錦糸町駅北口から徒歩2分、大通りから1本から入った横道に居を構える「SATHI(サティ)」。
外観はどこの町でもよく見かけるタイプのインド・ネパール料理店だ。開業から10年を迎え、地元の方々に愛されるお店だ。
町なかにあるインド・ネパール料理店の店主さんは、いったいどういう経緯で日本にやってきて、どんな想いで経営されているのか。普段からこういうお店によく通っているにも関わらず、店主の人柄や人生に触れたことはあまりない。
今回の記事では、「SATHI(サティ)」のオーナー店主で、ネパールで生まれ育ったマガルさんに、日本でインド・ネパール料理店を開くに至る経緯を詳しく聞いてみた。
ナンを焼く釜で、サバも焼く
―お店を開く前は、どんなお仕事をされてたんですか
もともとはホテルマンでした。料理を作るのも好きだし食べるのも大好きで、色々な料理を家で練習してましたよ。
―他のお店での修行はされてない?
自分の国の料理だから、普通に作れるんですよ。
ネパールに住んでた学生時代、自分で料理作ってたから。その頃から、今メニューにあるのと同じような料理作ってたよ。ダルバートとかカレーとか。もちろん全部作れたわけじゃないけど。
インド・ネパール料理店でも、習ったり修行したりする人もいるにはいるけど、習うのは料理や飲食店経営のベーシックな部分だけ。なにを出すか、どんなアレンジするかはそれぞれの判断だね。
その辺は、他の飲食店とちょっと違うかもしれない。
―ネパールの方ってみんな料理出来るんですか
そういうわけじゃなくて、好きな人は作るね。
私は料理が好きだから、自分が食べたいものを好きなだけ作ってた。
食べられればなんでもいいって人だと、上手くならないね。
▲ネパールの代表的な家庭料理ダルバート。豆のスープ(ダル)とご飯(バート)の定食だ。
―ネパールでは外食より、自炊が多いんですか
家で作るのがほとんど。実家ではお母さんが作ってくれてたよ。
お店のメニューは、お母さんの味つけではなくて、かなり日本人向けにアレンジしてるよ。それがこだわり。
―日本人向けのアレンジって?
現地と同じぐらいの辛さにすると食べられないから、甘めから甘辛ぐらいに調整してるんです。ネパールで食べるともっと辛いね。
本場の味に近づけることも出来るけど、食べやすくアレンジにしたほうがお客さんが付きやすいんだよ。
メニューもたくさんあるでしょ。日本のおつまみメニューとかタイのガパオとか。
インド・ネパール料理だけだとお客さんが付きづらいと判断して、そういう料理も出してます。これだけメニューあると、1回来ても全部頼み切れないでしょ。で、また来てくれる。ピザも大人気だよ。
―ピザが人気なんだ、意外! お客さんからのリクエストで増やすんですか?
▲オススメメニューのポークブナ。「日本人は食べてない味」だそうだ
▲ポークブナ。カレー風味の味つけの豚肉。歯ごたえがプリプリで良い
お客さんからのリクエストが半分、元々まかないだったのが半分。
好評だったまかないを定番メニューに加えてることもある。
たとえば、ポークブナは、元々まかないメニューだった。他の店で見たことないでしょ。ネパールでもそんなしょっちゅう食べる料理じゃなくて、たまに食べるぐらい。
炭焼きサバ、炭焼きイカはお客さんのリクエストで増やしたメニュー。ナンを焼く釜で焼いてるから、美味しいんだよ。
―ナンの釜で!インド・ネパール料理店でしか食べられない焼きサバ!
▲釜で焼いた焼き鯖。ムチムチで香ばしくて旨い!
従業員は、みんな友だちか親戚つながり
―いつ、ネパールから日本に来たんですか?
23歳の時。
学校で同じクラスの友だちが、日本に行ってて「けっこう、いいよ」ってオススメされたのがきっかけ。今、その友だちは、インターナショナルスクールの経営をしてます。
当時、ネパールから海外に行く人はそんなに多くなかったけど、行ってみようかなって興味が湧いたんです。
―レストランをやるために来たんですか?
勉強のため。当初は、学校で日本語やホテルの仕事を勉強してました。
卒業したあと就職して、ホテルやブライダル関係、旅行関係で仕事していて。
就職から5年後たって、自分でお店やってみようかなと。将来を考えると、雇われてるよりビジネスを始めたほうがいいなと思って。
このお店を始めたのは2013年ぐらいですね。ここで知り合いがお店してたけど、辞めることになったから、代わりに私がやったんです。
▲サティの賑やかな外観
―はじめから順調でした?
開店して1年は、お店やったのは間違えただったかなって、苦しかったね。
―お客さんがつかなかったからですか?
お客さんはついたんだけど、はじめての事業だったから経験ないのが辛かった。
自分の国じゃないから、分からないことだらけで、いろんな人に相談しなきゃいけないし。分からないことばかりだから行政書士とか、税理士とかについてもらって。
従業員を雇ってる責任もあるし、税金も払わなきゃいけない。自分の生活は後回しでした。
―お店開く時、他のインド・ネパール料理店の経営者に相談しました?
他の店より、友だちに相談したね。
「私も手伝うからやろう」って言ってくれた友だちもいるけど、ずっと手伝ってくれるわけでもないし、結局は自分でやんなきゃいけないから。1年間は苦しんだよ。
ー従業員はどうやって集めたんですか?
みんな友だちや親戚繋がり。今はコロナで呼べないけど、収まってくればネパールから親戚を呼んだりってこともありますよ。
―日本でお店開くとなったら、頻繁にネパール帰れないでしょうし、ご家族は寂しかったんじゃないですか
それはない。家族は、私が頑張れる人間だと知ってるから。
日本に来たのもお父さんのお金じゃないし、反対もされなかったよ。
今は、ネパールに帰るのも5年に1回ぐらいかな。
このあいだ行ってきたばかりで、行くたびに道がキレイになったり家が建ったり、どんどん変わっていきますね。
メニュー表は、イラストレーターとフォトショで自力で作る
―メニュー表とか看板は、業者が作ってるんですか?
全部自分で作ってる。
―全部、自分で!?
デザインも、写真も、自分でやる。
写真も自分で撮った。
勉強してないから、全部独学。
イラストレーターとフォトショップで写真色合わせたり、デザイン組んだりして作ってるよ。
―こういうのって仲間内で決まった業者さんに頼んでるんだと思ってました
自力だよ、自力。
友だちのお店のメニューも私が作ってあげてる。
値段変わったら作り直すし、料理の写真も撮ってあげる。
ー他のインド・ネパール料理店との繋がりあるんですね
繋がりあるよ。
普通の店主は、メニューやレシピを教えないんだけど、私は教えます。
さすがにすぐ近くのお店には教えないけど、遠い場所のお店ならぜんぜん教える。日本人向けにこういうアレンジしたらいいよとか、法律もこうだよとか。
仲間が困ってたら助けてあげる。
―レシピまで教えてあげるなんて
けっこう頼られてて、お店のこと以外でも病院連れていったりしてるよ。
助けてあげることで、自分が困ったときにも助けてくれるんだよ。
「町なかのインド・ネパール系料理屋のシェフは、どんな人生を送って日本に辿りついたのか?」
そんな疑問を解き明かすために、サティの店主マガルさんにお話しをうかがった。
どうやら、親戚や友人を頼って来日する方が多いようだ。独立独歩の精神を持ちつつ、仲間を大切にする。そんなインド・ネパール系料理屋のマインドに触れることができた。
お店情報
SATHI(サティ)
住所:東京都東京都墨田区太平3-5-4
電話番号:03-3626-2210
営業時間:月、火、木~日、祝日、祝前日: 11:00~15:00 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30)
17:00~23:00 (料理L.O. 22:30 ドリンクL.O. 22:30)
水: 11:00~15:00 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30)
定休日:なし
書いた人:松澤茂信
珍スポットマニア。日本全国1,000ヵ所以上のちょっと変わった観光地や飲食店を巡り歩いています。
- Twitter:松澤茂信
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