(約款)の効力
約款による契約は、一般に、反証のない限り、その約款の定めた内容どおりの意思で契約したものと推定される(大判大正4年12月24日民録21輯2182頁(火災保険の約款の事案))。しかし、その後の裁判例で、当事者が約款に含まれる条項の内容を認識していなかった場合に、当該条項が契約内容になったことを否定したものもある。
したがって、①利用者がサイト利用規約の内容を事前に容易に確認できるように適切にサイト利用規約をウェブサイトに掲載して開示されていること、および②利用者が開示されているサイト利用規約に従い契約を締結することに同意していると認定できることが必要である(経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」平成28年6月)。
- 申込みページに利用規約へのリンクを分かりやすく設置したり、利用規約への同意を要求して、利用規約を容易に確認でき、本人が同意している設計にする。
(2)消費者契約法
B to C の契約は、消費者契約法2条3項にいう「消費者契約」に該当する。
したがって、約款の内容等に関して、消費者にとって明確かつ平易なものとなるように配慮すること、および契約の勧誘時には消費者の理解を深めるために契約の内容についての必要な情報を提供することについて努力義務がある。
さらに、消費者契約法10条は、消費者の利益を一方的に害する条項の無効を定めているから注意が必要である。
- 消費者の利益を一方的に害する約款にしない
(3)景品表示法
商品やサービスの品質・規格等を著しく優良に見せかけたり、価格等の取引条件を著しく有利に見せかける表示・広告を行うと、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)に違反することになる。本年4月1日から、違反者に対する課徴金制度が始まった(課徴金額は、原則として優良・有利誤認表示を行った期間の売上額の3%)。
さらに、事業者には表示等を適正に管理するための体制の整備義務があるから、インターネット上で商品・サービスの広告を行う際にはその内容に注意する必要がある(広告を行う際には、その他にも他人の著作権や商標権を侵害していないか等にも注意が必要である)。
- 広告を行う際には虚偽・誇大表示をしない
(4)特定商取引法
インターネット等で申し込みを受けて商品の販売等をする場合、「通信販売」にあたり、特定商取引に関する法律(特定商取引法)の規制を受ける。
したがって、例えば、事業者が「通信販売」を行う場合、広告時には商品の販売価格等を表示する義務がある。また、商品の性能、売買契約の解除に関する事項等について、著しく事実に相違する表示をしたり、著しく優良・有利であると見せかけてはならない義務があり、違反者には100万円以下の罰金が課される。
- 通信販売の広告を行う際には必要な表示を行い、虚偽・誇大表示をしない
(5)犯罪収益移転防止法
犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)の取引時確認などの義務があるかどうかも、重要なポイントである。金融機関、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者などの「特定事業者」が「特定業務」を行う際に、犯収法の様々な義務を負うことになる。対象になれば、運転免許証やマイナンバーカードなどによる本人特定事項の確認が必要になるから、ビジネス設計上は重要なポイントである。
新しいFinTechサービスが特定事業者の特定業務に該当するかどうかは、それぞれのサービスの内容次第であるから、ビジネスの設計前に慎重に検討する必要がある。
- 自社のサービスが犯収法の対象かどうか、必ず確認する
(6)個人情報保護法・プライバシー
インターネット上で情報をやりとりすると、多くのケースで個人に関する情報がその中に含まれることになる。
したがって、個人情報保護法の利用目的の通知等や第三者提供制限などに注意が必要である。また、「金融分野」に該当する場合には、一般の事業者に対するガイドライン(例えば経済産業省の経済産業分野ガイドライン)よりも厳しい金融庁のガイドラインが適用されることになるから注意が必要である。
さらに、個人情報保護法上問題がなくても、プライバシー権を侵害しているケースもあるから、別途検討が必要である。
- データの中に個人に関する情報が含まれていないか、要確認
決済サービスで問題となる法的規制
以上、多くのFinTechサービスで共通して注意が必要となる法令を解説してきたが、ここからは、個別のサービス分野ごとに気をつけるべき点を解説する。
まずは、決済サービスで問題となる法的規制である。
(1)資金決済法
銀行法の下で、為替取引を行うことは銀行業にあたり、内閣総理大臣の免許を受けずに銀行業を行うことは禁じられている(違反者に3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金または併科)。
ここでいう為替取引とは、「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動する依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう」(最決平成13年3月12日刑集55巻2号97頁)とされている。
したがって、いわゆる決済サービスを行うことは、銀行業の免許を受けるか、特別な法律の下で行うしかないことになる。
ここで、資金決済に関する法律(資金決済法)が登場する。
同法は、プリペイド式の決済システム、電子マネーなどの「前払式支払手段」のサービスについて規制しているほか、「資金移動」のサービスを一定の条件の下で認めている。
為替取引についても、資金決済法の下で、「資金移動業者」として「登録」すれば可能なのである。従来は、収納代行業務、代引業務などがこれにあたりうるとされてきたが、FinTechでの資金決済サービスも同様にこの規制にかかる。
資金決済法施行令においては、資金移動は1回あたりの送金額100万円以内のものに限るとの規制がある1。100万円を超えると銀行業の免許が必要である反面、100万円以下であれば、資金決済法の規制の下で登録のみで行えるということである。
なお、登録の要件として、株式会社または外国資金移動業者(国内に営業所を有する外国会社で当該外国において資金移動業者と同種類の登録を受けているものであり、国内に住所を有する国内における代表者がある法人)である必要がある。
- 内閣総理大臣に登録
- 株式会社とする
- 1回あたりの送金額は100万円以内とする
(2)内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国調法)
資金移動業者などが国外送金をする際には、国調法の規制がかかる。国調法によれば、国外送金等調書を税務署に提出する義務があるのは100万円超の送金の場合だけであるが、金額にかかわらず、氏名または名称、住所およびマイナンバーまたは法人番号等を記載した告知書を提出し、マイナンバーの確認書類および住所等確認書類の提示を受けなければならない。
国調法でいう国外送金にあたるかどうかも、確認すべきポイントである。
- 国調法にいう国外送金にあたるかもチェック。あたれば、氏名・住所・マイナンバーなどを記載した告知書の提出と確認書類の提示が必要となる。
(3)外国為替及び外国貿易法(外為法)
外為法に基づき報告義務があるのは、3,000万円超の国外送金だけであるから、外為法は通常は問題にならないであろう。
- 国外に3,000万円超の送金をするときは、外為法の報告義務あり
融資サービス・クラウドファンディングで問題となる法的規制
(1)金融商品取引法(改正法)
株式や社債などの募集・私募等を仲介すれば第一種金融商品取引業、組合等のファンド持分の募集・私募等を仲介すれば第二種金融商品取引業に該当し、金融商品取引法上の規制がかかる。
① 電子募集取扱業務
いわゆる「投資型クラウドファンディング」の仕組みを利用して、インターネットを通じて非上場有価証券等の募集・私募の取扱い等を行う場合、「電子募集取扱業務」に該当し、金融商品取引法上の資格が必要となる(第一種、第二種金融商品取引業者としての登録)。
② 第一種、第二種少額電子募集取扱業者(参入規制の緩和)
ただし、電子募集取扱業務のうち、少額(発行価額の総額1億円未満かつ投資者1人当たりの払込額50万円以下)の非上場有価証券等の募集・私募の取扱いの場合には、第一種、第二種少額電子募集取扱業務に該当し、特例として、これのみ行うものは、第一種、第二種少額電子募集取扱業者として登録することができる。
この場合、第一種、第二種金融商品取引業者としての登録よりも最低資本金の額が大幅に少なくて済む(第一種では1,000万円、第二種では500万円)など参入要件が緩和されている。
③ 情報提供義務、開示義務など
また、情報提供義務や業務管理体制の整備義務もある。有価証券の募集に該当する場合には、有価証券届出書の提出や目論見書の作成・交付義務もあるから注意が必要である。
- 金商法の「電子募集取扱業務」に該当すると規制が多い
(2)出資法
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)は、銀行等の法律に定めのある場合以外は、業として「預り金」をすることを禁じている。
預り金とは、以下のとおりとされている(違反者に3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金または併科)。
二 社債、借入金その他いかなる名義をもってするかを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの
これは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れのことであると考えれば良い。
- 不特定かつ多数の者から金銭を受け入れると、出資法で原則禁止されている「預り金」に該当する可能性がある。
(3)貸金業法
貸金業法により、金銭の貸付または貸借の媒介を「業として」行う場合には、貸金業者の登録を行うことが必要である。
その際、最低純資産額5,000万円以上、貸付けの業務に3年以上従事した経験を有する役員、貸金業務取扱主任者の設置などが必要となる。
- 貸金業法の規制は、金銭面でも人材面でも規制が厳しい
(4)個人情報保護法
融資の信用調査のために、ECサイトなどからの情報を収集する際に、個人情報が含まれている可能性があるから注意したい。来年9月までに施行される改正個人情報保護法の下では入手の際の経路等の確認・記録保存義務などがある。
- ネットから信用情報を収集する際には、個人情報保護法に注意
バーチャルマネーで問題となる法的規制
(1)資金決済法及び犯収法の改正法
本年3月4日に改正資金決済法及び改正犯収法の法案が国会に提出され、同年5月25日に可決成立している2。これにより、仮想通貨の交換が資金決済法及び犯収法による規制の対象となる。以下、各改正法の概要を解説する。
① 登録制の導入(資金決済法)
仮想通貨の売買(すなわち仮想通貨と法定通貨の交換)、または仮想通貨同士の交換をする取引所を運営する「仮想通貨交換業」は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行ってはならないとされる。
② マネーロンダリング(マネロン)、テロ資金供与対策規制(犯収法)
仮想通貨交換業者は、犯収法上の「特定事業者」に指定され、仮想通貨交換業を行う際には、マネロン対策等として、以下の義務を負う。
- 口座開設時における本人確認
- 本人確認記録、取引記録の作成・保存
- 疑わしい取引に係わる当局への届出
- 社内体制の整備(努力義務)
③ 利用者保護のためのルールの整備(資金決済法)
また、利用者保護のため、以下の義務も負う。
- 利用者に対する情報提供
- システムの安全管理
- 利用者が預託した金銭・仮想通貨と会社資産の分別管理
- 分別管理および財務諸表についての外部監査
- 当局による報告徴求・立入検査・業務改善命令、自主規制等
- 内閣総理大臣に登録
- マネロン対策が必要
- 分別管理や外部監査等の規制あり
(2)税金
バーチャルマネーが貨幣であると認められない限り、消費税や所得税、相続税等の対象となる。
とりわけ、消費税が課税されることは、ビジネス上大きな問題となるであろう。
この点については、間もなく改正が行われ、消費税の課税対象ではなくなるものと期待されている。
- 税金については、関連法令の改正待ちの状況(2016年4月15日時点)
投資支援サービスで問題となる法的規制
報酬を得て投資の助言を行えば、金融商品取引法上の投資助言・代理業の登録が必要になるケースがあるから注意が必要である。さらに、投資の運用まで行えば、金融商品取引法上の投資運用業の登録も必要になるケースがあるから注意が必要である。
個人財務管理(PFM)、経営・業務支援で問題となる法的規制
(1)銀行代理業
単なる家計簿サービスや会計サービスであれば大きな問題は生じないと考えられるが、資金運用のサービスなどを提供する際に(本人ではなく)銀行の代理人となると、銀行代理業としての規制を受ける。
- 銀行の代理人ではなく、本人(個人)の代理人となるように設計する
(2)税理士業・社会保険労務士業の規制
税務申告書や社会保険関係の書類の作成は、税理士や社会保険労務士の独占業務となっており罰則がある。帳票の出力サービス等を行う際には、注意したい。
- 帳票の出力は、税理士法、社会保険労務士法に注意
以上、FinTechといっても様々なサービスがあり、それぞれのビジネスの内容に応じて留意すべき法律が異なる。税務の問題を中心に法律上の取扱いが未解決のものもあるから、今後の動向に注意が必要である。例えば、バーチャルマネーの取引に8%の消費税が課せられるかどうかは、ビジネスの成否に直結する。
現状では、FinTechのビジネスを始めようと考えても法規制で難しいと判断するケースもあると思われるが、法改正がなされた瞬間からそのビジネスが急速に立ち上がることも考えられる。法改正や関係省庁の解釈の変更の可能性にアンテナを張り、事前にキャッチしておくことが重要であろう。
FinTech関連サービスと問題となる可能性のある法規制
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