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JICA人間開発部 妊産婦に寄り添う「人間的お産」―アンゴラのプロジェクトで教材を活用―

アンゴラの技術協力プロジェクトで教材を活用

現地の研修で室内で教材を上映している。

研修での上映の様子。研修は5日間を7回実施、合計170名が教材を視聴しました。

JICAは、2023年9月より、アンゴラにおいて出産と新生児ケアを中心とする母子保健サービスの質の改善を図る技術協力プロジェクト「プライマリヘルスケア施設における妊産婦ケアの質向上プロジェクト」を実施中です。
本プロジェクトは、対象州の施設分娩率の向上を目指して活動を行っています。その活動の一環として、妊産婦に寄り添ったケアの促進のための研修を2024年7~9月で実施しました。
今回、妊産婦に寄り添ったケアに関する研修を開始するにあたって、JICAが実施している「人間的なお産」のプロジェクトを研修参加者に知っていただくために、JICA-Netマルチメディア教材「安全で幸せな出産のために~JICAの人間的なお産の取り組み~」が最適だと考えました。
また、ポルトガル語の教材は数が少なく限られますが、本教材はポルトガル語で作成されているため、研修で活用することができました。

「人間的なお産」とは?

出産は生理的・文化的なプロセスであり、85%の出産は、自然な経過をたどります。お母さんの産む力と、赤ちゃんの産まれる力が最大限に引き出され、母子が尊重され、安全に安心して妊娠・分娩・産褥期を過ごすことができる助産ケア。JICAは、そうした助産ケアの向上を中心に据えた「人間的なお産」プロジェクトを、今までに8か国で展開してきました。プロジェクトで行った助産能力の向上は、不必要な医療介入の減少や、科学的根拠に基づいた分娩を促すケアの増加につながり、妊産婦死亡や新生児死亡の削減に寄与していきました。
本教材では、助産能力と助産ケアの重要性を解説し、そして「人間的なお産」とはどのようなものか、JICAのブラジルとカンボジアのプロジェクトを通して紹介しています。

ブラジルの病院でベッドにいる母親と赤ちゃん

教材では、「人間的なお産」とはどのようなものかをJICAのブラジルとカンボジアのプロジェクトを通して紹介しています。

教材を使ったアンゴラでの研修の様子

研修は現在までで5日間を7回実施し、保健省国家公衆衛生局・州保健局・市保健局の母子保健担当職員、プロジェクトの対象市病院、保健センターの保健医療従事者等合計で約170名が参加しました。

ヒューマニゼーション(妊産婦に寄り添ったケアの強化)の概念の共有

母性ケアに関する研修実施の様子。室内で映像を投影している。

母性ケアに関する研修実施の様子

お産の場を女性の尊厳や主体性を尊重する「人間的」なものとしていく。JICAは「人間的なお産」「出生と出産のヒューマニゼーション」としてそれを目指しています。
アンゴラでの「ヒューマニゼーション」は、患者に対する「物理的なケアの充実」に重きを置いています。例えば、医療機器の整備や無料で治療や検査を受けられる仕組みがその一例です。しかし、これに加えて重要なのは、患者が温かく迎えられ、寄り添ったサポートを受けられる「精神的なヒューマニゼーション」です。一方で、現状では、物理的なケアさえ十分に提供できていないケースが多く、患者への心のケアまで行き届いていないことが課題となっています。
また、ヒューマニゼーションは患者だけでなく、保健医療従事者にとっても重要な概念です。保健医療従事者が安全で業務しやすい環境で働き、安定した給与を受け取り、スキルアップのための研修を受けられることも、ヒューマニゼーションの一環です。そして、ケアを提供することで患者さんから感謝され、患者さんとの信頼関係ができ、保健医療従事者がエンパワーされ、さらによいケアが提供されるようになる循環が生まれます。
これら双方のヒューマニゼーションが根底となって、「人間的なお産/出産のヒューマニゼーション」が実現していきます。
本教材の活用により、このような出産のヒューマニゼーションに関するJICAのプロジェクトに関わられた先輩方のメッセージを伝えることができました。

課題の整理と理想的な出産環境の認識

「人間的なお産」に関して、アンゴラの現実と理想には大きなギャップがあります。特に地方部では、一人の女性が平均6人の子どもを産む状況があり、州や市の大規模病院では、保健医療従事者が不足しているにもかかわらず、多くの分娩が行われています。そのため、十分なケアが行き届かないことが多く、特に女性のプライバシーが守られていないという問題も指摘されています。多くの病院では、ベッドにカーテンやパーテーションがなく、産婦が安心して出産できる環境が整っていないのが現状です。

本教材を見た参加者からも、「現実には分娩数が多すぎて理想的なケアは難しい」、「夫が付き添えるようなプライバシーが保健施設にはない」といった現実的な意見が出されました。しかし、映像で示された出産環境・ケアに対しては、全員が一致して「理想である」と感じていました。

人間的なお産のロールプレイの様子

人間的なお産のロールプレイの様子

具体的な提案に向けた協議

家族を含めた退院指導のロールプレイの様子

家族を含めた退院指導のロールプレイの様子

理想に近づくための具体的な提案としては、「大規模病院に分娩が集中しないように、小規模の保健センターの分娩室の改善を進め、そこでも産婦が望んで分娩ができるようにすること」、「ヒューマニゼーションを推進するための機材や医薬品を整備し、施設管理者を対象とした研修を行い、マネジメントの改善を図ること」が挙げられました。これにより、分娩の負担が大病院に集中することを避け、人間的なお産を実現できるとの意見が出ました。

意識変容から行動変容へ

一部の参加者は「ヒューマニゼーションとは機材の整備が最も重要だ」と考えていましたが、5日間の研修を通じて、限られた環境の中でも妊産婦に寄り添い、尊厳を持ってケアを提供することが重要であり、制限のある環境下でもできる取り組みはあると認識を改め、これが女性の満足度向上につながることに気づきました。研修後早速、妊産婦が希望する家族の分娩室への付添いを認めたり、患者を温かく迎え、寄り添い、励ましの声掛けを行ったり、必要時にマッサージを提供するなどの取り組みを開始していた保健医療従事者も見られました。良いケアを受けた女性はその経験をコミュニティで共有し、結果として良い口コミが広がる可能性があります。そして、本プロジェクトの目的である施設分娩率の向上に繋がっていきます。

このように、アンゴラにおける「人間的なお産/出産のヒューマニゼーション」は、現実的な課題を抱えつつも、本プロジェクトの活動を通して、改善に向けた具体的なアクションと意識改革が進んでいます。今回の経験をもとに、今後も様々な機会で本教材を活用したいと考えています。

ウィラ州での母性ケアに関する研修修了後の室外での集合写真。研修生たちは修了証書を手に持っている。

ウィラ州での母性ケアに関する研修修了後の集合写真―修了証書と共に―

JICA人間開発部
黒部 寛人

このページで紹介している教材

安全で幸せな出産のために~JICAの人間的なお産の取り組み~

本映像教材は、JICA母子保健分野における「人間的なお産」の取り組みについて、ブラジルとカンボジアのプロジェクトを通して説明していきます。1996年に実施したブラジル光のプロジェクト以来、アジア、アフリカを含む8か国において「人間的なお産」を実現するための取り組みを展開してきました。人間的なお産の取り組みとは何かを理解することを目的として、教材を制作しました。大学等における講義、シンポジウムやセミナー、本邦研修や第三国研修で活用いただくことを想定しています。また一般の方々にも幸せなお産とは何かを考えるきっかけとして、興味深くご覧いただける内容です。