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システム思考

Systems Thinking

レバレッジ・ポイント

レバレッジ・ポイントとは、システムの中で「より少ないリソースでより大きく持続的な成果をもたらす介入場所」のことです。英語では、Leverage Pointと言い、レバレッジの高い介入策のことをHigh Leverage Interventionと表現します。

政策や戦略の立案と実施において、私たちはレバレッジのない場所で議論を重ね、リソースを投入しては、予期せぬ結果や副作用によって成果を打ち消されていることがしばしばあります。それに対して、システム思考では、システムの全体像を希求し、奥深くにある本質を探求することで、より少ないリソースの投入によって、望ましくない変化を抑えながら、より大きな望ましい変化を持続的に生み出すことを目指します。

例えば、アメリカでは、殺人事件や重罪犯罪の増加に対して、1980年代までは警察官の数を増やし、刑務所をつくって犯罪者を監禁する施策が中心でした。しかし、警察や刑務所の予算の増加は、行政の財政を圧迫するほどに増えながらも、肝心な犯罪の減少には大きな成果はありませんでした。1980年代の終わりから1990年代初頭にかけて、犯罪心理学者のジェームズ・ウィルソンとジョージ・ケリングがなぜ犯罪が増加し続けるのかを理解する「割れた窓理論」を提唱し、先進的な自治体によってその導入が行われました。殺人・重罪犯罪が起こる条件として、割れた窓、落書きなどがありながら放置されている状況では、犯罪を起こしても逃げ延びることができる可能性が高いと考えることで、そうした場所での犯罪が起こり続けていたのです。レバレッジは、そうした施設の破損を速やかに修復すること、あるいは生活環境犯罪を取り締まることで、監視の行き届いた治安と認知される環境を生み出すことにありました。こうした政策の導入によって、数年ほどの間に殺人や重罪犯罪の発生が半分から3分の1程度まで抑制することに成功しました。

(枝廣・小田著『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか』より)

複雑なシステムのレバレッジ・ポイントがどこにあるか

「レバレッジ」というと、物理的な「てこの作用」や、財務上のレバレッジなどを思い浮かべるかもしれませんが、それらはごく浅い理解に過ぎません。システム思考におけるレバレッジのイメージは、言うならば人体における体液や気の流れに見いだせるツボのようなものです。複雑なシステムにおけるレバレッジ・ポイントは、しばしば直感に反してわかりにくいものとなっています。魔法の杖のように、このステップに従えば必ずいきつくというものでもありません。さらに、システム・ダイナミクスの創始者ジェイ・フォレスターは、あるシステムをよく知る人たちであっても、しばしばレバレッジを反対の方向に押してしまいがちであると指摘しています。

レバレッジ・ポイントを確認するためには、関係者たちが、現実の観察を重ね、対話すること、よく練られたシステム・ダイナミクス・モデルを通じてシミュレーションを行うこと、あるいは仮説を検証するようなプロトタイプ、実験、パイロットの効果検証を行うことが必要となります。一方で、自分たちがレバレッジの低い場所にリソースを大量に投入していることは比較的容易に見いだせます。

システム思考、とりわけ社会問題におけるレバレッジのほとんどは、つながり、波及、循環、蓄積など、要素同士の相互作用です。

具体的にレバレッジ・ポイントを見いだす際には、今まで行われているどんな働きかけが、システムが機能するためのさまざまな条件を損ない、関係者たちの力を奪っているのか、逆にどんな働きかけが、システムが成果を発揮するための最適な条件を整え、関係者たちを力づけているのかを探求します。また、複雑な社会課題においては、どれか一つだけのレバレッジ・ポイントに働きかけるだけではうまくいきません。全体的に良い循環が生まれるような、複数の働きかけをデザインしていくことが大切です。さらに、それらの中で優先順位付けを行うのではなく、どのような順序(短期、中期、長期など)で行うべきかを検討します。

ドネラ・メドウズは、レバレッジ・ポイントを「小さな変化が挙動の大きなシフトをもたらすシステムの場所」と定義しています。彼女もまた、意思決定者や官僚たちの間でレバレッジの低い場所での議論が長く続くことにいらだちを覚えて、「システムへの介入場所リスト」を提案しました。このリストの中では番号が下がるにつれて、よりレバレッジの少ない場所から、よりレバレッジの大きな場所へ行きます。このリストをレバレッジの低い12「数字(パラメーター)」から始めているのは、多くの意思決定者たちが数字の議論に終始している現実を起点にしています。より重要なのは、どのようにしてそうした結果に影響を与えることができるのかのメカニズムやシステム構造についての理解を深め、施策の議論を行うことにあります。

システムへの介入場所リスト

12.数字

補助金、税金、基準などの定数やパラメーター

11.バッファー 

フローと比較したときの安定化させるストックの大きさ

10.ストックとフローの構造

物理的なシステムとその結節点

9.時間的遅れ

システムの変化の速度に対する時間の長さ

8.バランス型フィードバック・ループ 

そのフィードバックが正そうとしている影響に比べてのフィードバックの強さ

7.自己強化型フィードバック・ループ

ループを動かす増幅の強さ

6.情報の流れ

「だれが情報にアクセスでき、だれができないか」の構造

5.ルール

インセンティブ、罰、制約

4.自己組織化

システム構造を追加、変化、進化させる力

3.目標(ゴール)

システムの目的または機能

2.パラダイム

そこからシステム(目標、構造、ルール、時間的遅れ、パラメーター)が生まれる考え方

1.パラダイムを超越する

(メドウズ著『世界はシステムで動く』より)

メドウズのレバレッジ・ポイントを見いだすための「システムへの介入場所リスト」は、システム思考の実践者たちの間でもっとも引用され、活用されているもので、とても大きな影響力を残しました。

ピーター・センゲらは、レバレッジの低い施策から、よりレバレッジの大きい施策へシフトする上で、「氷山モデル」を活用して紹介します。つまり、目に見えやすい「出来事」、大局の中での「パターン」、そしてパターンを創り出す「構造」の3つのレベルに分けます。事業に関わるマネジャーや担当者たちは、出来事やパターンのレベルで意思決定が多い一方で、よりレバレッジのある施策は、パターンを創り出す構造を変えることで生まれるとしています。

ディヴィッド・ストローはメドウズやセンゲのフレームワークを応用し、とりわけ社会変革の文脈では、以下の4つがレバレッジのある介入に有用であるとしています。

  • システムが現在どのように機能しているかについて、気づきを高める
  • 重要な因果関係を「配線し直す」
  • メンタル・モデルを変容する
  • 目的を支える目標、測定基準、インセンティブ、権限構造、資金調達の流れの一貫性を保つことによって、選択した目的を強化する

(ストロー著『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』より)

また、ディヴィッド・ストローは、システムにおけるレバレッジ・ポイントの概念を、個人レベルでの生き方や組織・社会におけるリーダーシップに応用した、「レバレッジの効いたリーダーシップ(High Leverage Leadership)」という概念を提唱し、実践のコツをセミナーにまとめました。

4つのレバレッジ領域

  • 意義のある方向性を示すことで活力を与える
  • どんなに困難な現実も受け入れる
  • 長期的に考え、短期的に行動する
  • 継続的に学習する

(ストロー「レバレッジの効いたリーダーシップ」セミナー資料より)

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

レバレッジ・ポイントに関連する記事

レバレッジ・ポイントに関連する参考図書

レバレッジ・ポイントに関するセミナー・研修

チェンジ・エージェント社のシステム思考に関するセミナー・研修では、「システムへの働きかけ」の講義で主要なレバレッジ・ポイントの考え方や事例を紹介します。とりわけ、「レバレッジ・ポイント」について詳しく扱うのは、下記のセミナーです。

道徳的なルールと実用的なルールは相互につながっており、結局は同じルールなのだ。

ーードネラ・メドウズ

システムに深く関与している人々は、どこを探せばレバレッジ・ポイントが見つかるかを直感的にわかっていることが多い。しかし、たいていの場合、変化を間違った方向へと押してしまう。

問題の真の原因と解決策は、時間的にも、空間的にも離れたところに存在する。

ーージェイ・フォレスター(システム・ダイナミクス創始者)

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