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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第50回

南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」

『南海キャンディーズのハート泥棒』集英社

 10月3日、後藤ひろひとが脚本・演出を務める舞台『ガス人間第1号』が始まった。1960年公開の特撮映画の舞台化で、ガス人間になった男と美女との悲しい恋模様を描いた物語。南海キャンディーズの山ちゃんこと山里亮太は、この作品で初舞台を務めることになった。2日に行われた記者会見で演出の後藤は、山里を起用した理由について「いい感じに気持ちが悪い」と説明していた。

 南海キャンディーズといえば、最近の男女コンビの中では最も成功した芸人のうちの1組である。山里の相方のしずちゃんは、その親しみやすいキャラクターが人気を呼び、お笑いの枠を超えて映画、ドラマ、CMなど多方面で活躍。最近では俳優・篠山輝信との交際が報じられるなど、公私ともに充実した毎日を送っている。

 一方の山里は、繰り出す言葉の1つ1つにキレがあり、知る人ぞ知る話芸の達人だが、その容姿のせいか、お笑いファン以外の一般人からの人気はあまり高いとは言えない。ここまで2人に対する世間の評価が真っ二つに分かれているのはなぜなのか? その秘密は、彼らのコンビ結成時までさかのぼる。

 1999年、お笑いの道を志してNSC(吉本総合芸能学院)に入学した山里は、すぐさま大きな壁にぶつかった。その壁とは、同期でありながらまばゆいばかりのスター性と実力を備えていた漫才コンビ・キングコングだった。彼らが一気に売れっ子になっていく過程を目の当たりにして、山里は深い絶望と挫折を味わった。あいつらは天才だ。自分は天才ではない。――ならば、どうすればいいのか?

 その後、「足軽エンペラー」というコンビを結成した山里は、『ガチンコ!』(TBS)の漫才企画で優勝を果たすも、彼のスパルタ式の厳しい練習方針に相方が我慢しきれずコンビは解散。その後、途方に暮れる日々の中で山里はしずちゃんに出会った。一度見たら忘れられない強烈な外見に、彼は一瞬で心を奪われた。

「この大女は、面白い!」

 すぐに山里はしずちゃんを誘った。当時別のコンビを組んでいたしずちゃんは、彼の熱意に負けて誘いを引き受けた。ここに南海キャンディーズが誕生した。

 山里は、前の相方に逃げられた手痛い経験を教訓として、しずちゃんにはできるだけ優しく接するようにした。しずちゃんのペースに合わせて、彼女のキャラクターを最大限に生かして、今までにない漫才を練り上げていったのである。

 そして、新たなドラマが生まれた。2004年のM-1グランプリで、結成1年の南海キャンディーズは衝撃的なデビューを果たし、見事に準優勝を成し遂げた。そこで彼らが見せたのは、今までの男女コンビの常識をくつがえす、男が女に優しい漫才だった。

 山里は漫才の中で、しずちゃんがいくらおかしなことをしても絶対に叩かない、怒らない、バカにしない。あくまでも彼女の立場を尊重しながら、控えめに切れ味鋭い一言を放って笑いを増幅させる。マイペースなしずちゃんに振り回され、殴られ、ボロクソに言われながらも、山里はどこまでも彼女を温かく見守る。コンプレックスに囚われ、荒んだ心を抱えた男が編み出した愛にあふれた漫才は、M-1の晴れ舞台で爆笑を勝ち取った。

 ちなみに、キングコングはこの年のM-1準決勝で敗れている。山里はしずちゃんという飛び道具を用いて、スーパールーキーと呼ばれた同期の天才芸人にようやく一泡吹かせることができたのだ。

 しずちゃんは、それからすさまじい勢いでスターダムを駆け上がっていった。身長182cmのぽっちゃり体型の女性が、世間では口々に「かわいい」と言われて、愛されるようになった。山里がブサイクキャラとして自らを貶めてまで、しずちゃんの魅力を引き出して彼女を輝かせることに徹したからこそ、そういう状況が生まれたのである。しずちゃんというシンデレラを華やかな表舞台にいざなった、山里という名の魔法使い。彼がかけた愛の魔法はまだ解けない。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

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日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は11月予定。ご期待ください。

南海キャンディーズのハート泥棒

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」
【第48回】ますだおかだ  「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化
【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」
【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」
【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける
【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
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【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
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【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

最終更新:2013/02/07 12:51
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