まるで実車のレース映像──シリーズ世界累計販売本数が7690万本を超える(2016年12月末時点)、日本発の人気レースゲームがある。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の子会社、ポリフォニー・デジタルが開発する「グランツーリスモ」シリーズは、見る者を驚かせる圧倒的なグラフィックスと、限りなく実車の挙動に近づけた操作感によって、ゲーマーだけでなく、自動車ファンや業界関係者までもを引きつけるモンスタータイトルだ。
“リアルドライビングシミュレーター”をうたうように、今や本作はレースゲームの枠を大きく超えている。ゲームの開発チームが日産自動車のスポーツカー「GT-R」(R35)に車載されている情報端末のUI(ユーザーインタフェース)デザインの監修、ゲームのプレイヤーから現実世界のプロレーサーを育成するプログラムの開催のほか、自動運転技術開発のシミュレーターとして(勝手に)活用されるなど、その展開は多岐にわたる。
国内外の自動車に関わる人々から高い評価を受け続ける理由とは。ポリフォニー・デジタルの山内一典社長に話を聞いた。
「グランツーリスモ」シリーズは、第1作目が1997年12月23日にプレイステーション専用タイトルとして発売。車体に背景や光が映り込む写実的なグラフィックス、物理エンジンを利用したリアルな挙動、実在する自動車メーカーが実名で登場するなど、当時は画期的だった要素が数多く詰め込まれていた。プレイステーション用ソフトの累計販売本数では、「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」に次いで5位を記録している。
10月17日には、プレイステーション4専用タイトルとしてシリーズ最新作「グランツーリスモ SPORT」を発売する。ハードウェアと共に進化を重ね続け、高解像度である4K表示にも耐えうるようになったクルマのモデリングは、1台につき6カ月もの製作期間を費やすという。
「クルマ1台の製作を1人のアーティストが最初から最後まで内製で行います。ある特定のクルマが収録されているとしたら、ある特定のアーティストの作品ということになりますね」(山内社長)
従来はクルマの写真を多数撮影して、それを参考にモデルを作っていた。現在は車体をレーザースキャンし、得られた点群を基にモデリングを進めていくという。しかし、精度は完璧ではないため、最終的に正しく整形していくのは人間の仕事だ。山内社長は、これがグランツーリスモのクオリティーを支えている要因だと自信を見せる。
「(リアルなクルマを表示できる)魔法などがあるわけではなく、高品質なモデリングが作られるのは(アーティストの)努力のたまもの。写真とレーザースキャンを見比べながら、面や線を心の目で見て、構造を理解していないとできません。ものすごくスキルが要求される仕事です」(山内社長)
出来上がったクルマのモデリングは、外から見て“それっぽく”見えればいいというわけではない。例えば、ヘッドライト部分はライトの内部空間(リフレクターやレンズの形状)まで正確に再現する。
最新作では物理ベースのレンダリング(描画)エンジンを採用。太陽光や周辺光が物理的に正しくモデルへ当たるため、正確なパーツ構造を再現しないと実車と同じように光ったり反射したりしないためだ。
「最新作で使用するモデルは一から作り直した第4世代目。おそらくここまで精度の高いCGモデルは自動車メーカーでも持っていないだろう」(山内社長)
レースを彩るのはクルマだけではない。ハンドルの先に見えるサーキットの路面や風景などを忠実に再現するのも、リアルな体験をユーザーに与えるには重要だ。
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