2024年のプロ野球、セ・リーグは巨人が4年ぶりに優勝し、パ・リーグはソフトバンクが4年ぶりに制覇、日本シリーズでは、リーグ3位から勝ち上がったDeNAが26年ぶりに日本一の栄冠を勝ち取った。
フジテレビ系列12球団担当記者が、そんな2024年シーズンを独自の目線で球団別に振り返り、来たる2025年シーズンを展望する。
第1弾は、2年連続シーズン3位に終わったものの、見事に下克上を果たし26年ぶりの日本一に輝いた横浜DeNAベイスターズ。

投手は今永昇太・バウアーの抜けた穴の影響が大きくのしかかったが、新戦力が粘りを見せた。野手は新主将・牧秀悟を中心に経験ある打者に加え、若手の台頭があった。
来季はリーグ優勝からの“完全優勝”を目指す中、日本一から得たものは何か。また、シーズンを戦い抜く上で足りないものは何なのか。

今永・バウアーの穴は埋まるも“枚数”に課題

23年22試合に先発し7勝4敗、防御率2.80の前エース・今永昇太(31)がカブスに移籍。また、19試合に先発し10勝4敗、防御率2.76のバウアー(33)がメキシカンリーグに参戦。
2人合わせて投げたイニングは278回2/3。シーズンを戦い抜く上で大事なローテーション2枚が抜けることとなり、前評価は低かった。

しかし、球団はオフに投手を手厚く補強。
ソフトバンク戦力外の森唯斗(32)、オリックス戦力外の中川颯(26)を獲得し、現役ドラフトではロッテから佐々木千隼(30)を獲得。そしてジャクソン(28)、ケイ(29)、ウィック(32)が新助っ人として入団した。

結果的にこれらの選手はシーズン、ポストシーズンそれぞれで活躍を見せ、特にジャクソンとケイはシーズン中、2人合わせて279回2/3を投げ抜き、見事に今永・バウアーの担ったイニングを埋めてみせた。

今永からエースを受け継ぐ活躍をみせた東克樹
今永からエースを受け継ぐ活躍をみせた東克樹
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また、今永の意思を継いだ新エース東克樹(29)が2年連続2桁勝利の好成績を残した。

【2024年成績】
ジャクソン 8勝7敗 防御率2.90
ケイ    6勝9敗 防御率3.42
東克樹   13勝4敗 防御率2.16

この3枚を中心に奮闘したDeNAだったが、課題はローテーションの枚数にある。
日本シリーズではジャクソンが「中4日登板」をするなど、短期決戦ならではの戦い方で勝利を積み重ねたが、長いシーズンではそれを続けるわけにはいかない。リーグ優勝した巨人や2位阪神の投手陣と比較すると、もう1枚2枚、1年を通してローテーションを守れる投手が必要なことも事実。
来季優勝を狙うには経験のある石田健大(31)・大貫晋一(30)・平良拳太郎(29)や、経験は浅いが2024年シーズン台頭したルーキーの石田裕太郎(22)、2年目の吉野光樹(26)などが1年を通して活躍できることが必須となってくる。
誰かケガをした場合の代わりを担える選手も必要だ。

このオフ、入団後5年間中継ぎとして腕を振った伊勢大夢(26)が、契約更改で来季の先発挑戦を宣言。もちろん、ファーム日本一を担った選手たちや新入団選手たちなど、新戦力にも期待がかかる。
来季はいかに4枚目以降のローテーションが安定できるかが優勝への鍵となるか。

オースティンと筒香 厚みの増した打線

初の規定打席で首位打者に輝いたオースティン
初の規定打席で首位打者に輝いたオースティン

打線において、大きな存在となったのがオースティンである。
ここ数年、ケガで稼働が少なかったオースティンが5年目にして初の規定打席に到達。打率.316でセ・リーグ首位打者に輝くと、チームトップの25HR、チームで2位の69打点をマーク。
23年最多安打&最多打点の牧秀悟(26)、2度の首位打者に輝いた宮﨑敏郎(35)、20年首位打者・22年最多安打の佐野恵太(30)と強打者たちが並ぶ打線の中で、シーズン途中から4番を担い結果を残した。
チャンスにも強く、得点圏打率はリーグトップの.388。ここぞの場面で試合を決めた。

【2024年成績】
オースティン 打率.316 25本塁打 69打点

筒香嘉智のDeNA復帰
筒香嘉智のDeNA復帰

また、MLB挑戦から古巣DeNAに復帰した筒香嘉智(33)の存在も大きかった。
日本でのプレーに苦戦しながらも、一発を放つのは劇的な場面が多かった。復帰戦となったヤクルト戦では第1号逆転3ラン。さらに2号、3号も決勝点となる一発。日本シリーズでも第6戦に先制弾を放つなど大事な試合、大事な場面で放つアーチは健在だ。

【2024年成績】
筒香嘉智   打率.188 7本塁打 23打点

若手の台頭と共に得た“新たな武器”

そんな重量DeNA打線は24年新たな武器を手に入れた。
24年シーズン、レギュラーが固定されなかったポジションが2つある。「外野」はレギュラーのレフト・佐野を除き10人もの選手が起用された。そして「ショート」は7人の選手が起用され、最後までレギュラーが固定されなかった。

期待の外野手 梶原昂希
期待の外野手 梶原昂希
期待の内野手 森敬斗
期待の内野手 森敬斗

しかし、逆に言えばこの2つのポジションではたくさんの若手が試された。中でも存在感を見せたのが3年目の外野手・梶原昂希(25)と5年目の内野手・森敬斗(22)である。2人は共にキャリアハイの試合出場数をマークし、打撃や守備ではもちろん、持ち前の快速でチームに「機動力」をもたらし、日本一に貢献した。

三浦監督就任後、毎年キャンプから「走塁」への意識改革に取り組んできたチームであったが、シーズンでは中々うまく発揮できずにいた。実際、23年の盗塁数は33個で12球団ワースト。
ところが、24年から打撃コーチに加え走塁コーチも兼任した石井琢朗コーチの「走塁改革」でチームの意識や技術が向上。リーグトップの69盗塁を決め、主力の牧が11盗塁をマークするなど確実に成果が出ていた。

その意識や技術が加わることで最も数字に期待できるのが、もともと「足」に強みを持つ選手だ。盗塁個人のリーグトップは阪神・近本の19盗塁。梶原はそれに次ぐ16盗塁を決め、森は近本の3分の1の打席数で8盗塁を決めた。
機動力をもっと多くの場面で出すことができれば得点力も上がる。来季の目標に「盗塁王」を掲げた梶原と森。2人だけでなく日本シリーズMVPの外野手・桑原将志(8盗塁)や、ショート・林琢真(6盗塁)など、足を武器にできる選手はたくさんいる。
来季はこの「走攻守」全てのレベルアップが求められるポジション争いにも注目したい。

【2024年成績】
梶原昂希   打率.292 4本塁打 30打点 16盗塁
森敬斗    打率.251 5打点 8盗塁

新主将・牧秀悟 日本Sで得たチームの成長を自信に

23年のDeNAは「絶対に勝たなければいけない試合」をとことん落とした。
“勝てば2位負ければ3位”の巨人との最終戦、エース東が好投も、完封負けでCS本拠地開催を逃した。その後広島とのCSではロースコアの接戦を落とし敗退。いずれも投手陣が踏ん張ったものの、強力打線がうまく機能せず負けていた。

24年から新主将を務めた牧秀悟
24年から新主将を務めた牧秀悟

そんなシーズンが終わり、発表された新キャプテンが牧秀悟だった。取材を受ける牧の顔は、どこかこれまでと違っていた。明らかに「責任」を背負った覚悟の顔。
「もう負けたくないという思いが強い。個人よりチームを優先して、優勝を目指してやっていきたい」

プロでの実績3年ながら、ルーキーイヤーから常に結果を残してきた牧は、すでに自分のことよりチームのことを想った。

当然、三浦監督はそんな牧のキャプテンの素質を買っている。
「牧のすごいところは、凡退した後。悔しいと思いますけど、すぐに次の打者を鼓舞する。チームとして戦ってる姿勢を見せてくれてますし、すごくキャプテンシーを感じる選手です」

12球団最年少のキャプテン。24年もたくさん悩み、たくさん考え抜いたことは容易に想像できる。

牧がシーズン途中に掲げたスローガン「勝ち切る覚悟」
牧がシーズン途中に掲げたスローガン「勝ち切る覚悟」

それでも、後半にかけて牧が打ち出したスローガン「勝ち切る覚悟」は快進撃のきっかけとなったに違いない。「絶対に勝たなければいけない試合」を経験してきた選手たちは、このスローガンの意味をすぐに理解できたであろう。牧は改めてチームを一つにした。

【2024年成績】
牧秀悟    打率.294 23本塁打 74打点

「自分にあと1本が出ていれば…」そんな悔しい試合を経験してきた牧が、勝てば日本シリーズ進出が決まるCSファイナルステージ巨人戦、同点の9回に勝ち越しタイムリーを放った。自分の手で、「絶対に勝たなければいけない試合」を勝利へと導いた。
さらにその後、牧は日本シリーズの中でも劣勢になると緊急ミーティングを開きチームを一つにした。結果、DeNAは日本一をつかみ取った。

「プレーでもそうですけど、チームのことを見るって本当にとても大変なことだと思いますし、本人が一番苦しかったでしょうけど、また一回りも二回りも大きくなると思う。牧一人じゃなくて周りもしっかりサポートしながら、みんなでまた頑張っていけたらいいかなと思います」
日本一になった直後のインタビュー、MVPの桑原が語った。

桑原だけではない、前キャプテンの佐野や筒香など、最年少のキャプテンを見守り、アドバイスを送る先輩たちはたくさんいる。

最後に牧に聞いてみた。「キャプテンとしての牧秀悟に点数をつけるなら?」
「まだまだですね。どんくらいですかね…30点位じゃないですか!」

シーズンの悔しさはまだ晴らせていない。それでも、まだまだ伸び盛りの牧キャプテンの元、「絶対に勝たなければいけない試合」を“勝てる”チームになった。この経験は必ず来季も生きるはずだ。

(文・入江早雪)

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