台風が上陸すると、ネットでは「ちょっと田んぼ見てくる」という言葉がしばしばネタとして登場します。
稲作では一般的に、用水路に水門となる板などを挟み、田んぼの水量を調節します。ところが大雨が続くと水門から水が溢れだし稲が水浸しになってしまったり、近くにあるよその田んぼにも被害が出かねません。だから危険だと分かっていても、農家の高齢者は田んぼを見に行ってしまうのです。
しかしもし、わざわざ見に行かずとも、田んぼの水位が把握できるとしたら? 台風時はもちろん、普段の業務でも1日何回も見回りする回数が半分に減り、農家の負担が軽減される可能性があるとしたら?
熊本県阿蘇市の内田農場は、そういった農業の課題をApple WatchやiPhoneなどのテクノロジーを使って解決しようとしています。“農業とIT”の現場を取材してきました。
今年20周年を迎える内田農場。社長・内田智也さん(31)は、東京農業大学卒業後、父親の営む内田農場に入社し、2代目を引き継ぎます。約55ヘクタールの九州最大級の敷地で、5人のスタッフ(収穫期は10人)とともに米や大豆を生産しています。
内田農場の特徴は、多くの農家では1種類しか米を作らないなか、取引先の用途に応じた15品種ものコメを生産していること。コシヒカリ、ヒノヒカリ、ミツヒカリなどを受注生産し、牛丼屋チェーン向けであれば「タレが良く染みこむ柔らかめのお米」、焼肉屋であれば「焼き肉に合う、やや固めの米」など、顧客の要望に応えて栽培しています。
そんな内田農場では、現在iPhoneを5台、iPadを3台、Apple Watchを1台を所有し、“新しい農業”に取り組んでいるといいます。
「実はITは詳しくないんです。今まではお米を作ればみんな食べてくれたし、農協に出せばよかったし、稲作農家は困っていませんでした。でも2014年から2015年にかけてコメの価格が2割安になり、ようやく『まずいな』と思い始めて。商売として農業を成り立たせるためにも効率化は必須でした。そのためのITです」と内田さんは農業でのITの価値を語ります。
さらに「親父は稲の状態を見て、ここが悪いとか判断できますが、自分は子供のころから農業を知っているわけじゃないので、見ても分からないんですよ。だからデータ集積で稲や水田の状態を『見える化』できればと思っていました。ITを活用することでこうした部分をしっかりとした数値で確認できるようになってきたのは、私たちが行っている作り分けにも役立つ可能性があると思います」と評価しています。
それでは、稲作でITをどのように活用しているのか、内田農場での具体的な事例をご紹介しましょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.